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ストレンジな掌編保管庫

勇者のパーティーを追放された男の物語

作者: 雷電鉄

 とある異世界。各所で魔物を討伐して回っているパーティーがいた。神に力を授かった選ばれし勇者エルス、クールで知的な印象を感じさせる女僧侶のセレンズ、そしてもう一人、魔術師のラフリン。彼は線が細くやや頼りなげな印象を感じさせる男ではあったが、パーティー内には目立った問題も無く、彼の扱いも決して悪くない事が伺われた。 

 ある時、戦士のカブレスが新たにパーティーに加わった。今までより一段レベルの高いクエストに挑むエルスが、冒険者のギルドで仲間に加えたものだった。

 カブレスは短気で荒っぽい面のある男ではあったが、勇者のパーティーに加わったことを彼なりに心から光栄に思っていた。

 最初に仲間に自らのことを紹介する際、カブレスが大声で他のメンバーに声を掛けたらラフリンは力なく返事を返した。ラフリンにとってはごく自然な反応だったが、豪放を絵に描いたようなその男には不快感を感じさせる物だった。

 戦闘でも、ラフリンは全くと言っていいほど役に立たなかった。一回だけならまだしも、常に彼は仲間たちの周りでオロオロするばかりだった。カブレスも最初の頃はそんなラフリンをかばっていたが、いつしか戦いの度に罵声を浴びせるようになっていった。

 次第に、ラフリンはカブレスを見る度にオドオドした表情を見せるようになっていった。それがまた、カブレスを苛立たせた。

 カブレスは考えた。何故世界を救う旅をしているパーティーにこのような者がいるのか。きっと、大した能力も持ってはいまい。どれぐらい前からパーティーにいるのか知らないが、きっと勇者たちも彼には困っているに違いない。そうだ、勇者たちがあいつを何らかの事情で辞めさせられないのなら、俺があいつを追い出してやろう。そんな「汚れ役」こそがパーティーでの俺に求められている役割なのだろう―――

 ラフリンに対する罵倒が、彼を「辞めさせるため」の攻撃に変わるのに時間はかからなかった。

 しかし、どれだけ罵倒を繰り返しても、ラフリンはヘラヘラした表情を見せるだけだった。それを見て、ついにカブレスの怒りは頂点に達した。

 ある日、カブレスは勇者たちが見ていないところでラフリンの腕を掴み、有無を言わせずに冒険者のギルドへと連れていった。ラフリンを強引にパーティーから外そうとしたのだった。なに、もし勇者たちに問い詰められたら、ラフリンは自分の不甲斐なさを恥じて自ら辞めて行ったとでも言えばいい・・・そうカブレスは考えた―――






「エルス様。脱退の手続きは終わりました。」

 あらかじめギルドで待ち構えていたセレンズがにエルスに声を掛ける。

「参ったなあ。これでもう三人目だよ。いい加減<エル・グランズの迷宮>の攻略も始めないといけないのに・・・」

「まったく愚かな男ですわ。ラフリンが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ために仲間にいるとも知らずに・・・」

「ああ。仲間を独断でパーティーから追放しようなんて考えるのはろくな奴じゃない。いつか、必ずトラブルを起こす。でもそういう奴は表面上真面目に振舞うからなかなか尻尾を出さない。そこで、ラフリンというエサを用意してるんだけど・・・こういうのは演技じゃなくて素じゃないとダメだからなあ」

 そう、ラフリンはカブレスの予想した通り大した能力もない低レベルの魔術師にすぎない。それでもパーティーに加えているほど、勇者たちにとってトラブルの種になり得る存在は忌避すべき物なのだった。

「エルス様、それでまた今回の報酬の方を・・・」

 ラフリンがヘラヘラと笑いながらエルスに声を掛ける。

「まったく、何もしないのに要求だけは一丁前なんだからなあ・・・はい、また何かあった時は頼むよ」

「有難うございます。これでも結構傷ついてるんで・・・へへっ」


※ちなみに、その後別のパーティーに拾われたカブレスが魔王討伐の快挙を成し遂げる・・・かどうかはご想像にお任せします。

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