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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第四章 それぞれの思惑とマギアスファウンテン
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第81話 マギアスファウンテンへ(2)



マギアスファウンテンを目指し数時間。

オーウェンが言うのにはあと数十分で第四層付近まで着くというので、また馬を走らせた。


ここまで来ると、景色が変わる。

北部で寒い地方のためか、木々の種類や生えている植物、温度も少し変わった。

レオンハルトはここまで来たことが無かったので新鮮な気分になる。

レンも、あたりをキョロキョロして、まるで観光に来た時のように目を輝かせていた。




(・・・なんだろう)

レオンハルトは胸のあたりで拳を握りしめた。

さっきからその新鮮な気分とは別に、もう一つ、異質な感覚が体を巡っていた。

ずっと胸がざわざわしたり、あったかくなったり、少し変なかんじだ。

マギアスファウンテンにもうすぐ着くから、緊張しているのだろうか。



するとレンが不思議そうに右側を眺める。

「あれ・・・。ここを右に曲がると、アデンブローの町なのでは?騎士団でこの近くまで訓練のため遠征に来た事があります」


(アデンブロー?そうか、ここなんだ・・・)

レオンハルトも右を見る。

確かに、右に入るところがあり、ずっと道が続いているようだ。


「え、ってことは、その町で食糧を調達するの?」

「いや、悪いが今回は町に立ち寄っている時間は無い。このまままっすぐ進む」

そう言っているうちに、入口を通り過ぎていく。

「え、じゃあ一体どこで食べ物を・・・?」


「マギアスファウンテンの第四層付近に、食べ物の実が生る『星降りの木』という木が生っている」

レンがぱああっと顔を輝かせた。

「え、なんですかそれは!とっても素敵な名前」

レオンハルトは訝しむ。

「でも、聞いたことがないよ」

「ああ、俺も十年前の探索任務の時にはじめて知った」

「まさかその時そこで食べたの!?」


「ああ」

そう言うと、めずらしく少し顔をほころばせた。

「あれは美味しかったな」


「え!え!なにそれ!早く食べたい!」

普段寡黙なオーウェンがそんな顔をするのだ、よほど美味しいに違いない。

「まあ焦るな。もうすぐだ」


三人はまた走る事に集中した。




レンがふと顔に影を落とす。

「アデンブローの町って、二十年前の戦場だった町ですよね?」

「そうだ。町は壊滅状態。町に残っていたほとんどが犠牲になったそうだ」

「・・・」


レガリア国最北部の辺境の町アデンブロー。

一番マギアスファウンテンに近い町として有名であり、かつて戦争をしたコルセナ王国に隣接している。

戦争終結後、町は二十年かけて復興し、現在は住む人の数も少しづつ戻ってきているという。

だが、まだ二十年。

戦争の爪痕は残り、そして残された人々の心は癒える事は無い。


ゴールドローズでも見た。

レオンハルトが行った時、まだあちこちに戦争の爪痕が残っていた。

(だからこそ、あのアラザスとドレアークの戦争は、やってはいけない事だったんだ)

絶対に。

でも、もう時すでに遅し。

また同じ事を繰り返す。

このアデンブローの町のように、ゴールドローズのように。

戦争が終わろうとも、悲しみや苦しみは、終わらないのだ。


復興だとて、たくさんの資金や労力がいる。

それはとても悲しい戦争だった、というそんな感情論だけでは済まされない部分もある。

少し前にレオンハルトがサージェ草原の火事の現場にあたったときも、家が燃えて大変な目にあった人を目の当たりにしている。

それだけでも大変なのに。

(僕も、国に関わるものとして、頑張らなきゃ)

――――それでも、国が今後戦争をすると決まったら?

僕は、どうすればいいのだろう?

(尊敬している父さんの言う事には従う)

国を護るために戦うというのもわかる。

だけど・・・。

(僕の考えは、矛盾してる)

父さんたちに従うと言ったその口で、今度は戦争は駄目だと非難してしまうのだ。

(もっと、考えなきゃ。しっかりしなきゃ)

――――――兄さんたちみたいに、話し合いが出来るようになりたい。




「・・・二十年前の戦争は、どちらが勝つという事もなく、両成敗だったんだよね」

「ああ。お互い多数の犠牲を出しながらも、勝利を収める事は無く、一年以上に渡る戦争は終結した」

長い戦争によりお互い疲弊し、なんとか休戦協定に持ち込んだという。

その後年月が経ち、当主が変わったり周辺各国の状況も変わってきた事から、戦争を完全に終わらせようという事になった。





またレオンハルトたちはひた走る。


陽が高く南の空に昇っていた。

北部の地方でも、昼近くになると日差しで温かい。

(今日天気が良くてほんとに良かった)

レオンハルトは心底そう思った。


周囲は木々が多くなってくる。

道が一本続いているが、細い道なので一列でなければ通る事はできないくらいだ。


「ここもあまり手入れされていないな。十年前の探索から、誰も来ていないだろうな」

辺りを見渡しオーウェンがそう呟いた。





「なんだか、魔力を感じますね」

緊張した面持ちのレンがそう言った。


オーウェンがうなづく。

「近くなってきた証拠だな」


「うっ・・・」

(僕、何もかんじない・・・)


