第7話 レガリア国 王立騎士団(2)
レオンハルトは改めて宿舎内を見渡してみた。
入口を入ってすぐに、奥まで続く長テーブルが三つと、たくさんの椅子が並ぶ。
入って右側にはテーブルがひとつ、長テーブルと垂直の向きに置かれ、その後ろの壁には戦術などを考える時用のものか、大きな大陸の地図が一枚貼ってあった。
入口にもあったが、地図の横にレガリア国の紋章が描かれた国旗が前に掲げられている。
ここはどうやら会議室のようだ。
隊員たちが忙しなく動いている。
張り詰めている空気を少しかんじ、緊張が高まってくる。
まだお客さん気分のレオンハルトは、僕なんかがこんな所にいていいんだろうかと不安だけが募る。
レオンハルトがレイティアーズに、上目使いで申し訳なさそうに言う。
「ねえ、僕、騎士団の総司令官なんて、出来るの・・・?」
「・・・総司令官?」
「うん」
「おい、それは・・・」
レイティアーズが話そうとしたその時、
「王子!」
「レオンハルト王子!」
レオンハルトに気づいた隊員たちが駆け寄ってきた。
たくさんの隊員に囲まれてしまい、離せる状況ではなくなった為、レイティアーズはそのまま口を閉じた。
レオンハルトは、普段から王宮に住む人たちと会えばよく話をするので、全員とまではいかないものの、ある程度、隊員の顔と名前は覚えていた。
さきほどまでの張りつめた空気が一気に緩んだ。
その様子に、レイティアーズとバイオレットはお互いの顔を見る。
レオンハルトはまだ楽しそうに隊員たちと話をしていた。
「遅くなりました」
「ロベール!」
ロベールは、輪の中ですっかり歓談しているレオンハルトへ近づき、耳打ちする。
「国王が外出中で不在だ。あとで一緒に報告に行こう」
「え、そうなの?・・・うん、わかったよ」
(なんだ、拍子抜けだなあ)
「それと、お前の騎士団用軍服がまだだったな。それはあとで用意しておくよ」
「うん、お願い」
(式典などの正装用の服ならいくつも持っているけど、軍服に身を通すことになるとはね)
「よし、全員そろったな。それでは席についてくれ」
騎士団長、レイティアーズが声を張り上げた。
自身は地図の前のテーブルへ移動する。
一気に室内がざわざわしだした。
それぞれが所定の位置に座りはじめる。
バイオレットが笑顔でバンバンと背中をたたいた。
「って」
「レオンちゃんだって人気者だ」
「バ、バイオレットさん・・・、男に好かれてもねえ・・・」
とても複雑な気分になった。
そう言い置きしてバイオレットはすぐに椅子に座った。
レイティアーズはレオンハルトとロベールに、座る場所を指で指し示した。
長テーブルの入口側の一番前に二人は座る。
レイティアーズ自身は地図の前のテーブルの、三つ椅子が並んだうちの真ん中に座る。
(あそこが一番トップが座る場所なんだあ)
なんだかカッコイイなあとレオンハルトは暢気に思った。
ってことは、あとの二人は誰だろう?
レイティアーズが椅子から立ち上がる。
「それでは、新しい編成になった騎士団の紹介も兼ねて、第一回会議をはじめよう」
「騎士団の団員数は現在一千五百名」
(一千五百名か・・・)
皮肉にも、レイティアーズの『親衛隊』の人数より少し多いくらいであった。
「それと、騎士団に所属せず、戦争状態に入った時のみ参加可能な『傭兵』が五百名ほどいる」
「ってことは、戦力は二千ってことか」
ボソリと隣でロベールが言った。
「二千だと、他の中規模国家にしては少なめだよね」
「お、よくわかってんな」
ロベールがめずらしく感心する。
「軍事教育も勉強したよ」
えっへん、と大袈裟に自慢する。
隣の同盟国、ドレアーク王国は「戦力を増強しろ」と言うだけあって、兵数は三千名。
一番多い中規模国家で五千名ぐらいではないだろうか。
レイティアーズがそこで話を切って奥の方を見る。
「副団長、ここへ」
「おっと、失礼」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「すまないね、少し宿舎内を見て回っていてね」
別な部屋へ通じる扉から出てきた男性が前へ出てきた。
「兄さん!?」
その声に気づいた兄さんと呼ばれた人物が、レオンハルトに目くばせした。
「聞いてなかったのか?」
横でロベールがあきれた表情をする。
レオンハルトは下を向いてしまう。
「う、うん・・・」
(というか、兄たちの行動はあまり把握していない・・・)
(上の二人の兄とは歳が離れているし、普段あまり会話をしないし、会食意外は会わない)
今ここにいる三番目の兄が一番話をするほうではないか。
「新しい副団長、ギルベイル=フォン=ラスペード殿だ」
みんな事前に知っていたんだろうか、ざわざわしない。
「勿論、言わずと知れたラスペード家王子だ」
ギルベイルがよろしく、と短く挨拶した。
レイティアーズがテーブルに両掌をついて、隊員たちに語りかける。
「今回ラスペード家の人物が騎士団の役職に就いたということで、国王側と橋渡し役のような役目もしてもらう」
(え・・・)
「戦争ともなれば逐一状況を確認し、支持を仰ぎ、行動に移さねばならない。国王のご子息であればそれが円滑に可能となるだろう」
座ってくれ、とレイティアーズに促され、ギルベイルは着席した。
ギルベイルはレイティアーズより一つ年下の二十五歳。
金髪の少しウェーブのかかったぼさぼさの髪。
容姿には無頓着なところがあったが、母親譲りの整った顔が印象的だ。
(でも、そうだよね、兄さんが騎士団にいてもおかしくない)
当然といえば当然だ。
兄さんが副団長で、僕が総司令官?
