第80話 マギアスファウンテンへ(1)
「では私はどこへ集合すればいいですか?」
レン=レインは、例の999個入るカバンを準備しながら、そう言った。
「え?」
(まさか、行く気?)
「い、いや・・・。レンちゃんは行かなくて大丈夫なんだ。その収納魔法をそのカバンにかけたように、何か、オーウェンの持ち物に魔法をかけてくれれば。そうすれば、その持ち物も999個入るようになるんだよね?」
するとレンがきょとんとした顔をする。
「このカバンは、改良に改良を重ねて999個入るようにしたんです。だから、何度も魔法をかけて、時間をかけなければなりません。時間、あまり無いんですよね?」
「え・・・。そ、そうだったの・・・」
(てっきり、すぐに999個入ると思ったのに・・・)
「じ、じゃあ、一度の魔法につき、何個収納できるのかな?」
そうレオンハルトが訊くと、その問いには答えず、好奇心旺盛に目を輝かせたレンが言った。
「それに、私も行ってみたいです!」
「お待たせ」
レオンハルトはレンの部屋を出て、レイティアーズのいなくなった会議室を通り、こそこそとオーウェンの待つ騎士団入口前まで来た。
その頃には月の光が煌々と地上を照らし、すっかり夜になっていた。
「・・・で、一緒に行く事にしたのか」
じとっとした目でこちらを見るオーウェン。
「ぼ、僕だって最初は止めたよ!どんなに危険な場所かわかってるのかって・・・」
「それは俺があんたに言った言葉だ」
「うっ」
白い目で見るオーウェンに、思わず言葉がつまる。
(そ、そうでしたね・・・)
「で、でも、ほら。人数多いほうが、任務もはかどるし・・・」
「だから任務では無い」
「ううっ」
「まあいい。彼女は騎士団の一員なんだろう。それなりに自分の身を護る術を知っているのだろう?」
「あ・・・、そうだね・・・」
レンも、ああ見えて騎士団員だ。
収納魔法と回復魔法しか使えないらしいが、戦力になるから王立騎士団にいるのだろう。
・・・たぶん。
「では、予定どおり明朝に」
「うん」
今度こそ、マギアスファウンテンへ。
****
翌日。
朝日が昇るまで約一時間。
まだみんな寝静まりシンとした町は、少し肌寒い。
オーウェンの家の前。
二人はレンを待っていた。
今日彼女は騎士団に一日休暇願を出している。
本来なら、オーウェンの家がどこにあるかわからない彼女と一緒に、オーウェンの家に来てもよいのだが、状況が状況なだけに誰が見ているかもわからない。
だからレオンハルトとレンは別行動をする事にした。
オーウェンの家までの地図を渡したので、大丈夫だろう。
隣で腕組みをしてレンが来るであろう方向をじっと見つめていたオーウェンが、ポツリと言った。
「・・・実は、昨日夜遅くに隊長がうちへ来たんだ」
(メイベリー隊長?)
「え!何しに!?」
まさかわざわざ行くなとお説教に来たのか!?
オーウェンが無言で一枚の薄い茶色の紙切れを、レオンハルトの前に差し出した。
レオンハルトがそれを手に取る。
「これは?」
「隊長がこれを持って行けと」
「任務・・・依頼書・・・?」
大きい文字でそう書かれていた。
そしてその下には、何やら難しい文章やら数字やらが書かれている。
それ以外でレオンハルトにわかるのは、一番下に特務部隊の印が入っている事だけだ。
「それは偽物だ」
「えっ!?」
レオンハルトは思わずその紙とオーウェンを何度も見比べた。
なぜ、偽物の任務依頼書を・・・?
