表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第四章 それぞれの思惑とマギアスファウンテン
90/95

第90話 レガリア国王宮にて(2)




コルセナ王国、とある場所――――――。




雨が先ほどよりも強くなってきた。

そのせいか、夕刻なのに真っ暗だ。

雨戸がガタガタと音を立てる。




(雨か・・・、密談をするには好都合だ)

男は窓から目をそらし、せまく薄暗い部屋の中にいる()()に向き直った。

(・・・本来なら、コルセナでもヴァンダルベルクでも無い場所での方がいいが、仕方ない。ここは誰にも見つからないだろう・・・)


暗い夜の中、部屋は魔石ランプ一つの灯りだけ。

その数名は、魔石ランプが置かれた小さい机を囲むように座っている。



男が声をひそめて言う。


「じゃあ早速、話し合おうではないか―――――」









****





レオンハルトはロベールを探しはじめた。



(ロベールと話がしたい)

今の率直な思いだ。


自分から無視をしておいて、都合が良すぎるが、でもあのロベールが自分から離れるなど、考えてもみなかった。

何を話すかは考えていないが、とにかく、彼と話がしたかった。





ロベールの自室を訪ねたがいなかった。

「・・・仕事かな」


(そういえば、父さんが『フィリップの従者と交代した』と言ってたな)



「フィリップ兄さんの所に行ってみよう」






第一王子であるフィリップの部屋の前。



(・・・)

フィリップの部屋を訪れるのは、母の部屋を訪れる回数より少ない。

久々の訪問に、レオンハルトは少しドキドキしながら扉をノックした。


「はい、どうぞ」


中からフィリップの声がした。


「兄さん」


「ああロベール、めずらしいな。どうした?」

机に座り、何やら書き物をしている彼が顔を上げ、穏やかな笑みをレオンハルトへ向けた。



三人の兄の中でも一番優しい兄。

でも、一番忙しく、なかなか会えない人でもある。

「・・・兄さん、今、忙しいでしょ?なんなら後に・・・」

思わずそう投げかける。


するとフィリップがキョトンとした表情でレオンハルトを見る。

「ん?別に構わないよ。今は仕事中ではないからな」

「そ、そう・・・」

ほら、座って、と促され、レオンハルトは申し訳なさそうに二人掛け用の革張りのソファに座る。


レオンハルトは落ち着かなくてキョロキョロする。

それに気づいたフィリップが苦笑する。


「――――ロベール君の事か?」


「!」

―――さすが、察しが良い。



「従者は二人とも今はここにいないよ。私も仕事がひと段落したから休んでいたところさ」

「そ、そう・・・」

「ロベール君を呼ぶかい?」

「えっ!?い、いや、いいよ!あいつも忙しいだろうしッ!」

何故か全力で拒否した。


フィリップが立ち上がり、レオンハルトの向かいのソファに腰かけた。

そして少し声のトーンを低くして言った。

「・・・なにか、あったの?」


「・・・」


「ロベールがレオンハルトの従者を代わりたい、なんて言ってきたの、はじめてだな。驚いたよ」


「うん・・・。僕も、驚いてる」


「あんなにいつも一緒にいたのに」

疑問に感じているのか、フィリップは解せない表情をしていた。


レオンハルトは下を向いて黙る。

「・・・」

(だって、それは従者という『仕事』だから)

『仕事』の部分に、ズキリと胸が痛んだ。


「・・・ちょっと、ケンカしちゃって。それが原因かな、と思ってたんだけど、違うみたいで」


「そうか。ロベールは交代理由を自分の従者としてのスキルを磨きたいからと言っていた。・・・もしかしたらそれは建前で、本当はお前とケンカしたからなのかな?」



「え?」


「ロベールも、ずっとこの王宮の従者の家系として、働いてくれている。当然の理由だとは思っていたが、ケンカが理由とは・・・」


「あ!違うってば!怒ってるのは俺の方だけで!ケンカが理由じゃないんだって!」

レオンハルトは全力で否定した。


「そうかな?」

「え?」

「ロベールは、従者を交代して私の元で働くようになってから、いつになくイライラしているように見えた」

「そ、そうなの―――――?」


フィリップは優しい目で見つめた。

「ロベールだって、優秀だとはいえ、まだ二十歳だ。平静を装えるほど大人じゃない」


「兄さん・・・」


「何があったのかは知らないけど、ケンカだというのなら、早く仲直りするんだな」


「に、兄さん、だから・・・」

(こっちが勝手に怒ってるだけで)


