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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第一章 レガリア国と最弱の王子
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第6話 レガリア国 王立騎士団(1)

レガリア国。

人口五万人の中規模国家である。

内陸部に位置し、西にヴァンダルベルク王国。東にドレアーク王国、南にウィスタリア公国、北はコルセナ王国に接している。

同盟国はその内のふたつの、ドレアーク王国とウィスタリア公国である。

コルセナ王国はヴァンダルベルク王国の同盟国である。



主な産業は農業と家畜飼育が中心で、農産物は他国にも輸出され、この国の輸出品の中でも最大の収入源である。

西部のマレイ平野を、テランス川が南東から北へ貫流しており、その川の水を引いて農業を行っている。

北部は森林に覆われており、あまり人が立ち入らない地域もある。


王都は、中南部に位置するエヴァリス。


魔鉱石に関してはほとんど採れないので他国に依存する。

以前はヴァンダルベルク王国と取引していて安定していたが、同盟破棄により輸出入できなくなった。

現在は同じく鉱山のあるドレアーク王国に頼っている。

しかしながら、ヴァンダルベルク王国より鉱石の産出量が圧倒的に少ないので輸入量は大幅に下回ったが、ドレアーク王国に頼らざる負えない状況が続いている。







レオンハルトとロベールは、来た時より少し急いで数日かけて自国へ戻って来た。


王都エヴァリス。

人口五千人が暮らす、レガリア国の中で一番人口が多い王宮のある町だ。

農村地帯が多いレガリアの中で、商業施設の数が最多。

魔法学校や図書館、軍の施設などの政府が運営する施設も充実している。

その為町はいつも賑やかで、民家や様々な店が軒を連ねている。

国王の住まう王宮は、町の中心より少し西側にあり、一本の大きな石畳の通路が王宮と町をつなぐ。



二人は賑やかな通りを避け、細い通路を通る。

そして町で一番大きな広場へ出た。

綺麗な石畳の地面に、中央にある大きな噴水が印象的である。

ここを通らなければ王宮へ行けないので、見つからないようにローブのフードをかぶり直し、二人は急ぎ足で通り過ぎる。


露店を出している者やベンチに座り談笑している人々、時には吟遊詩人がここで歌を歌うときもある。

それらを横目で見ながらレオンハルトは大きく息を吸い込み、安堵の表情を浮かべる。

「なんだか懐かしいなー」

「・・・この前出発したばかりだろ」

ロベールはあきれ顔だ。

「やっぱり自分の国が一番だよ」

「・・・反対されてもあの国へ行くと言ったやつが、よく言うよ。・・・あ。おい、」

ロベールの悪態を聞く前に、すでにレオンハルトは一人でさっさと歩きだしていた。


王宮へ向けて。







****

王宮は低めな塀で囲まれており、王宮の門をくぐりしばらく歩くと、そこには広大な敷地が広がっていた。

様々な草花が目を引くトピアリーガーデンと、綺麗に並んだ石畳が王宮まで一直線に続く。

そしてその一番奥には、大きな宮殿があった。


レガリア国の王宮。

石とレンガ造りで構成され三階建ての本館は横に長く、両翼に円蓋式の塔が連結されている。

エメラルドグリーンの屋根がシンプルながらも美しい。

基本的に豪奢な装飾などは無くシンプルな作りであった。

いくつもの部屋があり、ラスペード家一族と王宮に務める人々が居住している。

又、別館としていくつかの施設も建てられている。



レオンハルトはずんずん王宮の方へ歩いていく。

慣れ親しんだ自分の家。

今まで何往復、いや、どのくらいこの道を行ったり来たりして町へ遊びに行った事だろう。

国民からすると長い距離に感じると云われるこの一本道も、レオンハルトには慣れたものだった。

だがこれ以上長い距離となると、すぐに飛行魔法に頼りたがる悪い癖がある。


王宮の入口の前までやってきた。

そして後ろを歩いているロベールの方を振り返ろうとした。

その時。



「――――――貴様」

「わっ!でた!」

突然背後から冷たい声が聞こえてきた。

レオンハルトは思わず飛び上がる。

恐る恐る振り返ると、そこには一人の背の高い男性が立っていた。

腕組みをしてこちらを冷酷なまでの瞳で上から睨みつけている。

(いや~~~~)

