第百三話 閃き
「あーっ!閃いたぁ!」
夜が更けて行く山の中、イレティナの叫び声が響く。
考える時間が欲しいと言われて数時間、辺りはすっかり暗くなり時刻は夜の八時か九時と言ったところ。
周辺でいくつか煙が上がっていたので、場所を感づかれるようなことはないと思い焚き火を焚いた。
しかし私はそれでもやや心配で、警戒心があったのだが……
「ひゃっ!?ああ……魚が……!」
その声に驚いてしまい、私は体を硬直させてそれをポロリと落としてしまう。
川縁で焚火をし、炙った魚をいざ口に頬張ろうとした瞬間の出来事、私の魚は水流へと飲まれてしまった。
……まあ、彼女にアイデアが浮かんだ代償と考えれば安いものだろう。
「……それで何を閃いたんですか?目的地を見つけ出すだけですからどんな方法でも構いませんけど……」
「いやいや!フレイちゃんのその翼が必要なんだよ!……とりあえず、こっちに来て耳貸して……」
翌日。
昨日と同じく朝日が昇る直前に目覚め、硬い地面のベッドから起き上がる。
横では徹夜でせっせとそれを作っているイレティナがいた。樹皮を組み合わせて作っているらしいが……かなり出来は良い。
「……ん、フレイちゃんおはよー!あともう少しで終わるとこだよ!」
メラメラと燃え盛る焚火は一晩中ついていたらしく、少し危険にも感じたが目覚めてすぐ暖かいというのは嬉しいものだ。
最もイレティナが徹夜をしていたから出来た訳であって決していつでもやって良いことではない……だろう。
「ここをこうして……できた!完成!フレイちゃん人形ー!」
気付くともう完成していたらしく、こちらへ精巧な出来のその人形を見せた。
私をかたどった姿、身長から服のデザインまで見た目全てが樹皮で作られていた。
「おお……とてつもないクオリティですね……10cmくらいまで近づいて目を凝らさないと網目がわからないですよ……」
「部族は皆んな狩りで目も良いからね、これぐらいしないといけないんだよ」
「なるほど……この手際の良さも部族だからなんですか?」
私がそう聞くと、イレティナは少し笑ってその人形を両手で握る。
「これはお父さんから教えてもらったんだよ。毎日色々作って、家にも飾り付けていてさ……」
そういうイレティナの笑う姿は、少し寂しげに感じられた。
……父というのを私は知らない。知らないから寂しいとも思わないけど……。
イレティナは彼女の父と会えないのが、寂しいのだろうか?