レオンハルトはふと、何かに気づいた。

「―――あ、あれ?」


「どうした、レオンハルト」

フィリップが不思議そうにこちらを見る。


そのレオンハルトも、不思議な顔だ。

「僕、もうロベールの事、これっぽっちも怒ってない・・・」

心の中に怒りの感情が残っていない。

怒りが無くなると、こんなにも楽なのか。



フィリップは微笑んだ。

「―――そうか、では、会って話してこい。彼は、きっと休憩室にいる」


「うん。ありがとう、兄さん!」



レオンハルトが部屋を出て行こうとすると、ポツリとつぶやいた。

「私は、お前たちの関係がうらやましく思う時があったよ」

「え?」

「いつも一緒にいて、友人のように仲が良く。とても強い絆で結ばれているような、そんなふうに見えた」

「そ、そうかな・・・」


「そのうち、『フォルスネームの儀』をやろう」

「うん」

レオンハルトは満足そうにうなづき、部屋を出た。





****




レガリア国王の執務室。


今はこの部屋に執事長がいなかった。

(これは好都合)

ロベールはホッとした。

執事長とは馬が合わないのか、いつも衝突するからだ。


「どうした、ロベール」


国王が机に向かい作業をしながら口をひらく。


「新しい職場はもう慣れたか?」

そう言って笑う。

ロベールは苦笑する。

「まだ交代して一日も経ってませんよ?」


「そうだったな。元の仕事に戻りたいならいつでも言え」


ロベールの顔が曇る。

「いえ、それは・・・」


「レオンハルトも知らなかったそうじゃないか、何故真っ先に王子に言わなかった?」

「・・・申し訳ありません」

めずらしく、ロベールは殊勝な表情で頭を下げ、謝った。


「まあいい。ここに来たのは、他に用事があるからなのだろう?」


ロベールが顔を上げた。

「―――ええ。・・・『マギアスファウンテン』の警備の強化の事、レイティアーズ騎士団長から聞きました」


「・・・ああ、その事か。話が早いな。騎士団でマギアスファウンテン周辺まで訓練に行ったそうなんだが、警備が緩く感じたそうだ。で、騎士団長が軍務大臣に伝えたのだ」


「そう、ですか」

ロベールはこの事は勿論知っている。

そう仕向けるようにした張本人はロベールなのだから。


「まあ、お前は気にする必要は無い」


「・・・気になりますね」


「なに」

国王が片眉をピクリと動かす。


微動だにせずしれっとした顔で国王の前に立つロベール。

(こいつは、本当に物怖じしない)

それは若さなのか、それともよっぽど自身があるからなのか――――。


国王がそんな事を考えていると、ロベールがおもむろに口をひらいた。

「アデンブローの領主の件は、ご存じですか」


「アデンブローだと?」


国王は驚く。

何も知らないようだ。

この事はレイティアーズにはまだ誰にも言うなと言っておいた。

マギアスファウンテンならまだしも、対人になるなら、慎重に話を進めなければならない。


国王が書類から手を離し、こちらをジッと見る。


「これも、騎士団長から聞いたのですが・・・。アデンブローの領主は、個人的に二十年前の戦争に関して何か調べているそうです」


これは実際は、オーウェンたちから聞いた話だ。

マギアスファウンテンに、勝手に入ってきて個人的に警備やら調査やらをしているという。

しかし、事を公にして、オーウェンたちが勝手にマギアスファウンテンへ潜入した事までバレてはマズい。

それとなく、国王の耳に入れておく必要があるのだ。



国王が目を見開いた。

ガタ、と椅子を鳴らし机に手をつき立ち上がる。

「な・・・、なんだと・・・!?」


(!?)


