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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第四章 それぞれの思惑とマギアスファウンテン
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第89話 レガリア国王宮にて(1)





王宮に戻ると、夜も更けていた。


魔物に出くわすなど、予想外の出来事はあったが、なんとか当初の予定どおり今日中には帰る事が出来た。

しかし今日は一日、本当に色々な事が有りすぎた。

「くあああ」

レオンハルトは一気に眠気が襲ってくる。


王宮に入る手前の道で、五人は馬を止めた。


ロベールが無表情で口を開く。

「もう夜だ。ここで一旦解散だ。詳しい話はまた明日に」


オーウェンが心配そうに彼を見る。

「今は誰にもバレていないんだろう?だったら、今日はまだ誰にも話さないでくれ」

ロベールはそれを一瞥(いちべつ)すると、うなづいた。

「――――勿論、誰にも言わないさ」



そして五人はそこから別れ、それぞれの場所から借りてきた馬を置きに行った。



「・・・」

(あ~~~、気まずい!)

レオンハルトとロベールは王宮に入った。

二人は同じ方向だから、嫌でも一緒になる。

先を行くロベールの後ろを、少し距離を取ってトボトボ歩いた。

「はあ・・・」


そして二階にあるレオンハルトの部屋にたどり着く。

ロベールがそこで立ち止まった。

「?」

彼の部屋はもう少し先に行った所にあるのに。


「・・・レオンハルト」

後ろを向いたまま静かに言った。


「・・・なに」

ムスッとして答える。


「――――いや、なんでもない。今日は僕も休みを取っているからもう寝るよ。・・・おやすみ」


「・・・」


レオンハルトは無言で自室に入った。






****




「し、しまったあ~~~~~~!!」



(せ、盛大に寝坊してしまった!)



レオンハルトが目覚めると、もう陽は高く昇っていた。

お腹も空いていて、腹がギュウギュウ鳴っている。


「お、起きないと・・・」


レオンハルトが体を起こそうとすると・・・。


「い、痛!」


体中が悲鳴を上げていた。


特に、足だ。


「うう、足が痛い・・・」


寝たら昨日の疲れが取れたはずなのに。


「歩きすぎたかな、はあ・・・。でも、起きなきゃな」


歩けない事は無い。

レオンハルトはその鈍い痛みを我慢して、なんとか遅めの朝食を取ろうと食堂へ向かった。



「・・・あ。ロベールだ」

(そういえば、僕を起こしに来なかったな)

(僕が、ロベールを無視してる事に気づいた?)


胸が、ズキリとした。


(で、でも、まだ怒ってるんだからね!)


ズンズン食堂の奥へ入って行く。



ロベールがそれに気づき、声をかける。

「・・・レオンハルト、起きたか」


「・・・」


それを無視し、ロベールの座っている方には行かず、離れている席に座った。

長いテーブルが二つ並んでいたが、あいにく食堂には誰もいなかったので、どこでも座りたい放題だった。

(あ、あからさまかな)

内心ドキドキしていた。

こんなに無視するほど、ケンカした事など無かったから。

罪悪感さえ感じてしまう。

(で、でも、ロベールが悪いんだから!)

もくもくと急いで食べ物を口に運んだ。


(はあ、やっぱり気まずい。どうして同じ時間に食堂にいるんだよ!)

と、理不尽な怒りが出てしまう。


そうこうしているうちに食べ物は無くなったが、レオンハルトはあまり味を感じられなかった。

(こんな食事、楽しくない・・・)



シュンとしていると、ロベールが近づいてきた。


「!」



「レオンハルト」


「・・・」

無言を貫く。



それを見てふうと小さく息を吐き、ロベールが口をひらく。


「・・・今日早朝、オーウェン殿と話をした」


「!!」


レオンハルトが驚いてロベールの顔を見る。

なんだか久しぶりに彼の顔を面と向かって見たような気がした。


「な、なにを話したの・・・?」

こればかりは無視できなかった。



「誰にも彼の秘密をバラさない代わりに、責任の取れる方法を自身で考えさせた。で、彼は特務部隊を辞める事にした」


「え!?」


「これは交換条件だ。本当は国王に話して、厳正に処罰されなければならない。それよりはマシだ」


ガタッ


レオンハルトは思わず席を立った。

「こ、交換条件?そんな勝手な事・・・!ロベールが黙っていればそれでいいだろ!」



ロベールがふっと皮肉げに笑う。

「魔物だぞ?今まで何も起こらなかったのが不思議なくらいだ。これは僕が黙っていればいいという問題では無い」


「そ、そんな・・・。本当に、辞めなきゃいけないなんて・・・」

(どうにもならないの?)

