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「リリアナ・ヘイワード侯爵令嬢。そこで踊っている、第二王子との婚約破棄は間違いないね?」
体をピタリと重ねて密着している状態で、隣国のウェズリ王太子殿下に耳元に唇を寄せて囁かれ、自分の顔が赤く熱くなっていくのがわかる。婚約破棄という不名誉なことに恥ずかしくて、赤くなっているのか、この美しい王太子殿下が耳朶に触れてしまうほど近くにいるからなのかわからない。
「はい、おっしゃる通りでございます」
恥ずかしくて顔が上げられない、きっと真っ赤になってるわ。
「新たな婚約者は愛し子なんだってね」
「私は何も・・・」
「愛し子が現れたと、各国に既に情報が回っているよ。君の妹も愛し子なんだって?」
「私は何も・・・」
「愛し子だと名乗り出ることも珍しいことだ。それにより、各国がどの様な行動に出るか注意しないと。ところで、リリアナ嬢・・・」
「は、はい」
優しく話しかけられているのに、何故だか怖くて顔が上げられない。
「私の国に一緒に来て欲しい、私の妃として」
あまりの衝撃に顔を上げ、ウェズリ王太子殿下を見上げる。
驚いた顔の私を、愉しそうな笑顔で見つめ返された。
「既に侯爵殿には正式に申し込んである。侯爵殿のお知り合いも我が国に居るらしいね」
何て返して良いのか解らず、今度は顔色が青くなっているに違いない。
お父様には既に申し込んである?正式に?ウェズリ王太子殿下とは初めてお会いしたはず、それがなぜ?
お父様からは何も伺っていないわ、お父様に事の真相を確認しなくては。
ちょうど曲が終わり、ウェズリ王太子殿下から離れようとした。
しかし腰に回された手は離してくれず、そのままエスコートされダンスの輪から抜け出す。
ウェズリ王太子殿下の次のダンスをお誘いしようと待ち構えていた令嬢達を押し退けてマリエヌが近づいてきた。
「お姉様、狡いですわ!私もウェズリ様とダンスを踊りたいです」
可愛らしく上目遣いで王太子を見つめている。
ウェズリ様って、きちんと王太子殿下とお呼びしなくては不敬にあたるわ
「マリエヌ、言葉を慎みなさい」
そんな私の苦言は完全無視して、ウェズリ王太子殿下に突き進むのね、マリエヌ・・・
「次は私と踊っていただけますね?」
断られないと自信があるのか、マリエヌはウェズリ王太子殿下に一歩近付いた。
「申し訳ない、私は婚約者としか踊らない」
これ以上近づくなと、ウェズリ王太子殿下は手を前に出し、更に近付こうとするマリエヌを制止させた。
「でも、お姉様とは踊られたじゃないですか?」
隣国の王太子殿下を相手にグイグイ攻めるマリエヌに「不敬ですよ」と再度諌めてみるが、彼女は止まらない。
(お父様、メリアお母様はどちらにいらっしゃるのかしら)
マリエヌの暴走を止めてもらおうと、キョロキョロと辺りを探すが見当たらない。
急に腰を引き寄せられた。
驚いてウェズリ王太子殿下を見上げる。
「リリアナ嬢が私の婚約者だよ」
「「!?」」
(まだ、お返事してません!ってあれは本気のお話しなのですか!?)
言葉が出ずにパクパクしてしまった。そんな私の様子には気付かず、マリエヌはウェズリ王太子殿下に近付こうとする。
「ウェズリ様はご存知ないのですか?この国のもう一人の愛し子は私なんです。第二王子に棄てられた姉より、私を選んだ方がよろしいのではないでしょうか?」
周りにいる人々も事の成り行きが気になるのか、こちらを伺っている。
「いいえ、私が選んだ相手は間違いなくリリアナ嬢です。あなたの酷い言い分を聞いて気分が悪いので失礼するよ」
私の腰を支えたまま、ウェズリ王太子殿下は別の場所へ移動しようとした。
「リリアナ!来てくれたのね、嬉しいわ!」
周りに注目してもらいたいのか、大きな声を出してルミナが第二王子と共にやって来た。
更に注目が集まった。
あわててウェズリ王太子殿下から離れ、ルミナと第二王子に挨拶をする。
「ご婚約おめでとうございます」
私の態度に満足したらしく、ルミナはにっこりと微笑んだ。
「ありがとう、リリアナからのお祝いの言葉が一番、嬉しいわ」
次から次へと、面倒なので私の事は放っといてほしい。
「ウェズリ王太子殿下」
後ろから嫌な声が聞こえてきた。・・・恐る恐る振り返ると、メリアお母様がマリエヌを伴って立っていた。前と後ろで挟まれ、横にはがっちりと王太子殿下にホールドされ、私に逃げ場はない。
周りの好奇な視線、ダンスしながらもこちらが気になるのか、チラチラ見られている。
(注目されてるわ。おとなしく壁に貼り付いていればよかった。この空気に精霊達も反応してピリピリしてるわ、私は大丈夫よ、何もしないでねお願いよ。)
「娘から聞きましたが、リリアナと婚約だなんてありえませんわ。我が侯爵家の娘との婚約ならばマリエヌですわ」
「ヘイワード侯爵夫人、何か勘違いをされてますね、違いますよ。私は侯爵家のご令嬢と婚約したいのではなく、リリアナが欲しいのです」
第二王子、ルミナ、メリア、マリエヌに私、その場にいた全員が固まった。
そんな私達を笑顔で見ているウェズリ王太子殿下は周りのご令嬢達を魅了していた。
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