第百二十五話 耐久戦
「げほっげほ……イレティナ……正気に戻ったんですか……?」
咳き込みながら四つ這いのまま頭を上げるとサラマンダーを握ったイレティナが族長と戦っていた。
刀であるサラマンダーと打ち合っているにもかかわらず、族長は矢柄でその攻撃を受け流している。
「何故だ……何故そこまで私に勝とうとする……!」
族長は鏃では戦わず、矢柄を使ってイレティナを押し込み後退させる。
「ぐっ……!いや、それだけじゃ無いよ……こんな私と一緒に居てくれたフレイちゃん達を殺させはしない。たとえお父さんでも勝たなきゃ……いいや、守らなきゃいけない! だから私の身体がいくら傷ついても!」
イレティナは叫ぶと足を族長の腹にくっつけてサラマンダーで抑えながら蹴り上げる。
その威力が高かったのか、族長は後ろに突き飛ばされるがよろめくよりも前に踏ん張って耐えた。
「絶対に守り切って見せる!」
そう言うとイレティナはサラマンダーを投げ飛ばす。
一瞬にしてサラマンダーは族長の元へと飛んでいくが、それと同時に族長は横へと避けた。
後ろに立っていた木にサラマンダーは突き刺さり、不発に終わったように見えた、しかし。
「囮だよッ!」
族長が横に避けた先にはイレティナがいた。
族長は避けるためにジャンプして、すでに簡単には身動きを取れない状態だ。
これを狙っていたのか、イレティナは……⁉︎
「もらった!」
彼女は脚をしならせて胴体へそれを叩き込もうとする。確実に入るはずだった。しかし、その寸前。
「ぬぅぅっ!」
族長は激突するその瞬間に足を地面に伸ばして食い込ませる。
普通の人間ならそんなふうに地面を爪先だけでえぐるなんて不可能……しかし、彼はそれをやってのけてしまった。
「止まった……⁉︎ イレティナ、逃げてくださ____」
不意に出たその言葉、しかしすでに遅かった。
族長はイレティナの蹴りを避け、そのまま腹部にその拳を叩き込む。
イレティナの細い身体を貫くほどの勢いで、叩き込まれたその殴打にイレティナは口から液体を滴り落とす。
「か……はっ……」
ああ……駄目だ、イレティナが気絶する。何をすれば良い……?ウンディーネは行動不能、サラマンダーは遠くにある。私は……みんなを連れて逃げるしか……
「ま……まだ……まだ……」
「イ……イレティナ……?」
まだ……立っている⁉︎ 気絶していない、でも……でもあの拳を叩き込まれてなんで……
「まだ……手加減しているの? お父さん……」