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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第三章 ドレアーク王国とアラザス公国
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第66話 ドレアーク王国とアラザス公国の戦い(8)





「そこまでだよ」



残っているドレアーク兵たちの後ろから、誰かが現れた。




その声にラドバウトは顔を上げる。

「くっ・・・!」


その顔は見知っていた。


「ドレアーク王国・・・総司令官だな・・・」


ラドバウトがそう言うと、ニヤリと笑った。

「アラザス公国最高責任者、ラドバウト公よ」


ゆっくりと近づいてくる。

その後ろには、本陣にいた第一部隊隊長の姿もあった。



そして、ラドバウトの前まで来た。


「もう一人の最高責任者は、すでに我が兵によって沈められた」


ギリ、と睨む。

そして乾いた声を出した。

「あァ・・・、知っている」



「実に残念だよ。君たち二人はとても優秀な人材だ。アラザス公国ではなく、我が国に住んでいれば、平和に暮らせたものを」

「な・・・にが、平和だ・・・っ!一番平和とかけ離れている国は貴様らの国だ!!」

ラドバウトがそう叫ぶと、第一部隊隊長が眉根を寄せてジリ、と一歩踏み出す。

総司令官がそれを左手で制した。

「ふ、無駄な遠吠えだ」


そしてラドバウトの横で膝を付いている人物に目をうつす。

「ほお・・・。この人数を一人で倒すとは・・・」


ラドバウトは焦る。

(シュヴァルツ国王の事はどうにかしてこの戦争から遠ざけねば!)

