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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第五章 戦争の序曲と交錯する各国
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第93話 新たな問題(1)




四十年ほど前のドレアーク王国は、プラネイア大陸の小国であった。


しかし、野心の強い国王ガイゼル=デ=ドレアーク二世の政策により、次々と周辺の小国を征服し自国の領土を拡大していった。


そしてある程度国が大きくなると、次は城を大きくし、併合した国々の領土を開発する為、金が必要になり、その為富のある者を重用しはじめた。

それが内乱の要因となり国が二分してしまったが、今現在、戦争は終結し、再び国はひとつになったのだ。




「・・・」


ドレアーク王国の現国王であるダンテウス=デ=ドレアーク三世の執務室。




ダンテウスは椅子に腰かけ机にひじを乗せ手を組み、それをあごに乗せ、ゆったりと過去の回想にふけっていた。


(父の事は勿論子供の頃から尊敬していた)


(自分自身、彼のようにどんどん戦争をしかけ国を大きくしていく器量は無いと思っている)


それでも。

父が大きくしたこの国を守るため。


(もっと強くするのだ、国を)


どこからも侵略されない強い国家を。



真っ直ぐギロリ、と誰もいない空間を睨んだ。





すると。



コンコン


執務室の扉が叩かれた。



「入れ」

即座にダンテウスは姿勢を正した。



「失礼します」


入ってきたのは総司令官のエルネスト=フェレイロ。


国王の右腕である彼は、戦術眼が優れており父の代から軍に所属しているが、現国王になってからその手腕にいっそう磨きがかかってきた。


(あの時、幹部も交代させた事が、功を奏したな)

ダンテウスはそうほくそ笑む。


国王の交代の時、幹部も父の代の老齢の幹部から若い幹部へと、ほとんどを一新させた。

そしてその時に、老齢であった総司令官も、若いエルネストへと変えたのだ。

勿論現在は年齢を重ね、その時の老齢な幹部たちとそれほど年齢が変わりなくなってしまったが、それでもまだ彼らは、この国に新しい風を吹き込み続けているのだ。


アラザスを討ち破り、魔法研究所を大きくし、より強い国へと前進していく。




その総司令官が厳しい顔で国王の目の前に立つ。


「国王。そろそろ、アラザスの捕虜を処罰する日を決めねばなりません」


すると国王は、自身の予定と照らし合わせ考えをめぐらせる。

そしてうなづいた。

「うむ。そうだな。――――では、明日の午後にでも執り行おう」


「明日ですね。了解しました」


総司令官は様々な書類を国王の机に置いた。

主に雑務だが、国王はそれを手に取り目を落としていく。

目を落としながら口をひらく。


「アラザスの元領地の後始末は進んでいるか?」


「は。後始末は終わり、整備に取り掛かっていますが・・・」

少し顔にかげを落とす。


それに気づき国王が問う。

「どうした」


エルネストは窓を見やった。

「この雨ですので、現場の仕事に支障をきたす部分はあります」


それを聞き、国王は黒みがかった紺色の髪と同じ―――多少白いものが混じるが―――口髭を携えたあごを撫でさすりながら窓を睨んだ。


外は雨雲が立ち込めどんよりとしていて、昼間なのに薄暗い。


「雨か・・・、ずっと降り続いているからな。それならば仕方あるまい」


ふと、ダンテウスは気づく。

「――――ちょっと待て」

「はい?」


「捕虜の処罰は、三日後あたりにしよう」


エルネストが訝しむ。

「三日後、ですか」


国王が椅子の上でふんぞり返った。

「王城の死刑場で、すべての国王軍を集合させ大々的に執り行うのだ。こうも雨が降り、天気が悪いならば士気も下がるだろう」


(・・・)

どういう理屈だ、とエルネストは心の中で悪態を付いた。

「わかりました。では、三日後に」

(まあ、明日も三日後もそんなに変わらない。よしとしよう)