ロベールもそれには驚いた。

(そんなに驚く事なのか―――!?)


国王は、何か知っているのか?

「二十年前の戦争で、何か調べなければならないような事があるんですか?」

もう二十年前に終結した戦争。

それの何を蒸し返して調べようとしているのか。


国王は目を泳がせた。

「そ、そのような事、あるわけが無いだろう?実際、もう終わった話だ。何も無い・・・」

最後は茫然とするような顔をして、力無く椅子に座った。


(・・・一体どうしたというんだ)

こんなに焦る国王を見た事が無い。

アデンブローの領主は、何を考えているのだ。


「国王。念のため、アデンブローの領主の見張りをした方がいいのでは」

そうロベールが進言した。


「お、おお、そうだな。見張りをつけよう」


まだ冷静では無い国王を、ロベールは真っ直ぐに見る。

「・・・僕が、その任引き受けましょうか?」

ただたんに興味本位だ。

彼が調べている事を知るため。

そう。

きっと、それだけ。



「な、何を言っている!絶対にダメだ!!!」


「・・・!」


部屋中に国王の怒声が響き渡った。



ごほっ、と咳払いをし、国王は気持ちを落ち着かせる。

「と、とにかく、お前には王子の従者という仕事があるだろう」


静かに、ロベールが答えた。

「勿論です。城に仕えるのが僕の仕事」


国王は何故か悲しい顔をした。

「・・・お前の家系はずっとそうだった。だから、従者の仕事に専念しろ」





「・・・」

国王の執務室を出た。

ロベールは歩きながら考える。


(アデンブローの領主と、二十年前の戦争)

それに。

―――国王のあの焦った顔。


(何か、ある)

ロベールは目をギラつかせた。

心臓が早鐘を打つ。


(そうだ、また立入禁止書庫で調べてみよう)

二十年前の戦争は、アデンブローの町と、マギアスファウンテン周辺で起こっていた。

マギアスファウンテンと、『古代魔法』が何か関連がある事は、立入禁止書庫で調べ上げた。

何か、他にもつながりがあるのかもしれない。



ふっと、急にレオンハルトの顔が浮かんだ。

さっきまでのギラギラした感情が少しだけ落ち着いた。

ロベールはひとり苦笑する。

(・・・僕の、悪い癖だな)







「ロベール!」


「!」



フィリップの言った場所にロベールはいなく、きっと移動したのだろうと、レオンハルトは王宮中を探し回った。

そして、やっと見つけた。



地下へ続く階段があるすぐそばの廊下。





「レオンハルト」

ロベールが少し驚き立ち止まった。



「ロベール、話があるんだ」

探し回ったせいか、少し息が上がっている。


そのレオンハルトを、ロベールは冷めた目つきで見る。

「・・・ケンカごっこはもう終わりか?」


レオンハルトがカッとなる。

「な!なんだよそれ!僕はっ・・・、あ・・・」

(違う。だからケンカしにきたんじゃなくて・・・)



「そうじゃなくて・・・」

レオンハルトは必至に心を軌道修正しようとした。


そしてじっとロベールの顔を見る。

一呼吸置き。


「・・・ごめんなさい」

頭を下げ、そう言った。


すると。

「・・・何に、対しての?」

そう返ってきた。


レオンハルトは顔を上げる。

「へ・・・?」


そこには冷徹な表情があった。

「謝る理由をはっきりさせろ」


レオンハルトは焦る。

「え、えっと、それは、ずっと無視してて悪かったなーとか・・・」


「・・・上辺だけの謝罪ならいい」

そう言って踵を返した。


そのままスタスタと地下への階段とは反対の方向へ歩いて行ってしまう。



(ええええ!)

