3. アオイ・リーゼンバーグ・1
説明が続きます。我慢して読んでいただけたら幸いです。
私ーアオイ・リーゼンバーグは、王都で生まれた。
王院ーアズーナ王国の最高学府ーに所属する史学者リーゼンバーグの長女である。
リーゼンバーグは代々学者を輩出する一族で、曾祖父はその経歴から男爵の爵位を賜った。
貴族と言っても領地をもたない貧乏一家だが、子どもには最高の学習環境を整えてきた。
それ故、私は王院を卒業しても研究を続け、この王立学院で教鞭をとり宿舎を賜り自立している。
王立学院は、貴族学院と異なり、平民から貴族までが王院への進学を視野に入れて通う中高等学校である。
国を背負う人材を輩出する王院の大半は、この王立学院出身と言って良い。そのため、学生は高水準の入学試験を突破した強者ばかりである。
その学校で授業する教師は、最新かつ普遍な知識と教授力が求められる。
常に研鑽を怠らない者のみが、この王立学院に属することができるのだ。
だが。
(生きるためよ)
そう。私は崇高な意識など持ち合わせていない。
要は、貧乏学者の長女では、仕事の枠など限られていた、という訳だ。
マナーと品の良さで、どこかの侯爵や公爵家に侍女として入ることも考えたが。
家事が苦手な私には、無理な話。
高等貴族の子女の家庭教師もいいかなとは思ったが
子どもは育つのである。相性もある。
いずれお役ご免になったとき、誰が養ってくれるのか。
(女独りが生きて行くには、きついのよね)
王院で、好ましい男性がいなかったわけではないが、家に縛られ階級に縛られるこの国では、自由な恋愛も難しい。
恋愛は自由だ。
しかし、その恋愛を生活に、人生に繋げることは困難なのだ。
案の定、恋人は相応の家の令嬢とともに、領地へと去っていった。
女独り、自立の道。
29歳の今、目指すは生涯一教師。
職業教師として、つつがなく、地味に、無難に、生きていく。
それが、アオイ・リーゼンバーグの信条である。