青ざめるレオンハルト。


「彼も言っていただろう?辞めると。――――ああ、それと、もう一つ」


「え?」


「彼は、国も出て行くそうだ」


「は?え?」


状況がつかめない。


どういうこと?



「もう、色々な手続きをしているんではないかな」


そう言って窓を眺める。


窓からは陽が高く登り、お昼を過ぎている時間になっている事を示していた。



「―――――!」


「おいっ」



レオンハルトは走りだした。




―――ああ、なんて事だなんて事だ。


(間に合って!)


彼が、国を出る前に。


いや、そもそもそんな手続きなどしないように!


――――間に合って!!





****





向かった先は、オーウェンの自宅。

筋肉が鈍く痛むのを堪え、なんとかたどり着いた。



「――――え、うそでしょ・・・」



レオンハルトはオーウェンの自宅の前まで到着すると茫然とした。



自宅の前には『売却予定』の看板。


(家を、売りに出す・・・?)


「そんな・・・、もう?」


(早過ぎるだろ、オーウェン!)


少し怒りにも似た感情がレオンハルトに芽生える。



(つい数日前まで、この家で魔物の相談をしていたんだ)


それが。


あっという間に誰か知らない人の手に渡ってしまうなんて。


しかも。


(ご両親の大事な家でしょ?ご両親が亡くなってからも、大事に守ってきた家なのに)


レオンハルトは涙目で右手をギュッと握りしめた。


(どうしてここですぐに手放してしまえるの?)



「・・・っ」

涙を拭い、レオンハルトは入口の鎖をまたぎ、無理やり家の中へ入った。



「―――――・・・」


レオンハルトはその場に立ち尽くす。


大きな家具以外、何も無かったのだ。




「ほんと、早いよね・・・」


レオンハルトはポツリと呟いた。







****




(あとは、特務部隊か)


オーウェンが行きそうな所。





「失礼します」

レオンハルトは特務部隊へ入室した。



「ああ、レオンハルト王子」

柔和な笑みを浮かべた隊長メイベリー=ベルナールがいた。


彼は机で作業をしているようだった。

眼鏡を少しずらし、書類から目を離す。

「王子、私から出向く予定でしたよ」


「え?」


すると突然、メイベリーが椅子から立ち上がり、頭を下げた。


「め、メイベリーさん!?」


「申し訳ない!私がロベール殿に教えなければこんな事には・・・!」


「そ、そんな、あなたは悪くないです!それに現に、誰にもバレていない!・・・ロベールとオーウェンとの交換条件によって・・・あっ」

そう言って気づく。

「お、オーウェンはここに来ましたか!?」

部屋を見渡しても今日は誰もいないようだ。


メイベリーは暗い表情になった。

「・・・はい。早朝に来ました。彼は私に『退職願』をもう一度、出しました」


「そんな・・・」

(早朝・・・、じゃあもう彼が今どこにいるのかはわからない・・・)


「彼の意思は固い。交換条件というのも私にはどうする事もできない。特務部隊の隊長という職にありながら、何も出来ない自分が悔しいです・・・」

唇をかみしめ、苦しい表情で言うメイベリー。


「メイベリーさん・・・」


「私がロベール殿に問いただされ、言ってしまった時も、私が隊を辞めるのでそれで見逃してほしいと言いましたがダメでした。あの時のロベール殿は、鬼気迫るものがありました」

「・・・」


「それで私も根負けした。ロベール殿がマギアスファウンテンへ向かい、彼らを援護してくれるのならばと話しました。よほど、あなたの事が大事なのだと見受けられます」


「え――――?」

(僕の事が―――?)