「ろ、ロベール待って!」


「ついてくるな」


早足で歩くロベールの横で、必死についていく。

顔を覗き込むようにしてレオンハルトが言う。

「ねえ、僕に言わずに従者を交代したのは、僕が無視したから?」


「違う」

即答した。


「じゃあなんで先に言ってくれなかった・・・」



「お前は危険な目に遭ったんだぞッ!!?」


「!」


ロベールが廊下に響き渡る声で怒鳴った。


レオンハルトはここに誰もいなくてよかった、と心底思った。

「ろ、ロベール、それは、謝ったじゃないか・・・」


ジロリ、と睨まれる。

「・・・その上お前は『自分の気持ちも知らないで』とか逆切れするし。まだ子供のくせにいつの間にそんな言葉覚えたんだか・・・。しかもその上に勝手に怒り無視し・・・」


ロベールは早口でまくしたてた。


(なんだかロベールがイライラしている)


頭を無造作にガシガシ掻く。

「ほんとに僕は、頭に来てるんだ・・・。お前の顔なんて、見たくないんだよ・・・!」



(あ・・・)

ズキン。


そう言われて、レオンハルトの胸が痛んだ。

(はじめて、そんな風に言われた)


フィリップが『ロベールがイライラしているように』と言っていたのは本当だったんだ。

そっか・・・。

ロベールはこんな風に考えていたんだ。

そうだよね。


(僕、ロベールの気持ちなんて、考えてなかったんだ・・・)

彼の、怒り。

ようやくわかった。

それに・・・。

フィリップが言っていた『彼もまだ二十歳の若者』という言葉が理解できた。


ロベールがなんでも出来る人物だから、つい自分よりも何歳も年上に感じていた。

だから、我がまま言ったり甘えたりして。



「ほんとにごめんなさい。僕、ロベールが好きだから、甘えてたんだ。甘え過ぎてた」


「・・・はあ?」

ロベールは胡散臭そうな顔をした。


「僕も成人したし、もっと頑張る」


「何を頑張るんだ」


「えっと、色々。勉強も、魔法も・・・王族としても・・・」


ロベールは顔を赤くしながら話すレオンハルトをチラリと見て、ニヤリと笑った。

「良くできた回答だ。しかしお前は反省の色が足りない」

「へ!?」


「オーウェン殿は責任を取り辞任、レン=レインだってレイティアーズに怒られた。お前も、罰を受けてもらおうじゃないか、レオンハルト」

そう言ってレオンハルトの腕をつかみ、ズンズンと歩いて行く。


「ちょ、ちょちょちょちょ・・・ちょっと待って・・・、どういうこと・・・」

レオンハルトの顔から、さーっと血の気が引いて行くのがわかった。






****




「だからって、これはどうなの!?」



王宮内、地下の立入禁止書庫。


皆が寝静まった夜更け。


レオンハルトの悲痛な叫びがこだました。



「しっ。静かに。誰かに気づかれるだろ」


「・・・」

そうたしなめるロベールを、レオンハルトはじとーっとした目で見た。


「夜の方が人に見られる確率は減るから夜中にしたし、偽の許可証があるとはいえ、見つからないとは限らないからな」



レオンハルトはロベールに半ば強引にここへ連れてこられた。

従者の交代の件は、ロベールが明日からレオンハルトの従者に戻る事で解決した。


(まさかまた、ここへ来る事になるとは)