「それを見せれば、あちこちで警備している兵士たちにも怪しまれずに済む、と・・・」
「あ・・・」
(そ、そうか。目的のマギアスファウンテンまで行くまでにも、どこへ行くのかと聞かれる場面があるかもしれない。それを見越して・・・)
「さすがメイベリー隊長、念には念を入れて―――――って、あれ?」
メイベリー隊長は、行く事に反対していたはずだ。
オーウェンはそのレオンハルトの疑問を察し口をひらく。
「彼は、勿論反対しているが、俺たちがどうしても行きたいなら無理には止めないと、そう言っていた」
「メイベリー隊長・・・」
涙が出そうになる。
「ありがとう・・・」
ここにいないのに、思わず言葉が出た。
あとで、ちゃんとお礼を言わなきゃ。
「お待たせしましたあ~」
すると向こうから、レンが手を振って明るい笑顔を見せ駆けてきた。
オーウェンがそれを見てギョッとした。
「おいっ。あの子はあの恰好で行くのかっ?」
「ちょ、ちょっと・・・!」
オーウェンが激しくレオンハルトの体を揺さぶる。
レオンハルトは泣きそうになる。
「そ、そうみたいですう・・・」
(ハイ。言いたい事はわかりますよ・・・。僕だって同じ気持ちですから・・・)
彼女の服装は、いつもどおりの薄い長袖の服に、サスペンダー付の長ズボンだった。
靴だけは長めの茶色い編み上げブーツだが、それでも装備とは言い難い。
誰が見ても軽装。
とても魔物がいる恐ろしい場所に行く恰好では無い。
見かねてレオンハルトはレンに問いただす。
「レンちゃん、ほんとにその恰好で行くの?」
すると彼女はきょとんとする。
「はい。そうですが・・・?」
(だめだ、本当にわかっていないようだ)
「あのね、その恰好だと危ないよ。ほんとは重装備した方がいいくらいだ」
レオンハルトも実際、軽装備していた。
オーウェンも、あの頑丈な鎧を装備している。
以前雷で壊れてしまった武器は修理に出していたが、最近やっと修理を終えレオンハルトの手元に帰ってきたので、それを携行した。
王宮のみんなに怪しまれないように、前もってオーウェンの家に装備を置き、今朝それを身に着けたのだった。
レンがオーウェンに向き直った。
そしてぺこりとお辞儀する。
「お久しぶりです、オーウェンさん」
「ああ」
オーウェンはそう短く言った。
「二人は知り合いなの?」
レオンハルトが訊くと、ぶすっとしてオーウェンが言った。
「同じ国を守る組織の一員だ、少なからず知っているだろう」
そしてレンもまた。
「えへへ。いくら特務部隊が極秘な事が多い組織でも、オーウェンさんは私と同じ収納魔法の使い手ですよお?知らないわけないじゃないですかあ~!」
そう言って屈託なく笑った。
(そ、そうか。同じ魔法つながりね・・・)
レンがふと、昨日レオンハルトと交わした話の時と同じような悲しい顔をした。
「・・・クリスさんは、お元気ですか」
「ああ」
オーウェンはまた短く答えた。
するとレンは弱い笑顔を見せた。
「そうですか、良かった」
「―――――・・・」
(クリス?)
レオンハルトは納得した。
「そうか、君が昨日話してた特務部隊の知り合いってクリスのこと―――――・・・」
「おい。今はそんな話をしている暇は無いぞ」
「う、うんっ」
オーウェンに促され、二人は家へ入った。
****
「わ・・・、す、凄い。これが、魔物・・・」
レンが扉の隙間からのぞきながら、初対面のベビーヘルファイアを前に愕然とする。
「ふ、普通の動物とは、また違いますね、やっぱり・・・」
それはそうだ。
マギアスファウンテンの魔力の影響で、本来は普通の動物が異常に成長したものなのだから。
「どうだ?カバンに入りそうか?」
オーウェンが心配そうにレンの後ろから彼女を見る。
振り返ったレンは、興奮を隠せない様子だ。
「は、はいっ。頑張ってみます!」
そう言うと、収納魔法を使う作業に入った。
念のため、オーウェンが扉付近に防御壁を張り、魔物が万が一出て行くのを防ぐようにした。
(ど、どうやって入れるんだろう)
レオンハルトは興味津々だった。
一匹一匹入れていると時間がかかる。
ではどうやってまとめて入れるのか。
レンが部屋の扉の隙間にカバンを置き、手を部屋の中へ向けてかざす。
淡い光が彼女の周りを包む。
そして、風が起こった。
彼女の金碧色の髪がふわりと浮く。
その気配に、中のベビーヘルファイアたちが翼をバタつかせながら騒ぎはじめた。
部屋に音の魔石を施し防音されているので、外に音が聞こえないのが唯一の救いだ。
(や、やばい)
何もできないレオンハルトとオーウェンは、固唾を飲んで見守る。
「えいっ!」
なんとも可愛らしい掛け声に拍子抜けするが、
その瞬間、彼女の手から巨大な光が放たれ、中にいるベビーヘルファイアたちすべてが淡い光に包まれた!
