第百十六話 脱出その2
「……さて、急がなきゃ……」
こうしている間にもフレイやサラマンダー、ウンディーネがどこかで危機に瀕しているかもしれない。
出口はこの道を真っ直ぐ行けば辿り着ける……。
「『そう簡単にはいきませんよ……』」
どこからとも無くその声が聞こえてくると同時に壁が降り、通路を遮る。
真っ暗になった空間の中、私の目の前に薄い青色のホログラムが現れる。
「ホークアイ……そうまでして私を返したく無いのかい?」
「『ええ、折角手に入れた戦力ですからね。それにあなたの心は酷く脆い……簡単に人を殺してしまいますから一見異常に強い精神を持っているようにも感じますが、あなたの精神構造は普通と違いますね』」
周りからゴゴ……と何かが動く音がする。
床や地面が動いているのか……?
「『普通の精神を建物として例えるなら土台をしっかりと安定させ、崩れないように強化がされていきます。
しかし、貴方の場合では土台が貧弱にも関わらず建物ばかりが大きい。少し見ただけでは判断がつきませんが、いざ揺れが起きてしまえば簡単に崩れる……』」
「……何が言いたい?」
そんなことは分かりきっている、土台を組み立てていなかったことも。私は脆い。でも立ち直ったらその部分だけでも土台は作れるんだ。
「『もう一度、その心を崩してあげましょう。二度と彼女達に会えないと悟ることでね』」
ふと空気を肌で感じると周囲の空間が開けていることに気がつく。
何か起きる……いや、それよりも前にあの壁を破れば……!
「『変化』!『神速』!『怪力』!ついでに『煌光』も!」
光り輝く足が壁に触れた瞬間、爆発音に似た音が沸き起こる。
『煌光』が加わって、更に蹴りの威力が増したはずだった。
しかし、壁は傷ひとつつかず私の前に立ちはだかるままだった。
「は……⁉︎ そんなに硬いのかこの壁……⁉︎」
「いいや、違うな!」
「なっ⁉︎」
唐突に頭の後ろで聞こえてきた声に、私は咄嗟にハイキックをかます。
顔面に確かにめり込んだ感触があったが、後ろにいたそれは跳ねるように飛ばされていくだけだった。
「いてて……」
「な……なんだ、耐久力はあってもそこまで強くはな……」
強くは無い、そう言おうとした私の言葉は自分の足を見てそこで詰まった。
右足が太ももから爪先にかけてまるで紙のようにペラペラにされていたのだ。
「……! 『変化』!」
咄嗟に回復した物の、あれを頭にでも喰らえば即死もありうる。ここは『煌光』で一撃で蒸発させるか……。
「この空間丸ごとまとめて焼く……!『煌光』!」
開いた手で空中を丸くなぞる。残像として残ったはずの極光が形を残し、幾つもの光線が放たれる。
視界が真っ白に染められるが、私には当たらないように計算済みだ。これならあの何かも蒸発させられる……。
「『サツキさん、何も敵は一人とは限りませんよ?』」
満足気に目を瞑っていると、ホークアイが嘲るように言う。
光が消えた瞬間、私の目に映ったのは何人……何十人……いや、何百人もの人の姿だった。
「『貴方をここで留まらせる転生者達です。さあ、乗り越えられますか……?』」
……流石に苦戦しそうだ。