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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第五章 戦争の序曲と交錯する各国
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第94話 新たな問題(2)



「・・・どうした、レオンハルト」

突然立ち上がったレオンハルトに、国王が不審げな顔でそう投げかけた。


すると皆が一斉にレオンハルトを見る。

あたりはシーンと静まり返った。


(・・・な、なんで静かになるのっ。ど、どうしよう・・・。緊張して体が震えるっ・・・!)


レオンハルトはぎゅっと手を握りしめた。

この会議にはロベールは参加していない。

助け舟を出してくれる人物はいない。


(でも、頑張らなきゃ。頑張れ、僕)



意を決してそれを口にした。


「僕が、行きます」



すると。


ざわざわざわ


会議場がざわつき始めた。



(・・・)

嫌な、ざわつき方だ。


僕が行くことが、ふさわしくないと、そういう事なのだろうか。



(――――ああ、やめて。そのザワザワを()めて)

レオンハルトは思わずギュッと目をつぶり下を向く。


(今すぐにでもここから逃げ出したい)



すると。



「本当に行きたいのか、レオンハルト」


レオンハルトは、その声にはっと顔を上げた。

そう言ったのは、長兄フィリップだった。


フィリップを見ると、真剣な面持ちでこちらを見ていた。

「・・・うん、行きたい」

しっかりと、フィリップの目を見た。

視線が合うと、彼は黙ってうなづいた。


フィリップが国王へ向き直る。

「国王。レオンハルトもそう言っていますし、今回は彼に譲ります。私は行きません」


「なに!?」

思わずガタっと椅子を鳴らす。


「勿論、私が行った方が箔がつくというのは先ほど私が言いましたが、今回それは仕方ありません。私はレオンハルトの意見を尊重したい」


国王の表情が青ざめていくのがわかった。

「それは駄目だ・・・!レオンハルトは・・・!」


(・・・どうして?どうして僕は駄目なの?)

またズキリ、と胸が痛む。

そんなに僕は頼りない?



フィリップはお構いなしに話す。

「それとも、レオンハルトは王宮にいて『フォルスネームの儀』でも執り行いますか?」


「なっ――――!」


ざわり


またざわついた。


辺りから声が聞こえてくる。


「そうか、もう成人か」

「まだやっていなかったのか」などなど。



国王はぐっと詰まる。


そんな国王を見かね、執事長が助け舟を出した。

「『フォルスネームの儀』は後程(のちほど)行う予定なのです。今はその話は関係ない。国王、めんどうな話になってきましたので、アレクシス王子かギルベイル王子になさっては?」


その提案にも国王は難色を示す。

「う、ううむ・・・」



するとギルベイルが座ったまま声を投げかける。

「僕は行きませんよ」


「ギルベイル王子・・・!」

執事長がいさめるようその名を呼んだ。


ギルベイルは続ける。

「行きたい奴にやらせればいい。王子なら誰でもいいんでしょう?もしも不安なのであれば、こっそり尾行で特務部隊員でも騎士団員でも一人つければいいと思います。やらせてみては?」