「彼は偵察に来ていただけだ。アラザス公国の戦いとは無関係だ」


総司令官はそれを無視してシュヴァルツに話しかける。

「シュヴァルツ国王、だな。まさか貴殿にここで会うとは予想だにしなかったよ。単身、アラザス公国の援護に来たのか?」


「それは断じて無い!ヴァンダルベルク王国に、援護など頼んでいない!!」

ラドバウトが叫ぶ。

再びラドバウトが答えたので、総司令官は少しイラつく。

チラリと冷たい目をラドバウトへ向けた。

「今はシュヴァルツ国王に聞いているんだよ」


シュヴァルツは膝をついたまま、顔を上げない。

「本陣の戦いでも、うちの兵士たちの半数はやられてしまった。まったく、戦力をずいぶんと減らされてしまったよ」

しかしその言葉とは裏腹に、余裕のある表情だった。

シュヴァルツは無言だ。

「シュヴァルツ国王、少しやりすぎでは?今後どうなるか、わかっているのかね、君は」

するとシュヴァルツが顔だけ上げてギロリと睨んだ。

「そんなの知るか。俺は、自分の意思に従ったまでだ」


「ふっ。はははっ!」

総司令官が嘲笑した。


「一国の王とは思えない発言だな。これではレガリア国との同盟を結べなくても頷ける」

「・・・」

シュヴァルツは肩で息をして言葉を返さない。


「だが、もうずいぶんとお疲れのようだ。戦えまい」

そう言ってニヤリと笑った。

さすがのシュヴァルツも、まだ疲れが取れないようだ。



第一部隊隊長が、何やら総司令官の耳元で話しかける。

総司令官がそれにうなづく。


すると、すぐさまラドバウトの顔の前に、第一部隊隊長の剣先が向けられた。

「ッ―――――・・・」

ラドバウトは一歩も動けない。


総司令官がククク、と笑った。

「袋の中のネズミ、いや、手負いのライオンとでも言っておこうか・・・?」


そして冷ややかな目に変わった。


「もう終わりだ。捕えろ」



その声に、ドレアークの兵士数名がラドバウトへ近づいた。


すると次の瞬間。



「おい!何をしている!?」

総司令官が叫んだ。



「――――――!」

シュヴァルツが驚く。


ラドバウトが、自らの剣と持っていたユリウスの剣を、シュヴァルツの方へ向けて地面を滑らせたのだ。



「っと、あぶねー」

どうにかシュヴァルツの元まで剣が届き、手に取る。




「早く捕えろ!」

総司令官が急かす。


ドレアーク兵たちは、鎖をラドバウトの体に巻き付け、ラドバウトの両腕を捕まえる。

ラドバウトは抵抗しなかった。



総司令官の顔つきが変わった。

ラドバウトの前髪をぐいっと掴み、顔を上向かせた。

「っ・・・」

「貴様、なぜ剣を渡した。それを使って戦えという事か」

仕方なく、ラドバウトが口をひらく。

「これ以上戦わせるわけが無いだろう。・・・剣を葬ってくれと、頼んだだけだ。ただ、それだけだ」

「・・・」

それを冷ややかなまなざしで見る。

「ふん、どうだかな。まあ、いい。たかが剣二本。どうにでもなる」


そして再び合図した。

「連れて行け」

ドレアーク兵が動き出す。


総司令官がラドバウトに向けて冷笑する。

「お前はここでは殺さない。国に戻って、見せしめにしなければならないのでな」



それを聞き、シュヴァルツがギロリと睨みつける。

下衆げすめ」

そう吐き捨てた。







「ラドバウトさん・・・!!」

(僕はどうすればいいんだ!!!)



ラドバウトさんが行ってしまう!!


しかも、ラドバウトが剣を手放したという事は・・・。


(ユリウスさんと同じ事か!?)


「駄目、だよ・・・!」

(ラドバウトさんまで手放したらどうなってしまんだ!)



でも、僕は何も出来ない。


このまま見過ごすというのか!!



(そんな事出来ないよ!!)


しかし、相反する自分もいた。

もしここで出ていけば、レガリア国にとって悪い方向に行ってしまう。

もしかしたらレガリア国とドレアーク王国の仲が悪くなり、同盟解消という外交問題につながりかねない。



(でも、ラドバウトさんを助けなきゃ!!)



立ち上がろうとしたその時。




「待て」



(・・・!?)



囁く声が背後から聞こえてきた。


ギクリとして振り返ってみると・・・。



「お、オーウェン!?」


レオンハルトの後ろに、黒い服を来た特務部隊のオーウェンがしゃがんでいた。

さすがにあの目立つ鎧は今は身に着けていない。

(後ろにいる事に、ぜんっぜん気づかなかったよ・・・)

さすが特務部隊・・・。

気配を消していたのだろうか。



「どうして、ここに・・・?」

そう言われてオーウェンはムスッとする。

「それはこっちのセリフだ」

「あ・・・、そ、そうだよね・・・ええと・・・」

レオンハルトは頭が真っ白になり、何を言っていいのかわからない。


それを察して、特務部隊のオーウェンが答える。

「俺は国から頼まれてこの戦争の偵察に来たんだ」

「そ、そうだったの・・・」

特務部隊は様々な偵察の任務もこなす。

(戦いの最中に入り込むなんて、こんなに危険な任務もあるんだ・・・)


「俺の他に、クリスもいる。下で合流することになってる」

「クリスも?」


「しかしまさか、あんたがここにいるとはな・・・」

「うん・・・」

(僕がここにいること、いったい、どこから話せばいいんだろう?)

彼は信頼できる同僚だし、瞬間移動の件も話してもいいんだろうか?


「てっきり王子は自分の部屋にいるものだと思っていた」

「へ?」

「ロベール殿が言っていたんだ」

「ロベールが!?」

そういえば、自分の部屋から瞬間移動した時、ロベールもいたんだった。

心配してるだろうな・・・。


「彼が、確かにそう言っていた。体調がすぐれないから、部屋で寝ていると」

「そ、そうなんだ・・・」

(ロベールが僕がいない事をうまく誤魔化してくれているんだ・・・)

シュヴァルツと一緒に瞬間移動したのがバレると、色んな意味で大問題だ。


「という事はこれはどういう事なんだ?説明してくれ」

ああ、やっぱりそうなりますか。

「まさか、王子も任務、ということではあるまいしな・・・」

「ええと、これは、個人的に・・・」

「個人的!?」

オーウェンは非難ともとれるような顔をした。

「それはありえないだろう。戦争がはじまっている今、個人で動くなど・・・」

(オーウェンに怒られそうな雰囲気だけど!)

だんだんオーウェンの顔が怖くなってきたので、レオンハルトはここへ来るまでの経緯を正直にすべて話すことにした。

オーウェンは眉間にしわを寄せて目をつぶる。

「うーん・・・。瞬間移動か・・・。未だ誰も使えない魔法だったはずだが・・・」

そうなのだ。

そういえばあまりそこには疑問を持たなかったが、シュヴァルツは瞬間移動の魔法まで得てしまったのだ。

(やっぱり、あの魔法陣が原因?)



