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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第四章 それぞれの思惑とマギアスファウンテン
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第78話 オーウェンからの相談(4)




「なにが、大丈夫なんだ・・・?不安しかないぞ・・・」

オーウェンが信じられない目でレオンハルトを見る。



「え?僕、頑張るよ?」

「いや、頑張るとかそういう問題では・・・」

「極秘任務だし、勿論秘密も守れるよ!」

「任務じゃない」

即答された。



ここはオーウェンの自宅の『ベビーヘルファイア』のいる部屋。

あれからレオンハルトとオーウェンはさきほど相談していた場所へ戻ってきていた。


先ほどと同様、レオンハルトは椅子に、オーウェンはベッドに座っていた。




オーウェンが深いため息を吐き、頭を抱えた。

「第一、一国の王子である身に何かあったら・・・」

「オーウェン」

レオンハルトが睨む。

そしてムッとしながら言う。

「今は、友達として話してるから。王子とか国とかどうでもいいの」


(・・・まだ、根に持ってるのか?)

オーウェンはひそかに思った。


「わかった、すまない。・・・とにかく、隊長も言っていただろ。危険すぎるから二人だけで行くなら反対するって」


メイベリー隊長はひたすら反対していたが、埒が明かないので二人で出てきてしまった。

(・・・そりゃ、反対する気持ちはわかるけどさ)



「でも、行くのはマギアスファウンテンの内部じゃないんでしょ?」

「――――まあな」

そう言って飛んでいる『竜』を見ると、『竜』がオーウェンのそばにすり寄ってきた。

オーウェンはその体を優しく撫でた。


「マギアスファウンテンは第四層までが確認されている。そこが確認された中での最深部だ。俺がこの『竜』を見つけたのはマギアスファウンテンの第一層。あのへんは魔物は少ないらしい。実際、十年前の探索時は第二層まで進んだが、第二層で魔物が出たんだ。もしかしたらこの『竜』は迷いこんだのかもしれないと今になって思うが・・・」

胸に抱いた『竜』は、撫でられてうっとりと目を閉じている。

オーウェンは『竜』をそっとベッドに置いた。



「―――――いいか、マギアスファウンテンは危険な場所だ。生半可な気持ちでは・・・」


「わかってるよ!!」


レオンハルトは大声を上げた。

その声に『竜』がビクッと驚き目を開ける。


「ごめん、大きな声出しちゃって・・・」

「いや・・・」


『竜』はまたゆっくりと目をつぶった。



レオンハルトはギュッと拳を握る。

「・・・行きたいんだ、僕。どうしても」


「なぜ、そこまで」




(どうしよう。話してしまおうか)


レオンハルトはゆっくりと口をひらいた。

「・・・エミィロリンの、妹の、病気を治したくて」


「――――――・・・」


レオンハルトはギュッと目をつぶる。

「ごめん。ベビーヘルファイアを戻す事だけじゃなくて、僕個人のことも、あって・・・。ごめん、失望したよね・・・」

(友達のためにマギアスファウンテンへと言っておきながら、結局、自分の事ばかり考えるんだ、僕は)



オーウェンは一瞬言葉に詰まったが、優しい表情になった。


「なぜ、病気を治すのにマギアスファウンテンなんだ?」


「失望しないの?」


するとオーウェンは少し笑う。

「・・・失望するかよ。半分は俺の用事の為なんだろ?」


「あ・・・」


レオンハルトは無言でうなづいた。


「それでいい。その方が俺も楽だ」


「へ?」

レオンハルトの疑問は無視し、オーウェンは話す。

「さあ、質問に答えてくれ。なぜ、病気を治すのにマギアスファウンテンなんだ?」


レオンハルトはおずおずと答えた。

「・・・マギアスファウンテンの魔物を倒すと、不治の病も治せる薬を落とす事もあると聞いて・・・」

サウから聞いた、とは言えなかった。



オーウェンは首をかしげる。

「そんな話聞いたことが無いな」


「え。そうなの?」

(やっぱり信用ならない傭兵の話だ。本当にただの噂話だったのだろうか?)



