表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第四章 それぞれの思惑とマギアスファウンテン
91/95

第91話 レガリア国王宮にて(3)




「こ、ここここれは・・・!」


ベッドの横に立てかけられた剣を手に取り、レオンハルトは茫然とした。


――――これは確かにユリウスさんの剣だ。



あの時。


アラザスの戦争で、ラドバウト公に渡してほしいと手渡された剣。





それに・・・。


「『命を狙われている』って言ってなかった・・・?」


寝ぼけていたのか、姿はぼんやりとしかわからなかったが、彼の声がそう言っていた。



「・・・」


レオンハルトは苦渋の顔になった。


これは罰だ。


自分の事だけでいっぱいで、シュヴァルツの事などこれっぽっちも考えてなかった。



彼をないがしろにしていた罰なのだ。




「ごめん、シュヴァルツ・・・」


涙が溢れてくる。

立てかけてあった剣の柄を、ギュッと握りしめた。




少し明るくなってきた部屋の中、レオンハルトはその剣をジッと見つめながら考えた。



(なぜ、僕に預けたのか)


今すぐ彼のところに飛んで行って問い詰めたい。

こんな大事なもの、勝手に渡して勝手に消えて。

早く、どうにかしてこの剣を返さなければ。一方的に、しかも、僕が寝ぼけているところに渡すなんて。

どうかしてる。


「・・・」


それとも、それほど切羽詰まっているのだろうか。



―――――会いたい。



自分がマギアスファウンテンに行っていた間、彼の身に何が起きたのか。

彼の身の心配などしていなかった自分が、悔しくてならない。



「瞬間移動、僕も使えたらいいのに」

そうすれば、すぐにでも会える。


すぐに苦笑してかぶりを振った。

(魔法が上手く使えない僕に、瞬間移動を使える確率など―――ゼロに等しい)




考えてもしょうがない。

(僕の頭で考えたって何も良い案は浮かばない)

時間が無駄に過ぎるばかりだ。


「そうだ・・・ロベール・・・」

ユリウスとラドバウトの剣を預かっている事情を知っているロベールに相談しよう。

剣を手近な布でぐるぐる巻きにして見えないようにし両手で抱え、自室を後にした。





「ロベール・・・」


誰にも見つからないようこそこそと移動し、ロベールの部屋を訪れた。

部屋の主が扉を開く。


すると、驚いた顔がそこにあった。

「レオンハルト・・・。めずらしく早いな」


そしてすぐさま眉根を寄せた。

「―――まさか、また何かよからぬ事をしようと・・・」


「無いよ!しないよ!そんなの!」

レオンハルトはすぐに否定した。


そしてむっとして唇を尖らせる。

「大体ロベールの方がよからぬ事をしようと・・・むぐぐ」


ロベールに口を押えられ、部屋へ無理やり入れられた。

「ほら、早く入れ」



(むううう!)

レオンハルトはムッとしながらドカッと椅子に座った。


ロベールは腕組みをして机に寄りかかり、レオンハルトを見る。

「で、僕に何か用事があるんだろう?」


「うん」

レオンハルトは両手に抱えた剣を覆い隠す布を取った。



「これは――――――・・・」


ロベールは驚愕の表情になった。

剣をレオンハルトから受け取り、まじまじと眺める。


「確かに、アラザスの紋章が入っているな。これが本物ならば、事は重大だ」

そしてすぐさま顔を上げ、剣をレオンハルトに戻した。

「これは誰にもバレない所にしまっておけ」

「う、うん・・・」



「シュヴァルツ国王は本当に『命を狙われている』と言っていたのか?」

「僕、寝ぼけてて、確かかどうかはわからないけど・・・」


するとロベールが少し考え、下を向きふーっと盛大にため息を吐いた。

「・・・まあ、国王である身だから、常に国の転覆とか、王の座を狙っている者など、色んな可能性は考えられる・・・」

そしてチラリとレオンハルトに目を移す。

「事実、前国王も、暗殺されたんだ」


「―――――・・・」


レオンハルトは言葉を失う。



(そうだ)


シュヴァルツのお父さんが。


それは紛れもない事実だ。


(だとしたら、シュヴァルツだって)




ロベールが、茫然としているレオンハルトの肩にポンと手を置いた。


「特務部隊に行こう。行ってメイベリー隊長にそれとなく聞こう。シュヴァルツ国王の、現在の状況を」

「うん」

「それに・・・。特務部隊の新たな任務があるみたいだ。今日はその任務の内容を確認するため特務部隊に集合する」


「そうなんだ」

(新しい任務・・・)