「そ、それは僕の従者ってだけで・・・」


メイベリーは微笑んだ。

「私には、それ以上のものを感じます」

(それ以上?)


レオンハルトはふと我に返る。

「そ、それよりっ。オーウェンは、これからどこへ行くか言っていますか?」


メイベリーは沈んだ顔になった。

「いえ、言いませんでした。私も私なりに援助していきたいのでせめて居場所だけでも教えてほしいと言ったんですが・・・何も言わず、去って行きました」


「そんな・・・」


「私には、追いかける事はできませんでした。彼が、これからの生活大変な思いをしなければいい、それだけです」


「・・・」


(悲しすぎる。そんな別れ方だなんて)

「・・・僕は、ただ友達になりたかっただけなんです」


「・・・」

メイベリーはレオンハルトを黙って見つめた。



どうして僕は、友達を作れないんだろう。

作ったと思ったら、泡のように消えてしまう。


町で出来た友達、カリムの時と同じだ。








****




(ああ、そうだ。オーウェンの心配ばかりしている場合では無かった)


他にも。


(レンちゃん・・・大丈夫かな)


「騎士団に行ってみよう」




見慣れた騎士団宿舎までの回廊。

特務部隊に入る前は、不安はあるものの、騎士団の仕事をこれからずっと頑張って行こう!と意気込んでいた。



騎士団宿舎入口手前まで来た時。


「おや、王子」


回廊の壁に寄りかかり、一人こちらに声をかける人物が。



それを見てレオンハルトはギクリとする。


「サウ・・・さん・・・」


『元』傭兵。

今は、レオンハルトがいた第七部隊に所属している。


細い目をますます細めてニヤニヤしていた。

その顔を見ると、やっぱりマギアスファウンテンの魔物から薬が取れるというは噂に過ぎなかったのではないかとつい思ってしまう。


「どこも、なんとも無いですかね?」


「え?」

(何が?)

突拍子も無い事を言われ、レオンハルトはポカンとする。



少し焦った顔のサウは、

「ああいえ、なんでもありません。どうぞ?先を急ぐのでしょう?」

そう言って騎士団宿舎の方へ手を差し出した。


「・・・」

(なんなんだ)



彼にまだ見られているような気がして、レオンハルトは足早に宿舎に入った。







「うわっ」


入るなり、レイティアーズが立っていた。


「び、びっくりさせないでよー」


そう言うが、レイティアーズはお構いなしでレオンハルトの耳に顔を近づけてきた。

「彼とはあまり関わらない方がいい」

「え?」

「サウだ」

「あ、ああ。元傭兵だしね。勿論、信用はしていないよ」

(マギアスファウンテンの魔物の噂は、噂って、周囲が流すものだから、サウ自身の事じゃないし・・・)


「・・・」

レイティアーズはそう言うレオンハルトを心配そうにジッと見る。



「あ!そ、そうだ!僕は君に話があって・・・」


「私に?」

ではこちらで話そうと、レイティアーズは自分の部屋へ招き入れた。

(・・・もしかして、マギアスファウンテンへ行った事の話しをするのだとわかってる?)

宿舎にはたくさん騎士団員がいた。


わざわざ人払いのようなことをするということは・・・。





「どうぞ、掛けてくれ」

「う、うん・・・」


レイティアーズ専用の部屋は、ダンダリアンの部屋と同じような作りだった。


レオンハルトが客用長椅子に座る。

座るなり言われた。


レイティアーズは腕組みをし机の前に立ってこちらを見ている。

「レン=レインの事か?」


(やっぱり!)


レオンハルトはうなづく。

「う、うん。そうなんだ・・・」


そして、ガバッと顔を上げた。

「レンちゃ・・・、彼女をどうか、お咎めが無いようにしてほしいんだ!」


そう懇願した。


レイティアーズは少し考える。

そして部屋の中を、コツコツと靴音させながらゆっくりと歩いた。


「・・・『忠誠』、『勇知』、『正義』・・・」

ゆっくりとした口調で、しっかりとした声が聞こえる。


「その言葉・・・」

レオンハルトはハっとしてレイティアーズを見た。

(宿舎の壁にも紙に書かれ貼られていた・・・)

突然何を言うんだと思ったが、そのレイティアーズの表情はなんだか怖さを感じた。



レイティアーズは立ち止まり、レオンハルトを見る。

「意味は、わかるな?一度でも騎士団に入った事があるんだからな」


レオンハルトは頷く。

「勿論だよ。帝王学の勉強でも、何度も出てきたもの」


レイティアーズが満足げにうなづく。

「そうか」



「我が『王立騎士団』の戒律だ」


「・・・」

(それがどうしたのだろう?)