「だがそれを信じていいのなら、俺一人で行ってくる。魔物を返すついでに、その不治の病も治せる薬とやらを探してみるさ」


「一人では駄目だよ!!」

再びの大声に、頭上のベビーヘルファイアたちがピイピイと騒ぐ。


それを気にも留めずレオンハルトは強い眼差しをオーウェンに向ける。

「たしかに、オーウェンは強いけど、でも、それでも心配なんだよ。大事な友達だもの」


「・・・!」

オーウェンはその言葉にはっと息を呑む。



そして少しの間のあと、黒い髪をガシガシと掻いた。

「―――――わかった。あんたには負けたよ。一緒に行こう」

「やった!」

レオンハルトが呑気に喜ぶ。


オーウェンは元通りの厳しい顔になる。

「だが一日だ。この用事にかける日数は、一日しかない。あやしまれるからな」

「うん。でも、不治の病を治す薬の件は僕が勝手に調べるから、気にしなくていいよ。無事に『竜』たちを戻せればすぐ帰るよ」

「・・・そうか」


「ところで日数ってもっとどうにかならないの?メイベリー隊長も知ってることだし、うまく取り持ってくれないかなあ?」

すっごく反対はされてるけど。

オーウェンは首を横に振った。

「新たな任務がくるだろうから無理だな。俺はともかく、あんたは特務部隊の一員だ。それに、王子で・・・」

「王子は今は関係ない!」

「あー・・・はいはい」

やっぱりまだ根に持ってるのか、とつぶやいた。


「それに、オーウェンだって、特務部隊の一員だよ」

「俺は、辞表届を出したし・・・」

「辞表届は、最終判断が国王なんだ」

「・・・」

「まだ、国王のところまでは届いていない。それに、メイベリーさんがそれを国王へ提出するとは思えないよ」

「それは、そうだが」

「それにオーウェンが言ってたじゃないか」

「え?」

「メイベリー隊長に。『安心してください。何も無かった事にします』って」

「ああ、よくおぼえているな」

「ふふ。だから、何も無かったことにすればいいんだよ、そうすれば誰も気づかない。オーウェンだって罪にならない」

「・・・王子、あんた、意外と言うな」

オーウェンは純粋に驚いていた。


「どういう意味だよっ」

そういってオーウェンをどついた。

オーウェンが笑う。


「だから、それは保留ねっ」

「お、おい・・・」






オーウェンは居住まいを正し、真剣な顔でレオンハルトを見た。

「では早速、マギアスファウンテンに行く為の準備に取り掛かろう」

「う、うん・・・」

(なんだかそう改めて言われると、緊張してくるな)



オーウェンが天井を見る。

「まず、こいつらをどうやって連れ出すかだが」

「何か策はあるの?何か袋に入れて何往復かする?」

「いや、それだと時間がかかる。猶予は一日なんだ。一日ですべての魔物をファウンテンに帰さなければならない」

「一日で間に合うのかなあ」

レオンハルトがそうぼやく。

「間に合わせなければならない」

オーウェンがビシッと言った。


「レガリア国の北部にあるマギアスファウンテンまでは馬で五時間はかかる。飛行魔法を使えばもっと早いが、こいつらを持っていくとなると速度が落ちる」

「なるほど。僕も飛行魔法使えないから、飛行魔法だと時間かかりそうだなあ」

オーウェンにじろりと見られた。

(うっ。ごめんなさいっ。訓練しますっ)


オーウェンは気を取り直し、話を続ける。

「まあ、早朝に出発し、順調に魔物をマギアスファウンテンに置いて来れたら、夜中には事が済むだろう」

「うん。それなら誰にも怪しまれないね」

レオンハルトがホッとしたのも束の間、オーウェンが急に特務部隊の任務モードの表情になった。

「だが、あらゆる事態を想定しなければならない」

「は、はい」

(やっぱり任務みたいじゃないか)

レオンハルトは思わず居住まいを正す。


それに気づき、オーウェンが苦笑する。

「すまない。俺のせいなのに、あんたに負担を強いるようなことを言ってるな」

「え!?ぜんっぜん大丈夫だよ!?」

そう大声で言った。

特務部隊の任務らしい任務を任されていないレオンハルトにとっては、こういった事は新鮮だった。

(新鮮だと思うのは不謹慎だよね。あんなにメイベリー隊長も心配してくれてるのに)

反省しつつも、マギアスファウンテンへ行けるという好奇心で、心が落ち着かない。



オーウェンが話を続けた。

「だから、魔物が一回で入る何かに入れて、持ち運ばなければならない」

(何か・・・)

レオンハルトが思い出す。

「オーウェンのあの鎧に入れたら?」


オーウェンは『収納魔法』の使い手だ。

実際、自身のヘルムにその魔法をかけ、その中に鎧を収納できるようにしているのだ。

まさにうってつけの魔法ではないか。


「ああ、俺もそれは考えた。しかし――――」

顔を曇らせ、指を天井に向ける。


「この数だ。入れるのに無理がある」


「えー残念。どのくらいまでなら入るの?」

「この大きさだと、十匹が限界だ。しかも、ナマモノは入れた事が無いからどうなるかはわからない」

「な、ナマモノ・・・。そ、そうかー。もしも入ったとして、残りの十四匹はどこへ入れよう?」

「そうだな・・・。もうひとつ何かの入れ物に、収納魔法をかけよう。入れ物は準備しておく」

「うん、お願い!」


(よしよし順調じゃないか!)

レオンハルトはスムーズに決まる話に気を良くする。



「では明朝、出発しよう」

「うん」

二人は出発時間や出発場所を決め、そのまま別れた。





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