第百八話 到着
ザアザアと激しい雨が降る中、私達は森の中を歩いていく。
地面がみるみるぬかるんでいき、私は足を取られそうになるため慎重に進んでいく。
一方、イレティナはぬかるみに足を取られることも無く鼻唄を歌いながらどんどん進んでいく。
彼女が履いている靴は足の裏以外を覆うものが無い。つまり身体の重石となる泥が靴にへばりつくこともなければいちいち靴が濡れる事に心配しなくていいのだ。
しかし……どんどん距離が広がって……。このままじゃはぐれてしまうかも。
「イレティナ……もう少しスピードを落としてもらえると……」
「え?ああそうだった!こんなドロドロじゃ歩きにくいもんね!」
「はい……少し疲れてきてしま……え?イレティナ?何をやっているんですか!?」
イレティナは私の方に駆け寄ってくると、私の両足を持ち、背に乗らせた。
これじゃ……これじゃまるで……!
「これじゃまるでおんぶじゃないですか!私を幾つだと思っているんですか!?」
私は自分よりも年齢が下のはずの人間におぶられているという事に赤面しつつ叫ぶも、イレティナは朗らかに笑いながら進んでいく。
「もちろんエルフだって事は分かってるよ。最初にあった時からエルフなんて珍しいって思っていたしね」
「じゃあなんで……!」
「でも疲れてるんでしょ?私ここには慣れているし、任せておきなって!」
「うぅ……」
まあ、確かにイレティナの言う通りだ。体力も温存しておきたいし、ここは黙って乗っておこう……。
「……私ね、フレイちゃんが作ってくれたあの水、初めて飲んだ時驚いたんだ。
この山は雨が降るたびに泥水が溢れてね、あんな綺麗な水一度も見た事がなかった。
だから……そのお礼の意味も込めて色々と私頑張ってたんだ」
イレティナにおぶられているので顔は見えなかったが、彼女はゆっくりと雨音に声をかき消されないように大きい声を出す。
「……その……イレティナ、ありがとうござ……」
「あーっ!」
私の言葉を遮り、イレティナは何かを見て驚く。
それと同時に、私の体も後ろへ投げ出され、からだをぬかるみの中へ投げ出された。
前もこんな事があったような……
「フレイちゃん!ほら見て!」
「一体何が……あっ!」
泥まみれの体を起こさせながら見ると、そこには広がる大地、地面から岩が露出し抉れたような地形。
つまり……ここは……
「ここだよね!目指してたところ!」
「はい!はい!ここです!遂につきました!」
私はイレティナに呼びかけられながら嬉しさに声を張り上げる。やっと着いた!やっと……!
「そうだな、そして我々も貴様らを見つけられた」
唐突に、声が聞こえてくる。その声の先には仮面を被った男、そしてその後ろにつく何人もの仮面をつけた人間達……
「お父……さん……!?」
イレティナは、驚愕の表情をしていた。