そしてそのままレンのカバンへ凄い勢いで吸い込まれていった―――――!
そしてあっという間にすべてのベビーヘルファイアがカバンへ入り、部屋の中は空っぽになった。
(え――――――)
もう、終わり?
どてっという大きい音とともに、レンが尻もちをついた。
荒く肩で息をしている。
あっという間の事で簡単そうに見えても、やはり相当体力を使うようだ。
「レンちゃん、だ、大丈夫?」
レオンハルトが駆け寄る。
レンは弱く笑いながら言った。
「はい、なんとか・・・。無事に、入れました・・・」
オーウェンもレンのそばに来て膝を付き、
「ありがとう。本当に感謝する」
そう言って頭を下げた。
「・・・えへへ」
言われたレンも少し照れた。
****
三人はオーウェンの家を出て、馬に騎乗した。
マギアスファウンテンを目指し、ひたすら北を目指す。
偽物の任務依頼書があるとはいえ、三人はなるべく見つからないよう顔を隠すローブを着た。
勿論、超軽装のレンにも、オーウェンが貸してやった。
王都から出て、しばらく進むと、森の中に入った。
ここまで来ると見張りの警備兵はいないはず。
(王都から、ずいぶん遠くなったな・・・)
レオンハルトは騎乗しながらチラリと後ろを振り返る。
少しだけ寂しさを感じた。
ヴァンダルベルク王国へ同盟締結に向かった時とはまた違う感情だった。
今回は、後ろ盾も何もない。
完全に個人的であり、人数も少ない。
自分で決めた事なのに、急に不安になってきた。
(しっかりしろ、自分)
レオンハルトはそれを振り払うかのように、大声で言った。
「レンちゃんの魔法って凄いね!」
すると並走していたレンとオーウェンは同時に肩にかけているレンのカバンを見る。
今の所、一見するとただの普通のカバンであるかのようで、魔物が外に出る事も、音がする事も無い。
「そ、そうですか?」
「これで、中で普通に呼吸も出来るし、翼をはばたかせる事も出来るんだろう?凄いよ」
レオンハルトがそう言うと、オーウェンも感心しきりに頷いた。
「確かに凄い。収納魔法に関しては、本当に尊敬に値する。ぜひご教授願いたいくらいだ」
『収納魔法に関しては』というのが少々ひっかかるが、それを気にも留めず、レンはえへへ、と能天気に照れた。
レンの収納魔法【アイテム収納】は、多少隣どおしの間隔は狭いが、カバンの中である程度普通にしている事ができる。
例えると、狭い馬車の中で揺られているような感覚かもしれない、とレン本人は言っていた。
ただ、中は暗いらしいので、ある程度夜目が効くものであり、暗い中でも落ち着いていられるようなものでなければ、いわゆるナマモノである動物も入る事はできないだろう。
「でも、魔物を収納したのは初めてなので、この先どうなるかわわかりませんよ?」
心配そうにレオンハルトたちの顔を見るレン。
「マギアスファウンテンまではあと数時間。なんとかなるさ」
そう言ってオーウェンが笑った。
レオンハルトもつられて笑顔になる。
