第56話 レガリア国 会議(3)
トントン
また、扉をたたく音。
(今度は誰だ?)
「はい」
「レオンハルト王子、国王様がお呼びです」
扉の向こうから、声が聞こえた。
(あの一番若い執事だ)
「父さんが!?」
扉を開け、執事にもう一度確認した。
(やっぱりお呼びだそうだ・・・)
(しかも、僕ひとりで来いと・・・)
どうしよう・・・。
「不安しかない!」
レオンハルトは心配そうにロベールを見た。
「なんの用だろう」
ロベールは苦笑して、さあ?と両手を上にあげた。
レイティアーズが扉へ向かった。
「私は騎士団へ戻るので、これで失礼する」
「うん。――――――任務の事、色々ありがとう、レイティアーズ」
「ああ」
レイティアーズは微笑み、そのまま部屋を出た。
それを見送ると、ロベールも出て行こうとする。
「さてと、僕も別な仕事をするから、行くよ」
「え!ロベールはついてきてくれないの!?」
「だって、お前だけなんだろ?僕が行くとまた色々言われそうだ」
「う・・・。ろ、ロベールぅ・・・」
「じゃあな」
そう短く言い、ロベールは退室してしまった。
(・・・・・・)
扉を閉め、ロベールは考える。
(今は、信じよう。国王を)
―――――あの時、寝ているレオンハルトの髪を撫でた時。
『国王』としてではなく、普通の『父親』のように接していた気がした。
(まあ、僕には小さい頃から『父親』がいなかったけどね)
そう思いながら苦笑した。
****
国王の執務室。
国王は肘掛椅子に肘をのせ、静かに切り出した。
「レオンハルト、お前の魔石を修理に出す」
「え」
「代わりにこれを付けていなさい」
そう言って、国王はひとつの大きな魔石が付いたペンダントを渡した。
そう言われたらレオンハルトも何も言えない。
ためらいながらも、首からかけていたペンダントをはずす。
国王に渡し、渡された代替品のペンダントを受け取った。
「うむ」
それを手に持ち、じっくりとその魔石を見て確認し、自身の懐へしまった。
レオンハルトは、渡されたペンダントを自分の首にかける。
持っていた魔石よりも一回り大きい紫色の魔石。
だが、あの魔石のように、流星のように流れる物質は入っていなかった。
「修理する人物には、この王宮に今来てもらっているから、すぐに終わるだろう」
「は、はい」
(一体だれが修理するんだろう)
「その間、危険が伴わないように、修理が終わるまでは、私の元で公務を手伝うように」
「は!?公務・・・?」
国王がうなづく。
「今からだ」
「あ、あの・・・、僕、特務部隊での仕事は・・・?」
「ああ、今はいい。後で連絡しておく」
(そんな・・・)
騎士団を辞めさせたと思ったら、今度は特務部隊を・・・?
「もちろん、修理が終わったら、特務部隊に戻っていい」
(なぜ・・・?)
レオンハルトの疑問は頂点に達する。
聞くなら今だ。
レオンハルトは意を決した。
「父さん、この魔石はなんなの?魔物が落とす戦利品と、何か関係があるの?」
「―――――レオンハルト、おまえ、それは――――・・・」
国王は驚きを隠せない。
しかし、すぐさま冷静さを取り戻す。
「この魔石は護身用に過ぎない。魔物など、そんな物騒なもの・・・」
「じゃあ、あのゴールドローズの魔法陣は!?」
レオンハルトが思わず叫ぶ。
「なに?」
国王は眉をしかめる。
「レイティアーズから聞いたんでしょ?魔法陣からシュヴァルツが強大な魔力を得たって!」
「―――――っ」
国王は言葉が出ない。
ようやく、言葉を絞りだす。
「・・・確かに訊いた。あの魔法陣はどうやら彼に魔力を与えたようだな。しかし、それ以外は私にもわからない・・・」
「そんな事言って、父さん、他にも知ってるんでしょ!?何故魔力を与えたの?僕を狙った魔法陣だったの!?」
レオンハルトは矢継ぎ早に質問する。
国王は下を向き、顔をゆがませる。
「すまない・・・、わからないんだ・・・」
「そんな・・・」
すると国王が急に勢いよく顔をあげた。
「お前は?何もなんとも無いんだな?お前も魔法陣でダメージを受けたのだろう?何もその後変わりないんだな?」
今度は国王がそう早口で確認した。
「父さん、なんで、そんなに・・・。何が心配なの・・・?」
何を確認しようとしているの?
すると、独白するように国王が小さい声で言った。
「駄目だ、お前は知るもんじゃない、知ってはいけない・・・」
(知ってはいけない・・・?)
急にレオンハルトの体に悪寒が走る。
「な、なにそれ・・・。なんで、なんでだよ!!!父さん!!」
思わずレオンハルトは父の腕にしがみつく。
国王は悲痛な表情でレオンから顔をそむけた。
「父さん・・・?」
どうして・・・。
何を隠しているの・・・。
どうして、そんなに悲しい顔をしているの・・・。
これ以上、何も言えなくなるじゃないか・・・。
こんなにももどかしい気持ちになったのは初めてだよ。
その時。
「国王!!」
執事長が入室の合図も無しに入ってきた。
「どうした」
国王の表情が固くなる。
走ってきたのだろうか。
めずらしく息が上がっている。
「ドレアークが・・・」
「ドレアーク王国が、進軍をはじめました・・・!」