9
王太子殿下の申し入れを父は受けたようだ。
届けられた花や贈り物・・・
それにしても早すぎる、第二王子の婚約パーティーからまだ二日しかたってない。
ノックすると中から返事が返ってきた。
「具合はどうですか?ジェンリー」
中に入り近付くと頬をうっすらと赤くさせて笑顔をみせてくれた。
「お姉さま本当に来てくれた」
「ええ、食事は取りましたか?良かったら少し散歩でもしませんか?」
「あっ、ご一緒したいのですが」
悲しそうに俯いてしまう。
ジェンリーは外に出ることを父とセレイル様がお許しにならないと、ドロシーがそっと教えてくれた。
「お父様とセレイル様には、私からお願いします、少しは外に出て日にあたらなくては、体にもよくないわ。」
ドロシーに仕度をしてもらってる間に父に話しに行ったが、来客中らしく、会えなかった。
ジードに伝言を頼んでジェンリーと庭に向かった。
私たちを囲むように精霊達が飛び回っている。
「ジェンリーは草花に詳しいのね」
「部屋では本を読むことしか出来なかったので・・・」
薄いピンク色のオキザリスに触れようとした時、背後に気配を感じて振り返った。
「!!」
振り返った私の目の前には今にも触れそうな距離に王太子殿下の顔があった。
驚いてひっくり返りそうになった私の腰に手を廻し抱き止めてくれた。
「おっと、リリアナ嬢危ないですよ」
「王太子殿下なぜここに!?」
にっこりと微笑みさらに近づいてくる。
「あの夜、あのまま消えてしまって、お返事も頂いてないので、直接伺いました。」
腰に手を回されていては、これ以上離れることができないでいた。
(近い、近い、近いです)
「お、お姉さ、ま・・・」
ジェンリーが困った顔をしてこちらを見ている。
リリアナを支えていた手をそっと離してくれた。
「初めまして、ウェズリ・レイ・ドヘイド、リリアナ嬢の婚約者だよ。」
また、婚約者と名乗りましたね、まだ、お返事しておりませんが。
「は、初めまして、ジェンリー・ヘイワードです、お、お見知りおきを」
緊張して、カチカチな挨拶をしているジェンリーに優しく微笑みかけている。
「ジェンリー、姉上をお借りしてもよろしいかな?」
「は、はいっ」
直立不動で大きな声で返事をする。
「ジェンリー、こんなに大きな声が出るなんて、随分元気になりましたね」
そっとジェンリーの背に手を回す。
「はい、お姉さまがいらした昨日からですが、胸の苦しみが失くなりました、本当に不思議です」
よかった、ジェンリーの苦しみが失くなって。
「では、リリアナ嬢」
王太子殿下と共に応接間に向かった。
「ヘイワード侯爵からは了承を得たが、本人であるリリアナ嬢からもお返事を頂きたくてね、少々強引だが、直接会いに来てしまったよ」
お茶が置かれメイドが出ていったら、早速、本題に入った。
(やはり、お父様は婚約を受けていたのね)
「ですが、私は婚約破棄をされた者でございます、王太子殿下には相応しくないかと」
「問題ないよ」
「・・・ですが、陛下や王族、それにこの国の大臣がたが御許しにならないかと」
「問題ないよ、皆、了承済みだ」
「?えっ?」
この婚約の御話は王太子殿下だけではなく、王家までも容認しているということ?
「・・・何故、私を?あのパーティーでお目にかかったのが初めてだと認識しておりますが、まだ二日しかたっておりませんのに、既に王家まで・・・」
カチャリとカップを戻し、ゆっくりと目をあわせてくる。
ドキリとして鼓動が速くなるのがわかる。
「知っていたよ、リリアナ嬢が、王宮に通っている姿をずっと見ていたから。王族の教育を頑張っているのが、第二王子ではなく、私のためならいいのにと思ってリリアナ嬢を見ていた。」
見つめられ、顔が赤くなっていく。
恥ずかしくて、両手で頬を押さえて顔を隠す。
精霊たちも、そわそわと飛び回っている。
「ふふふっ、それで返事は?」
王太子殿下に詰め寄られた。