(しかし、気配を消しているとはいえ、いつからここにいたんだろう)

「いつから、ここに?」

「本陣の敵がこの中庭に押し寄せた時に、だ。塔を登ってきた」

と言って、後ろの低い鋸壁を指さした。

「え・・・」

その壁の向こうは、何もない。

きっとその壁から下をのぞけば、城の堀が見えるだろう。

普通なら、落ちたら死ぬような高さである。


「の、のぼっ・・・!?」

思わず変な声をだしてしまう。

ヴァンダルベルク王国の城から脱出した時の事を思い出す。

(ど、どんな身体能力してるんだよ・・・)

茫然とオーウェンの方を見る。

彼は平然とした顔をしていた。

(やっぱりそれ相応の訓練とか、してるのだろうか・・・)


「でも、後ろにいるって全く気が付かなかったよ・・・」

ガックリとうなだれる。

「気づかれないようにするのが特務部隊だ」

そうオーウェンは平然と言う。

(そうか、それも訓練か・・・)


そしてふと、思いついたように言った。

「まあ、しかしだな・・・。あんたはシュヴァルツ国王の方ばかり見て、周りを見ていなかったぞ」

「そ、そうだっけ・・・」

「それだとすぐに敵に背後を取られるぞ」

「―――なっ。う、うるさいなー」

(そんな事まで気にしてもらわなくても大丈夫ですから!)



「――――ここに来る前に、先に本陣を見に行った。で、アラザス軍が全滅していたので、急いで王宮へ向かったんだ」

本陣、と聞いてレオンハルトはいても経ってもいられなくなる。

「本陣を見てきたの!?ユリウスさんは・・・!?」

もしかしたら生きているかも、とかすかな願いだった。


あまりの剣幕に、オーウェンが戸惑う。

「最高責任者のユリウス公の事か・・・?」

「うん、そうだよ」


するとオーウェンは首を横にふる。


「あ・・・。そうだよね・・・」

僕だって、見たんだもの、あの時。

もう、動かなくなっていることを。

でも、もしかしたらと思ってしまうじゃないか。


「ユリウス公が亡くなっている事は確認した。しかし、我が国には、彼の遺体を移動することも、彼をどうすることもできない。あのままあの場所にそのままでいる」

「そう・・・、そうか・・・。かわいそうに・・・」

どこか別の綺麗な場所に移してあげる事もできないなんて。


「あんたが彼とどんな交流があったかは知らないが、仕方の無い事だ」

「・・・」

レオンハルトは口をつぐむ。



しかし急にレオンハルトがオーウェンの両腕をつかんだ。

「な、なんだっ」

「ねえ、オーウェン!彼だけは、ラドバウトさんだけは助けて!」


「な、なんだって!?」

さすがのオーウェンも驚いた。


「オーウェンなら助けられるでしょ!?」

自分でも、無理な事を言っているとは思った。

藁をもつかむ思いだった。


オーウェンは動揺した。

しかしきっぱりと否定された。

「馬鹿なことを言うな、できるわけがない」


「お願いだよ!!」



「王子!!」

オーウェンが小さく叫ぶ。


「あ・・・」

はっと気づき冷静になった。


(僕は・・・)

オーウェンに頼むなんて、間違ってた・・・。

(ああ、そうだよね、もう、どうしようもないよね・・・)


こんなに絶望的な気持ちになったのは初めてだよ。




「とにかく、すぐにここを出て国に戻るぞ」

オーウェンがレオンハルトの腕をつかむ。


「え、でも・・・」

チラリとシュヴァルツの方を見た。

僕は、シュヴァルツと一緒にここに来たんだ。

(まだ、シュヴァルツがいる)






すると、中庭を出て行く寸前、ラドバウトが叫んだ。


「俺が死んだとしても、まだアラザスの遺志は残っている!!」


総司令官が冷たい目を投げる。

「・・・コルセナに今頃着いているのだろうか?アラザス国民は」


「――――――!?」



ラドバウトが声を震わせる。

「おまえたち、知って・・・」

「少し前に気づいたさ。誤算だったな。国民が亡命するとはな」


ラドバウトは茫然とする。

(知られてしまった・・・)


今頃、亡命している国民の元に、ドレアーク軍が迫っているのかもしれない・・・。


最後の希望の光が。

(消えて、しまうのか・・・)



