第十話 この国の王
「これはこれは、また珍しい客人だ。お茶でも一杯どうかな?」
男は私がいきなり現れたにもかかわらず、にこやかに私に挨拶をした。
フレイを助けることが第一だけど、ある程度先に聞き出しておきたい。
一度話を合わせるとしよう。
「ええまあ……せっかくですし頂きましょうかね」
男は金色の髪をしているが、目は黒い色だった。
王なだけあって、気品を感じる。
香水を使っているような匂いもする……。
「10秒です」
「え?」
「10秒きっかり後に私の召使が紅茶、それも南の大陸の物を持ってきます」
何を言っているんだ?そんなこと分かるわけ……。
私がその言葉を口にしようとしたその時。
「お待たせ致しました。紅茶をお持ちしました」
亜麻色の長髪をした女性がドアを開けて入ってきた。
「なっ……!」
「ご苦労、エリーゼ。どこの物かな?」
「タケル様からのものでございます」
「ほう、あいつからか……ああ、すみません。南の王ですよ」
な、なんで……?いや待て、この王の城だ。
簡単に操作くらい出来るはず……。
「お客様もどうぞ」
そう言い、エリーゼと呼ばれた女性は私に紅茶を渡した。
「ああ、どうも」
私は紅茶を受け取り、顔に近づける。
……嗅いだ事のない香りだ。甘い匂いだけど、ほんのり苦味のような香りも感じる。
そうして私は紅茶を一口含むと。
「……美味しい」
「南に生えているサクレイという植物の葉で淹れているんです。
香りが良いでしょう?」
王にそう言われ、私はある言葉を閃いた。
私は口元をニヤリと上げ。
「ええ。元の世界にはなかった味です」
私がその言葉を言うと、王は体を硬らせる。
「!!……エリーゼ、悪いが席を外してくれ」
「承知しました」
エリーゼは一礼をし、ドアの外へ出て行った。
ドアの先に人がいないか確認した王は、再度座り私へ向き直った。
「……まさか、299人目が来るとは……」
「はい、そうです。私が299人目の転生者、中西沙月です」
王は私をまじまじと見つめる。
「だが、もう魔王は倒されたはずです。何故新たな転生者が……?」
うーん……フレイを早く助けたいし、今言っちゃってもいいかな。
「貴方達を回収しに来たんですよ。神のお使いで」
「なるほど……。不用品の私たちはもう用済みということですか……」
そういうと、王は席を立ち、王都の夜景を映す窓に顔を向けた。
「私も、昔は仲間と旅をしていました。
しかし、ある日、強力な精神攻撃を持つモンスター……魔物に襲われ、パーティメンバーの半分が失われたのです。
残った一人もほぼ廃人化……まだ戦う余力は残していましたが。
私達に残された道は魔王を倒し、仲間を弔う事だけでした。」
神様から聞いた話だと魔王を倒したのは確か……。
「最後は、老いた転生者に倒されてしまいました。
私達を襲ったのは、無力感でした。
私達の旅は結局、何の意味もなかったんです。
そんな時、ある転生者がそれぞれで国を作らないかと持ちかけたんです。
特にやることもなかったので、すぐに参加しましたよ。
私は功績を挙げていた国から、いくらかの土地を貰ったんです」
「……それが、何故ここまで大きく?
この世界で見れば確かに今は小さくは有ります。
けど、貴方は同じ価値観のはずだ。幾らかなんて言える面積ではない」
私がそう聞くと、王は振り返り、口角を上げ、おぞましい笑顔をしていた。
「奪ったんですよ。この国が出来る前の土地を全て。
民の目の前で王の首を晒してやりました」
「……!!」
こいつ、気が狂っている……。さっさと話を済ませてしまおう。
「済まないけどね、今日私は用事があって来たんだ。
私の友達がここに___」
「ああ、その前に。最近私ある研究をしているんですよ。
本当にごく稀な話なんですが、たまにスキルを持っていない生物が生まれるんです」
……?こいつ何を言って……
「我々はマナを体内に収める気管があるんです。
どうも転生時に作り替えられるらしいですね。
ただ、スキルを持たないものは吸収したマナを効率よく排出することができない。
魔法もありますが……なかなかマナを消費しないのです
つまり、スキルを持たないものは体内に多量のマナを抱えている」
そういうと、王は近くにあったロープのような飾りを引っ張った。
すると天井が開き、檻が降りてきた。
白い髪をした小さい少女がその中にはいた。
「フレイ!」
「サツキ!」
「申し遅れました、私の名前は千葉光輝。
スキル『万物理解』を持つものです。
内容はこの世の中のあらゆる情報を汲み取る力。
昔特撮で星の本棚ってありましたよね?
あんな感じだと思って下さい」
コウキは檻を抱き寄せながら話す。
「っ……!やっぱりお前が拐っていたのか!」
そう言いながら、私は剣を抜き切りかかった。
「ああ、後少しだけ未来予知もできるんですよ、私」
しかし、コウキは刃を指二本で摘んでいた。
「なっ……!『怪力』も使っているのに!?」
間髪を入れず、コウキは私の鳩尾を突き、吹き飛ばした。
「がっ……!」
「安心してください。これから貴方と戦うのは私ではありません。
このエルフなのですから」
フレイ……!?
「何を言っているんですか!?私はサツキとは戦う気なんてありません!」
フレイがそう言うと、コウキは再び邪悪な笑みを浮かべ、黒い機械らしき物を取り出した。
「ええ。戦わないでしょう。貴方の意思ではね」
それの先端をフレイの首に突き刺した。
「っくあぁぁあぁぁっぁあ!!」
「フレイ!」
機械から黒い煙が溢れ、辺りを包む。
晴れた頃には、フレイがいた場所には黒い鎧のような物をつけた何かが立っていた。
「さあ、お客人を帰らせてあげなさい!」
「了…解……しました……」
それは私に向かってきた。
節目の十話となりました!
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