「騎士団員なら休暇などとらず毎日鍛錬に励むはずだ!」

静かに怒鳴られる。

レオンハルトは首をすくめた。


彼は、これからレオンハルトが束ねなければならない(・・・・・・・・・・)王立騎士団の騎士団長。

名をレイティアーズ=シルヴァードル。

シルヴァードル家は代々レガリア国で騎士団に所属し国に仕えてきた家柄で、彼はその嫡男。

年齢は二十六歳。

又、剣と乗馬の名手だ。

父の跡を継いで数年前から騎士団長を務めている。

性格は冷徹でストイックであり、以前レオンハルトが乗馬の訓練をした時、彼が指導したのだが、練習のたびに怒られ説教され、苦手であった。

たとえ国王の子供であろうと誰であろうと、容赦しない。


そして何より目を引くのは銀色の腰まである長い髪と、冷酷なアイスブルーの瞳。背が高くしなやかな体躯。

その髪は後ろでひとつに束ねられていた。

アラムとはまた違った形の美形であった。



そのレイティアーズに『休暇』という言葉だけで片付けられてはまた厳しくなると思い、説明をして誤解を解かねば、となんとか平常心を保とうとする。

「きゅ、休暇ったって、ちゃんとした理由があって・・・」

ギロリ、と睨まれる。

「貴様があの国へ行ったのは知っている」

(え・・・)

「そうなの?」

「国王から聞いている」

「それじゃあ・・・」

話しが早い。

が、レイティアーズに更にギロリ、と睨まれる。

「一体何を祈ったというのだ」

(うっ・・・)

中には、あの国で祈る事を馬鹿馬鹿しい、と思う人たちもいる。

もしかしたら、彼もそうなのかもしれない。

「その・・・・・・」

結局、あの魔法陣が出現して、祈りどころではなくなった。

祈るために、行ったのに。

シュンとなるレオンハルトに、レイティアーズが訝しむ。


「まあ、こうして帰ってきたんだし。レオンハルトもやる気だよな?」

追い付いてきたロベールが助け舟を出した。

「ロベール・・・」

(まあ、やる気になってはいないけどね・・・)

レイティアーズが腕組みをしてチラリ、とロベールの方を見る。

「そうか、ならいい」

ロベールの話に、レイティアーズがわかってくれたようだ。

ロベールはレイティアーズからある程度の信頼がある。

レオンハルトがホッとしたのも束の間。

「今からでも行くぞ!」

「え、ええ~!?」

レイティアーズがレオンハルトの腕を掴み歩き出そうとする。

「レイティアーズ、僕は国王に報告に行ってからそっちに行くよ」

「ああ、わかった」

「え、ロベール?」

僕も一緒に・・・と言おうとしたが、

「いいから来い!」

レオンハルトは首根っこをつかまれ、無理矢理引っ張られていった。

「いや~助けて~」

「・・・健闘を祈る」

ロベールはそう言って手を振った。



王宮の中に入り、回廊を通る。

日差しが入ってキレイな影を作る。

(子どもの頃は王宮内を好き放題走り回って怒られていたっけ)

この回廊も、好きな場所だった。

あまり人も通らず、静かに外を見ていたい時などに、ここで中庭を見たり読書をしたりした。

でも、今は少し違うみたいだ。

何人もがレオンハルトたちに会釈をして通り過ぎる。

少し足早で、忙しそうだ。

レイティアーズと同じような軍服を着ていた。





(そういえば、ゴールドローズ魔鉱保護区での一件は、噂になっていないのかな)

思い出したらドキドキしてきた。

ロベールは、うまく報告してくれるだろうか?


「・・・ところでどこへ向かってるの?」

まだ首根っこを掴まれたままの状態で、レオンハルトが言った。

「勿論、王立騎士団宿舎だ」

王立騎士団宿舎?

あれ、だったら王宮の中に入らなくても、宿舎まで行けるんじゃ?

そう、聞こうとしたら、

「お。なんだ、重いと思ったら」

レイティアーズがパッと手を離した。

え?僕の首根っこ掴んでるの気づいてなかったの?

