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ああ、もう私このまま死んでもいいや。

By久留美&ユーリィ


遅れてすみません。どころの騒ぎじゃないですね。

この話には時間をかけて取り組みたかったんです。

まぁ正直に、完成度を問われると、全然なんです。

まぁ、この期に及んでやっとプロット(のようなもの)も手を付けた体たらく。

自分で書いて、悲しくなってきた。

 私、今を時めく(見た目)十八歳!


 一国の王女様にぎゅ――っってしたら怒られちゃった!


 でも、これからはダンジョンにもぐってハードなことをする予定だから! 今のうちに! と、思って。


==========


「……………。」


 ……どうしてこうなった……。


 絶対あり得ないだろ、絶対。


「それがアリ“ピーッ”。」

「……みゃーこは黙ってて。」



 数日前。

 ログハウスの中、私たちはそれぞれの荷作りを終えて、夕食の席についていた。

 全員で「いただきます。」をして、夕食は始まる。

 これでユーリィが知っていたら驚きだけど、知らなかったようなので私としてはほっとした。

 あの時の、きょとんとした表情、かわいかったなぁ。

 思い出して、にへらぁ、と笑うと。


「……美也子さん。あの人、危なくないですか?」

「そうね。ちょっとあなた、早く正体を明かした方が良いわよ?」


 ユーリィの言葉に、美也子が同意すると、ユーリィは驚いたようで。


「え?」


 その反応に、慌てたように美也子が言う。


「あ、いや、何でもないわよ。」

「……。」


 蚊帳の外だった久留美がむくれる。


「これ、おいしいねー! みゃーこ、すごい!」


 二人は『しまった』という表情になった。

 けれど、私知らないもん! ふてくされた久留美ちゃんの機嫌はなおりにくいの!


「あ、ありがとう……?」

「そ、そうだねー。」


 ほら、そうやってぇ!


「ユーリィ、これを直すのにはあなたの正体を明かすほかないわよ!」

「だからどうして美也子さんはそんなに知ってるんですか! わかりましたよ、言えば、いいんでしょう? 言えば。」

「なんでも知ってるってわけじゃないわよ。まぁ、言えばいいんだけどね。」


 だから! 指示語(こそあど言葉)を使わないでぇ! 疎外感を抱くからぁ!


「久留美さん。これから大切な話をします。真面目に聞いてくださいますか?」


 私は、その真剣な表情に短く嘆息すると、気持ちを切り替えた。


「わかった。聞くよ。あなたのことなら、なんでも。」


 彼女、ユーリィは短くうなずくと。


「今までうそをついていてすみません。そしてごめんなさい。実は私は――」


 あのとき(・・・・)のトラックの運転手なんです、と言った。


 あのとき。『あの(・・)』とき。


 どのとき? なんて聞かない。


 そんなの、わかりきってるから。私たちがトラックに引かれた時、だ。


「え……?」


 私は、声にならない声を上げる。

 ユーリィを凝視する。

 当のユーリィは俯いて、目に光るものをいっぱいにためている。


「で? 久留美はどうするの? 相手は、“精神的には”大人よ。少なくとも年上だわ。十中八九、成人よ。」


 みゃーこにそう聞かれ、はっと、(われ)に返る。

 私の悪い癖だ。いつも一歩先を行くみゃーこに引き戻される。

 みゃーこはああいった。でも、それが本心じゃないことは私が一番よく知っているつもりだ。

 だけど。


「……みゃーこは、どう思ってるの?」

「あんたが一番よく知ってるんじゃない?」


 質問に質問で返すなよ。

 切なくなるよ。

 胸の奥が、きゅうっと、締めつけられるじゃないか。

 他人(ひと)のことを言えないんだけどな。私も。


 そして、私は長い沈黙を破る。


「私は、ユーリィが幸せな方向に進めばいいと思うよ。」

「え? なんで? なんでですか! どうしてそういうことを言うんですか! なんで(ののし)ってくれないんですか! いつもいつもそうやって! いっそ、罵倒(ばとう)してくれた方が、気が楽だというのに……。なんで、なんで……。」


 ヒステリック、わずかなことでもすぐ感情を大げさに表しぎみな精神の状態。その一言に尽きる。


「無責任だって? そりゃ、ユーリィが罵倒叱責(ばとうしっせき)してくれた方が幸せだっていうのなら、そうするよ? 貴方が気が済むまでやるよ? でもね――できっこないよ、私には。無責任で、矛盾してるや。ま、それが人間だっていうのなら、それまでだけど。」


 一呼吸おいて。


「で? どうしたいの?」


 沈黙。長い沈黙。


「どうしたいんですか?」


 まだ沈黙。そして沈黙。

 沈黙、沈黙、沈黙、沈黙、沈黙。

 長い、長い沈黙。


「……わかり、ません。」


 そして、絞り出されるような、か細い声。

 予想とは違う結末。

 提示された幸せな未来。

 思っていた道とは大幅に違っている。



 あの、奴隷商人の男どものように、怒って、殴って、愚痴を漏らして、蹴飛ばして、憤って、首を絞めて、不安になって、骨が折れるほど抱きしめて、驚愕からくる焦燥で、細かく命令しては文句をつけて、困惑して、刃物を突き付けることで発散させて、緊張して、()いて気絶するまで揺さぶられて、憧れ・欲望・劣等感・嫉妬から、絶食させられて、後悔・無念・自己嫌悪・罪悪感・空虚・絶望から、拷問まがいのことをして、初めて抱いた殺意におびえて、“処刑ごっこ”などをされた方が気が楽だ。

