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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第三章 ドレアーク王国とアラザス公国
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第57話 開戦の火蓋




「なんだと・・・!」

国王は青ざめながら立ち上がる。



「確かな情報だな」


執事長が頷く。

「アラザス公国へ向かっているのを確認しました。また、ドレアーク側から今後駐在員として駐在する特使が二名、現在書簡を持ち我が国へ派遣されて来ました」

「ああ、駐在員の件は、以前決めたな・・・。そうか・・・」

「王宮へ通してよいですね?」

「ああ。では、私ものちほどその者たちに立ち会う」

「はい、では準備いたします」

国王が頷く。

「立ち会い次第、すぐに会議を開こう。まったく、さきほど会議は終わったばかりなのに、皆を呼ぶのは忍びないが・・・」

「仕方ないことです。では、すぐに」

そう言って執事長が出て行く。




「ぼ、僕は特務部隊に・・・」

そう言い、どさくさにまぎれ、レオンハルトも出て行こうとする。

「待て」

やっぱり捕まった。

(だ、だめか・・・)


「お前はここにいて私についていろと言ったはずだ」

「は、はい・・・」

(僕、特務部隊に行って仕事がしたいよ・・・)

チラリと父を見ると、その顔は非常に厳しい顔に変わっていた。

(突然のドレアークの進軍の報だからな・・・)

(状況が状況だけに、今は素直に父さんの言う事を聞いていよう)



「よし、私は先にドレアーク側の特使に会ってくる。先に会議場へ行っていろ」


「は、はい!」


足早に部屋を出る父を、レオンハルトは追いかけた。






****




緊急会議が開かれた。

今度はさきほどの会議とは違い、国政に関わるほとんどの人たちが集まった。


皆が戦いの時の装備に着替えていた。

ほとんどが軽装備であるが、重そうな鎧を見に着けている者もいる。

レオンハルトもいそいで国の制服である軍服に着替えてきた。

(専用の装備は、たしか騎士団訓練場にあったはずだ)

(そういえば、僕の壊れた武器、どうしよう・・・)

あとで修理に出す予定で、騎士団訓練場に置きっぱなしだった。

(あそこにはいろんな装備が揃ってるから、あとで取りに行かなきゃ)




全員が集まり、話がはじまった。

皆が緊張の面持ちで国王を見る。

「そしてドレアーク王国がアラザス公国へ侵攻した。間もなく、アラザスへ到着し、交戦に入るかもしれん」


ざわりとする会議場。


「さきほど、我が国へ駐在する事が決まったドレアークの特使から聞いたが、同盟国に於いては、戦況によって援軍を頼む可能性を考え、軍を集め戦いの準備をし待機していてほしいと」



「だから我々は、すべての戦力を集め待機し、この戦いの動向を見守る」

皆が固唾をのんで、国王の話をきく。

「アラザス公国の同盟国も、少なからず動きをみせている。彼らも、どう出るかだな」


(シュヴァルツ・・・)

レオンハルトは心配になった。

ヴァンダルベルク王国は、アラザスを守るために何らかの援護をするのか、それとも、別の策を取るのか――――――。




そしてすぐに、戦争の準備に関する、あらゆる事が決められていった。

「各地の領主たちにも、通達しました」

「傭兵も、集めておきましょう」



レオンハルトはゴクリとつばを飲み込む。

(本当に、始まったんだ・・・、戦争が・・・)


まだレガリア国は戦争していないが、同盟国の戦争だ。

もう、対岸の火事では無い。

少しおそろしくなり、辺りを見渡すが、誰ひとりとして怖気づいている者はいない気がする。

(みんな凄いな・・・)

恐がっているのは、僕だけなんだろうか。


(だめだ、考えるとますます怖くなる)

今は、与えられた仕事だけをこなしていこう。

しかし、今のところ、自分に与えられた仕事は無いようだ。

(兄さんたちは・・・)

彼らをチラリと見る。

盛んに他の幹部たちと意見を交わしていた。

戦争時は、フィリップは国王の補佐、アレクシスは王城やその他の施設に駐在している警備兵たちを取りまとめ、万が一『王都』の中に敵が進軍してきた場合は、最前線で戦う役割だ。

