親友に迷惑をかけまくる私の話
あの日から数年が経った。
あの日というのは、私とみゃーこが川に落ちた日であり、また、私が一人で地球に戻ってきた日である。
目覚めたばかりの私は、それはもう取り乱した。
私が目覚めた時には病院にいて、ぼろぼろの体に、たくさんのコード。
大けが中の大けがだったらしい。いわゆる重症ってやつだ。
私の回復能力がすさまじかったらしく、危ないラインは脱したらしい。
まず最初にみゃーこ、美也子のことを聞いた。
どうなったのか。どこにいるのか。
自分のことよりも先にみゃーこのことを聞いた私に、私の回復にひと時の笑みを見せていた両親はすぐに暗い顔になる。
「彼女は……亡くなったわ。」
その言葉を聞いた時。
私は。
この世界がどうでもよくなった。
地球にいても意味がないと思った。
地球自体に価値が無いと思った。
自棄になった。自暴自棄ってやつだ。
それほどみゃーこは私にとって大きな存在となっていた。
……まあ、実際には指一本動かせないし、すぐに鎮静剤を打たれたんだけれども。
その後聞いた話だと、私たちは自分から川に飛び降りたのではなく、トラックに撥ね飛ばされたらしい。
その時にみゃーこがかばってくれたおかげで、今の私があるんだとか。
ちなみに、トラックの運転手は川に落ちて死んだ。
運が悪かったのか、偶然が重なったのか。
トラックの運転手は、直後に起きたガソリンの引火による爆発によって死んでいた。
遺体自体は粉々だったらしいが、事故直前の時刻、道に設置してあった防犯カメラに写っていた画像解析からナンバーを特定し、そこから運送会社を特定するに至った。
真っ黒な企業だったらしく、前々から目を付けられていた。
法定労働時間の大幅なオーバー。
即刻潰され、責任者は逮捕された。
……ドライバーは、女性だった。
今になってよく考えてみれば、異世界に行ったというのはすべて非現実だったのではないか。
金縛りにあったときというのは、脳だけが覚醒状態にあるという。
夢というのは、長い時間に感じても、実は短い時間に見ているという。
宮沢賢治の銀河鉄道の夜という有名な作品がある。
私はそれと同じように、ただみゃーこが死んだという事実、直感が信じられなくて、こんな夢を見たのではないか。
夢というのは不思議なもので、自分の知らないところへ連れて行ってくれる。
私もたまに夢は見るから、それは良く分かっている。
今回もそのたぐいだったのではないか。
悪夢を見て、一番ハラハラする瞬間にバッと飛び起きるのと同じように。
受け入れがたい物、事があった瞬間に私の意識が覚醒したのではないか。
すべては憶測にすぎない。
しかし、ゆるぎない事実がある。
みゃーこは死んだということだ。
この世にはいないと言う事だ。
画面を通してだが、葬式にも出席した。
みゃーこの親は優しかった。
私はその優しさに触れた時、思わず涙があふれてしまった。
否。それは嘘だ。
本当は、両親の顔に、みゃーこの面影を見つけたからである。
どこまで行っても独りよがり。
子をなくした親の気持ちなんて考えない嫌な奴。
裁判には勝った。
でも、あまり重い罪にはならなかった。間接的とかなんとか。
自分はユーリィの前で大人ぶっていたが、私はまだまだ大人をよく知らない子供だ。
ライトノベルというものを読んでいるから、大人について様々な考えを知ることはある。
でも、それだけだ。
結局、文字というのは伝えたいことの何割も伝わらない。
過去の偉人、また宗教の中心人物が直接筆を執らなかったのもそのせいだ。
現代に残る数多の聖書だって、ほとんど弟子たちがしたためたそうだ。
私は心理カウンセリングというやつを受けた。
受けさせられた。強制的に。
そして、再び、あのカイトさんにリハビリを手伝ってもらった。
社会復帰は果たしたのだろうか。
果たしたと言えるだろう。
スケートリンクで頭を打った時よりもさらに早い復活だった。
はるかに、と言ってもいいかもしれない。
そして今。
オフィスレディーとやらになって、バリバリと働いている。
明るい性格で誰とでもとっつきやすく、そこそこモテた。
しかし、何故かしらお付き合いとかする気にはなれず、周りからは高望みとか後ろ指を指されたこともあったけれど、多分違う。
高望みしていたわけではないし、そもそも何も望んでなんていない。
今日も一日の仕事を終え、家に帰ってきた。
始めたころは本当につらかったことしごとも、今になってみればどうってことない。
愛猫でもあやしながら酒でも飲むか。
そういえば、ねこの「ね」って鳴き声なんだってね。
みゃーこに教わるまで知らなかった。
マンションの個室の扉を開けて、中に滑り込んだ私は、ただいまを言いながら靴を脱ぐ。
……すぐに異変に気が付く。
いつもは犬みたいに駆け寄ってくる飼い猫の姿がない。
そこで不意に不安に駆られ、その名を呼びながらリビングの扉を開けると。
そこには見慣れた顔がいた。
おかえり、そこにいた人物は猫を抱えながらそう言った。
「みゃーこ、なの……?」
その人物は肯定した。
向こうの世界をいろいろと整備していて、その過程で女神さまを下僕にして、あちこちいじって私を迎えに来てくれたらしい。
本人曰く、全く男っ気が無いから、ま、いいかと思って会いに来てくれたらしい。
昔と打って変わって、随分と性格も変わっていた。
高飛車っていう感じから、何と言うか、適当になった。
久留美がよければ、とみゃーこは前置きしてから、私の造った世界に移り住んでみないかと聞いてきた。
みゃーこのいない場所に、正直魅力を感じていなかった私は、特に断る理由も無いと、二つ返事で了承した。
ここから、第二の人生が始まる。
決して楽しいことだけではないだろうし、様々なツライことだってあるだろう。
でも大丈夫。隣には相棒がいる。
相棒と呼べるだけの人間がいる。
背中を預けられる相手がいる。
幸せなことじゃあないか。
有り難いことじゃないか。
有るのが難しいことじゃないか。
もう大丈夫。美也子がいるから。
完
普段から地の文がこれほどあったらいいのに……。
読んでくださってありがとうございました!
そして、更新を中断してすみませんでした!
最後に、意味不明な文ですみませんでした!