「ギルベイル兄さん・・・」


執事長がまたもギルベイル、と言い出そうとするのを、国王が制した。

「―――わかった。皆がそこまで言うなら、レオンハルトを行かせよう」



「父さん!!」

レオンハルトは顔を輝かせた。

そして、少々不謹慎だというのに気づき、落ち着かせた。

そしてはっと気づき、

「こ、国王、ありがとうございます!」

と頭を垂れた。


国王は、それに見向きもせず、難しい顔をしてただ黙っていた。



会議はそれで終了した。




・・・会議場は、まだざわついていた。






****



「兄さんたち、ありがとう」

会議終了後、すぐさま立ち話をしているフィリップとギルベイルの元へ駆け寄った。

アレクシスだけは座っていて、不満げな様子で頬杖をついてそっぽを向いている。


フィリップは穏やかな笑顔でレオンハルトを見た。

「あまり大勢の前で意見を言わないお前が、はっきりと意見を伝えたんだ。これほど嬉しい事はないよ」


「・・・嬉しい?」

レオンハルトがきょとんとしていると、座っているアレクシスがはん!と鼻を鳴らした。

「ふっ、それじゃあまるでレオンハルトの保護者じゃないか。あまり甘やかすのもほどほどにしないと」


ギルベイルは立ったまま冷ややかな眼差しを兄へ向ける。

「アレクシス兄さん、たまには弟の意見も尊重してやれよ。兄さんが行けなくてふてくされてるのか?」


「ふっ、この僕が?僕はドレアークには行かない。この国を守るのが役目なんでね」

そう言って席を立ち行ってしまった。


ギルベイルは両の掌を上にかざし、やれやれと肩をすくめた。











****



会議終了数時間後。


レオンハルトは国王たちに呼ばれた。



「そうと決まれば、レオンハルト王子には、重装備をしていただきます」

国王の執務室に入るやいなや、執事長にそう言われた。


「じゅ、重装備?」


レオンハルトが驚くと、ジロリと執事長に睨まれた。


(ひっ!)

久々の眼力に身がすくむ。


隣にいたロベールがレオンハルトの耳に手を持っていき、ひそひそと話す。

「お前がドレアークへ行くと言った事を、執事長はまだ根に持っているんだよ」

「な、なるほど・・・」

(国王も僕が行く事に反対だったけど、執事長もか・・・)



しかし既に行く準備は着々と進んでいるようだった。

(すぐにでも軍備強化をしたいってことか・・・)

レオンハルトは内心ため息を付く。


国王の執務室は、けっして広い方では無いが、床のあちこちに武器やら防具やらが置かれ、それを従者たちが手に取り、次から次へとレオンハルトに試着させていく。

勿論、ロベールもその仕事をしていた。


執事長が従者に色々と指図しながら、レオンハルトの方を見る。

「あなたは魔法が使えません。ですので、もしも敵が現れた時の対処の方法となれば、携行する武器のみ」

「そ、そうなりますね・・・」

(て、敵・・・)

そう面と向かって言われると、レオンハルトは怖くなってくる。

もしも敵が攻撃してきたら――――?

たとえばシュヴァルツや、オーウェンのような立ち回りができるのか?

答えは否、だ。

実践でも防御魔法しか使った事がないのに、攻撃せずに防御魔法のみで果たして助かる事ができるのか――――?


レオンハルトがもんもんと考えを巡らせていると、ロベールが口添えをした。

「でも、魔法がだんだん使えるようになってきたんだよな?王子」

(え!)

今そんな事言わなくても!

だから、僕の魔法なんて頼りにならないんだからあ~!


執事長がそれを聞いてチラリ、とレオンハルトを見る。

「そうですか・・・。しかし、本当に危険なんですよ?どこかへ遠出する時、今までは何人もの護衛がついていたでしょう?それが、全く無いのですよ?本当にできるのですか?あなたに」


レオンハルトは思わずぐっと詰まる。

「お、脅さないでよ」


むっとする執事長。

「脅しではありません。―――国王、あなたも何か言ったらどうですか?」

そう、奥で自身の椅子に座っている国王へ投げかけた。


「う、うむ・・・」

国王は相変わらず難しい顔をしていた。

だが、そう短く答えただけで何もしゃべらない。


何か考え込んでいるようだが、はっと気づきレオンハルトの方へ近寄る。

「・・・護身用の魔石は大丈夫だろうな」


「!」

それを言われドキっと心臓が高鳴った。


「う、うん。ばっちりだよ」


「そうか」

何も疑われずに済んだようで、レオンハルトはホッとした。

(良かった。実物を見せればきっと怒られる)


