第百二十一話 戦い方
「マナの動き……? サラマンダー、どういう意味ですか……ぐぅっ……!」
うっかり、サラマンダーの方に注意が行ってしまった瞬間族長が私の顔面を掴んで押し倒してくる。
既にこちらにきていたようで、気づかずに掴まれてしまった。
全身を地面に叩きつけられ、上半身が軽く跳ねた感覚を覚えた後に脳味噌を揺さぶられるような衝撃を味わった。
「くっ……! 離して……下さい……!」
私の頭を掴む指の力がだんだんと強くなっていくのがわかる。
こめかみや脳天に強固にロックされた指を手ごと離そうとするものの、今の私はただの少女の肉体……。
族長の手はびくともせず、私の頭をさらに強く締め上げていく。
ミシミシと音を立てるも、族長はさらに力を強めていき止まる気配がない。
このままじゃ頭蓋骨が砕ける……!
「離せ……だと? 勝負の相手に懇願するとは……心根の弱い者だ___」
「いいから離せぇ!」
どこからともなく現れたイレティナが、族長の頭を目掛けてかかと落としを喰らわせる。
頭が十数センチ下がるほどの勢いを受けた族長は、衝撃のために頭を抑え、私の頭から手を放す。
「フレイちゃん! 早く!」
今なら逃れられる……!
身体を即座に立ち上がらせ、族長から目を離さないように後ろに飛び上がるように距離を取る。
「ぐ……! イレティナ……不意打ちか……!」
「木登りと脚力……両方私が昔から得意だった事だよ」
「そんな卑怯な真似をするように育てた覚えはないぞ……! もっと正々堂々と闘え!」
族長はイレティナに向き合うと同時に、大股で踏み出して拳を突き出す。
イレティナは拳が打ち付けられるよりも早く動き、前のめりになった族長を後ろから蹴り、そのまま族長は倒れた。
「これが私のやり方なの。自分の使える方法で勝つ、私の戦い方」
族長はその後にも蹴りや突きなどの攻撃を繰り返すも、イレティナは次々とかわしていく。
蹴りは姿勢を屈めて、突きは手でいなして、あらゆる攻撃をかわしていった。
す……すごい……!イレティナ……こんなに強かったんだ……!
「イレティナァッ!」
攻撃をやめない族長は、手を上に振り上げる。でも……イレティナならあれぐらい簡単に避けられる!
むしろ、胴体がガラ空きだ! 身体に打撃を加えられる……!
族長の手はイレティナの顔をめがけて飛んでいく。私は避けると、そう思っていた。
しかし、イレティナはそれをまともに食らっていた。頬を叩かれ、ただ呆然と顔を空に向けていたのだ。
「イレ……ティナ……?」
イレティナは、青い顔をして息を荒くしていた。反対に頬だけが赤くなっていた。