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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第三章 ドレアーク王国とアラザス公国
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第69話 ドレアーク王国とアラザス公国の戦い(11)



ドレアーク王国の王城。


王の住まう城としての他、攻城戦などにも耐えうる城塞としての役割も大いに担っていた。

城を丸く囲むようなかたちの外堀でしっかり囲まれ、その堅固な王城は、敵の攻撃にそなえ何度も改修され砲台が作られたり、壁を高くしたりして、現在のように見た目にもとても守りの固い城となっている。

城の正門をくぐると、すぐに曲がりくねった城までの道がある。

それはある程度勾配のある坂道で、ぐるりと二周ほどは回らないとたどり着けない。

その上にやっと王城が見えてくるのだ。





その中庭に、兵士たちが溢れ、歓喜の声が聞こえていた。




いつもはするどい眼光を目を細め、その光景を満足そうに眺めながら、兵士たちの前にまっすぐ進んでくる人物。


ドレアーク王国第十五代国王、ダンテウス=デ=ドレアーク三世。

齢五十六。

黒みがかった紺色の髪はゆるくカールされており、ボリュームがあるように見える。

それを耳の下まで伸ばしている。

口元には髭をたくわえ、その口元と、目元の下には深いしわが刻まれている。

頭には宝石などの装飾が施された王冠をかぶり、胸に大きく国の紋章の入った豪華な王の衣装を身に纏っている。



これから国王の演説がはじまるのだ。

兵士たちはシーンと静まり返った。




「・・・我々の悲願が達成された」


ゆっくりと、感慨深げにそう切り出す。



そして、




声を張り上げた。


「ドレアーク王国は勝利したのだ・・・!!」



うおおおおっ!と歓声が上がった。



「アラザス公国から領土を奪還した!国は再び元のドレアーク王国に戻ったのだ!」


おおおおお!


今日何度目かの雄叫び。



またそれを満足そうに眺める。


「こんなに良き日はない。みんなご苦労であった!今日はゆっくりと休んでくれ!」


そう労い演説は終わった。




戦争の最前線にいた総司令官も、兵士の前に立っている。

国王の演説が終わると、彼は真っ先に国王へ近づく。


「お疲れ様です」

「うむ」


総司令官が早口で喋った。

「捕虜の件と、アラザス公国の後始末、そして奪還した領土の再編、同盟国との支援体制など、まだ仕事がおありです」


じろり、と国王が見る。

「ふ。お前は本当に働くのが好きだな」


総司令官は下を向き笑う。

「これらが終われば、ゆっくりと休めます」

「さすがは我が右腕。ぬかりない奴だ」

そう言って総司令官の背中をバンと一つたたき、笑った。


総司令官が急に小声になった。

「・・・それと、()()()も来ておられます」

国王は右眉を上げた。

「ふむ。この戦争を仕掛ける上で、あの方たちにも世話になったからな。今後の事もある。丁重におもてなししようではないか」

「はい」

「すぐに向かおう」


そして二人は王城の中へと消えた。













****


「着いた・・・」


レガリア国へ到着する頃には、昼を過ぎていた。


それでも飛行魔法で飛んできたので早いほうだ。

しかもオーウェン達の飛行速度が尋常でないスピードのため、レオンハルトはついていけず、終いにはオーウェンと二人乗りできる飛行媒体を使いオーウェンに操縦してもらいながら飛行した。