だが、ほっとしたのも束の間、国王は付足した。

「万が一敵に襲われるような事があっても、お前は魔法を発動するな」


「へ?」


ロベールが眉根をピクリとさせる。

「どういうことです?」

レオンハルトの考えていた疑問を口にした。


ロベールを一瞥するとため息を付いた。

「心配するな。無抵抗でいろ、という意味ではない」


そして国王は声をひそめた。

「・・・ドレアーク王国には内密で、一人護衛をつける」

「え・・・」

レオンハルトとロベールは驚いた。


「ちょうど特務部隊の任務で数名ドレアークに滞在しているだろう?その護衛の者には、お前がドレアーク国王と対面している最中は、特務部隊の待機場所で待ってもらう」


「な!?」

「そんなの、バレたらどうするんですか!」


「大丈夫だ。奴はそういった事に慣れている」

「でも・・・」

レオンハルトが不安がっている隣で、ロベールが冷静に訊く。

「その人物は誰ですか、それも内密ですか?」


国王はすぐさま答えた。

「いや・・・大丈夫だ。その人物はガレスだ」

「!!」


レオンハルトは驚いているが、その名を聞いてロベールはほっとした。

年の割に落ち着いていて、冷静に物事を運ぶことができるだろう。

それは信頼に値する。しかし・・・。


「彼は特務部隊の中でも、隊長と同じように公の場にも参加していて、顔がバレています」

国王は頷く。

「うむ。バレないようにするのだよ。それが特務部隊というもの」

「そんなもんですか、大丈夫ですかねえ・・・」

ロベールは小さくため息を吐いた。



装備の準備が終わり、レオンハルトとロベールは自室へ向かった。


自室へ歩きながら、ロベールが先ほど帰り際に執事長から言われた事を反芻した。

「出立は明朝。同行するのはドレアーク王国駐在員二名。山越えがあるので時間はかかるが、何事もなければドレアークには夜明け前には着く、か・・・」


ロベールは今日何度目かのため息を吐いた。

「まったく、お前がドレアークへ行きたいと言わなければこんなことには・・・」

レオンハルトはムッとする。

「でも、誰かしら行くことにはなったでしょ、四人の王子の中でさ」

「そうだけど・・・、お前が一番頼りないだろ」

「ロベール!!」

「いいか、執事長じゃないけど、本当に危険な事なんだ。気をつけろよ。いつもの護衛も僕もいない。しかもドレアークまでは遠い。山越えまである。後ろにガレスが待機しているとはいえ・・・」


「大丈夫だよ!!」

むきになって大声を出した。


ロベールは

「しかし何故そこまでドレアークに・・・」

「・・・」

デルフィーヌさんの事は母との秘密だから、ロベールにも言えない。





****




翌日、早朝。


レオンハルトは数名の見送りとともに、王城の入り口立っていた。

「お、重い・・・」


重装備だとはわかっていたが、今までで一番の重量な気がする。

装備をつけた部屋から、この王城の入り口まで、馬を引き歩いて来たが、もう疲れた。

「これで馬に乗れるの・・・?」



それでも、

「重量を減らす魔石を埋め込んであります。それほど重さは感じないと思われます」

と、装備担当の者から言われた。


「いやいや、結構な重さですよ・・・?」

それとも、この重さが当たり前なのか?


ボソボソと独り言を言っていると、国王が近づいてきた。

めずらしく、見送りしてくれるらしい。


「気を付けて行って来いよ」

「う、うん!」


国王は少し間を置いてから眉根を寄せて言った。

「お前が自分で行くと言ったんだから、最後まで仕事を全うし、必ず無事に帰ってこい」

「――――父さん・・・」

レオンハルトは言葉につまった。

父がどんな思いでそう言ったのかわからないが、

はじめて優しい言葉をかけられたような、そんな気持ちになった。

(な、泣きそう・・・)



「ありがとう。必ず任務を成功させるよ」

(――――そうだ。ヴァンダルベルク王国との同盟の任務を果たせなかったのだから)

これはリベンジだ。




「レオンハルト・・・っ」

レオンハルトの母が、王宮の方から駆け寄ってきた。

「母さんも、来てくれたんだ・・・」


そしてそのままレオンハルトをギュッと抱きしめた。

「―――母さん・・・」


母は、涙を流していた。

「本当は私は行く事に反対なのよ・・・?」

「うん、わかってる」

「・・・長い旅だから、さみしくなるわ」

「大丈夫だよ。ドレアークに行って帰ってくるだけなんだから。すぐだよ」

「ええそうね。じゃあこれを持って行きなさい」


そう言って、何かを手渡した。

布で作られた母の手作りの小さな長方形のもの。

「これはお守りよ」

「ありがとう」

(どんな装備よりも強いもののように感じた)

それを大事そうにしまった。




ロベールが遠くを見ながら言った。

「ドレアークの駐在員も来たぞ」


皆が一斉にそちらを向いた。

向こうから、馬に乗った人物が二名やってくる。




出立の時間だ。




「気を付けて行ってこいよ」

そう短く、ロベールが言った。




「うん。行ってきます」











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