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プロローグ
安神車、というものを知っているだろうか。
大昔に作られた、戦車の事だそうだ。
動力は外部。エンジンなんてものがなかった時代のものなのだから、当たり前だ。
ぼくは、実物が動いているところを見たことはない。なぜって、動かせるものが、もう残っていないからだ。
何かのビデオで見たから、知識として知っているだけ。
そのビデオが、おかしかった。
『この戦車、牛が引くんです』
さも驚いたように、そんな言葉が乗っかっていた。
きっとその時代には、牛がまだメジャーな生き物で。どこに行ってもいたから、牛になったのだろう。
『酪農』という言葉がまだマイナーで、もちろん、トラクターなんてものがなかった時代。
人間が動くよりも、はるかに強い力を持った、貴重な労働力だったのだろう。
つまり、ミルクも、牛肉も、チーズも。
食料ではなかったから、牛という穏やかな生き物が、身近だったから、戦場で用途を見出されたんだ。
少し考えればわかるのに。
今はどうだろう。
安神車は、もちろん僕の目の前で動いてはいない。
その代わりに。
もっと、ごついものが動いている。