そんな事を考えながらロベールを見る。


「で、僕はどうすればいいの?」

半分投げやりだ。


「そうだな。この本の中から、『古代魔法』に関する記述を探してくれ」


「『古代魔法』?」


「ああ、お前は以前『古代魔法』の言葉に反応して気分が悪くなったっけ?大丈夫か?」

「うん。今は慣れたのかなんともないよ」

「そうか。じゃあ早くな」

「ちょ・・・」

それがひとにものを頼む態度?と思ったが、それよりも。

「これが、君の言う『罰』なの・・・?」

「ん?ああ、そうだ。よろしく頼む」

なんとも軽い返答だった。



「・・・ねえ、まさかとは思うけどロベール」

恐る恐るレオンハルトが口を開く。


「ん?」

「君、こうして一人で何回もここへ来てるの?」

「そうだ」

平然と答える。


「ええ!?バレたらどうするの!?それこそ、自分の事を棚に上げて僕がマギアスファウンテンへ行くのを怒ってたの!?」

「・・・マギアスファウンテンに実際に行くのと、ただ本を調べるのとはわけが違う」

「も、も~ロベールう~!」


ロベールが苦笑した。

「大丈夫。バレないようにするさ」


レオンハルトはふと思い出した。

「そういや最初に地下に来た時、どうやって警備兵をあの場から移動させたの?」

あの時は地下の階段を守る警備兵と何やら話をしていた。

その隙に地下へ降りたのだ。


「ん?ああ。彼は僕の知り合いなんだ。彼は昔から王宮で警備兵をやっていて、僕の両親とも仲が良かったみたいだ」

「へえ」

ロベールにそんな知り合いがいたのは初耳だった。



ロベールがジロリとレオンハルトを見る。

「――――ところで。お前が本を読むのに時間がかかるのは知ってる」

「うっ」

「だから、この一冊だけでいい。僕は『二十年前の戦争』に関する書物を探す」

そう言って手渡された薄くて大きい本。

本、というか、表紙が無く、紐でくくりつけただけの無造作な装丁のように感じる。

ここにあるものではめずらしい。


それを疑問に思いながら受け取る。

「・・・二十年前の?」

「アデンブローの領主の件が、気になってね」

「ああ、あれね・・・」

あの領主は、あまり良いかんじがしなかった。


「二十年前の戦争、僕の両親も参加している。で、そこで殉職さ」

「ええ!?たしか病気って聞いてたけど・・・」

「ああ、そういえばそう言ったっけ。ほんとは話す気はなかったけどな・・・。二十年前の戦争のアデンブロー領主の話しで、調べてみたくなったし、ちょうど僕の両親の参加した戦争だったし」

「でも、調べるのつらくない?」

「なんで」


レオンハルトは言いにくそうにロベールを見る。

「・・・だって、その戦争で亡くなったんでしょ?」


「――――・・・」


一瞬、ロベールは目を見開くが、すぐさまいつもの顔に戻る。

「僕は両親の顔さえも知らない。だから、何も感じないさ」

「ロベール・・・」

「僕の父は元々従者の家系だった。でも、魔法の能力を買われ騎士団に入った。そこで母と出会ったらしい。―――騎士団になんて入らないで、黙って従者の仕事だけをしていればよかったものを」

最後は少し怒りが滲んでいるような口調だった。

(やっぱり、何も感じないなんて嘘だ。ロベールも、両親のことを思っているんだ)


ロベールは、ふっと笑った。

「だからさ、僕は両親の愛というものを知らない。・・・『愛情』を受けないと、他人への『愛』、つまり『思いやり』に欠けるらしい。だから、お前にも辛く当たっているのかもしれないと、時々思うんだ」


