7 いじめアンケート(副校長視点)
評価ありがとうございます!後味がよいように、と、笑顔で書いてます。
クレア・レア・ヴァレリオーズ伯爵令嬢。高等部1年。
山地の多い辺境で育った辺境伯の箱入り娘。
両親が流行病で亡くなり一人っ子ゆえ、ゆくゆくは領地を治める伯爵となる。貴族学院を選ばずこちらに入学したのは、実務重視の祖父の判断らしい。聡明な才媛で、中等部卒業時の成績は、学年2位と聞く。高等部では、浮つくことなく経済学を中心に経営学全般に傾いた履修をしているようだ。
(さすがは、ヴァレリオーズ伯。知性も品格も上々にお育てだわ)
辺境伯は王家の血筋。公爵傍系のジュリナ副校長には、夜会やサロンでの伯爵のお姿は遠い血縁として親しみと尊敬をもって拝謁した記憶が鮮明にある。
その孫娘ともなれば、自ずとひいき目にもなる。
学生調査書に貼られた写真絵は、凛として美しい。貴族階級の嗜みはあまり得意ではなさそうだが、清楚でつつましやかなその姿は、副校長の若い頃を思い出させ、好ましく感じる。
(・・・解せぬ)
高等部の才女が中等部の令嬢をいじめる・・・その違和感はぬぐえない。
「うーん。とりあえず複数の声があがっているわけですから、それを検証する他ないでしょうね?」イーゼがのびをして、リーゼンバーグの方をちらりと見た。
曰く『ヴァレリオーズがアゼリア嬢の教科書を破った』
『V伯爵令嬢がA侯爵令嬢を罵倒して泣かせた』
『ヴァレリオーズが侯爵令嬢のドレスを引き裂いた。令嬢は羞恥のあまり3日不登校となった』・・・。
定番過ぎて笑える、っととと!
というリーゼンバーグのあたふたは見なかったことにしよう。
このところ彼女は無駄な動きが多い。その割に対応が斬新で鋭い事には舌を巻くのだが。
(なんでしょうね、稚気満々のやり口。知性のかけらも感じられないわ)
やるなら、もっと周到に。けして自分に火の粉がこないよう、緻密な陰湿な計画をー。
おっと、ジュリナの思考が黒い方へどんどん流れてしまう。心の中で苦笑い。
「誰が書いたんでしょうなあ」
「無記名ですからね。まあ、だからこそ書いたのでしょうけれど」
「あら、分かりますよ」
え?
リーゼンバーグが嬉々として説明し出す。なぜか足を広げ右手を高く上げて用紙を掲げている。
「クラスは20。アンケート用紙の上辺に小さな切り込みがあるのが分かりますか?位置によってクラスが分かるように細工してあるんです。
さらに、縦辺にも小さなドットをつけました。
全クラス、名簿順に生徒を座らせて一人一人に用紙を配るよう、担任に伝えました。ですので、このドットが名簿番号を表すんです!・・・
この紙は・・・左から約1センチだから中等部1年1組。
ドット数が7ですから、7番ですね!
はい、名簿名簿・・・んー。ナレック・バルザック!てな具合です!!」
「「・・・・・・・・」」
校長が目を剥いている。ビョートル先生は顔が真っ赤だ。
「・・・・・・リーゼンバーグ先生!そ、それは生徒を騙したということですかっ!!」
「え?騙してませんよ?」
「だって、プライバシーは守る、記名は強要しない、と・・・」
「そうですよ。もちろん勇気ある記載者のプライバシーは守ります。このメンバーだけが漏らさなければよいのですから。
そして!記名は自己責任ですけど、この紙のどっこにも、書いたあなたの名前は分かりませんとは、書いてませんよ?」
「・・・うっわ。詭弁。くくくく」
イーゼが張り付いた愛想笑いから、本物の笑いにチェンジして机をたたく。どうも読めない男だったが、これが素なのかもしれない。
「せ、聖職にありながら、こんな、詐欺まがいの」
「あら、先生。告発の勇気を促すには、このくらい情報を操作することも必要です。
もし、このカラクリを見抜いた生徒がいたら、肯定して公表して良いとも、先生方には伝えましたよ?・・・いなかったですけどね。幸いにも」
初めてやったんですけど、ドキドキしました!と、ケロリとのたまうリーゼンバーグをジュリナはにんまりと見つめる。
(彼女にしばらくは任せて良いかもしれないわ)
リーゼンバーグがどのように立ち回るか・・・。
いかんせんローレイナ家とヴァレリオーズ家に渡り合うには若すぎる。いざその時には、自らが家名をもって向き合わねばならないだろう。もとよりそのつもりだった。リーゼンバーグが失態を犯しても、責任は自分にある。
(いじめ、ね)
今、名前が上がったバルザックは、たしか騎士隊長の息子であろう。
リーゼンバーグの次の手が見てみたい。しばらくは様子を見守ろうと、副校長は心に決めた。
本当のアンケートはこんなことしません!すべての先生方の釈明を込めて。