第百二十七話 決着
「やぁっ!」
イレティナは地面を蹴り上げ、上空へと飛び上がる。
目でそれを追うと、その先には枝を踏み台に再び蹴り上げる構えを取っているイレティナがいた。
次の瞬間、私の視界からイレティナが消え去り、右から木が地面に激突したような鈍い音が聞こえてくる。
イレティナはすでに族長の方へ向かい、族長の腕とイレティナの脚がぶつかり合っていた。
「まだ……まだっ!」
それだけでは飽き足らず、イレティナはさらに連撃を加えて行く。まるで槍の雨のように降り注ぐ一撃一撃が鋭く、強靭なものだった。しかし___
「……中々やるな……だが!」
族長は腕にいくつも傷を負い、血を流していたが身体には未だに擦り傷のみだった。
効いていない、という訳では無いがまだ族長を倒すにはイレティナは更に今の連撃を続けなければいけない……。
族長はイレティナを腕を振り回して一度振り払うと、足を大きく持ち上げる。
「食らえ!」
族長は地面をその場で踏んだ。足は地面を50cm程沈ませたかと思うと次の瞬間にイレティナは宙に投げ出されていた。
触ってもいないのにどうしてイレティナが放り投げられて…………⁉︎
私の身体まで……
族長を中心にして、波紋のようにその何かが広がって行く。
木々は震え、木の葉が上からハラハラと落ちて行く姿を見て、これが揺れなのだと私は気づいた。
「そこだっ!」
族長は自分の足を引き抜き、宙に放り投げられたイレティナへ急接近する。
これは……イレティナがやっていた方法を真似たのか……!
今はイレティナと族長の立場は逆……イレティナには避ける手段が無いのでは……?
しかし、その瞬間だった。揺らされた時に何かの拍子で木から抜けたのか、サラマンダーが二人の間に入ってきた。
イレティナは一瞬足を族長の方に伸ばしていたように見えたが、次の瞬間にはなす術もなく族長に吹き飛ばされてしまった。
「……」
「……」
木の葉が舞い落ちる中、辺りは一転して静かになる。イレティナは倒れ、族長は立っていた。
……イレティナは、負けてしまった。
イレティナはぴくりとも動かずに地に伏せている。最早立ち上がることはできないだろう。
族長はそんなイレティナを見据えると、ゆっくりと口を開いた。
私の勝ちだ、良い戦いだった。そんな言葉が出てくると、私は思っていた。
しかし、族長が口にした言葉は。
「……私の負けだ、イレティナ……」