特に異論は口にせず、エルネストはその変更を了承した。



そして彼は自身の手に持っている書類に目を落としながら、難しい顔をする。

「それと・・・、レガリア国ですが・・・」


「レガリアがどうした?」

ダンテウスが姿勢を正す。


「以前から言っておりますが、同盟の強化やレガリアに軍備を増やしてほしいだのとしつこく言われています、どうしますか。幹部たちは同盟強化を書面だけで済ませ、軍備などの物資はまだ早いのではと」



ダンテウスが腕組みをした。

「ふむ・・・、そうだな・・・。しかし・・・同盟国だからな、むげにはできんだろう・・・」

少し考える。


そして、ニヤリと右の口角を上げた。

「わかった。では、その取り決め案を我が国で考え書類にまとめるので、それを取りに来させよう」


「・・・?」

エルネストは国王の意図するところがわからない様子だ。


「来るのは王子一人だけだ。レガリア国は第四王子までいるのだろう?どの王子が来ても構わん。両国のの国王を交えての話し合いは、レガリア国がその内容を確認し了承してからだ」


「―――ああ、そういう事ですか」

エルネストもそこで合点がいったようだ。


ダンテウスが笑みを浮かべる。

「勿論、レガリアに駐在している勅使一人を随行していいが、レガリアからの派遣は王子一人だけ。従者は無しだ」


「・・・彼らの、我が国に対する信頼度を見極める為ですね?」


ダンテウスが満足そうにうなずく。

「我が国への忠義だ。こちらが下に見られては困る。同盟関係があるとはいえ、我が国を侮ってもらっては困るからな」


「では、そのように伝えます」

一礼し、エルネストは退室した。







****





「あ~あ、僕も任務に行きたかったなあ~」


レオンハルトとロベールは、王立訓練場へと向かっていた。


その道中、レオンハルトが不満を口にする。

ジロリとロベールが睨んだ。

「馬鹿な事を言うな」


そして一拍置いて、早口でロベールがまくしたてた。

「―――いいか、お前の今日の日程だ。まず午前中は武術剣術訓練、その後王族とはなんたるかを学ぶ帝王学。午後は魔法の勉強に歴史、経済学・・・」


「ちょ、ちょっと待って!そ、そんなに!?」

焦ったレオンハルトは思わずそれを途中で遮る。

(あ、頭が痛い・・・)


ロベールふんと鼻を鳴らす・

「クリスに好き勝手言われたくないだろう?」


「――――へ?」


「だったらそれを証明するのが手っ取り早いだろ」


ロベールは、先ほどの特務部隊でのクリスとのやり取りの事を言っているのだ。


「う。そ、それは・・・」



わかったよ!やればいいんでしょ!と、投げやりになったレオンハルトの大声が廊下中に響いた。






****




もう少しで訓練場に着こうとした時。



若い執事に呼び止められた。

屋敷中を探したのだろう、少し息が上がっていた。


「王妃様が、王子をお呼びです」


「母さんが・・・?」

(なんだろう、めずらしいな。―――あ!もしかして魔石ペンダントの事かな!?)