(うん。そうだ。ここまで来たらなんとかなる気がする)
レオンハルトは少し安堵の表情になった。
ひた走ること数時間。
レオンハルトの体力も限界にきていた。
「ねえ少し休もうよー」
「は?」
オーウェンが驚く。
彼はまだまだ大丈夫なようだ。
レンも言う。
「休みましょー」
「・・・っ。あんたたちは・・・」
オーウェンは、もっと体力をつけろと言いレオンハルトを睨んだ。
「体力とかじゃなくてー、だってずっと休み無しで走ってきたんだよー?もう疲れたよー」
「王子・・・」
オーウェンはあきれるが、もうこれ以上話ても無駄だと感じ、話を切り上げることにした。
「っち。しょうがない。あそこの木の陰で休むか」
どうにか妥協し、みんなで休憩する事にした。
道をすこしはずれた林の中。
馬を木にくくりつけ、レオンハルトとレンは木にもたれかかった。
持ってきた水で喉を潤す。
「はあ~、生き返る~」
そんなレオンハルトたちを冷たい目で見ながら、オーウェンもドカっとあぐらをかいて座る。
そして何故か近くにあった木の枝を拾った。
オーウェンは二人をみやる。
「マギアスファウンテンは本当に危険なところだからな、心してかかれよ」
「は、はい・・・」
二人は素直にうなづいた。
すると今度はその持っていた木の枝をペン代わりにして、茶褐色の土に何やら書き始めた。
「いいか、今行くところはマギアスファウンテンの第四層だ」
そう言って木の枝でガリガリと音をさせながら大きな円を描いた。
「そしてそのまた深い場所が第三層。ここからは魔物が出現する。層と層の間は、岩の壁や草木で仕切られている」
その円の中に、もう一回り小さい円を描き、その円をトントンと木の枝で軽く叩く。
「・・・」
レオンハルトとレンはきょとんとしながらお互いの顔を見やった。
「おい聞いてるか」
「は、はいっ」
二人は同時に返事した。
(・・・まさかのマギアスファウンテン講座でもやるつもり?)
なんだかよくわからないままオーウェンの話しを聞いていると、彼は第一層までの円を書き終えた。
「第一層に、マギアスファウンテンと呼ばれる所以である、魔力の湧き出る泉のようなものがある」
「第一層ってどんなかんじなんですかね?」
レンが興味津々に訊く。
オーウェンは首を横に振った。
「第四層ですらマギアスファウンテンの魔力の泉の影響を受けているのだ。それこそ、第一層は第四層をはるかに超える数の魔物が出てくるだろうし、たとえ魔物に襲われなくても、普通の動物が魔物になってしまうように、人間がそこへ足を踏み入れれば同じようになってしまうかもしれない。だから、具体的な事は誰もわからないんだ。第一層に魔力の泉があるというのも、昔の人が空から確認したらしい。だがマギアスファウンテンの上空であっても地上と同様に危険なのだ。何度も何度も確認のための飛んだのだろう」
「―――――・・・」
ゾッとした。
誰にもわからない魔力の泉。
しかも、動物が魔物になってしまうという事は、人間は―――――?
