第百七話 雨
そんな大食の夜は燃える焚き火の明るさとは裏腹に空に雲がかかり月明かりも消え、いつもよりもずっと暗かった。
実際山に雲がかかるなんてことも珍しい。私は膨れて今にも張り裂けそうな腹を抑えながら眠りに入った。
「……ん。もう朝ですか……」
よほど深い眠りだったのか、先ほど眠ったばかりのような気までする。
目を擦りむくりと頭をもたげるとうつ伏せになって寝ているイレティナがいた。
焚火も消えている……。昨日はしっかりと眠ったのだろうか……?
にしても、何か違和感がある。いつもの山の風景じゃ無いような……。
「あ……」
私は上を見上げてその違和感に納得した。
空が、曇りだった。ここ三日間の間ずっと晴れだったために明るい印象が強かったが、こうも曇りで太陽が塞がれると印象もかなり変わってくる。
さて、こんなことをぼんやりと考えていても何も始まらない。
折角イレティナよりも早く起きたわけだし、何か今できる仕事をしないと……。
何かないかと思い、周りを見回してみると。
「……あ、これいいかも知れませんね……」
私の目に止まったのは先程見た焚き火の燃えた跡、水がかけられて少し湿っているようにも見える。
これなら簡単に片付けられそう……。
「えっと……土に埋めればいいんですかね……?」
独り言を呟きながら私は『機械仕掛けの神』で簡単なスプーンを作って土を掘り起こす。
メキメキと音を立てて土がえぐれて行き、少し木の根も付いた土の塊が出てきた。
そのまま燃え残っていた木の枝を持ち、穴の中に入れ……。
「あ!待って待って!そのままじゃ駄目だよ!」
しかし、いつの間にか起きていたイレティナが後ろから私の手をつかんで止めた。
「……?どういう事ですか……?」
私達の目の前では木の枝がメラメラと燃えていた。
先ほど埋めようとしていた物をもう一度燃やしているのだ。
「こうしないと土に戻らないからね、フレイちゃんも新しいこと知れたね!」
「そうですね……炭が残っていては駄目……言われてみれば確かにその通りでしたね……おや?」
燃える炎を眺めながら呆然としていると、不意に鼻先に何かが落ちる感覚を覚える。
地面の色が斑点状に暗くなって行き、その斑点がみるみるうちに広がっていく。
「あ、雨だ……!これだと焚火も燃え切らないかも……うん、先を急いでいるわけだしまた後で戻ってこよ!」
イレティナはザアザアと雨が降り、服が濡れるにも関わらずいつもと変わらない素振りをしていた。
山は天気が変わりやすいという。彼女達はあまり気にならないのかも知れない。
「わっ……!とと……」
濡れて柔らかくなった地面に足を取られかけながら、私たちは目的地へと進んでいく。