ロベールは訓練場の方を見て途方に暮れる。

「もう訓練場は目の前なんだが・・・。母君となれば仕方ない。行ってやれ」


「うん。ごめんね!担当官にも謝っておいて!」


「ああ。訓練の担当者には悪いが、予定を変更させる。終わり次第、訓練だからな!逃げるなよ!」

そう釘をさした。


「もうっ、わかってるよ!」


そう言ってその場を後にした。





****




「ごめんなさいね、予定があったでしょうに・・・」


「大丈夫だよ」


王妃であるカレンの自室。

母は非常に申し訳なさそうな表情かおをして立っていた。



「急用なのよ。本当に申し訳ないわ・・・」



「大丈夫だって、母さん、座ってよ」

母をソファに座らせると、レオンハルトも向かい側のソファに腰かけた。


「急用って何?」

ゆったりと座りながらそう訊いた。


面と向かって見ると、心なしか、母の顔色が悪いような気がした。

「それがね・・・。デルフィーヌの事なのよ」


「デルフィーヌさん!?」

レオンハルトは思わず大声で言ってしまい、口を押える。


魔石に関しては他言してはいけない事になっているが、その魔石を修理するデルフィーヌとの関係も、他には知られてはいけないのだ。


「デルフィーヌさんが、どうしたの?」

レオンハルトは何か悪い予感がした。


「これよ」


「?」


母はおもむろに一枚の紙切れを出してきた。

レオンハルトはそれを受け取る。


「これは・・・」

何の変哲も無い羊皮紙に、綺麗な文字で何か書かれている。



「彼女からの手紙なの」


「手紙?」


レオンハルトはその手紙を読んでみた。

「何々・・・『ドレアーク王国の魔法研究所で働いている為、今は修理できません』・・・え。ええッ!?」

思わず大きな声が出る。



「だから、あなたの魔石は修理できないわ・・・」


「そ、それはいいけど・・・でも・・・」


「よくないわ!」

めずらしく母が声を荒げた。


「母さん・・・?」

驚いて母を見ると、綺麗な栗色の前髪を無造作にかき上げ、苛立っているようにも見えた。


「ダメよ。修理して、完璧なものにしなくちゃ・・・」


レオンハルトは手紙を見ながら首をひねる。

どんなに穴が開くほど見ようとも、その内容しか書かれていない。

「うーん、なんとかならないのかあ?魔石を渡すだけでもできないのかなあ?」


母が首を横に振る。

「わからないわ。その手紙にはそれしか書かれていないの。方法なら、色々ありそうなのに・・・」


「ところでデルフィーヌさんって、なんで魔法研究所にいるの?」


しかも、よりによって、特務部隊で潜入捜査をする、あの変な噂のある魔法研究所だ。

一気に不安になってきた。


「彼女は魔法や魔石に関しては詳しいから、ドレアークからお呼びがかかったのかしら。だって、彼女はドレアークの人間ではなく、今はウィスタリアに居を持っているもの」


レオンハルトはある考えに行きついて体をこわばらせた。

「―――ま、まさか、ドレアークの人間によって無理やり連れて行かれたとか!?」


「あり得ないわ!まさか、そんな・・・、でも・・・」

母も否定はしたものの、もしかしたらと考える。



それもそのはず。

ウィスタリア公国は、ドレアーク王国に非常に従順な国なのである。


「優秀な彼女の事を、どこかでドレアークが嗅ぎつけて、連れて行った可能性もあるわね」


ドレアークの属国のような国であるウィスタリアにいる以上、黙って従うしかない。もしかしたら、断ったが無理やり連れて行かされた可能性もある。



レオンハルトは青ざめた顔で母を見る。

「どうしよう・・・」


母は気を取り戻して、気丈に答える。

レオンハルトの隣に座り、彼の髪を優しく撫でる。

「大丈夫よ。きっとすぐにウィスタリアに戻るわ」


「母さん・・・」



「今はペンダントを治してもらえないのも困るけど、万が一、しばらくしても戻って来なかったら、国王にも伝えるわ」


「う、うん・・・」


母は不安になっているレオンハルトを見つめニコリと微笑む。


「私の大切な友人は優秀だもの。大丈夫よ」


「・・・」


「だから、あなたはその魔石をこれ以上壊さないように、気をつけなさい」


「は、はい・・・」



しかし不安は拭い去れない。

レオンハルトはふと思いつく。


「僕、ドレアークに行ってこようかな」


「え!?」


「デルフィーヌさんと会って話しがしたい。もしも無理やり連れてこられたのなら助けなきゃ」


母が即座にかぶりを振る。

「ダメよ。危険すぎるわ」


「でも・・・」





その時。


コンコン


誰かが扉を叩いた。

外から声がした。

「すいません。お話しの途中だと思うのですが・・・、急きょ会議がありまして・・・」

先ほど母からの用事を伝えにきた若い執事だ。


「もうはじまっていますので、なるべく、大至急」

「はいはい!わかりました、今行きます!」

(も~なんなんだよ~)