 今思えば、マシだったのかもな、とユーリィは思考する。自分に非はないと思えたのだから。

 『一つの物』として見てくれたのだから。

 でも、優しさに触れてしまった。

 言い出せなかった。今も言えていない。

 情けない。惨めだ。孤独だ。寂しい。あの日の、温もり。忘れられない。否、忘れられるわけがない。


「……私は、」


 それだからこそ言わなければならない。


「私は、」


 もう私の居場所などない。どこにも。


「ここを出て行きます。」


 そして自殺します、とまでは言えなかった。言わない。止められるから。


「それが私の幸せです。」


 早く楽になれるから。この人たちにこれ以上迷惑をかけたくない。


「謝罪して、許されるのならばここを出て行きます。許されないのならば殺されたってかまいません。」


 こんなことを言って。

 またどうせ、『あなたの幸せのためにならない』とか言われるんだろうな。

 幸せ大セール中。

 いいな、それ。買いたい、よ。

 この二人の輪に交ざれたら、どんなに幸せだったろう。

 輝かしい。(うらや)ましい。

 そして、訪れる沈黙。

 それを破る久留美。


「大きな勘違いをしてるみたいだね。」


 勘違い? ああ、私が『二人が怒っていないと思っている』とでも思われたか。

 それならいい。気が楽だ。


「私たちは別に恨んじゃいないよ。」


 私の中で、何かが音を立てて切れた。


 その後は、もう暴れた。


 めちゃくちゃにした。


 なにもかも。


 なにもかも。


 なにもかも。


 なにもかも。


 なにもか、も。



 ユーリィは音を立てて(くずお)れた。

 私も、止めていた息を吐いた。ような感覚に襲われた。


「いやー、終わったねぇ。」

「なにも終わってないわよ。」


 そう言いながら、私は文字通りめちゃめちゃのぐちゃぐちゃになった部屋を片付けようと、腰をあげた。


「おっと、久留美さんや。」

「おや、なんだね? ばあさんや。」

「誰が婆さんですって!?」

「ごめん。ノリでつい。」

「まあいいわ。じゃあ、とりあえずそこで寝ちゃったユーリィを抱えて?」

「はいはい。」


 怒ったみゃーこには従順に。

 よっこいせっと。


「ついてきて。」


 ついていきます。


 三人が外に出ると、みゃーこはログハウスをしまって。


「あり得ない。」


 新しいログハウスを出した。


「絶対あり得んだろ、絶対。」


 そして中に入って、ユーリィを寝かせた。



 目を覚ますと、布団の中だった。

 朝日が差し込んでくる。

 まず、あれ? と思う。

 頬をつねる。痛い。現実。

 何がおかしいか。

 第一に、何故(なぜ)ここに居るのか。つまみ出されてもおかしくないことをした。

 第二に、ここは昨日、魔法で燃やしたはずだ。何も残さないよう、念入りに。現物無しに、ここまで緻密に再現できまい。

 むくりと起き上がる。そして感じる違和感。


「むにゃ……。」


 初めて見た。寝ているときにむにゃむにゃいう人。

 新鮮さを感じながら、私はゆっくりとその人の頭をなでた。微笑ましい。

 きっと、私が起きたらまた話し合いをすることになったんだろうな。というより、そう思っていたんだろうな。

 残念。私は、もうすぐいなくなるんだ。

 寝間着に着替えられていることに軽い驚きを覚えつつ、私は自分の部屋からでた。

 ゆっくりと、名残惜しそうに閉めた扉からは、気持ちよさそうな寝顔が見えた。

 最後の晩餐(ばんさん)、台無しにしちゃったな、などつらつら思いつつ、玄関へと向かう。

 そして、靴も履かずに扉を開ける。


「……。」


 絶句。驚き。わーお。


 玄関の扉の、その先に美也子が仁王立ちしていた。


「……美也子さん、いつからそこに居たんですか?」

「十五分くらい前からかな? ちょっと予想が外れて残念。まぁ、大方(おおかた)、久留美の(やつ)が原因なんだろうけどさ。」


 図星です。


 と、そのとき。

 ばたばたばた、と私の後ろから音がした。


「セーフ?」

「アウト。」


 短い二人のやり取り。

 楽観的な久留美と、バッサリ切って捨てる美也子。


 挟まれた。さて、どうしよう。


 ……。

 気づいた時にはもう、がっしりと抱きしめられていた。後ろから。


「命令されたがり屋さんめ。このこの。」

「……。」

「しょうがないから、私が許さないでおいてあげるよ。」


 さぁ、来い。

 私はどんな残虐なことでも受け止める。

 受け止めねばならない。


「あなたは――私たちの娘になりなさい?」


「……は?」「……は?」


 その場の空気が、凍てついた。

このまま結婚――みたいな展開にはならないので、そこはご安心ください。(何を?)

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