飛行魔法も、飛行媒体に魔法をかけるだけでは、思うように飛べないのだ。

ただのんびりと飛行するならまだしも、今はいかに早く飛べるか、という事が求められる為、操縦する技術も必要だ。




「では俺たちは先に特務部隊へ行ってくる。国の会議ももうすぐ始まるだろうから、その時にまた」

「うん」

そして別れようとすると、

「そうだ、王子」

オーウェンに呼び止められた。

「?」

「レオンハルト王子があの場にいた事は、国王たちには伏せておく。それでいいな?」

そうだった。

バレたら色々と面倒そうだ。

「うん、そうしてほしい。ありがとう」


「クリスも、それでいいな?」

オーウェンが確認した。

「・・・」

クリスはムスッと黙ったまま頷いた。





レオンハルトは、なるべく人に会わないようにと、王宮の裏の入り口へ来た。

すると、反対側から誰かがこちらへやってくる。


「あれ、執事長!」

その人物は、レオンハルトもよく知る人物であった。

だが、彼はこちらに気づくなり、ギクリとしたような顔をした。


「レオンハルト王子」


「どこへ行っていたんですか?」


「いや、ちょっとな・・・」

執事長はめずらしく言葉を濁す。


「え?めずらしいですね、一人で・・・」

そこではたと気づく。

(これ以上聞いて、僕の事まで詮索されたら大変だ!)


「し、失礼します!」

レオンハルトはそそくさと逃げるように王宮へ入って行った。






「ロベール!」

王宮のロベールの部屋の前で、ロベールを見つた。

そして勢いよく駆け寄る。


「こら!レオンハルト!そんなに元気に走って来るなよ!」

会ってそうそう叱られた。


「へ?」


「お前は今、体調が悪くて部屋で寝込んでる事になってるんだから」

「あ・・・。そうか・・・」

オーウェンが言っていた。

「うまく怪しまれないようにしてくれて有難う、ロベール」


するとロベールは腕組みをしてムスッとする。

「今回ばかりはどうしようかと思ったよ」


「心配かけてごめん」


「まあいい。とにかく部屋へ入ろう」



そして二人はレオンハルトの部屋に入った。


レオンハルトはベッドにばふっと勢い良く仰向けに寝そべった。


「ふはわああああ」

気持ち良くて、思わず変な声が出た。


「おい」

ロベールが顔をしかめる。


(あああ、やっぱり自分の部屋のベッドはいいなあ)

そう不覚にも思ってしまう。

こんな事、してる場合じゃないのに。

横になりたい、という欲求が勝ってしまう。



「それより――――――」

ロベールが真剣な表情になる。

レオンハルトは体を起こした。




「ドレアーク王国が勝利したそうだ」


「――――・・・」

レオンハルトは、それを当たり前のように聞いた。


「・・・驚かないな。何か知っているのか?」

「うん。ええと、シュヴァルツと瞬間移動したでしょ?」

「ああ、やはりあれは瞬間移動の魔法なのか。前にお前からシュヴァルツ国王が瞬間移動が使えると教えられたから、気になって仕様が無かったよ」

「そ、そうだよね。ごめん・・・」

そして詳しく話した。


「そうか、そんな事が―――――」


「オーウェンは、僕が行った事は秘密にしておいてくれるって言った」

「そうか、その方がいい」

「あと、ユリウスさんとラドバウトさんの剣をアラザス国民に渡す話は、クリスも知らない。・・・秘密にしておきたいんだ」

「うん」


すると急に黙るレオンハルト。


「レオンハルト・・・?」

レオンハルトの表情が曇ってきたので訝しむ。



両手をギュッと握り、膝の上に置いた。

「・・・僕、はじめて本当の戦いを見た」

「・・・」



「戦って人が死んだり、たくさんの死体があったり、僕、はじめてで――――――」


ロベールは思わず息を呑む。

「―――――・・・」


下を向き、眉根を寄せる。

「僕、何もできなくて・・っ」


ロベールは、悲痛な表情でレオンハルトの頭をなでた。


「・・・つらかったな、お前は頑張ったよ」


「―――・・・」


僕はまたロベールの前で泣き言を言ってしまった・・・。

(もう、甘えたくないのに。彼に心配をかけさせたくないのに)




すると、コンコンと扉が叩かれた。

扉の向こうから若い執事の声が聞こえてきた。

「あ、あのー。会議が間もなく始まります」







****





レガリア国緊急会議がはじまった。



国王はぐるりと皆の方を見渡し言った。


「みなも既に知っていると思うが、ドレアーク王国が勝利した」



議場はシーンと静まり返った。


「ドレアークによると、亡命をはかったアラザス国民も、全滅させたようだ」



「え!?」


(そんな・・・!)


