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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第四章 それぞれの思惑とマギアスファウンテン
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第75話 オーウェンからの相談(1)


レガリア国、国王執務室。



遮音壁しゃおんへき』魔法を施された室内は、シンと静まり返っている。

内からの音は全く外へ漏れないのは優秀だが、外からの音も聞こえないなのは難点だ。

しかしそれも仕方あるまい。

・・・以前立ち聞きされてから、防音をより強固にしたのだから。



魔法がかかったのを確認し、国王と執事長の二人が話しはじめた。


国王が傭兵団と交わした契約書類に目を落とす。

「―――――この契約の期間は五年間。ただし、その間に問題が生じた場合は、契約解除となる。また、両者協議の上延長も可能」


「傭兵が五年も国の仕事に従事できますかね?」

執事長が皮肉げに笑う。


国王は困り顔だ。

「まあな。国の負担もあるしな。できれば契約などせず、口頭のみで協力体制を敷ければ良かったんだが・・・」

「仕方ありません。最初に交渉した時から、金銭の話しを出していましたから」

「まったくもってずる賢いやつらだ」

そう言って国王は笑った。


そしてまた書類に目を通す。

「契約の仕事内容は、ある一定数の傭兵を、戦争がはじまりそうならすぐに国の軍隊の援護にまわれるよう個人的な依頼を控え、国の仕事をしながら待機すること。・・・どのくらいで傭兵たちは集まりそうだ?」


「さきほど隊長のケヴィンが言っていましたところによりますと、明日にでも各地の傭兵に通達するそうです。今現在持っている仕事をこなしている傭兵たちもいますので、その者たちを抜きにするなら一週間以内には集まるのではないでしょうか」

「うむ」

「残りの、国の仕事に従事できる傭兵たち以外も、レガリア国を出ず、戦争がはじまり次第軍隊の援護をできるよう協力体制を強化すると言っています」


国王はほっと胸を撫で下ろす。

「あとは、騎士団に入団する傭兵のサウだが・・・」

「ああ」

執事長は自身の手に持っていた書類を開き、めくっていく。

そこには傭兵団の幹部団員に関する詳細が書かれている。


「一応、出身はレガリア国。今までにあやしい経歴は無しとなっていますが―――――信用はできませんね」

そうはっきりと冷酷な表情で言った。

国王はうなづいた。

「そうだな。長年傭兵団で仕事をしているとはいえ、身元がはっきりしているわけではない。騎士団への入団は許可したが、見張りをつけてやってくれ」

「はい。身元に関しても、特務部隊に調べさせましょう」


話が一段落すると、国王は疲れた表情でバサっと書類を机に投げた。

「ここまでするんだ。しっかり働いてもらわねばな、傭兵団には」

執事長がうなづく。

「ええ。今後、たもとを分かつ事にならない事を祈ります」


ふと、国王が思い出し、ため息を付く。

「・・・あとは、ドレアーク王国と――――」

そしてチラリと執事長を見た。

「ゴールドローズか」


執事長は無言でうなづいた。








****



(『不治の病も治す薬』か・・・)


レオンハルトは、サウの話は気になって仕方ないが、あくまで『噂』であるらしいのでどうしようもない。


(サウ本人に聞いてみようかな)


今後、彼は騎士団で仕事をするようになるんだから、あとでいくらでも聞ける。

(今日はとりあえず特務部隊へ向かおう)

傭兵団との会議も終わり、自分の公務の仕事は今日は無い。

まあでも、自身の所属先なのだから、特務部隊でも仕事があるかもしれない。

ロベールは別の仕事があるので、レオンハルトは一人、特務部隊に向かった。




相変わらず薄暗く、冷たい壁に触れながら降りていく。

特務部隊へと続く階段。


特に緊急の仕事は無いのだろう、シンと静まり返っている。

(戦争が無いって、やっぱり穏やかでいいな)