大事な話だったのに~。



「レオンハルト。ダメよ、それは。あなたは王子なのよ?」


後ろから母にそう言われ、振り返る。


「でも、会うだけだから。それに、特務部隊もちょうどドレアークに行くし」

こっそりそれに便乗すれば、もしかしたら行けなくもない。


そんな事を考えながら会議場へ向かった。






****



ドレアークからの一報は、その日のうちに届いた。


早速、国王と幹部たちは会議場で話し合いの場を設けた。




「王子を一人寄こせだと!?」


怒気を含んだ大声が会議場に響いた。



「いつもはドレアークの駐在員や外務関係がやっている事なのに!」


「ドレアークめ、一体何を考えているんだ・・・!」


皆が次々に不満を口にする。



「まあ、落ち着け」

それを制したのは、最奥に座するレガリア国王だ。


静かになり、皆が一様に国王を見る。



「やっとドレアークの重い腰を上げさせたのだ。約束を取り付けただけいいではないか」

国王だけはゆったりと構えていた。


「しかし・・・、王子だけでの単独行動など、何が起こるか・・・」

幹部は不安を口にする。


「ドレアークの駐在員も一緒だ」


幹部は首を横に振る。

「頼りになりませぬ!せめて、従者一人だけでも随行できませぬか・・・!」

そう懇願する。


「それではドレアークの機嫌を損ね、今回の事が破棄されてしまう」


「ではいっその事、その約束事を無しにしてはどうですか?」

国王に強気の発言をするのは、昔からいる老齢な家臣だ。


「なにも、無理やり軍備増強をドレアークへ求めなくとも、我らだけでやっていけます」


「ううむ・・・」

彼のような古参の者に言われると、さすがの国王も苦渋の表情になる。

確かに、ドレアークの言い分は不利だ。

王子を、まるで人質にするようなものだ。

王子といえど、自分の子供。

(さて、どうする)


国王が、口を開こうとしたその時。



「私が、行きます」

末席にいた第一王子であるフィリップが、そう口にした。


一斉にそちらを見る。



「に、兄さん・・・」

隣に座っていた第二王子のアレクシスが驚いて兄を見た。



「フィリップ」

国王は少し厳しい口調でその名を呼び、いさめた。



フィリップはそれに動揺もせず、続ける。

「私なら大丈夫です。心配に及びません」


すると先ほどの老齢な幹部が投げかける。

「何が大丈夫ですか。道中は危険なのですぞ。どこぞの賊や他国の者が狙っているやもしれぬのです。しかもあなたは第一王子。一番の後継ぎにございますよ」


フィリップはそれを微笑んで返した。

「勿論危険は承知しております。しかし、地を行けば危険な場所がたくさんあるが、飛行魔法で空を飛べば、より狙われる確率は低くなる。それに、第一王子が行った方が、箔がつくのでは?」


その言葉に幹部がたじろぐ。

「む・・・、た、たしかにそうですが・・・」


フィリップは国王に向き直り、首を垂れる。

「国王。どうか、私にその任を務めさせてください」



「ううむ・・・」


またしても国王は口を閉ざしてしまった。






するとそこへ。


「失礼しまーす」


レオンハルトが何も知らずに入って来た。



圧倒的にヒヤリとした冷たい目線で見られ、レオンハルトは身がすくんだ。

入口近くの椅子にこそこそと座り、身を縮こませていると、ちょうどギルベイルの隣になったため、彼からこの会議の趣旨を聞いた。


(ドレアークへ!?)

レオンハルトは一瞬で、ぱあっと顔を輝かせた。


(い、いや、不謹慎だよな)

事は一大事なのに。


チラリとフィリップを見る。

(フィリップ兄さんが申し出たのか・・・)

それならもう決まりではないか。

(・・・)

国王たちはまだ迷っているのか、難しい顔をしている。

(でも、兄さんが行くより、僕が行った方が皆安心するんじゃないの?)

もしも道中、兄さんが危険な目に遭ったら・・・。

ドレアークからは、ただ書類を持って帰ればいいんだから。



レオンハルトは、おもむろに立ち上がった。







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