第百二十話 二対一
族長は呆れたような怒ったような、そんな声をあげる。
「貴様は何を考えている?これは私と私の娘の戦いなのだ。それを部外者である貴様が、それも二対一で戦うなど、明らかに不平等……イレティナも私も納得はできまい」
イレティナは私が一緒に戦ってくれるのか、と不安と期待が入り混じった表情をしていたが、族長がイレティナの方を見ると押し殺すようにその表情を消した。
族長の放った言葉……数としてみれば確かに不平等だ。でも、イレティナはそれ以上に大きなハンデを背負っている。
族長の仮面の奥にある瞳を見据え、私は話し始めた。
「……イレティナが貴方と戦うことを極端に嫌がっていたのは、知っていますね?
先程貴方は、お前が私と戦うということは、と言いました。彼女が戦いたがらない事をわかって、その覚悟を感じて承認した……違いますか?」
「……だったら、何だというんだ?」
「既にイレティナは本気を出さないハンデを貴方に与えています。貴方と戦うことを決めたとき、彼女は震えていました。今の彼女は臆して本気を出せない状態なのです」
族長は、数刻沈黙した。サラマンダーとウンディーネも私たちの後ろから見守っている。
私達は族長に納得させた上で確実に勝たなければならない。正当な理由を作る必要がある。
イレティナと族長の間に何があったかは知らないが、これが通れば勝つ確率は格段に上がるはずだ。
「……その出しきれない力の補填を貴様が肩代わりするというわけか」
族長は手で仮面を持つと、それをゆっくりと外していく。
部族の人間達からはどよめきが起こり、イレティナも目を見開いて緊張しているようであった。
族長はイレティナと同じ褐色の肌を持ち、その険しい表情にはしわが刻み込まれていたが、覇気は決して老衰しているようには感じなかった。
若い頃から鍛錬を続け、練り上げてきた成果がこの覇気なのだろう。
「……いいだろう。我が娘と共にかかってくるがいい」
族長の獲物を狙うかのような双眸は、不意に赤く光ったように感じた。
認められた……!いける……!
イレティナやウンディーネも先ほどと比べ、どこか希望を感じられるような表情をしていた。
「フレイちゃん……やろう!」
イレティナも先ほどまでの怯えた表情が嘘のように、好奇心に満ち溢れたいつもの表情をして笑う。
「イレティナ、族長の後ろに回り込んで下さい。私の機械仕掛けの神で族長の気を引いています!」
私の指示にイレティナは頷くと、素早い動きで周辺の木々や壁を使い、移動していく。
「さあ!発動です! 機械仕掛けの神!」
懐から取り出し、そのトゲを私は首に突き刺す。
しかし
「……あれ?動かない……もう一度……あれ?」
マナが棘から溢れない。いや、むしろ一滴も出る事はなかった。
サラマンダーがウンディーネの懐からこちらへ聞こえるほどの大声で叫ぶ。
「あんた……もしかしてマナの動きを止められているの⁉︎」