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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第四章 それぞれの思惑とマギアスファウンテン
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第88話 マギアスファウンテン第四層(3) 




ああ、なんてことだ。

ロベールに知られてしまうなんて。





レオンハルト、オーウェン、レン、そしてロベールの四人は、魔物が寝ている場所から、第四層に入って立ち止まった青い木の場所まで戻って来ていた。



オーウェンは、すぐさまロベールに事の経緯を説明した。

ロベールはそれを聞き黙っている。



「・・・」

チラリ、とロベールの表情を覗き見る。

かなり怒り心頭の様子だ。

いつだったか、子供の頃ヴァンダルベルクの王城で木から落ちそうになったときと同じような怒り方で。

今の方が何倍も恐いけど。



「な、なんでここにいる事がわかったの・・・?」

おそるおそる聞いてみた。

ギロリ、と睨まれる。


「ひっ!」


その鋭い視線は、そのままレン=レインへ向かった。


「―――――レン=レイン。騎士団第七部隊所属。どうして君も同行したいと?」

「え、あ、あの・・・、それは・・・」


「ロベール!それは僕が・・・っ」

言いあぐねているレンを助けようと、レオンハルトが口を出すと、ギロリと睨まれた。


「今はお前に聞いていない、レオンハルト」

「・・・っ」


するとレンの返答を待たず、ロベールが話し始めた。

「君は休暇願を出した。騎士団長はそれを了承した」

「はい・・・」

詰問するかのような、冷たい視線と口調だ。

レンはその威圧感に、思わず下を向く。

「しかし、騎士団長は了承するかどうか悩んだそうだ」

「え?」

レンは驚き、顔を上げた。


ロベールが腕組みをし、上から目線で口をひらいた。

「騎士団長は気づいているよ。君が、いや、()()()()()()()()()()()()()()、とね」



「――――!」


(れ、レイティアーズにバレてた――――!?)


レンもそうだが、レオンハルトが一番青ざめてた顔をした。


「レイティアーズが、僕に伝えに来たんだ。君が、レン=レインの部屋に入っていくのを見た後にね」

「あ・・・、え・・・。レイティアーズは僕たちの話しを盗み聞きしてたの・・・?」

ロベールが薄く笑う。

「そこまで野暮な事はしないだろう」

「う・・・」

そ、そんな野暮な事をするつもりは毛頭アリマセン。

「やはり、何か感づいたのだろうな。そこはさすがレガリア国随一の優秀さだ」

(そ、そんなに簡単にはいかなかったか~)


「で、僕はそれから各方面を探し回ったさ」

「う・・・」

(そうか。そうなるよね)

「で、証拠をいくつか発見した」

「し、証拠?」

「おまえ、僕に適当な理由をつけて、外出しようとしただろ」

「あ、ああ。あれは、君も納得してくれたじゃないか」

「まあ、あの時はな」

右手で顔を覆い、ふーっと大きくため息を吐く。

「まさか、お前の外出場所が、こんな場所だとはな。最近、別の事にも気を取られていて、失念していたよ」

「・・・別の事?」

そのレオンハルトの質問に、ロベールがはっとする。

「とにかく、外出するんだから外にいる警備兵が誰かしら見ているだろうと思い、王宮の入り口を警備する兵に聞いたら、早朝に出かけたと。早朝?なかなか朝起きられないこの王子が早朝に?すぐに怪しいと思ったさ」

「い、今は頑張って起きようとしてるよっ」

すると、普段のロベールに戻ったかのような笑顔をふっと見せた。

「どうだか。念のため、手始めに王都の入り口を警備する兵に聞いた」

(や、やばい・・・)

ごくり、とレオンハルトの喉が鳴った。

「そしたら、特務部隊の『任務依頼書』を見せられたので通した、と」

(やっぱりい~~~~)

「おかしいと思ったよ。そんな任務あったか?と。で、特務部隊を訪ね、メイベリー隊長に問いただした」

「え!」

「・・・っ」

オーウェンもさすがに焦った。


「僕がレオンハルトの従者である事、そして誰にもこの事を言わない約束をしたら、話したよ、すべてを」


「―――――・・・」

(メイベリー隊長・・・)