レオンハルトはそうしみじみ感じた。

勿論、平和というわけではない。

ドレアーク王国、ヴァンダルベルク王国、そしてコルセナ王国。

様々な国が今も色んな思惑の中にいると思う。


瞬間移動でドレアーク王国へ行き、はじめてわかった。

戦争というものを。

(人々が、殺し合うという悲惨な状況を)

ギュッとレオンハルトは目をつぶった。


「・・・っ!」

一瞬、階段を踏み外しそうになり心臓がドキリと鳴った。



「おっと」


「!」


そんなレオンハルトの体を、誰かが背後から支えた。


「オーウェン!」


振り向くと、オーウェンが立っていた。


(相変わらず、気配を感じない・・・)

・・・というか、考え事をしてて気づかなかったかな?



オーウェンが笑った。

「相変わらずだな、王子は」

「あ・・・。ありがとう、オーウェン・・・」

レオンハルトも恥ずかしそうに笑った。




「オーウェンも、今から特務部隊へ?」

「ん?あ、ああ・・・。ちょっと、特務部隊に行く前に、自宅に用事があって・・・。俺の家は宿舎じゃないから・・・」


(ああ、そうか。戦場から帰ってきたばかりだから、色々荷物を置きに行ったりとかあるのかな。しかも、宿舎じゃない?家は王宮敷地内じゃないところにあるんだ!)


しかしオーウェンは少し歯切れが悪い言い方をしていた。

(どうしたんだろう?)

顔色も少し悪いような・・・。

「オーウェン、どうかした?体調が悪いんじゃない?」


すると、ギクリとしてレオンハルトの方を見た。

「え・・・、そうか?」

「?」

(なんだか、めずらしい表情だなあ)

ほんとに、どうしたんだろう?


「別に悪くないぞ?大丈夫だ。気にするな」

「そ、そう・・・?」

「さあ、行くぞ」

そう言って先に階段をスタスタと降りて言ってしまった。



扉を開けると、いつもの特務部隊の会議室があった。

隊員たちが椅子に座り話をしていた。

(忙しそうではないな)

ホッと胸をなでおろした。



「あ、オーウェンさん、お帰りなさい」

レオンハルトへは挨拶せず、オーウェンにだけ声をかける隊員たち。

(・・・)

相変わらず、レオンハルトへの風当たりは強い。

いつもなら、王子にも挨拶しろ、とか言ってくれるオーウェンだが、今日は無言のまま椅子に座った。

不信がりながらも、レオンハルトは彼の隣に座った。



クリスがこちらへ向かってきた。

レオンハルトの方は見ず、ムスッとした顔で話しかける。

「あと少しで、隊長と副隊長が任務から戻ると思います」

「そうか」

顔を上げず、オーウェンはそれだけ言うとまた黙った。

クリスもそれだけ伝えると、すぐにまた別の隊員たちの方へ行ってしまった。



(なぜ、黙っているの?)

レオンハルトはこの機会に、特務部隊の事や、オーウェンの事を色々知りたいと思った。

「オーウェンは、どうして特務部隊の宿舎に住んでいないの?」

騎士団も特務部隊も、隊員たちはふだん宿舎に寝泊まりするのが基本だ。


突然聞かれ、オーウェンが驚く。

「あ?ああ・・・、宿舎はどうも、苦手でな・・・」

「え・・・」

以外な答えだ。

「大勢いる家が駄目ってこと?」

「・・・まあな」

(特務部隊では、口数は少ないが、うまくやっているように見えるのに)


「それに、両親が残してくれた家だから。住まないとな」

「あ・・・」

(そう。そうだ。オーウェンは何年か前に両親を亡くしているんだ。そしてオーウェンは独身で兄弟はいない。一人でそこに住んでいるのだろうか)