「お前たちは、何度国を捨てれば気が済むんだ」

総司令官がそう蔑んだ。


「捨てているわけではない!アラザスを守っているのだ!!」


「ふん。まあ、その亡命も今回で終わるがな。――――永遠に」

ニヤリと笑った。


「・・・ッ」

ギリと唇をかんだ。



すると。


「俺が、行く」


シュヴァルツがラドバウトに向けて言葉を投げた。

ラドバウトがハッと気づき、静かにシュヴァルツを見た。


「あの魔法で、合流地点に行ってみる」


『あの魔法』と言ったのは、敵に『瞬間移動』の魔法が使えると悟られない為だ。

そして合流地点とは、アラザスの亡命者たちがコルセナ兵と落ち合う場所の事。


「――――――・・・」

ラドバウトはそのシュヴァルツの言葉に、少し考え、深くため息を吐いた。

「俺が言い出した事とはいえ、君には申し訳ない事を言った。しかし、もうそれしか残っていない。頼む」


シュヴァルツがうなづいた。

そしてドレアーク兵に拘束されている彼に、言葉をかける。

「どうか、生きてくれ、ラドバウト公」

願うように。



「ああ」

彼は弱く微笑んだ。


シュヴァルツはすぐさまレオンハルトの方へ向かっていく。






「どういうことだ」


総司令官はすぐさまラドバウトに問いただした。

何も言わない彼に、苛立ちを隠せない。

ガンっとラドバウトを蹴り上げた。

「・・・ぐあっ!」


「ラドバウト公!?」

シュヴァルツが思わず足を止める。


「ここは気にするな!行け!」

ラドバウトが苦痛に顔をゆがませながら叫んだ。

シュヴァルツはまた歩を進めた。



「・・・どこへ行けと?」

総司令官が冷たい目でなおも聞いてくる。


「自身の国へ帰れと言っただけだ。お前たちだって、今はヴァンダルベルクと戦争する余裕は無いだろう?」


「ふっ・・・。どうかな。まあ、無駄な事に時間を割いている暇は無い。今はお前を捕える事。それが最優先事項だ」


そして総司令官は、この場から退却する指示を全兵士に出した。







「おい、レオン・・・、あっ・・・」

レオンハルトの元に駆け寄ったシュヴァルツは、そこにオーウェンがいることに驚いた。

特殊部隊という仕事柄、オーウェンとは顔を合わせた事がないだろう。


「彼は、レガリア国の、特務部隊員なんだ・・・」

ひそひそと小声でレオンハルトが話した。

オーウェンがお辞儀する。

「レオンハルト王子は、俺たちが責任を持って連れて帰ります」


オーウェンの真摯な瞳に、シュヴァルツがため息をひとつ付き、うなづいた。

「――――わかった。俺はコルセナの国境へ行きこれを渡す」

二本の剣をチラリと見せた。

一本はレオンハルトもよく知っているユリウスの剣だが、もう一本は・・・。

(たしか、ラドバウト公の・・・?)


「この、二本の剣は・・・」

「さっきラドバウト公と話をしたんだ。亡命中の国民へこれを渡してほしいと」

「ええ!?」

そんな、大事な事・・・。

「そうか、だからさっき・・・。ぼ、僕も・・・!」

一緒に行きたい、と口から出そうになった。

するとオーウェンがこちらをジロリと睨む。

「あ・・・」

そうだ。

僕はレガリア国へ帰らなければならないんだ。


レオンハルトは手をギュッと握り、気持ちを我慢した。

「僕も行きたいんだけど・・・ごめん・・・」

この状況では、一緒に行く事は出来なそうだ。


「お前が謝るなよ」

そして、フッと優しい目をして微笑んだ。

「すまないな。俺が、瞬間移動先を間違ったばっかりに巻き込んでしまって」


「・・・シュヴァルツ?」

なんだか、その笑顔をとても(はかな)いと思った。

シュヴァルツがまた別人に見えて不安にかられる。



「じゃあな」

そう一言言い残し、瞬間移動の魔法を詠唱した。

足元に魔法陣が現れる。



そして、一瞬で消えた。




総司令官が、彼が消えた場所へ走り寄る。

しかしもう何も残っていない。


「まさか、瞬間移動か・・・!?」

茫然と叫んだ。


周囲に驚きの声が聞こえ始めた。







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