第百十五話 一方的な戦い
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突き出した女の手の平から光が徐々に現れ始める。
光はすぐに手のひらから溢れるほどの量となり、薄暗い周囲をまるで太陽の如く照りつける。
「はァッ!」
次の瞬間、光は一点に集約され極小のサイズの極光となった。
嫌な予感がする……!
自分の条件反射に任せ、私はより強くそれが光った瞬間に身を横へ逸らす。
「っ……!勘付いていたか……!」
次の瞬間、私が先程まで居た場所の地面がボコボコと音を立てて煙を出していた。
金属でできていると思われる床、溶け出して沸騰している。
「超熱量の光……か。それが『煌光』ってわけだね?」
「ッ……!?」
私が呟くように言った言葉に、彼女は仰天した様に固まる。
「……私はサツキだ。君の名前は?」
「……イザベッタ、だ」
少しの沈黙の後、イザベッタは名乗った。
「ふむ……さてイザベッタ、『神速』と『蜘蛛糸』で、君が満足して死ねるようにするには……」
私は横目でちらりと女の方を見る。
彼女はこちらを睨んではいるが、額には汗が滲み出ていた。攻撃してこないことからして、私の動きを伺っているのだろう。
「完膚無きまでに叩きのめす、それが私に出来る一番の礼儀さ」
「何だと……!?ふざけるな!」
先程までの警戒心も掻き消え、イザベッタは激昂して手を突き出す。
一瞬にして極光が生まれ、光のレイピアが作り出される。レイピアの周りを漂うように光が生まれては掻き消える。あれにはさっきの光の何十倍もの熱が凝縮されているのだろう。
「喰らえ……! 『閃光一斬』!」
イザベッタはレイピアを構えると一瞬にして私の前へ移動する。私と彼女の間に反射する膨大な光は狭い空間を真っ白に埋め尽くすほどだった。
「なるほどこう言うアイデアか……!」
イザベッタがレイピアを突き出すと同時、極光がそのさきの空間を埋め尽くす。
レーザービームと言える程の長射程の攻撃だ。
「でも勝てない相手というわけではない」
その声を聞いた瞬間イザベッタはこちらへ振り向く。
『神速』で私はすでに後ろへ移動していた。
「完膚無きまでに叩きのめす!」
私は『蜘蛛糸』を手のひらから出し、周囲に張り巡らす。
「糸だってナイフになる。それも規格外の速さと規格外の硬さならより切れ味は鋭い」
そう言い、私は足を踏み出す。天井、壁、床を問わず走り抜け、イザベッタを通り過ぎたところで止まる。
「……?何の真似だ……。……⁉︎」
それと同時にイザベッタの右腕が滑り落ちるようにズレ、落ちる。骨まできれいな断面が作られていた。
「今、五十本の糸を使った。軸は全部そこにある」
私が手に握る五十本の『蜘蛛糸』の先は一点の地面に貼り付けられていた。
そう、言うなれば名刀五十本を一気に使ったような物。それも全部同時にだ。
「……なるほど、はは……これでは……負けを認めるしか……無い…………な……」
そう言い残すと、イザベッタの身体からみるみると切れ目が露わになり、彼女の体は幾つもの体に分かれて崩れ落ちた。