6 いじめアンケート
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「それでは、第1回いじめ対策委員会を開きます。」
・・・って言っても、シド校長と、ジュリア副校長と、学年主任教師のピョートル先生と、私と・・・
誰?
黒髪のさらさらヘアをオールバックにして後ろで束ね、白く長いジャケットが「医者です」と言っているような出で立ちの長身の青年が、にこにこと立っている。
「改めてご紹介します。王院マーレ科のイーゼ師です。」
副校長がにこやかに紹介した。改めて?私聞いてないけど。
「リーゼンバーグ先生からの要請で、生徒の心理ケアと保護者対応の人員をと、王院に申請しましたところ、イーゼ師を派遣していただけました。」
あー。そうだ。
中学校では、事案発生の場合即学校に第三者として、いじめ対応アドバイザーとか臨床心理士が派遣される。専門家の意見や第三者の仲介によって、加害被害双方への対応が円滑に行くことが多い。
いや、まさかマーレ師が派遣されるとは思わなかったけど。
マーレは、この世界では重要な意味をもつ。
アズーナ王国は豊かな農産と鉱物資源、大陸の海岸線に複数の貿易港を有する恵まれた国である。しかし、何より他国よりアドバンテージが高いのが「人材」なのだ。
人の脳は、その大半が眠っている、というのは俗説で、脳はその大部分が生きるために活動していることが現代では実証されている。らしい。
けれども、サヴァン能力者など、傑出して脳の一部分を過剰なまでにフル活用できる場合もある。その分、アンバランスな発達をする場合もあるのだけど。
マーレは、アズーナ民族において、その能力を進化させる「点火剤」である。そしてマーレを発動することができた人物は、希有な才能を開花させる。科学・工学・芸術・文学において、爆発的な発明と進化をもたらす恩恵をアズーナ王国は受けてきた。
ただし、マーレを調整し、才能と容れ物である人物の精神状態を調和させることは至難の業となる。
歴史上おびただしい狂人や破壊者を出し、英雄や天才を輩出し、その中でマーレ・コントロールを発達させた。
マーレ師は、マーレ発動のプロセスを研究し、マーレが発動した「覚醒者」の調和した発達を支援する重要な人材である。
いかん。どうしても説明であふれる。でもアオイ=碧を調整するためには必要なプロセスなので我慢してほしい(誰が?)
「イーゼです。お見知りおきを」
会釈と共に、昼間の猫のようなふにゃあとした表情をこちらに向けて、なぜかうなずいた。
「・・・リーゼンバーグです」「学年主任のピョートルです」
軽く会釈を返して挨拶は終了。会議の進行は、私が行う。こほん。
「・・・本日は、学院においておこなった紙面調査についての情報共有をいたします!」
茶封筒が合計20。王立学院中等高等部全クラス分の「いじめアンケート」600枚を会議用机にざばっと出して紙の山を作った。その横に紙箱を3つ、たんたんたんと置く。
「いいですか?赤の箱は完全アウト。いじめられている、またはそれを見たという紙を入れます。で、黄色はいじめられていたが解決したというもの。青はいじめられていない、いじめを見ていない紙を入れて下さい。」
「判断基準は?」
「・・・本人の訴えをそのまま通して下さい。階級間の確執も、貴族ならではの丁々発止も、判断基準には含めないこと。すべて、いじめがあったという前提で。」
副校長センセ!言ってる端から、これもあれも貴族の子女の腹芸だと、ぽいぽい青箱に入れないで下さい!そういうのを予断という・・・校長先生!じっくり読んで涙ぐみません!日が暮れます!ん?
「イーゼさん?白紙ですが?」
赤箱にさらっと入れた紙を見てつぶやくと、チュシャ猫の微笑が私をのぞき込む。
「消した跡があります。筆圧が弱いので、完全に読むことは難しいかもしれませんが。書いてから躊躇して消したということは、アウトですよ」
なるほど。さすがマーレ師。
「それにしても、このような項目を即日よく作りましたね。プライバシーは守ります。記入の有無によってあなたの名誉が損なわれるものではありません。記名は強要しません・・・。リーゼンバーグ先生の新しい才を見ましたな」
「ビョートル先生。それだけ必死ってことです・・・終わられました?」
作業終了。予想通り青箱に9割の紙があふれかえり、黄色にちょぼちょぼ、そして赤箱に・・・
「クレア・レア・ヴァレオリーズ?」
「K・R・Vですわね」
アゼリア嬢の加害者、なのかな。