そしてギルベイルには元々、騎士団副団長、そして国王側との橋渡しの役目という重要な仕事がある。

(僕は・・・)


―――――同盟交渉も失敗した。

そして職場を転々とし、たらい回しの有様だ。

そうだよね、もう僕に、大事な仕事なんて出来るわけが無い。




レオンハルトがそう悲観している間に、会議が終了した。

皆がそれぞれの役割を全うしに、次々と出て行く。


(僕は、まだ父さんのそばを離れられない)

修理はまだ終わらないのかな。

国王は次から次へと相談に来る幹部たちと話をしていた。



すると、アレクシスが通り過ぎた。

通り過ぎざまにレオンハルトに言葉を投げかける。

皮肉たっぷりの表情で。

「なあ、レオンハルト」

「兄さん・・・」

「本当にお前たちは親友だったのか?本当は友達では無かったのではないか?」

「なっ・・・!」


「やめろ、アレクシス」

後ろから、フィリップが来た。

アレクシスは咎められると無言で部屋を出て行った。



それを見やりながら、やれやれ、とフィリップはため息を付きレオンハルトを見る。

「フォルスネームの儀はまた延期だ」

「あ・・・」

(そうだった。フォルスネームの儀をやるって兄さん、言ってくれてたんだ)

まだ、覚えていてくれてたんだね。


フィリップは心底申し訳なさそうな表情になる。

「すまないな。こういう状況だから、いつやれるかは・・・」

レオンハルトは首を横に振って笑顔を向ける。

「ううん、大丈夫だよ。いつになっても構わないよ。やってくれるだけで僕は嬉しいよ」

「・・・」

一瞬、フィリップが何か言いたそうな顔をした。

「兄さん?」

「・・・わかった。では、またな」

が、すぐさま表情を変えて部屋を出ていった。




まだ国王が話しをしていたので、レオンハルトはなんとなく手持ちぶたさになる。

すると、会議場の入り口で、レイティアーズとヴィクトールが話しているのが目に入った。


「やあ」

声をかけてみる。


「ああ、王子」

二人がレオンハルトに気づき、話を止める。

「ごめん。僕、今、やること無くてさ」

すると、レイティアーズがしかめっ面になった。

「・・・何を言っているんだ、こんな時に。特務部隊に行ったらどうだ?」

「うん。行きたいんだけど、今は父さんのそばにいなくちゃいけなくて」

「何の仕事が?」

「うん・・・。公務の手伝いって言われたんだけど・・・。これが、理由でね」

レオンハルトが胸を指さす。

その胸の中では、魔石のペンダントが眠っている。

レイティアーズはその仕草で察したようだ。

「―――――そうか」


「???」

ヴィクトールには何の事かわからない。

「ねえねえ、どういうこと?」

「お前は知らなくていい」

冷ややかにそう告げる。

「えー、どういう事だよ、それー」

その二人のやり取りに、レオンハルトは思わずくすくすと笑ってしまう。




「こら。声が大きいぞ」

後ろから突然、重低音の声が聞こえてきた。


「あ・・・」

軍務大臣だった。


そして持っていた書類でバシッとヴィクトールの頭をはたく。

「って」

ヴィクトールは自身の頭をなでさする。

そのままシュンとなるヴィクトール。

(え?二人はどういう関係?)

