表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第四章 それぞれの思惑とマギアスファウンテン
85/95

第85話 マギアスファウンテンへ(3)






「そこで何をしている!」




レオンハルト達三人が、マギアスファウンテン第四層に足を踏み入れようとしたその時。



背後から誰かに叫ばれた。



心臓が飛び跳ねそうになりながら、振り返ると・・・。





「これは領主様!」


オーウェンがその人物を見てそう言った。


(領主様・・・?)



領主と呼ばれた男性が一瞬眉間にしわを寄せ、目を凝らす。

だがすぐに何かに気づきこちらへ早足で向かってきた。


「おお、これはレオンハルト王子ではないか」


「え」


急に呼ばれてレオンハルトは戸惑う。

(だ、誰だっけ・・・)

冷や汗をかきながらじっとその男性の顔を見た。

(あれ、そういえば・・・)

王宮で見た事があったような・・・。


オーウェンがピンとこない二人にこっそり伝える。

「彼はアデンブローの領主だ」


「え!」


領主がうやうやしくお辞儀する。

「レガリア国の王子にこのような場所でお会いするとは。国王にはこの町の再建に尽力されており大変感謝しております」

そう言ってにこりと笑った。


「は、はい・・・」


が、次の瞬間真顔になった。

「ですが、まだまだお力をいただきたい」


「え・・・」

レオンハルトはその表情にギクリとなった。

(なんだろう、この人・・・)



現在のアデンブローの領主といえば、二十年前の戦争時に当時領主だった人物の子供、という事になる。

各地の領主は世襲制によるところが多いが、後継ぎは当時彼一人であった為、二十年前の戦争で殉死した領主の子供である彼が、若くして領主の座に就いたということになる。

現在の年は三十五。

その年の割にしっかりしている、というか、十歳は老けて見える。

灰緑色の髪と焦げ茶色の瞳。

名はフレデリック=ガロワと云う。

ガロワ家は代々この最北の町を護ってきた名家だ。




しかし、そんな彼がどうしてこんな場所に・・・。


領主は腕組みをして周囲をジロジロ見る。

他に誰かいないか確認でもしているようだ。

「・・・馬が括りつけられていたので不信に思いましてね」


オーウェンは少しムッとする。

「近くに警備兵がいたでしょう?通行許可は下りています。任務依頼書を見せました」


「まあ、確かにそれは言っておりました。しかし、私自身の目で確かめなければと思いましてね」


ますますオーウェンがムッとする。

「なぜ?」


その問いには答えず、キョロキョロとあたりを見渡す。

「ここは危険な場所なのはご存じですよね?三人だけですかな?他に兵は?」


(ま、まずい!)

レオンハルトは焦る。

レンも思わず持っているカバンを後ろに隠す。


「特務部隊の極秘任務があるんです。お察し下さい」

そう言ってオーウェンは偽の任務依頼書を見せる。


領主は近づき手に取りそれをジロジロと舐めるように見る。

「ふむ。特務部隊・・・」



(わ、わかってくれたかな・・・)

レオンハルトは、どうか信じて!と心の中で祈る。



今度はオーウェンが領主に迫った。

「領主様こそ危険なのではないですか?いつもここへ?」


領主は任務依頼書をオーウェンに返し、答えた。

「まさか、そう何度も来ません。不審な輩がいますからな、不定期に、抜き打ち的に来ているのですよ」


レオンはぎくりとする。

(まさしく僕らって不審者・・・)


「領主様直々に見張りですか?警備は兵士がするのでは?」

オーウェンが不信そうな顔をするが、領主は平然と言う。

「ええ、まあそうです。あくまで私個人で動いている。勿論、危険ですのでここから先には行きません。・・・それに、少し調べ物を」


「え?」


意外な発言に皆が驚いた。

(マギアスファウンテンで調べ物?)



領主は突然、悲しそうな表情になったかと思うと、話し始めた。

「二十年前の戦争・・・。私が知っている情報以外にも、何かあったのではないかと思いましてね。手がかりを探しに」


「は?」

またしても意外な話に全員がポカンとする。

(二十年前の?)