疑問に思っていると、レイティアーズが皮肉げに笑った。

「『正義』には、正しい行いをする、という意味も含まれる」


「え・・・?」


「・・・レン=レインは、果たしてその戒律が守られたのだろうか?」

そう、問いかけた。


「レイティアーズ・・・」


やはり、レイティアーズは怒っているのだ。

これでは、レンにも何か処罰が・・・。


「いいか、今回は見逃してやるが」


「へ?」



「しかし、次は無いと思え!!」

レイティアーズが部屋に響き渡るくらいの怒声を上げた。


「ひっ!」

レオンハルトは身をすくめる。



「騎士団の戒律を守る事は、生半可なものでは無いのだ!」


「は、はい!」

思わずレオンハルトはピンと背筋を伸ばし、両手を握り膝の上に置く。


すると、ふーっとレイティアーズがため息を吐く。


「――――レン=レインには言っておいた。危険な行いはするなと。今回は口頭で注意するだけだが次は無いと」


「!」

(良かった―――――!)

ホッと胸を撫で下ろした。


「それと・・・」


「?」


「きちんと、相談しろと」


「え?」


「私は、騎士団長になりまだ数年だ。足りない部分も多いと思っている」


「そんなこと・・・」


「だから、私にも話てほしいと。何か、力になれるはずだからと」


「レイティアーズ・・・」

レオンハルトは感動した。

うちの騎士団長は、とても頼りがいのある人のようだ。

レオンハルトは満面の笑みを浮かべた。

「やっぱり君はいい人だね!!!」



「―――――・・・」

すると、レイティアーズが突然くるりと反転して向こうを向いた。

「ふん」

レイティアーズは少し照れているのか耳が赤くなっていた。





****



自分のやるべき事を一通り終え、自室に戻ってきたレオンハルトはふと気づく。


(そうだ!ペンダントの魔石・・・!)

この前よりも大きく亀裂が入ってしまったのだ。


(どうしよう・・・もうこれ以上父さんに言ったら怒られるよ・・)

途方に暮れ、その場に立ち尽くす。



(そうだ!)


この魔石を修理したデルフィーヌは、母の古い友人だ。

(母さんなら、デルフィーヌさんの居場所を知ってるかも!)

場所を聞き、そこへ行って直してもらえばいいんだ!



「――――あ、でも、父さんと母さんには、会った事は内緒にしてほしいとデルフィーヌさんに言われたんだっけ」


(でも・・・)

「母さんなら大丈夫でしょ!」

父さんにバレたら怖そうだけど。


「よしっ」

レオンハルトはすぐさま自室を出ていった。




母の部屋。

「失礼します」

ノックをして入室する。


「あらまあ。お入りなさい」


公務に出払う日も多い母だが、今日は居てくれた。



椅子に座り、裁縫をしているようだ。

そこに近寄り、早速切り出した。


「ねえ、母さんは鉱石修理士のデルフィーヌさんと友人なんでしょ?」


「痛っ」



「え!大丈夫!?」


「え、ええ。少し、刺しただけ。すぐ治るわ」

どうやら裁縫の針が自分の指に刺さってしまったようだ。

少し血が出ている。


「も~気を付けてよね?びっくりするよ~」


「ええ。ごめんなさい」

弱く笑って、そこを自身で止血した。



「・・・どうして、彼女の事を知っているの?」

その声はわずかに震えていた。


「会ったんだ、教会で」


「まさか、彼女の方から名乗ったの・・・?」


「ん?いや、僕が、もしかしたら鉱石修理士の人なんじゃないのかって、聞いたんだ。で、そこから少し話をしたりして」


「そう・・・」

そう言う母の顔は少し青ざめていた。

「大丈夫?母さん、顔色が悪いよ?体調悪い?」

レオンハルトが母の背中に手をそっと置いた。

母は弱く微笑む。

「いえ、どこも悪くないわ、それより」

笑顔を消し、レオンハルトの顔をじっと見つめた。


「彼女の事は誰にも言わないで。それに、もう会っちゃダメ」


「えー!?なんで!?」

(それじゃあ魔石を修理してもらえないよー!!)