そもそも、ヴィクトールとも、軍務大臣とも話す機会があまりないので、彼らの交友関係がわからない。



すると、軍務大臣が口をひらく。

「ヴィクトール、お前は騎士団で真面目にやっているのか?そんな風だから、いつまでたっても俺に言われるのだ」


「はいはい」

めんどくさそうに返す。

「返事が軽い!」

「はい!!」

仕方なくヴィクトールがビシッとした声で返事をし直す。


軍務大臣はため息交じりにレイティアーズを見る。

「よろしく頼むよ、レイティアーズ君」

「ええ」

レイティアーズがそう言ってお辞儀をし、軍務大臣は去って行った。



「・・・・・・」

しばし呆然とするレオンハルト。


鼻をポリポリとかいてヴィクトールが言った。

「――――なんだか、王子に恥ずかしいところ見られちゃったね」

「私は何度も見てるがな」

そうレイティアーズが皮肉る。

「ちょ、茶化さないでくれるかなあ?」


「あ、あの・・・軍務大臣とは、あの・・・?」

レオンハルトは少し聞きにくいが、思い切って訊いてみた。

ヴィクトールもなんだか言いにくそうだったが、少し眉を下げはにかみながら教えてくれた。

「彼は、僕の兄さんなんだよ」

「え!?」

(し、知らなかった・・・!)

(というか、体格が良いのは似てるけど、顔がまったく似てないよ!?)

端整で甘い顔のヴィクトールと、いかつい顔の軍務大臣。

(あ、髪の色は白銀髪で同じだった)

しかも、年齢が離れてない?

軍務大臣はたしか四十代で、ヴィクトールは二十代。

二十歳は年が離れていることになる。


その白銀の髪をガシガシとかく。

「ま、正確には腹違いの兄、だけどね」

「え?」

「母親が違うんだ」

「あ・・・」

(顔が似ていないのはそういうことか・・・)

「そ、そうだったの・・・」

以外にも、複雑な家庭環境だった。

いつも明るいヴィクトールからは想像できなかったから。



「よしっと、また兄さんにお小言言われないうちに騎士団に行こうっ」

そう明るく言い議場を出た。

「私も行く。何かあれば言え」

「うん。ありがと」


気心の知れた者が誰もいなくなり、レオンハルトは一人ぽつんと会議場の隅に残った。






ふと、国王が話の合間を見計らい、レオンハルトを呼んだ。


「そうだレオンハルト、これを地下へ届けてくれ」


渡されたのは一枚の紙切れ。

「地下?」

地下と聞いて思わずギクリとするレオンハルト。

立入禁止書庫の事を思い出してしまう。


「場所は地下の鉱石保管庫だ」

それを聞いてほっとする。


「鉱石保管庫ね」

「この紙を見せればわかるだろう。あと、これは許可証だ。これが無いと地下に行けないからな」

「うん」


―――――そういえば。

(地下に行く事を許されたのは初めてかも!?)

(僕にもやっと地下へ行ける許可が出たんだ・・・!)

やっと、僕も少し大人になれた気分?

「行ってきま~す!」

張り切って大声を出す。

足取りが軽い。

軽すぎて浮きそうだ。


「おい、大丈夫か?子供の使いではないのだぞ?」

挙動不審なレオンハルトに、心配になって国王が声をかけた。

「大丈夫だって~」

そう呑気に答えた。






レオンハルトはすぐさま地下へ向かった。

鉱石保管庫は、国に入ってくる鉱石のほとんどを集めて置く重要な場所だ。



地下へ行く途中、ロベールに出くわした。

「どこへ行くんだ?」

「どこって、ち・・・」

『地下へ』と言いかけてやめた。

立入禁止書庫での一件があるので、地下の話をすると危険だ。

またロベールが何かよからぬことを考えそうで怖い。


「なんだよ、言えよ」

「ちょ、ちょっと、ね・・・」

うまく誤魔化す方法を探し考えあぐねていると、ロベールはレオンハルトが手に持っている紙切れを奪い取った。


「あ・・・!」

奪い返そうと手を伸ばすが、時すでに遅し。

ロベールはその紙切れ二枚をしげしげと見ている。


「へえ・・・」

そしてニヤリと笑った。

許可証では無い方の紙切れだけを、レオンハルトに返す。

そしてその許可証を手に持ちこちらへ向ける。

「これで正当に地下へ行けるわけだ」

「な・・・な・・・」

(何を考えているの?)



「返してッ!」

「おっと」

ロベールは紙を持っている手を上にあげ、返してくれない。


「これ、少し僕に貸してくれよ」


「は・・・?」


そしてロベールは地下とは逆方向に歩いていってしまう。


「ちょ、待ってよ!それ、どうするつもり!?」

レオンハルトも急いで後を追う。



「だから、これがあれば、地下に入れるだろ?」

(まさか、この許可証で地下へ入ろうとしているの?)

