第百十七話 少しの嘘
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「勝つ……?……って、無理無理!た、確かに私は弱くないって言ったけども!」
イレティナは意外にも嫌がる態度を見せ、私に両手のひらを突き出して首を振る。
「で……ですが認めてもらうにはやはりこれが一番だと思います!族長に安心してもらえばイレティナの話を聞いてもらう事だって……!」
説得を試みるも、イレティナは顔を再び足を間に埋めて唸る。
「うー……でも……私、勝てる気がしないんだよ……それに、またお父さんに負けちゃったら……」
また……?
……イレティナが乗り気になれないのならしょうがない。それはそれでまた新しく考えればいい。
「……そうですね、私の一つの考え、というだけですしまだ他に案はあると思います。みんなで探していきま____」
「イレティナ、って言ったわよね、あんた。ちょっといい?」
私が話題を変えようとした瞬間、後ろからいつもより少し冷たい印象のするサラマンダーの言葉が投げかけられる。
「え……?う、うん。なに?」
イレティナは先程のサラマンダーの声色を聞いていたために、私と同じくらい驚いているようだった。
ウンディーネはサラマンダーを鞘から抜くと手に持ち、イレティナとサラマンダーが対面するようにした。
「あんたの考えは甘いわ。できないからやらない、途中でそれが分かったんならそれは正しい諦め方よ。
でも、あんたは何も始めてやいないじゃない」
「それは……まあ、そうだけど」
イレティナは少ししおらしくなりサラマンダーの投げかけに頷く。
一方、サラマンダーは全く動じない。それはサラマンダーの表情や体の動きを見ることができないにも関わらず伝わってきた。
「無理とか出来ないって言葉はやってから言うものよ。やらないで言っていたんじゃ食わず嫌いのこどもと変わらないんだから」
「……」
イレティナの態度を見るに、かなり効いたらしい。……でも、私はまだ納得がいっていない。
たしかにサラマンダーの言っている事も正しいかもしれないけど、それはあくまでその一歩を踏み込める人間に限られる。
イレティナと族長の間に何が有るのか、私には全部はわからないけど普段ならどんな時でも踏み込めるイレティナがこんなに抵抗するなんて、軽い物では絶対にないはずなんだ。
「サラマンダー……否定する気はありませんが……イレティナも何か理由があってこう言っているのではないですか?もう少し考えてみても……」
「いや、フレイちゃん。私……私やってみるよ」
「イレティナ……⁉︎」
サラマンダーは沈黙を通していた。
しかし、イレティナはこの間に考えていたのか私の言葉を遮り決心したようにいう。
「その刀さんの言っていたこと、確かにそうだなあ、って思ったから」
「……良いのね?」
サラマンダーが静かに問うとイレティナはガバッと立ち上がる。
「もちろん!さあ!早く行こう!」
「……!」
イレティナの手が微かに震えているのを私は見てしまった。