「あなたの魔石を修理してくれる人。それだけ知っていればそれでいいじゃない」


「う・・・。うーん・・・。じ、じゃあさ、これ、修理頼みたいんだけど・・・」

レオンハルトはそう言っておずおずと母の前に魔石ペンダントを差し出す。


「!!」

母はそれを手に取ると、目を見開き驚く。


「あなた、またやったの!?」

怒られた。


「ご、ごめんなさい!」

体をすくめる。


母はため息を吐き、少し考える。

「では彼女に伝達石を飛ばしておきます。早急に、直してもらいましょう」


「やった!」

喜ぶと、母にジロリと睨まれた。


「父さんには言わない方がいいわ、怒るでは済まされないかも」

「う、うん・・・」

「本当は、鉱石が大量に必要になるから、父さんに知らせて国の鉱石から補充した方がいいんだけど・・・」

「ああ、そっか」

デルフィーヌがこの魔石を修理するのに何十個も使用すると言っていた。

「大丈夫、何とかするわ」

そう言ってレオンハルトの髪を優しく撫でた。

「デルフィーヌから返事が来て、魔鉱石の調達も出来たら、あなたに教えるわ。その時にペンダントを渡しましょう」

「・・・ありがとう、母さん」

その行為に、うっとりと目をつぶった。




レオンハルトはやはりデルフィーヌの事が気になる。

「デルフィーヌさんが修理をしに王宮へ来るんだよね?」

「・・・さあ、どこで修理するかはわからないわ」

「僕、会いたかったな~」

「どうしてそう思うの?」

「だって、いい人だったし!」

笑顔でそう言った。

「ふふ。・・・私も古い友人として、そう思うわ」








母の部屋を出ると、父であるレガリア国王と出くわした。


「わっ!」


今しがた、父には内緒だと母と言ったばかりだから驚く。


レオンハルトは冷や汗をかいた。

「と、父さん」


「レオンハルト、母さんに用事か?」


「う、うん。ちょっとね」


「そうか」


「じ、じゃあね」


「待て」


「!?」


国王に呼び止められ、振り向く。


「ロベールの事だが――――」


「え?」

国王の口から意外な人物の名前が出てきて驚く。



「奴が、しばらくの間、従者を交代してほしいと申し出た件だが―――――」


(従者を交代?)


「――――え!?はあっ!?どういうこと!?」


レオンハルトは混乱した。


「知らなかったのか?」

国王は心底驚いているようだった。


「・・・」

レオンハルトは茫然としている。



「ま、まあロベールは優秀だ。すぐにでも慣れるとは思うが、とりあえずフィリップの二人いる従者のうちの一人と交代の許可をしておいた。今日からお前の従者はそいつになる」


「そ、うなんだ・・・」


「・・・何かあったのか?」


「へ?、い、いや、何も―――」

(ケンカはした。というか、僕一人怒っているかんじだ)

でも、だからといって。


「そうか。奴も理由は『従者としての能力向上の為、色々な立場の仕事がしてみたい』と言っていた」

「え―――」

「しかし急すぎるからな。お前たちの間で、何かあったのかと思ってな。その―――」

「?」

何か、国王が言いにくそうにしている。

「に、二十年前の事とか・・・」

「え?」

(二十年前?)

「それは一体どういう事――――?」

「すまん!何も無いなら気にするな!では、私は行く」

「えっ」


そして向こうへ歩いていってしまった。


「なんなんだ、父さん。二十年前って・・・」

しかもめずらしく動揺している様子だった。


いや、それよりも。

(『従者としての能力向上』したい?じゃあ、どうして一言も僕には言わず?)


「ロベール――――」






ザアアアと外から音が聞こえてきた。


廊下の窓を覗くと、雨が降ってきていた。





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