ガタン!


大きな音がした。


レオンハルトが椅子からはじかれるように立ったからだ。





皆が一斉にレオンハルトを見た。

隣に座っていたフィリップが怪訝そうな顔をする。

「・・・どうした?レオンハルト」

「あ、ご、ごめん、なんでもない・・・」

小声でそう言い、座った。



向こう側に座っているオーウェンが、眉根を寄せて顔だけでレオンハルトをたしなめた。

(う。ご、ごめん・・・)

心の中であやまった。


でも・・・

(亡命の国民が全滅だなんて・・・!嘘でしょう?)

レオンハルトの心臓はバクバクと鳴り、止まない。

顔は青ざめている。

(ど、どうしよう。バレないようにしなきゃ)

この会議場にはロベールもいない。

誰も助けてくれないのだ。



一番の不安はシュヴァルツの事だ。

(そこへ向かったシュヴァルツはどうなったの?)

話に出ていないから、大丈夫だったの?

(どうしよう、不安すぎる・・・)


・・・どんな思いで、ラドバウトさんはあの剣をシュヴァルツに渡したんだろう。

ユリウスさんは、国の意思である剣だと言っていた。そしてその意思である剣を捨て、代表者の任を捨て、誰か別な人へと渡してほしいという思いだったはずだ。

それと同じだとすると。

亡命した国民に国の意思を受け継いでほしいという事になる。

・・・でも、その国民が死んで誰もいなくなってしまったとしたら!?



「レオンハルト、大丈夫か?」


「!」


隣に座っているフィリップが心配そうにこちらを見た。

「顔が青い。やはり体調がすぐれないのでは?」

「だ、大丈夫だよ、兄さん」

「そうか」


(ああ、駄目だ。今は会議に集中しなきゃ)

フィリップ兄さんは優しい。

色々と気にかけてくれる人だから、心配かけないようにしなきゃ。





会議では、幹部から声が次々と上がっていた。


「・・・たった一日もかからず勝利した、これはゆゆしき事ですな」

「そんなに高い軍事力を保持していたのか、ドレアークは」

「だとしたら、恐ろしい事だ・・・」

「ドレアークを敵に回してはいけない」

確かに、戦争で一日も経たずに勝敗が決まってしまうのはめずらしい。

アラザス公国の戦力が少なかったにしてもだ。


その反面、それを不安視する意見もある。

「いや、ドレアークがのちのち問題を起こすのでは?今後同盟は慎重になったほうがいいのでは?」

「そうですよ!魔物まで登場したとのこと!」



ドレアーク以外の話も出た。

シュヴァルツが、瞬間移動の魔法を使えるという事だ。

既に噂話が広まっていたらしいが、真実だという事を知って、こちらもドレアークの勝利と同じくらい皆が驚いていた。





「ドレアークが勝利した事で、我々への恩恵は?」

「戦争の援護をして勝利すれば、というのが条件でしたので、援護する必要も無くあちら側が勝利しましたので、確かな報酬はありませんが、ドレアークはファウンテンも全権獲得しましたし、土地も増えました。今後様々な恩恵を得るのでは?」


それでも皆は納得しないようだ。


外務大臣が重ねて言う。

「皆様、ご心配には及びません。同盟の強化と、軍備増強の手助けを打診しましたので、我々の軍事力も近々上がり、安心して暮らせるようになりましょう」



(・・・安心?)

レオンハルトは不信感を覚える。

軍事力を増やして、それだけでいいのだろうか?



国王が周りを見渡し、締めくくった。

「とにかく、今はドレアークが勝利したという事で、戦争は終結した。いつもどおりの暮らしに戻そう」







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