第百二十八話 勝利の意味
「え……?ど、どういうこと……ですか?イレティナはそこに倒れてしまっているのに……」
族長の言葉に耳を疑い、私は何度もイレティナを見る。
しかし、イレティナは完全に、やはり何度見ても気絶していた。
「確かに……私の娘は倒れた。私が放った拳で……だが、見ろ」
族長はイレティナを見据えて視線をずらさない。
その視線の先にあるのは、イレティナの足元で転がっているサラマンダーだった。
「……あの刀は意思を持ち、貴様らと話していた……精霊の類いだな?」
サラマンダーは族長が地面を揺らした時に木から飛んできていた。
そしてあの時、二人の間に入ってしまい、今考えてみれば族長の拳に当たって砕けてしまってもおかしくは無かった。
「風圧で避けられた……?そんなこと出来るはず……いや、もしかしたらそんな可能性も……」
私はサラマンダーがそこにある理由をぶつぶつと独り言を呟きながら考える。
それを聞いてか族長はため息を吐き、ゆっくりとその場に座る。
「……私も少し疲れてしまったようだ。そして……エルフの子よ、貴様の考えは全くの見当違いだ……。
私の娘が、庇ったのだ」
族長は落ち着き払って俯きながら言葉にする。
族長の言ったことに私は再び仰天し、身体を族長の方にぐるりと向ける。
「イレティナが⁉︎ ど、どうやってあの状況からサラマンダーを助けたんですか……?」
「足だ。私の拳が当たるよりも前に、私の娘は脚で私の顔面を突き刺そうとしていた。
私の拳の方が当たるのは速い。当たれば腕が吹き飛ぶ事をイレティナは覚悟していた」
あの一瞬で……?でも、族長の顔面には傷ひとつない。そこまで勝ちに執着していたのなら、それこそ外してしまうなんて事イレティナがしないはず……。
「その時に、あの精霊が割って入ってきた。動けないのだから動きようも無いはずだったが、私の拳の前に飛んできた。イレティナにとってはむしろ威力が下がるから好都合だっただろう。しかし……」
そこまで聞き、もう一度イレティナの姿を見る。
足元にサラマンダー……それに、サラマンダーにヒビなどは入っていない。
つまり……
「つまり……イレティナはあの瞬間伸ばした脚でサラマンダーを咄嗟に動かして避けさせた……と言うのですか⁉︎」
「実際にそうだったのだ。あの子は勝つことよりも仲間を助ける事を選んだ。勝負としてなら、確かに私は勝ち、彼女は負けた。……だが、勝ったのはイレティナだ。私よりも強いと認められる」
「……」
イレティナは、それから数時間目覚めることはなかった。ウンディーネは未だに意識が戻らないが、たしかにそこにいると私は感じる。