きっと、苦渋の決断だったんだろうな。

彼は、優しいから。



「ね、ねえ。ロベールの他にこの事を知っている人は―――――」

「安心しろ。他のやつらに知れたら、大事(おおごと)になる。ああ、一人だけ、いたな―――――」

「え――――・・・?」



ロベールはそう言いチラリと後ろを見る。

三人も同様に見ると・・・。


「ろ、ロベール~~~。速いですよ~~」


なんとも情けない声で近づいてくる、人物。



「ダンダリアン!?」


「やっと来たか」

ロベールはそう言うと笑顔になった。



騎士団の書記官、ダンダリアン=キュベルがそこにいた。



「な、なんで彼が・・・」

「僕一人でこんな場所来れるわけがないだろう」

開き直った表情で言った。



「さっきの魔物の弱点情報も、ダンダリアンの持っている魔物辞典で読んだんだ」

「ああ、納得・・・」

(って、納得している場合じゃない!)



「か、彼は、時間差で来たの・・・?」

やっと到着したダンダリアンを見ると、物凄くハアハアと息をしている。

「いや、一緒に来たさ、途中まではな」

「えっ?」


「こいつ、頭は良いし魔法は出来るけど、足が遅いんだ」

「え!?ほ、ほんとに!?」


レオンハルトがダンダリアンを凝視した。

するとダンダリアンは恥ずかしそうにする。

「本当の事なんですよね・・・。運動全般がダメみたいですね・・・」


「・・・」

(い、意外な弱点が・・・)



ふと、ダンダリアンがロベールを見る。

「大丈夫だったかい?ロベール。さっき来る途中で、息苦しそうにしてただろう」

(え?)

ロベールも?

しかしロベールはケロッとした顔で言う。

「ああ。でもすぐ直ったさ。――――しかしここは危険だ。何か感じる。もうここへは来るもんじゃないな」

そう言って霧がかかる周囲に目を凝らした。


ダンダリアンが周囲を見渡し、何やら杖を取り出した。

「もう少し、はっきり見えた方が安全でしょう」


「あ・・・」

その魔法は『装飾の光(デコレイトオブライト)』。


オーウェンが発動した同じ魔法と比べ、照らされる範囲がかなり広くなった。

さすが上級魔道士。


「わあ、見える見える!」

それだけで気持ちが少し落ち着いてきた。


すると、オーウェンが青い木の幹に近づき、手をかけた。

そしてその奥をキョロキョロと見た。

木の奥には、さっきまでは見えなかったが、焦茶色の岩壁がずっと奥まで続いていた。



「やっぱりな・・・」

「どうしたの?」

「周囲が明るくなって確信した。やはりこの木で間違い無い。ここに、あったはずなんだ、第三層への入口が」

そう言って木の奥の岩壁を指さす。

「でも、ここらへんには入口らしいのは無いね・・・」



「おい、今はそれどころではないぞ」

「う、うん・・・」

ロベールが二人をたしなめ、話しを元に戻した。


「レイティアーズに頼んで、お前らみたいにに『偽の』任務依頼書を作ってもらった。それでたぶん、お前たちならわかると思うが、やすやすと警備の目をかいくぐってここまで来たってわけさ」