それとも冗談??

そう突っ込もうと思ったが、また睨まれたら怖い。

レイティアーズという人間がイマイチまだ良くわからない。



「ロベールが来るってことは、彼も騎士団のメンバーなの?」

ふと、先ほどロベールと別れる際の会話を思い出した。

「当り前だろう。お前の従者なのだから」

何が当たり前なのかはわからないが、彼は魔法も剣術も長けている。

戦闘ともなれば、きっと頼もしい一人だ。

(・・・あ、もう怒ってないのかな?)

レイティアーズは普段誰かを呼ぶ時『お前』と呼ぶが、怒っている時は『貴様』と呼ばれる。

少しホッとしたレオンハルトであった。



回廊を抜けると、いったん王宮の外へ出る。

そして少し先に騎士団宿舎があった。

レオンハルトも何度か見学をしたことがあったが、本格的に入るのは初めてだ。

宿舎は騎士団の団員の住む家でもあり、会議をする部屋、武器庫などがある。

その隣に訓練場がある。

少し緊張しながらレイティアーズの隣を歩いていると・・・、


「キャーーーーーー!」

突然、悲鳴に近い女性の声が聞こえてきた。

「!?」

何事かとレオンハルトは周囲を見渡す。

「あ・・・」

そこには、こちらを嬉々として見る複数名の女性がいた。

(だ、だれ?見たことない人たちだ)

「ね、ねえ、あの人たちは一体・・・?」

こんな場所に、しかも女性がいるなんて・・・。

みんな若い女性だ。

王宮に住む人たちでもなさそうだ。

レイティアーズの方を見ると、彼はため息を吐いた。

「またか・・・」

「また?」

不思議そうにレオンハルトは聞き返す。

「いつもここで待っているんだ」

難しい顔でレイティアーズが答えた。

「誰を?」

「・・・・・・」

レイティアーズは珍しくバツが悪そうだ。

どうしたんだろう・・・。

「ねえ・・・」

私を(・・)だ!!」

逆切れされたようなかんじで苛立ちいっぱいの表情になった。

(へ?なんで?)

「知り合い?」

「知るか!」

そう言ってスタスタと騎士団宿舎へ入っていった。

「あ、ちょっと、待って!」


「「「キャー!レイティアーズさまぁ~がんばってえ~」」」


(・・・レイティアーズさま?がんばって?)

なにやら様子がおかしい。




「はははっ、あの娘たちまた来たの?」

「え・・・」

宿舎の方から声がして見ると、入口から顔を出して笑みを浮かべている人物がいた。

レオンハルトはその顔に見覚えがあった。

赤い髪に、見たこともないような豊満な胸。

レオンハルトはいつも目のやり場に困っていた。

「バイオレットさん!」

「やあ、久しぶりだねえ、レオンちゃん」

「・・・『ちゃん』は止めてください・・・」

久しぶりに会えた人物なのに、一気にテンションが下がってしまった。




****

レオンハルトはバイオレットに促されて宿舎へ入った。

「あの人たちは?」

「彼の『応援団』だって」

「『親衛隊』ですう~」

(わっ、聞こえてたの!?)

少々離れている場所で話したつもりだが。

そして彼女たちは、なんとか宿舎をのぞこうと無理矢理体を突き出していた。

そこは他の騎士団員が制止して、そのまま帰されていた。



「し、親衛隊・・・?」

レオンハルトは正直気後れした。

イマイチあのテンションについていけない。

世の中こんな事もあるんだ。

彼、とはレイティアーズの事。

容姿端麗、頭脳明晰、剣術にも長け、乗馬も上手い、ともなれば、他が黙ってないのは当然の事だ。

勿論、レオンハルトも彼が女性の人気が高い事は知っていた。

ひとたび町に降りれば必ず女性の人だかりができる。


しかし、親衛隊?

親衛隊とは、元々軍の組織などの名前で、現在の『騎士団』のようなもので、現在大陸では使われていない名称だが、王など位の高い人物を護る組織のはずだ。

「レイティアーズを守るってこと・・・?」

あの女性たちが?

