第百四話 実行
「……さ、ぐずぐずしてたらまた夜になっちゃうよ!準備して準備して!」
イレティナは紛らわすようにように私の背中を押して急かす。
「そうですね。では……始めましょうか」
イレティナの作戦はこうだ。
まず、彼女の作製した人形を木の上から出し、辺り一面で監視をしている部族の人間の注意を引く。
注意をうまく引いてもらっている隙に私が飛び、目的地である地面の肌が剥き出しになっている場所……
サラマンダー、ウンディーネの二人とはぐれてしまった場所だ。
単純で意味がなさそうにも見えるが、実際は違う。
イレティナの作った私の人形、これがこの作戦の鍵なのだ。
あまりにもうまく出来すぎた人形は私が出て来るのを待っている彼らに対して十分すぎるほどに注意を引く。
「よいしょ……と」
私の人形にイレティナは棒を取り付け徐々に上へ持ち上げていく。
棒、といってもただの棒ではなく、イレティナの工夫がよく見える。幾つもの丈夫な棒を集め、絶対に外れないようにツルが何重にもきつく縛られて繋がっていた。
棒と人形を貼り付けるところには目立たないように服の色と似通った物で工夫している。
水の濾過やらで技術面は高くない……なんて思っていたけど、彼女はただ知らないだけだったようだ。
きっとこれから知識をどんどん得ていけばもっとずっと素晴らしいものを作るかもしれない。
「よし!狙ってきたよ!もう少し動かして持ち堪えてみるから、タイミングを見計らって!」
イレティナに呼びかけられ、私も構える。
いつでも飛び上がれるように、『機械仕掛けの神』を首筋に突き刺す。
動脈に流れるマナのみが管から溢れ、背中へと移っていく。
マナは背中に接触するとそこから凝固していき、白い翼を形成した。
「『仮神翼』……」
準備が完了して、私も飛べるようになった。イレティナの作った人形もそろそろ限界が近い。すぐに飛ぼう。
「イレティナ!行きますよ!」
私はイレティナに声をかけて翼を広げる。私の全身を包むほどの大きな翼は森を突き破り飛び出した。
……あれは……
私の目下にあの人形があった。矢がいくつも刺さり、ボロボロの姿になっていた。
……よく、頑張ってくれましたね。
「さあ、あの禿げた山肌は……あっ!」
一瞬見回したが、すぐに私の目にそれが映った。太陽の位置から見るに東だった。もう、見失わない。
これで、サラマンダー達と……!
「うっ……!」
その時、また私の目に黄金に輝く矢が映った。
私の目の前、あと一秒もしないうちに刺さることになるだろう。
「でも……逃げ切る!」