考えただけで恐ろしい。
もう誰も第一層の話しはしなくなった。
それを知ったとしても、どうせ入る事はできないのだ。
オーウェンはすべての円を書き終えると、今度は第四層、第三層、と文字を書き入れていった。
(それにしても・・・)
レオンハルトはその文字をじとーっと見る。
隣に座るレンも、同様の事を考えているようだ。
そしてレオンハルトが思わず口にする。
「・・・字が、へた」
「!」
オーウェンの手が一瞬止まる。
(あ。やば。怒られるかも)
思わず口走ってしまい、手で口を覆い隠すがもう遅い。
だが、レオンハルトの予想に反して、オーウェンは怒らずただ頬を赤くした。
そしてぶすっとむくれて言う。
「――――それは自覚してる。でも読めなくはないだろ」
(赤くなってる。か、可愛い・・・)
レンと顔を見合わせくすくすと笑った。
レンはそのままレオンハルトの顔を見ていると、ふと思い出した。
「そういえば王子。サウさんという方が、新たに騎士団に入ったんですよ」
(あ・・・)
レオンハルトは思わずその名前に身構えてしまう。
「ああ、知ってるよ。元傭兵でしょ?」
「そうなんです!しかも、第七部隊です。・・・あ。そ、その、ちょうど、空きが出てたので・・」
少し言いにくそうに言った。
「ああ」
(僕が、抜けたから)
よりによって、第七部隊に配属とは。
レオンハルトは冷静を装い言った。
「彼はどう?仲良くしてる?」
「はい、まだ入ってから日はそんなに経っていませんが、お話しさせていただいてます。訓練もそろそろ始まるのではないでしょうか」
「そっか」
(どうか問題を起こさないでほしいなあ~)
「でも・・・」
レンがつぶやく。
「?」
「い、いえ、なんでもないです」
少し焦りながらそう言って話を終わらせた。
(何か言いたげだったけどな)
「クリスさんは」
すると突然、レンがまったく別な話をし出した。
「え?」
「クリスさんはもうすぐお誕生日なのではないでしょうか?」
「え?え?クリス?誕生日?」
思考が追い付いて行かない。
「私と誕生日が一緒なので」
「そうなの!?・・・っていうか、クリスと知り合いなの?」
「私とクリスさんは、孤児なのです。同じ孤児院で暮らしていました」
「え―――――」
(そんなつながりがあったとは―――――)
オーウェンは無言で下を向いて話を聞いていた。
(もしかして、知ってた――――?)
「レンちゃんも、しかも、クリスが孤児院で暮らしてたなんて・・・」
「以外ですか?」
(彼はなんとなく、良い家庭のお坊ちゃんに見えた・・・)
「その、僕、クリスにあまり良い印象を持っていないんだけどさ・・・」
するとオーウェンが苦笑した。
「いつも目の仇にされてるようなかんじだもんな」
(なんだ、わかってるんじゃないか!)
「笑い事じゃないし」
ジロリとオーウェンを見た。
レンが弱く笑って言う。
「最近は会っていないのでわかりませんが、少なくとも、孤児院でのクリスさんはいい人でした」
「そうなんだ・・・」
どう『いい人』なのかはわからないが、レンが言うから本当なのだろう。
それきり、かける言葉も見つからなくて、三人の間に沈黙が流れた。
すると。
ぎゅるるるるる~
レオンハルトの腹から聞こえてきた。
レンがくすくすと笑う。
「う。恥ずかしい」
レオンハルトは顔を真っ赤にした。
「ねえ、オーウェンさん、食糧はもう無いですか?」
レンが訊く。
「俺の持っているのはそれだけだ」
そう言って、休憩しながら食べた軽食の残骸を指さす。
「えー、そうなの?ねー、他に無い?僕、この量だと、ダメかも。まだお腹が減ってるよ」
ごそごそと自分のカバンを漁るが、それもやはりさっき食べてしまったようだ。
「あ、あんたは次から次へと・・・」
オーウェンは顔がひきつっている。
「だ、だってさあ、朝は緊張して食事がのどに通らなかったんだよ~」
レオンハルトはそう言い訳する。
確かに食料といっても、持って行ける程度の軽めのものを少しづつだ。
レンのカバンには今ベビーヘルファイアが入っているから入らないし、オーウェンも一日のみの予定なので、あまり持ってきていない。
しかし、一日だ。
一日で帰ってくる予定なのだ。
「ぜ、全部食べてしまったのかっ・・・」
オーウェンはガックリとうなだれた。
短時間で全部食べてしまうなど、特務部隊にいたら考えられないような失態だ。
大きいため息を吐き、立ち上がった。
「――――わかった。あと数十分走れば、第四層付近に到着するはずだ。それまで我慢しろ」
「え?」
(それと食料とどう関係があるの?)
オーウェンは表情を変える事なく、マギアスファウンテンのあるであろう方向を見る。
「そこに行けば、食糧にありつけると思う」