「・・・ご存知かと思いますが、私の父は二十年前、私と同じようにアデンブローの領主をしておりました。父が亡くなり私が後を受け継いだのですが」


そして続ける。

「父はその戦争で亡くなりました。ただ、戦って死んだのか、それとも、何か巨大な力によって死んでしまったのか、私は疑問を感じているのです」


「どういう事ですか」

オーウェンが眉間にしわを寄せ、厳しい表情になる。


領主はそれをチラリと見て、また話を続けた。

「戦争時、私は当時まだ十五歳で、何もわからずただ母親とともに前もって別の町に避難しておりました。だから、町で何が起こったのかは知りません。ですが、一緒に荒れ果てた町に戻ってきた人間たちが言うのです。町の状態が、人間が町を破壊するのとはまた違う、破壊のされ方になっていると」


「え―――――」


領主は小さくため息を付き、目をつぶる。

「だがその皆の疑問もいつしか消えてしまい、ただ戦争によって町は破壊されたと言い伝えられるようになりました」


「・・・」

それはレオンハルトは知らない話だった。


オーウェンもそれは知らないようだ。

信じられないような顔で領主に訊く。

「それは魔物によって破壊されたのでは?」


領主はその問いには答えない。

「二十年前の戦争で、魔物が使われたという情報はご存じなのですね」

「ええ。・・・王子も、知っているな?」

急にふられて緊張する。

「は、はい。コルセナ側が、マギアスファウンテンから魔物を誘導し、王都へ差し向けたと」

そのレオンハルトの答えに、オーウェンが付け足した。

「・・・まあ、コルセナ側は魔物を使用したと表明はしてないがな。言わずもがなだろうな」



「そう。王都へ向かった。いや、()()()()()()()()()のです。魔物がアデンブローには来ていないのです」


オーウェンが言い返す。

「でも、マギアスファウンテンから魔物が出てきたのだから、アデンブローに行ったとしてもおかしくない。情報が、うまく伝わらなかったのでは?」


(魔物・・・アラザスの本陣を襲ったのも魔物だ・・。まさか、何かつながりがあるのか?)

レオンハルトは急に不安にかられる。


「まあ、万が一、それが魔物だったとしましょう。しかし、その魔物の大群を、我が国は滅ぼした」

「そう訊いています。レガリアの――――騎士団が主体となって」

「そう。だがそこでも疑問が生じる。魔物が発生した報告よりも先に、わが町アデンブローに敵が現れたのが先だ。そして援軍を向かわせる。その援軍はアデンブローへ向かい、敵によって彼らもろともすべてが破壊された。誰一人、生き残っていない」


「そんな・・・」


なおも戦争の語り部は語る。

「・・・では誰が魔物を倒したのか?」


レオンハルトがその問いに答えた。

そう。

レオンハルト自身の一番身近な人物が関わっている出来事だからだ。

「え、そ、それは残っている本陣の兵では?たしか父さん・・・、国王がその当時本陣で指揮をとっていたはずです」

(そんなに疑問を持つ事なのか?)


「うむ。そうです。本陣の兵が魔物を駆逐したと言われている」

そして領主はチラリとレオンハルトを見た。

「そう、それによって、あなたのお父上の株も上がり、国民の指揮も高まった」


「・・・」

(なんだか、この人が言うと嫌味に感じる)


「しかし、戦争の報告書によると残りの兵は数十のはず。アデンブローへ向けた援軍と、ファウンテン左側の国境でも交戦していたのでそちらにも援軍を向かわせている。だから、本陣に残った兵はごくわずかなはずだ」


「?」

(・・・このひとは、何を言っているんだ)

レオンは背筋が凍っていくのをかんじた。


「そ、それは・・・。あ!え、援軍を王宮から呼び寄せたのでは?」

ふっと領主は笑う。というか、嘲りの笑みだ。


「!」


「まあ、そう考えるのが妥当か・・・」

そう独りごちた。


「?」


「いや、申し訳ない。お時間を取らせましたね、王子」

そう言って穏やかな顔になった。


「い、いえ!」

それにホットしたのも束の間。


またするどい視線になった。

「しかし私は今でも、それを考えています。私の父と、アデンブローの町の真相を」

「・・・」


「だが私は領主。国王からいただいたこの土地を大事にしなければいけない。あまり詮索して国王たちの逆鱗に触れてはなりませんので、どうか今言った事は内密にお願いします」


「は、はい・・・」




「では私はこれで・・」

そう静かに言って、彼は元来た道を帰って行った。




それを茫然と三人は見つめた。


オーウェンがポツリとつぶやく。

「・・・なんだかつかみにくい人物だな」


「・・・」



レオンハルトがポツリとつぶやく。

「・・・二十年前の真相・・・」

レンも気になっているようだ。

「なにか、ただならぬ事を調べているようですね・・・」



しかしオーウェンは、苦渋の表情で首を横に振る。

「悪いが今はそれを考えてる時間は無い。先を急ぐぞ」

「あ、うん・・・」

けれどレオンハルトは気になってしょうがなかった。


領主の姿が完全に見えなくなってから、三人は第四層へ入って行った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