「え、でも、これ、僕の名前入ってるし・・・」

許可証には、入室する理由と地下へ行く者の名前を書く欄があり、国王の筆跡でしっかりと書かれていた。

他の者がこれを持って地下に行くのはさすがに無理があるだろう。


すると。

「上級魔道士をなめるなよ?」

そう言って口角をあげた。


「え?上級?・・・ロベール、上級じゃないよね?」

ロベールの能力は中級の少し上。

(あ・・・)

ふと、一人の人物が思い浮かんだ。

「も、もしや・・・」

「そう。ご明察。あいつだよ、あいつにちょちょっとこれを細工してもらうさ」

そう言って嬉しそうに許可証をゆらゆら振った。

そう、あいつとは――――――――。





****



「無理です!!」

「そこをなんとか」

「無理無理無理無理ぜっったいムリ!!!」

「頼むよ。お願い」

ロベールがニコニコしながら云う。

(・・・それがひとに物を頼む態度だろうか?)


ここは、騎士団宿舎内の、書記官ダンダリアンの部屋。

またしても、ロベールがダンダリアンに頼みごとをしに来たのだ。

あの許可証にちょちょっと?細工をしてもらいに。



(早く返してほしいんだけど、大事な仕事頼まれてるのに)


(っていうか、またロベールがよからぬことを考えてる)

危険な方向に行かなければいいけど。

どうしてロベールはこういう時だけ不真面目になるんだろう。





すると、頑として『無理』の一点張りのダンダリアンに、ロベールは最終手段に出た。


ドン、とロベールが机に分厚い本二冊を置いた。

「――――――よし、世界地図最新刊と最新薬草学で手を打とう」



「乗った!」


(う、うそでしょーーーー!)


あっさりと決まってしまった。



ダンダリアンが机に置かれた本をすぐさまパラパラとめくる。

「おお・・・!おおっ・・・!素晴らしい・・・!」


(ちょ、ダンダリアンさ~ん!)

何やら興奮して目が怖い・・・。

(っていうか、いつの間にロベールは本を持ってきていたんだ・・・)



しかし、すぐさまキリっとした目に変わる。

「わかりました。引き受けましょう」

(引き受けちゃうのーーー?)



「もう、さっさとやります!戦争もはじまってますし、騎士団会議もありますので!」

なんだか、なげやりになっていた。




ダンダリアンはすぐさま杖を出し、許可証を床に置く。

そしてそこへ向けて何かの魔法を詠唱した。



(魔法陣だ・・・!)


許可証を中心に淡い青い光を放つ小さい円が床から浮かび上がった

小さい丸印がいくつも描かれた紋様が円の中に描かれている。



すると、その魔法陣の中から、もう一枚、同じ紙が現れた。

(え、なに。すごすぎ)



見ると、レオンハルトの持ってきた許可証と同じものが出来上がっていた。

(複製したって事・・・?)


「よし、あとはあの魔法で・・・」

二人は夢中でやりとりしていた。


(ちょっと、僕の存在、忘れてない?)


「もうっ、僕知らないからねっ」

そう叫び、レオンハルトは部屋を出て行こうとした。


「あ、ちょっと待て。もうこれいらないから」

そう言ってロベールが許可証を渡す。




(も~なんなんだよ~)

もしかして、僕はただロベールの趣味に使われただけ?

(ひどすぎる扱いだ!)

「も~!仕事に集中してやる~!」

なんだか悔しくなってそう叫びながら、地下へむけて走って行った。







****



レオンハルトは許可証を見せ、地下へ通された。

(堂々と入れると、こんなにスッキリした気分になれるんだ)

再び足取り軽く降りて行く。




(ん・・・?)

地下へ降りると、左の通路奥に、人影が見えた。


暗闇の中、目を凝らしてみると、黒いローブを全身に纏った人物が立っていた。



(――――――まさか、不審者!?)

レオンハルトは思わず身構えた。





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