「そうだったんだ・・・」



ギロリ、とレオンハルトを睨む。

そして・・・。


「一体お前は何をしているんだ、レオンハルト!!!」

「ひィっ!」

怒鳴られた。


「いいか!お前は一国の王子なんだぞ!?一体いつになったら自覚するんだ!本当に信じられない!!」

怒鳴るどころか、激高していた。

「ご、ごめん!ごめんなさいっ」

レオンハルトがビクッと縮こまる。


周囲はハラハラと心配しながら見ていた。


ロベールはまたお説教を続ける。

「こんな何が起こるかわからない場所で、何かあったら―――――」


そこでふと何かに気づき、ロベールはオーウェンへ向き直った。

「オーウェン殿」

冷たい視線でオーウェンへ語りかける。


「オーウェン殿、こんなこと、許されると思っているのか」

静かに、怒っていた。


張りつめた空気が辺りに漂う。


「魔物を自宅で飼い、マギアスファウンテンに許可無く入り、そして魔物が出てきて――――一国の王子を危険に晒した」

「・・・」

オーウェンは黙っている。



「・・・っ」

ロベールはその態度に苛立つ。


「あっ!」


ロベールがオーウェンにつめよった。


そして、ロベールの右の握り拳が、オーウェンの顔めがけ、振り上げられた。


「・・・!」



「ロベール!」

レオンハルトが焦った声で叫ぶ。



「―――――・・・」

ロベールの動きが止まった。



そして握っていた拳を下げた。




オーウェンが頭を下げた。

「ロベール殿、申し訳ない。俺が、不甲斐無いばかりに・・・」

「・・・」

ロベールは、行き場の無い怒りをどうする事もできず、唇をかみ、拳をギュッと握る。


「友達なんだ!」

いたたまれなくなって、レオンハルトが叫んだ。

「と、もだち・・・?」

ロベールがレオンハルトを凝視した。



「オーウェンは、一人でマギアスファウンテンに行くって言ってた。でも、僕が一緒に行きたいって言ったんだ・・・!」

「どういう事だ」


「僕は、友達の力になりたかった」

ロベールがはっと鼻で笑う。

「だからと言って、自ら危険を顧みず行動するなど、ありえない」

「・・・うん。他にも、理由があって・・・。僕が、不治の病にも効く薬が、マギアスファウンテンの魔物から得ることが出来るという噂話を信じて・・・」

(勿論、元傭兵のサウから聞いたというのは内緒だ)


するとオーウェンが信じられないといった目でレオンハルトを見る。

そして盛大にため息を吐く。

「そんな噂、聞いたことが無いよ・・・。はあ・・・、気がおかしくなりそうだ」

「それでも、僕は・・・」

「お前はわかっているのか!そんな噂話を鵜呑みにして!」

「そんなのわからないだろう!?本当の事かもしれないし・・・!」


ロベールは首を横に振った。

「話にならない!オーウェン殿、あんたもだ!特務部隊の一員でありながら、こんなことを」

「・・・俺は特務部隊を辞める」


「オーウェン、まだそんなことを言ってるの!?」

レオンハルトがそのオーウェンの発言を非難した。


ロベールが口角を上げる。

「果たして、それだけで許されるかな。何かしらの処罰はあって当然だ」


「ロベールがそんな事決めないでよ!!」

「!」


「なんでそんな偉そうな事言えるの!オーウェンを責めないでよ!!!」

「なに」

ロベールが驚く。

それもそのはずだ。

レオンハルトがこのように()()()()()()()()()なんて、久しく見ていないからだ。



そして、怒ったと思ったら、ポロポロと涙を流した。

「彼の気持ちも、僕の気持ちも知らないで・・・っ」

「―――――」



オーウェンが申し訳なさそうに頭を垂れた。

「勿論、罰も受けるつもりだ」


「・・・」


ロベールはそれきり黙ってしまった。


レンは茫然として動けない。


ダンダリアンがこの重苦しい緊張の空気を切り裂いた。

「と、とにかく、王宮へ戻りましょう。具体的な話はそれからでも」


「・・・」







五人は、『星降りの木』のある第四層の手前まで戻ってきた。


レオンハルトはこの素晴らしい景色を堪能したいはずなのに、『恵みのキャンディポット』をもう一度食べたいはずなのに、今は一向にそんな気分にならなかった。


レオンハルトは先ほどのロベールに対しての怒りが収まらなかったのだ。


先頭をダンダリアンと共に歩くロベール。

彼とはあれきり話をしていない。


そんなムスムスしているレオンハルトを、隣で歩くレン=レインが心配そうに見つめる。

そしてずおずと話しかけた。

「あ、あの・・・王子・・・大丈夫ですか?」


レオンハルトははっと気づき、横を見た。

心配しているレンの綺麗な翠色の瞳とかち合う。

「ご、ごめんね、レンちゃん。びっくりしたでしょ。なんか色々と、巻き込んじゃって」

「い、いいえ。その・・・、どうか、みんな、責任を取るとか、そういうのが、無いといいなと・・・」

「――――ああ。大丈夫だよ。レンちゃんは大丈夫だよ」

「・・・わ、私の事より、オーウェンさんは・・・」

「・・・」


勿論、オーウェンの事が一番心配。

でも、レン=レインにも何のお咎めも無いようにしなくては。

たぶん大丈夫だと思うけど。

(彼女をそそのかしてしまったのは、僕なんだから)