それはなんだかおかしい気がする。
(もっとちゃんと父さんに聞いておけばよかった)
ゴールドローズ魔鉱保護区へ行く直前の出来事であったため、詳細までは聞けなかった。
「そして、書記官」
レイティアーズの隣のもうひとつの空席、そこへ座る人物を呼ぶ。
王立騎士団の書記官は、騎士団の中でいわばナンバースリーの位置。
様々な重要な書類を作成するほか、会議中も団長たちと同等に意見を述べる事ができる。
書記官に任命された人物が前へ進み出てきた。
「ダンダリアン=キュベルです」
クイッと右手で眼鏡をあげる。
丸く小さい眼鏡をかけていた。
黒髪の前髪はおでこが半分見えるくらいまでの長さでキレイにそろえられている。
切れ長の黒い瞳は少しきつそうだ。
レオンハルトは、彼の事は少しだけ知っていた。
名門キュベル家は侯爵であり、その二男であった。
たまに王宮で会うこともあった。
「新組織になる前までは、別の役職だったが、今回は彼の頭脳を買って、ぜひ戦略会議でも頭を働かせてもらいたい」
彼は頭が良い。
何年も前は、試験に受かるのが難関の、王立図書館に勤めていたらしい。
しかし体つきはレオンハルトよりも線が細いので、戦い向きではない。
魔法の力量に関してはどうかわからないが。
「次は、各部隊だ」
レイティアーズは着席し書類に目を通した。
第一部隊の指揮官から順番に自己紹介していく。
そして・・・、
「第七部隊指揮官、レオンハルト王子」
「へ?」
だいななぶたい・・・?
騎士団総司令官ではなくて?
レイティアーズにジロリと睨まれ、目で立つようにうながされる。
レオンハルトがまだ茫然としているので、ロベールが仕方なく立たせる。
「挨拶を」
「えっ、あ、はい。レオンハルトです、よろしく・・・」
最後は消え入るような声で聞き取れないほどだった。
レイティアーズは書類から目を離し、今度は自身の後ろにある大陸の地図の方を向いた。
「まだ戦争ははじまっていないが、勢力図や同盟国との事など、次回の会議で行う」
「今日はこれで終了だ。みんな気を引き締めていくように」
会議は終わった。
途中からレイティアーズの話が耳に入ってこなかった。
僕には、虚しさしか残らなかった。
兄の件と、第七部隊の指揮官というのが心の中を占めて。
(僕、自分が恥ずかしいよ。総司令官なんて思い込んで、思い上がって・・・)
ギュッと唇をかんだ。
「おい、大丈夫か?」
ロベールが心配そうに声をかける。
レオンハルトの顔が青ざめていた。
その元凶の兄がレオンハルトに近づいてきた。
「レオンハルト」
「兄さん・・・」
「お前がいない間に決まったんだよ。ギリギリまで、誰にするのか国王と騎士団上層部で話し合ったんだけどな」
「そうなの・・・」
レオンハルトは下を向く。
「お前も部隊まかせられたんだから、しっかりしろよ」
「うん・・・」
「もう、遊んでる暇は無いんだぞ、わかってるよな?」
「うん・・・」
兄たちはいつも正しい。
だから、僕はいつも頷くしかできなくて・・・。
「ギルベイル王子」
ロベールが声をかける。
「おお、ロベール。騎士団でもよろしくな」
「はい」
「じゃあ、俺は公務も残ってるから」
それだけ話し、兄は入口から一人出て行った。
(やっぱり似ていない)
顔が兄と似ていないと再びかんじた。
似ているのは髪の色だけだ。
といっても、この国の半数が金色の髪である為、あまり説得力は無いな。
というか、三人は似ているのに僕だけ似ていない。
(そう思うのは僕だけだろうか)
前に一度、母さんに聞いた事がある。
母さんは、そんなことは無いわと否定したが。
今度はレイティアーズがやってきた。
「安心しろ。この騎士団すべてを任せるわけではない。第七部隊のみを任せるのだ」
「そう・・・」
(わかってるよ、そんなこと。僕には総司令官なんて、有りえない話だったんだ)
「お前が国王からどう聞いているのかは知らんが、これで決まりだ。よろしく頼む」
そう言ってレイティアーズはレオンハルトの肩をポンとたたいた。
「はい」
短く返事をして、レオンハルトは入口へとぼとぼと向かった。
「ロベールもよろしく頼む」
「ああ、こちらこそ、よろしく。では、行くよ」
「ああ」
ロベールは挨拶もそこそこに、レオンハルトの後を追った。
「じゃあ僕はもう部屋へ入るよ」
王宮へ戻り、自室のある二階へ上がった。
「ああ、ゆっくり休めよ」
ロベールはレオンハルトが自室へ入るのを見届け、立ち去ろうとした。
「・・・あ。大事なこと忘れてたよ」
レオンハルトが振り向いた。
「え?」
「ロベール、『ありがとう』。僕のわがままな旅に付き合ってもらって」
レオンハルトが少しはにかむ。
「・・・・・・」
ロベールは突然の事にうまく言葉がでない。
レオンハルトはロベールに背を向けて部屋へ向かった。
「レオンハルト」
「ん?」
呼ばれて振り返った。
「当然だろ。俺の仕事だ」
「ふふ、そうだったね」
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ロベールは少し心配になってきた。
あのレオンハルトの顔。
青ざめたり消沈したり、いつもの元気がなくなっていた。
「どれ」
ロベールは重い腰をあげた。