少し緊張してきたレオンハルトをロベールが横目で見る。


「・・・まあ、お前の出番は無いがな」

「え?」







****





レオンハルトとロベールは、集合時間よりも少し早く特務部隊に来た。


特務部隊の扉を開けると、そこには隊長のメイベリーだけがいた。

やはり早いのか、他はまだ誰も来ていない。



「メイベリー隊長」


ロベールが声をかけた。


「あ、ああ、これはロベール殿。おはようございます」

マギアスファウンテンの件があってか、隊長は少しギクシャクした挨拶をした。


おかまいなしにロベールが切り出した。

「ヴァンダルベルク王国の事で聞きたい事があるのですが・・・」


意外な話に、メイベリーはキョトンとした。

「ええ、なんでしょう」


「最近何か、変わった事はないでしょうか?」



「変わったといえば、特務部隊で調べたところによると、ドレアークとアラザスの戦争が終わってから、ヴァンダルベルクの戦力がまた徐々に減って行っているという事でしょうかね」


「そんな・・・」

レオンハルトは愕然とした。


ロベールが冷静な顔で続けて聞く。

「シュヴァルツ国王に関しては」


「?彼に関しては、特に・・・」


「そうですか」


メイベリーが少し言いにくそうに、レオンハルトをチラリと見ながら付け加えた。

「しかし、国王就任式での事もあります。常に危険に晒されているのではないでしょうか・・・」


「ああ、やっぱりそうなんですね・・・」

レオンハルトもあの時の事を、直接目撃したのでまだ鮮明に覚えている。


(やっぱり、寝ぼけた中でシュヴァルツが言っていた『命をねらわれている』は本当だったのか・・・)


あの就任式で襲撃してきた者たちは誰だったのか。


ロベールも同じ事を考えていたようで、

「結局、そいつらが誰かは判明していないのですね」

そうメイベリーに聞いた。


メイベリーは頷く。

「ええ。国王の能力を知っていて、それを危険視している者たちによるもの、というのが妥当だとは思いますが・・・。それと、『古代魔法』と言っていたそうですね。だからやはり、彼の能力が目的か・・・」


「・・・」


三人で難しい顔をして黙ると、



「皆さん。早いですね」

そう言って副隊長のガレスが入ってきた。




「では、これで」

さりげなくロベールはそう言い、メイベリーから離れ、長テーブルのある椅子に座った。



それからはぞくぞくと人が集まったてきた。


クリスとサミュエルも入ってきた。


するとクリスが、つかつかと早足でメイベリーの前に来た。


「クリス、どうしました」

メイベリーが不思議そうに聞く。

クリスの表情は、いつになく厳しかった。



「オーウェンは本当に辞めたんですか」


「・・・」

メイベリーは驚く。


「俺は、まだ納得いかなくて。この前の任務だって、普通にこなしてて」


サミュエルも納得していないようだ。

「休みの間、何かあったのですか?僕たちは彼とまだ仕事がしたかった。辞める前に言ってくれないなんて・・・」


(サミュエル・・・)


彼はオーウェンとよく話をしていた。

(オーウェンは『友達はいない』と言っていたが、サミュエルだって、クリスだって、君を必要としてたんだよ、オーウェン・・・)

(こんなに、思われていたんだ)


サミュエルは悲しい顔をして言う。

「それなのに、なぜ、急に」



思わずレオンハルトはメイベリーの代わりに話したい衝動にかられ、席を立つ。

「―――・・・っ」

ロベールがレオンハルトの服の裾をつかみ、無言でそれを制した。


メイベリーは小さくため息を吐く。

「前から辞めたいという打診がありました。だから、急という事はありません。皆さんに言えなかったのは、彼がそれを口止めしていたから。彼にも、彼なりの事情があるのです」


「その事情って――――・・・!」

メイベリーに詰め寄るクリス。


すると。


「やめろ、クリス」



「ガレス、副隊長・・・」


メイベリーの隣にいたガレスが、それを制した。

クリスはその声に狼狽える。


ガレスが続ける。

「もう終わった事だ。彼は彼なりの事情があって辞めた。特務部隊に入った事のある者は、たとえ一国民になろうと、詮索してはならない」


「・・・っ」

ガレスに言われ、クリスは悔しそうな顔で引き下がった。



(・・・)

その光景を目の当たりにし、レオンハルトは涙が出そうになるのを堪えた。


特務部隊で必要とされていたオーウェン。

それを知らずに、去って行ってしまうのか。





メイベリーは、いつもの柔和な笑顔に戻り、自身の机に向かった。

「この話は終わりです。さあ、みなさん、新しい任務の趣旨を説明します」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