面談2 パトロ・アズ・ミズリ
男の子3人組の2人目です
「卑劣な手段を使う大人を信頼しろというのは、無理な話ですよね。」
あら、ばれてる
パトロ・アズ・ミズリ。
宰相ミズリ伯の次男坊。お兄ちゃんは「大豊作」と言われる強者ぞろいの高等部1年。王子が入るからと当たり前のように入学。竹馬の友だそうだ。ー弟の方は、次期王妃の参謀かしらね。
緑の髪にヘーゼルナッツ色の瞳。肩で切りそろえたボブヘヤーが、その大人びた表情を少し幼く見せている。前髪は7/3で流し、美しく鋭い双眸を縁なしの細い眼鏡でコーティング。二年生首席そして次期生徒会長のエリート君だ。
タイプ!私のタイプ!
このままじっと見つめていたいけど、ごめんね、今日の私は君の敵。
このお利口さんをどうしてくれよう。
「あら、さすがね」
「さかしい事だ。ーだから、記名はしなかった。どうせ呼び出しがあると思っていたから。」
相談室で足を組み、エリート君は、長い指を組みゆったりと足を組んで座っている。
「・・・あなたのように、肝の据わった生徒ばかりではありませんからね。なるべく多くの情報を入手する為、やむなく。」
「詭弁ですね・」冷笑。
あら、この子も同じことを。
「本当に情報が欲しいのなら、なぜ生徒の中に入ってこない。ー生徒会は生徒の自治のため、その義務と権利を掌握している。情報はつぶさに入っている・・・真に生徒のことが知りたいのであれば、まず生徒会に敬意を払うべきだったのでは?」
おおう。攻めるねえ。若いねえ。
「そうですね。パトロ君ーお兄さんがいらっしゃるからファーストネームで呼ぶわねー私は情報を広く広く欲しかった。いちどきに。そして迅速に。さらにこれら得た情報を共有する者は最小限に留める必要があった・・・。パトロ君」
さあ、勝負!
アオイは銀ぶちの眼鏡をはずし、パトロを真正面から見据えた。
「アゼリア嬢が、自殺を企てました。未遂です。」
「「!」」
パトロ、そしてイーゼも目を剥いた。
「安心して。アゼリア嬢は無事です。・・・お座りなさい!今、君にできることは何一つありません!・・・彼女は、安全です。」
逆上したパトロが席を立つやとび出そうとしたのを、イーゼが押さえ込む。かろうじて、ほどなく椅子に戻して座らせてくれた。
「貴女、い、ま、言うことですかあ。」イーゼがぜーぜー(韻)してる。体力不足だなあ。
「この子に腹芸は通用しないわ。私たちは真実をいち早く見つける必要があります」
「く・・・ヴァレオリーズ!あの醜悪な売女がっ追い詰めたに決まってい!るううっ!!」
こんな激情を秘めていたのね、ん…さらにタイプ。
「どこに、証拠が」
あるんだけどね、カード。それはオフレコ。
「だから、お れ が、が書いただろ!あの女はお茶会で彼女のドレスを裂いたのだ!!令嬢を皆の前で辱めて!!証拠はドレスだ!」
「それは貴方が一緒に見ていたの?」
「ば、馬鹿な!一緒にいたら俺がそんな目に遭わすか!彼女の友人達が証言した。どの令嬢も出自は確かだ。」
事案発生メモ2
いつ ー6月2日 午後2時ごろー
どこ ージュナ・ユーナ伯爵令嬢の王都別宅の庭園
誰 ージュナ嬢 ミサ・サザンデ伯爵令嬢
イルミ・ロロッカ伯爵令嬢
アゼリア嬢 クレア嬢
何 ーアゼリア嬢の着ていたドレス
どうしたー庭園の一角でお茶会をしていたところ、突如アゼリア嬢のドレスの裾から上に、クレア嬢が引き裂いて怒鳴った。
備考 ーパトロ・アズ・ミズリが事後、各令嬢から一人ずつ聞き取り。
(クレア嬢を除く)
他 ー身体的暴力 紅茶をかけたという証言がある
火傷の可能性あり?
物品の損壊 あり(ドレス 約80センチ)
(カップとソーサー
ガラスの容れ物)
精神的苦痛 アゼリア嬢(3日不登校)
「この3名は」「貴族学院の生徒だ。」
アゼリア嬢からの呼び出しで、彼女は恥じらいながらパトロに泣きついて告白したそうだ。彼はその詳細を調査するために、貴族学院で、あえて一人ずつ呼び出して聞き取りをおこなったらしい。共通するのは、この5名が円卓で談笑していたこと。途中から参加してアゼリアの隣にクレアが座ったこと。アゼリアとクレアが何か話していたが、扇のため断片しか聞き取れなかったこと。その時けたたましく孔雀が鳴いて(鳴くんです)気をとられた時、アゼリアの叫び声がし、皆が振り返った時には、クレアがアゼリアのドレスを引き裂いていたという。円卓の上には割れたティーカップ一客とガラスの容器が転がっていたそうだ。
「断片、とは?」
パトロは生徒手帳を取り出して、ぱらぱらめくる。
メモしたのね。メモは大事。
「曰く『お勉強』『王子』・・・アゼリアは、酷いことを言われたと。アゼリアの言い分は、王妃としてのお勉強は大変なのに学院に入学して、貴女のようなおつむのお嬢様はさぞ大変だろう、とか、そのような嫌みを言われた、と。嫌み程度なら我慢もしようが、令嬢の、あ、足があらわになるような狼藉!アゼリアのドレスを見せてもらったが、それは酷い裂き様で。俺が女なら、女同士でも・・・俺でも死にたくなる。」
ううむ、かなり酷いわね。
「いいですか?」
イーゼが挙手。
「王院、マーレ師のイーゼです。」
「マーレ師・・・」
あれ、パトロ君の表情が強ばる。
「アゼリアさんの、ドレス、ですか。材質は何だったでしょう」
「素材?シルク、だったと」
「ドレスの形は?プリンセスライン?ペチコートで膨らませたタイプの?」
「はやりのマーメイドラインだったか・・・初夏なので季節を先取りした薄い生地だったそうです。軽いドレスでしょう?夜会と違って」
男の子はその程度の知識よね。私ならイメージできるわ!