しかし、あの胸のざわざわや温かさは消えていた。

(なんだったんだろう・・・)






そしてしばらく走ると・・・。





「ちっ」

オーウェンが急に立ち止まり忌々しく舌打ちをした。


「どうしたの?」

レオンハルトとレンも同様に馬を止める。



「地面になんらかの魔法がかけられている」


「え!?」


「魔石が一面に敷き詰められている」


「え―――――――」


「十年前は無かったはずだが・・・」


「もしこの地面の上を歩いたら?」


オーウェンが首を横に振る。

「いや、この上には触れないほうがいいだろう。もし魔法が発動してしまえば、俺たちがここにいる事がバレてしまうかもしれない」


「そんな――――――・・・」


なぜ、そこまで?


「十年前の一件以来、それだけ強固にマギアスファウンテンを警備しているという事だな」

地面に罠を仕掛け、誰も入れないように。

さっきも、少し手前に見張りの兵が立っていた。

任務依頼書を見せたらどうにか信じてくれたが。


「じゃ、じゃあどうやってここを通るの?」

マギアスファウンテンへの道はここしかない。


「飛ぶしかない」


「そ、そっか・・・」

飛行魔法でここを飛び越えるしかない。


オーウェンがフッと皮肉げに笑った。

「しかしある程度魔法が使えるものならば、容易く突破できる。あまり意味は成さないな。まあ、マギアスファウンテンなど、よほどの者好きでなければ入ろうとは思わないと思うが」


「そうだよね、たとえここを突破できたとしても、マギアスファウンテンの中は魔物だらけなんだから」



「それじゃあ、行きましょう!」

早速レンが飛行魔法の準備をしようと、馬を降りる。

馬はここへ置いていくしかないだろう。



レオンハルトも試しに飛行魔法を発動してみた。


しかし。


レオンハルトは遠慮がちにオーウェンを見た。

「お、オーウェン、また、お願いします」


嗚呼、僕はいつになったら飛行魔法を使えるようになるのだろうか――――――。








レンがいるのに、飛行魔法が使えなくて、しかもオーウェンに抱えられて飛び越えるという恥ずかしい醜態をさらしてしまったが、彼女は気にも留めず進んでいく。



そして飛行を解除し、そこからは歩いて行く事になった。







しばらく歩くと。






「――――――・・・!」

レオンハルトは息を呑んだ。



突然目の前に、巨大な岩が見えてきたのだ。


少し離れた向こうに、アーチ状の巨大な岩がそびえ立ち、その周りを鮮やかな緑の木々が覆い尽くしている。


地上にも、頭上にも、見た事の無い花がたくさん咲き乱れていた。



そして陽の光が差し込み、見た事もないような景色がそこにはあった。


(こ、こんな場所が、この世界に存在するなんて―――――)

レオンハルトは呼吸をするのも忘れ見惚れた。


まるで別世界。

(大げさに言うと、美しい夢物語のようだ)



「綺麗――――――・・・」

レンがうっとりとした目をしてそう言う。



「ここが、第四層の入り口の手前だ」

そう言ってオーウェンがずんずん歩いて行く。



「と、とうとうマギアスファウンテンに着いた―――――――」

レオンハルトは感動で思わず泣きそうになる。


(噂でしか耳にしたことのなかった場所に、今僕はいるんだ―――――)

感じた事の無い高揚感に浸った。



「おいおい、まだ先だからな、第四層は」

オーウェンがそう釘をさす。


「はいはい。もう、感動の邪魔をしないでよね」

そう言ってむくれた。


そんなレオンハルトを、オーウェンはじとっとした目で見る。

「食料は?いいのか?いらないなら先を急ぐぞ」

「はい食べます食べますよ!!」

ムキになってそう答えた。






「これが『星降りの木』だ」

そう言ってオーウェンが自身の背丈の二倍くらいの高さの木に手を伸ばした。

オーウェンが背伸びして手を伸ばせば、一番下で実りぶら下がっている実に届く。

鮮やかな緑色の葉がたくさんついているその木には、十個ほど実がなっていた。

葉の一枚一枚がキラキラと小さい光りを放ち、とても不思議だ。

『星降り』と呼ばれる所以だと云う。


その実をパキッと枝から下り、離す。



「ほら、これだ」

そう言って、唖然としているレオンハルトとレンに見せた。


たしかに、木から採ったものだから、実なのだろうけど・・・。


「これが、実・・・?」


一見すると、ガラスドームのような形で、色は木の幹と同じような栗色。

材質は、やっぱり木の幹のようにザラザラしている。木の幹を削り、それを何枚も重ね合わせて作ったような、弁当を入れるバスケットのように感じる。


「『恵みのキャンディポット』という名前らしい」

オーウェンがレオンハルトにその実を渡した。

「可愛い名前ですね!」

レンは目を輝かせている。


受け取ったレオンハルトは扱いに困っている。

「ど、どうやって食べるの?」


「それは()()()()()()()()()()()()()


「へ?」

(開けて?)