ギュッと唇を噛み、レオンハルトは前を向いた。







****





『星降りの木』のある場所を歩きながら、オーウェンは、ふと後ろを振り返る。


「・・・」

(サヨナラ、『竜』・・・)


名残惜しそうに、前を向こうとしたその時。



「あ!え!『竜』か!?」


「ええ!?」


そのオーウェンの驚きの声に、レオンハルトも振り返った。

他の者も何事かと一様に振り返る。



第四層への入り口の大きなアーチ状の岩の空洞から、小さい生き物が顔をのぞかせていた。


「やっぱり、『竜』・・・!起きてしまったのか!」


ピイイイ!

と、遠くに聞こえた。


「そこから出るな!頼むから!」

オーウェンが大きな声を張り上げた。


するとまたピイイ!と聞こえてきた。



「・・・大丈夫だと思います」

「え?」

ダンダリアンが眼鏡をくい、と上げて『竜』を見ようと目を凝らす。


「魔物は、このマギアスファウンテンから自分から出る事は滅多に無いのです。誘導魔法をかけたり、()()()()()()()()()()()()()()


「あ――――――・・・」


たしかに、町に魔物が出る事は無い。

『竜』も、オーウェンに連れ出された。



オーウェンはいつまでもこちらを見つめる『竜』を見た。

その『竜』の後ろにとつぜん、あの大きな魔物が寄り添う。


オーウェンは、ふっと何か吹っ切れたような顔をした。

「・・・オーウェン?」


「これで、いいんだ」

オーウェンは二匹から目をそらした。



「元気でな、『竜』」



そしてオーウェンは、一人、先を歩き始めた―――――。








****



王宮までの道中、馬に騎乗しながら、ダンダリアンによるちょっとした魔物講座があった。


「確かに『ベビーヘルファイア』は数年から十数年にかけて増殖するのが確認されています。しかし、極端な数の増殖は見受けられない」


オーウェンが、魔物が増殖した事だけが気がかりだったので、ダンダリアンに聞いてみたのだ。


「それに、魔物の増殖には、マギアスファウンテンの魔力の影響が関わっていますしかし現場はオーウェン殿の自宅です。何か、ごく身近に、魔力に関わる特別な事態でも最近起こりましたか?」


「別に、何も・・・あ」

何かに気づき、レオンハルトを見る。


「え?なに、オーウェン?」

(僕の顔に何かついてる?)


「それ」

オーウェンはレオンハルトの胸を指さした。


(え?もしかして僕の魔石ペンダント?)

(これはダンダリアンにはまだ言ってないことなんだけどなーできれば内緒にしたいんだけどなー。しかもレンちゃんもいるし)

隣のレンも、興味津々といった顔をしていた。


「ちょ、ちょっと!」

ダンダリアンが無理やりレオンハルトのペンダントを手に取った。

「・・・これは」

驚愕の表情だ。


「これがもしもマギアスファウンテン近くで採掘、もしくは魔物から得られたとしたなら、説明がつきますね」


「えっ、ちょ、僕のペンダントのせいだっていうの!?」


「いや、そうは言っていません。ただ、妙に説得力のある魔石ですので・・・」

そう言ってまじまじとダンダリアンはレオンハルトの魔石を見る。


こっちの話しなどそっちのけで。



「これは凄い魔石だ。私が持っている本にも載っていない。これをぜひ図鑑に―――――いや、それは危険か」

「え?」

(危険?)

「図鑑に乗せれば、この魔石を奪おうとする輩が出てくるかもしれない」

「そ、そんな人たちもいるの?」

「盗掘なんかはそうでしょう。それこそ、マギアスファウンテンにお宝目当てで行く変わり者だっている」


「そ、そうなのか・・・」

(もしかしてだから父さんはこの魔石ペンダントを誰にも見せるなと言ったの――――?)



ロベールだけが、そのやり取りをじっと見ていた。




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