お茶会ですもの。コルセットもなしでいいんだもの。
らくちんドレス着るよ!
「それと、事件の時、いつもと違う臭いがしましたか?」
「ん、と。・・・はい。ありました。ロロッカ嬢が『なんだか卵をゆでたようなにおいがしましたわ』と。」
「・・・結構です。ありがとう。」
イーゼのニタニタを凝視してるパトロ君は、話が読めないようで、ちょっといらっとしてる。
イーゼの攻撃は、まだ続いている、らしい。
「パトロ・アズ・ミズリ・・・バルト君の弟ですね。バルト・アズ・ミズリ君の」
「ー兄をご存じなんですか・・・」
「はい。彼は発動者ですから。12歳の頃から、定期的に診察させていただいておりますよ。」
そうだったの?お兄ちゃんはマーレもちだったの?
「彼は記憶のマーレを発動しましたね。初めは意味のない数字の羅列を唱えていましたが、それがすべて素数であったことに気づいた家庭教師がきっかけで、侯爵に呼ばれて邸に招かれました。コントロールの技術を習得するのは速かった。身体との同調も年の割に良好でした。・・・あなたもですか?あー、あなたは発動されてない?そうですか、
彼は学生になってからは、王院に通院しております。記憶のマーレは見たものを全て転写の様に脳に記録できる。お兄さんは棋譜を全て記憶した盤上の天才。さらに過去の戦術を脳に蓄積した仮想戦の素晴らしい軍師・・・てっきりマーレ持ちの家系かと思っておりましたが。そうですか、彼の弟君でしたか「言うな!!」
あれ
ああ、そうか。パトロ、君はー
立ち上がったエリートはやや血走った目にうっすら怒りの泪を浮かべていたが、少し頭を振って
「失礼しました・・・」
と、腰を下ろした。
そうか。君はマーレを発動していない・・・
天才ではないということ。
首席の、次期生徒会長の、肩書きでも君は満足できないんだね。兄へのコンプレックスは幼い頃から蓄積して。才能もあっただろうが人には見せない努力もしてきたんだろうね。その功績も、さらりと奪ってしまう兄の存在は、越えられない存在は・・・
「あなたはあなた。わたくしに必要なのは、あなた自身です・・・」
「!!!な、ぜ、それを」
「アゼリアさんは、君にそういってくれたのでしょう?パトロ、あなたの力が必要だと」
パトロは、ついにその泪をほおにつたわせていた。
「・・・慕ってはいけない女性です。でも、彼女は、僕は僕の頭脳は他の誰よりも必要だと言ってくれました。微笑んで。あなた自身がよいのです、わたくしを頼みますね、と。」
そうだろう。女が頭でっかちのプライド男を懐柔しようと思ったら、そう言うよ。
ブラコンのイケメンに一番効くのは、「おにいちゃんじゃ、いや。あなたがいいの」だよな。
さて、締めますか・
「彼女の誇りはあなたの誇り。貴族の令嬢が人前で肌をあらわにしたような振る舞い、むやみに流布することではない。だから君はアンケートに書いても、人に言うことはしなかった。流石は宰相のご子息。でしたら、今ここで私が話したことも他言無用であることは理解できるわね?」
「アゼリアの名誉に関わることは一切。だが、アゼリアの傷ついた精神と誇りは、どうやって回復できるというのですか。」
「ー程なく彼女は登校すると思います。私は、彼女の自殺未遂は、彼女のサインだと考えます。」
「サイン?」
「本当に死にたかったわけではないということ。今この状況をなんとかしてほしいという彼女のサイン。それであれば、教師の私たちは、こうやって動きます。私は」
生徒の味方です。
君は、彼女に頼らせてあげなさい。存分に、包んであげなさい。
クレア嬢の是非については、私たちにしばらく任せて。
その時が来たら、必ず君を私も、頼りましょう。
パトロは静かにうなずいて、この場を辞したー
「わたしの投げた玉をちゃんと受け取ってくれましたねえ」
突然の変化球、困るんですよ?いや、ドッチボールも嫌ですけど。
「ね、お茶会の質問、何だったんですか?」
「うん。ま、それは『実験』で検証が必要ですね。今度、私の研究室に来て下さいね。」
ね
って。
なんか、ほおが熱くなるのは、何ででしょう?
バルザック君は「あなた」パトロ君は「きみ」。他意はなかったりします。