戦いとは無縁そうな弱そうな女性たちだったぞ。

そう言うとバイオレットに笑われた。

「いやいや、戦わないよ。だからあたしが言っただろ、『応援団』だって」

「まあ、さっきも『がんばって』と声をかけてましたね」

「そうそう。名前だけの親衛隊さ。彼を陰で応援できればいいんだ」

「はあ・・・よくわからない」

「女性の気持ちがわからないようじゃまだまだ半人前だねえ」

「え、ええ!?」

あっはっはっは、とバイオレットは豪快に笑った。

バイオレット=ポドワン。

赤いボリュームのあるウェーブのかかった髪を長く伸ばし、上でひとつに結っている。

肌の色は少し日に焼けていて健康的。

年齢はレイティアーズと同い年の二十六歳だ。

女性の団員は少数であるが、男性と同じ深緑色の軍服を着こなし、いつも堂々としていて、芯の強さがあった。

また、ほとんど女性は魔法使いだが、バイオレットは剣術使い。

しかも馬に乗り、髪と同じ色の赤い剣をふりまわす。

レオンハルトを『ちゃん』づけで呼んだり、色んな人の面倒を見てくれるので姉御肌な人物であった。

話しやすく、レオンハルトも彼女をとても頼りにしていた。



「親衛隊って、レイティアーズも了承してるの?」

「そんなわけあるか!」

怒鳴られた。

「き、聞こえてたの・・・」

レイティアーズがいつのまにか横に来ていた。

腕組みをしてムスッとしている。

「親衛隊は最近できたんだよね、レイティ」

「ああ。そんなもの出来ても困るがな」

バイオレットは、レイティアーズの事を『レイティ』と呼ぶ。

(レガリア国の中でも、彼をこう呼べるのは、バイオレットただ一人だと思うな)

同い年で、しかも小さい頃から同じ訓練場で鍛錬したらしい。

そんな長年の縁もあり、バイオレットへの信頼が厚いのかもしれない。



「ほら、戦争になるかもしれないだろ?だから作ったらしいよ」

「へえ・・・」

ふと、レオンハルトは疑問を口にした。

「彼女たちは王宮務めの者でも無いんでしょ?でも、何故簡単に王宮内へ入れたの?」

バイオレットは頷く。

「勿論。事前に申請したんだよ」

「ああ、そういえば、そういうのがあったね」

事務的な仕事等手伝ったことも無いが、なんとなく記憶していた。

「色んな書類作ってね」

「そ、そこまでして・・・」

「ふふん、彼の人気をあなどっちゃいかんよ」

ふっふっふ、と不気味な笑いをするバイオレット。

「なんたって、『親衛隊』の申請人数は千人だからね」

「せ、せんにん・・・?」

(それって、町中の女性みんなってこと・・・?)

そりゃ、書類も通るはずだ。

レオンハルトは苦笑いするしかなかった。



「とにかく私は今すぐ解散してほしいものだ」

「まあ、もうすぐ彼女たちも現れなくなるだろう、そこまで浅はかじゃあ無いはずだよ。戦いがすぐそこまで来てるからね」

ため息交じりに言う。

「ああ。そうしてもらわないと困る」

戦いがそこまで来てる。

その言葉にレイティアーズは表情を引き締めた。

「しかしあんたも女心がわからないからねえ」

バイオレットがレイティアーズを見ながらため息をつく。

「そんなものわからなくてもいいだろう」

飄々としている。

(僕と同じこと言われてる)

はじめてレイティアーズと同等ということに不謹慎にも嬉しくなった。


レイティアーズは最初から対処に困っている様子だった。

(そうか、彼女たちを避けるために、わざわざ王宮の中を通って宿舎に来たんだ)

(もしかして女性に弱い?)

そういえば、王宮に仕える者たちが一堂に会して食事をした時などは、僕の妹のエミイには優しかったな。

少しだけ、彼の別な一面が見れたような気がした。


(そうだ、それに・・・)

親衛隊の女性たちは、僕に見向きもしなかった。

第四王子なのに。

(勿論、今まで僕は表だった国の行事に参加した事は無くて、あまり顔は知られてはいないけど)

わかってるけど。

でも、なんだか、ちょっとサミシイ。


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