さみしくないのだろうか。

でも、一人暮らしだと、自由にできるのもまた魅力だ。

レオンハルトも、たくさんの人間が行き交う王宮暮らしだと、一人暮らしというものに憧れを持つ。

「だとすると、自由に友達を呼べるね!」

「はあ?友達?」

盛大に呆れられた。

「ほら、クリスとか隊員たとと、呼ばないの?家に遊びに」

「あいつらとは、そういうのは・・・」

「そうなの?」

すると、オーウェンが黙った。


しばしの沈黙の後、ボソリと言った。

「・・・俺には、友人がいないから」


「・・・!?」

レオンハルトは意外すぎて驚いた。

(オーウェンが、そんな事を言うなんて)



そして思わず口をついて出てしまう。


「じゃあ、僕でよければ、友達なるよ・・・!」

レオンハルトは、目をキラキラ輝かせていた。


「・・・は?」

オーウェンが口をポカンと開ける。



「そうだよ!僕、君と友達になりたい!もっと仲良くなりたい!」

そう声を上げるレオンハルトに、周りはザワザワしだす。


「ちょ、お前、まて、」

焦るオーウェン。

周りを気にしながら、レオンハルトを無理やり連れて、特務部隊の会議室から出た。




「な、なに?オーウェン」

まったくわからないレオンハルトは、扉の向こうへぐいぐい押しつけられて困惑する。



「どうしたの?」

キョトンとするレオンハルト。

奥の壁際まで着くと、オーウェンは大げさにため息を吐いた。

「・・・はーっ」




「わかった。友達の件はわかった。そうしよう」

とりあえず納得しておけばレオンハルトは静かになるだろう。

そうオーウェンは思った。



すると、案の定、レオンハルトは満足したようで、満面の笑みを浮かべた。

「うん!」



オーウェンはまた小さくため息を付いた。

(『友達』、か・・・)


「オーウェン?」

下を向き、何か、考えているようだった。

無造作な黒い前髪をぐしゃりとかき上げる。

「あー・・・」

「?」




そしておもむろに顔を上げ、真顔になって言った。

「お前に相談したい事がある」






****




オーウェンからの頼みごとを聞いたレオンハルトたちは、再び特務部隊会議室へ戻った。


すぐに隊長と副隊長も、任務から戻ってきた。



隊長のメイベリーが皆を集めて話し始めた。

「・・・私と副隊長は、今後の同盟の強化などに関する話し合いをドレアーク王国で行う為、護衛の任務を任され行ってきました」


シンと静まり返る会議室。


メイベリーがくいっと黒縁の丸い眼鏡を上げた。

「・・・それは表向きの任務です」


「え・・・」

レオンハルトが小さくつぶやく。


それを柔和な優しい笑顔でメイベリーが見つめた。

「本当の目的は、ドレアーク王国を調査する為です」

「・・・」

(ドレアーク王国を?)


「ドレアーク王国が『ある組織』とのつながりがあるかもしれないと噂されています」

「え?『ある組織』・・・?」

レオンハルトには初耳だらけだ。


「国王からの依頼なんです」


(父さんから?)

だとすると、噂というが、確かな情報なんだろう。


「今回私たち二人だけでの調査でしたので、深く掘り下げて調査できなかった。今度はもっと深層部へ水面下でさぐりをいれる事になるかもしれません」


今度は副隊長のガレスが言った。

「そうなってくると、俺たちは顔が割れているので行けない。別の隊員が行く事になりそうです。皆さんその心づもりでよろしくお願いします」



そうして二人の話は終わった。






(ドレアークには、一体何があるんだ!?)

(ある組織?)


本来なら新たな問題発生に、レオンハルトは頭を抱えそうになるが、今回ばかりは頭にほとんど入ってこず、話し半分に聞いていた。


(だって、さっきのオーウェンの頼みごとが・・・)



―――――あまりにも衝撃的すぎて・・・!



オーウェンをチラリと見ると、会議室を出ようとしていた。

こちらへ振り向く。

「・・・今日はもう遅いから、あの件、明日よろしく」

「う・・・あ・・・」

思わず言葉にならない返答になってしまった。

(よ、よろしくって言われても・・・)



「ど、どうしよう・・・!」








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