「ロベール・・・。そんなことないよ!」

ぶんぶんと頭を横に振る。


するとロベールがニヤリと笑った。

「そうか。では今までどおりでいこう」


「え!?ろ、ロベール!今言質を取ったね!ずるい!今の無し!もっと優しくして!」

「だめ、却下」

「ロべ~るうう」





そして数十分が過ぎた頃。


レオンハルトが書物から目を離し、大きく()()をした。

「ん~!やっぱり『古代魔法』なんて文字、無いよ~。相変わらずところどころ虫食い文字になってるし」


もう一つの書棚の方では、ロベールが必至で本をめくっていた。

「そうか。やっぱりダンダリアンの魔法で文字を出現させるしかないか。ダンダリアンにやってもらったのはあの一冊だけだったしな」

ふーっと彼のため息が向こうで聞こえた。


しかし、次の瞬間。


「――――あれ、これって・・・」

試しにもう一枚めくると、レオンハルトは何かに気づいた。


「おい、どうした・・・」

その声に、ロベールが思わず駆け寄る。




何か図が描かれている。

それはレオンハルトがどこかで見た図だった。


「あ、オーウェンだ」

「なに?」

「オーウェンがマギアスファウンテンの図を書いてくれたんだ、それに似てる」


「ん?ああ、これは確かにそうだな・・・」

ロベールが顔をその図に近づけると・・・。



「―――これは!詳しいマギアスファウンテンの構造図だ!」


「え!?」


「これほど詳細に描かれているのは見た事が無い・・・」

確かに、文字もたくさん書かれていた。

オーウェンはマギアスファウンテンの図の円を、丸く線一本で終わりにしていたがこれは、どこに入口があって、など、より具体的な図になっている。

それもそのはず。

危険で入る事の困難な場所の具体的な図など、書けるわけがないからだ。


「だって、入れないんでしょ?僕たちも第四層まで入ったけど、大変だったんだから・・・」


ロベールがうーんと唸る。

「このレガリア国に、強者がいるんだろ。そしてそれを書きとめたんだ。しかも、これは、第二層か?凄いな」

興奮した様子でパラパラとその紙をめくっていく。


レオンハルトはまだ疑問だ。

「でも、誰が」


―――その時。



ロベールが魔石時計を見た。

ガラス状の容器に、魔石を粉末状にし中に入れる。

時間になるとピンク色に光り出す。

「時間オーバーだ。今日はこれまで。もう戻ろう」






地下から出ると、警備兵が一人立っていた。

こちらにはチラリとも顔を向けず、ただ無言で前を見ている。


(・・・)

レオンハルトがチラリと彼の顔を見る。

この人が、ロベールの知り合いだったのか。




少し歩くと、ロベールが口をひらいた。

「お疲れ様。お前ももう罰は終わりだ」


「そ、そうですか」

満足げなロベール。

(ロベール、あの構造図を得て、何かまた余計な事を考えなきゃいいけど・・・)


「立入禁止書庫、もう行かないでよね」

念のため、釘をさしておいた。

「さあどうだか。雨が降ってると、音も聞こえてなくて好都合だしな」

当の本人はひょうひょうとした顔だ。

「ロベール!」

レオンハルトはロベールの背中をバンと叩いた。



(雨、か・・・)

レオンハルトは窓を見た。



(まだ、降ってる――――)






****




やっとロベールから解放されるともう明日の日付になっていた。

レオンハルトは眠くて仕方なく、ベッドに入るとすぐに眠りについた。





レオンハルトは自室のベッドで眠りながら、夢を見ていた。


シュヴァルツの夢を。


「・・・シュヴァルツ・・・」


(おかしいな、眠すぎて熟睡しているはずなのに、夢を見るという事は、ちゃんと眠れていないのだろうか――――?)

そうぼんやりと考える。

あまりにも、自分の事ばかりで、シュヴァルツをないがしろにしていたからだろうか。



同盟破棄、アラザス公国での戦争――――。


様々な悪夢を見ていた。




「レオン・・・」


「うっ・・・うう・・・」


うなされる。


ふと、シュヴァルツの声が聞こえた。

そうか、これも夢か。


「レオン!」


実に生なましい夢だな。


その彼が話しかけてくる。


「レオン、いいか。俺はいつも命を狙われている」


(え?なに?)


「だから、お前にこの剣を預ける」


そして、その剣をそっとベッドの横へ立てかけた。



「え・・・」


(剣・・・?)


夢か、現実か。



「頼んだぜ、レオン」



そう彼が――――シュヴァルツが微笑んだ気がした。




「シュヴァルツ!!!!」


起き上がり大声で叫んだ。



「あ・・・」



目覚めると、朝になっていた。


「なんだ、やっぱり夢か・・・」


ふいにベッドの横を見る。



その光景に目を見開いた。



「―――夢じゃない!!!」




そう。


そこには、ある一本の剣が置いてあったのだ――――。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