いまいち理解していないレオンハルトに、オーウェンが苦笑する。

「俺がやる、貸してくれ」

それを渡すと、オーウェンはいとも簡単に、その実を()()()()()()()()()()()、カパッと開けた。

(フタを開けるだなんて、やっぱり外で食べる時にお弁当を入れるバスケットみたいだな・・・)


「わ・・・」


驚いた。

「これは、パン・・・?」


パンのような小さい塊が三個、入っていた。


「まあ、それに似てるな」

「似てる・・・?違うの?」

「まあ食べてみろ」


オーウェンはあと二つその実を採り、レンにひとつ渡し、自身も実を開けた。

オーウェンの実の中に入っていたのは、小さくて丸く薄紅色のお菓子のようなものが十個以上は入っていた。

「中身がそれぞれ違うんですね。なんだか実を開けるのが楽しいですね!」

レンも中を開けた。

彼女の実もまた違うものが入っていた、


オーウェンはその薄紅色の小さい丸いものを口に放り込む。

「これはきっと、マギアスファウンテンの魔力の影響だろうな」

もぐもぐとそれを咀嚼しながら言う。


それを聞いた途端。

同様に口の中に入れたレオンハルトがむせた。

「ぐっ。ごほっ」

「だ、大丈夫ですか、王子」

「う、うん。ごめん」

涙目になる。

そしてごっくん、と思わず飲み込んでしまった。


すると、レオンハルトの動きが止まり、驚きで目が見開かれる。

「―――――美味しい」


「だろ?」

オーウェンが笑う。


(なんだろう。食べた事のある味だ。国の食事会で高級な食事を食べた時の、それに該当するような・・・。すごくコクがあって美味しい・・・)


しかしまだ少し涙目のレオンハルトが、オーウェンを見た。

「大丈夫なの?魔力に影響された実を食べちゃって」

オーウェンは平然とパクパクと口に運んでいる。

「おいしかっただろう?普通に今まで食べた事のあるような味じゃないか?だから平気だ。俺も十年前に食べたがなんともなかった」

「じゅ、十年間の話しでしょ・・・」

(もう、お腹壊したらオーウェンのせいだからね!!)

と、思いながらも、その美味しさにレオンハルトの手は止まらなかった。




すると突然レンがどこかを指さした。

「見てください!ほら!綺麗な蝶々」

その方向を見ると、見た事もない模様の蝶があちこちで舞っていた。


「わあ、ほんとだ・・・めずらしい模様をしているね」

羽の部分に何色もの色が使われているもの、海の色のように青が映える蝶。黒い羽にキラキラと魔石のような斑が輝くもの、様々だ。


「ほんとに綺麗なところだね、ここは」

(エミィロリンや母さんにも見せてあげたいよ)

レオンハルトはそう言って王都に思いを馳せた。


「それもマギアスファウンテンの魔力の影響だろう」

オーウェンが冷静にそう言った。



レンはふと疑問を口にする。

「でも、どうして今までこんな美しい場所が人に知られないていないのでしょう?」

それはそうだ。

レオンハルトもこの風景がある事を初めて知った。

こんなに美しい場所なら、観光地としても有名になるのではないだろうか。

それなのに、噂になった事すら無い。



オーウェンが口をひらく。

「国や権力者の影響だろうな」

「え?」

「こういった場所が他に知れたら、たくさん人が来るだろう。そうすれば、マギアスファウンテンを探索しようとする輩や、この美しい場所から色々と勝手に採集していくものもいるだろう」

「・・・あ、そっか。だから、国としては秘密にしておきたいって事だね?」

「そうだ。十年前の探索時もここに来たが、あとでそれとなく言われた。マギアスファウンテンで見てきた事は()()()内密にしろと」

「・・・」

(たしかに、この場所が多くの人に知れて、人でごった返すような事になれば景観は悪くなり、この美しい植物や蝶などを乱獲でもされたら、それこそ美しい場所では無くなってしまうかもしれない)



オーウェンがおもむろに立ち上がった。

「腹ごしらえもしたし、そろそろ行くぞ」

「は、はいっ」


「・・・」

「王子?」


「う、うん、今行くよ!」


「・・・」

レオンハルトは辺りを見渡す。

(僕も、守りたいな。この美しい風景を)

そしていつか、エミィロリンにも見せるんだ。

鉱石列車を見せる約束をしたように、綺麗なものが好きな彼女には、たくさんの綺麗なものを見せてあげたい。






レンとレオンハルトは、先を行くオーウェンの後に続いた。

オーウェンは最初に見たアーチ状の巨大な岩の前で止まった。


「いわばこの岩が第四層の入り口。そこを抜ければ第四層だ」

そう言って、少し緊張した面持ちになった。




「いいか、この場所とは比べ物にならないくらい危険だ。心して進もう」


「はい」

二人も顔の表情が固くなった。



三人は、いよいよマギアスファウンテン第四層に足を踏み入れる――――――。







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