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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第二章 ヴァンダルベルク王国と最強の王
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第53話 幼き日ーシュヴァルツー(2)





・・・母さんは、レオンハルトと初めて出会った年から数年で亡くなった。

病気だった。

葬儀の時やそれ以外でも、レオンハルトはヴァンダルベルクへ何度も来てくれて、王城に泊り、夜遅くまで話をしたり、片時も離れず一緒にいてくれた。




それからしばらくは、俺は父さんの書斎にいる事が多くなった。

(ここなら、安心できる)


「お、またここにいたのか」

「父さん、お帰り」

父の書斎の長く大きいソファに寝転がり、本を読んでいたシュヴァルツが顔を上げた。

公務に忙しい父さんは、毎日ひっきりなしに書斎を出たり入ったりする。

「レオンハルト君は最近は来ないのか?」

「ん・・・、そういやしばらく来てないね」

そう言ってまた本に目を落とした。

・・・レオンハルトの妹であるエミィロリンの病気を治したいと、二人で薬の材料を探しに木登りして落ちそうになるという事件があったが、もしもその前から母さんの病気がわかっていたら、俺はもっと無茶な事をしていたに違いない。

母さんの病気がわかってから、レオンハルトのエミィロリンに対する気持ちも手を取るようにわかるようになった。

俺自身が薬を作るのは無理だと解った。

でも、どうにかして、なんとかして治してあげたかった。







シュヴァルツは、アラムから文字を教わり、なんとか自分で本を読めるようになってきた。


(ルカの両親は、岩石や鉱石などの、守護神だった・・・)


そしてより近くで護るため、地上に降り、地上で暮らした。

そしてルカが生まれる。

(へえ・・・意外だな。地上で暮らしてたんだ)


シュヴァルツが顔を上げ、ヴァンダルベルク国王、ルビウスを見る。

「父さん、ルカって、地上でずっと暮らしてたんだって」


「そうらしいな。――――またその神話を読んでいるのか?」

不思議そうに父が訊く。


「うん。それに、ルカの両親って石の守護神だったんだって。なんか親近感が沸くな」

そう言って笑顔になる。


「そうか」

ルビウスは書斎の椅子に座り、真面目な顔でシュヴァルツに目線を合わせる。

「―――――石は固く動かない、不変性、永久性を意味する。その反面、たとえば鉱石から魔石が出来るように、変化、成長するという意味合いも持ち合わせる。その相反するふたつを併せ持つ、とても不思議な存在だよ」


「・・・・・・」

シュヴァルツはそれをジッと耳を澄ませ真剣に聞いていた。


ルビウスは微笑む。

「だから、鉱石は無限の可能性がある。それこそ、お前が薬を作りたいと言っていた、その薬にも鉱石が含まれていいたりするからね。・・・最近は薬を作っていないのかい?」


そう言われて、シュヴァルツはふてくされて別な方を向いた。

「作ってないよっ。もう、からかわないでよね。俺に作れるわけないって最近気づいたんだから」

「ははっ。なんだ、もうあきらめるのか」

「だって、俺はっ・・・」

ルビウスを見る。

「?」


「父さんの仕事を、継ぎたいから」

「――――――」

ルビウスは思わず言葉に詰まる。

国王を継ぐ話や、仕事の話はまだ漠然としか話したことが無かった。

(ここまで、考えていたとは)


「―――――ありがとう、シュヴァルツ。じゃあ、もしも私が死んだら、この国を頼んだよ」

「―――――ッ!」

シュヴァルツが顔をこわばらせた。

そして溢れてきた涙で顔をぐしゃぐしゃにして叫んだ。

「死ぬなんて言うなよ!父さんまで死んだら、俺、どうすれば・・・ッ」

ルビウスが駆け寄ってシュヴァルツを抱きしめる。

「すまん、父さんが悪かった。だから、泣くな――――――」

「くっ、うっ・・・」

父の胸の中で泣いたのは、初めてかもしれない。










『もしも私が死んだら、この国を頼んだよ』



今でも、心の奥で響いている。



ああ、父さん。


俺は父さんのように、この国を守れるのか―――――――――?







****





「―――――レガリア国との同盟が無くなる!?」






母の死から、また更に数年後。



シュヴァルツは、それをアラムから聞いた。




シュヴァルツの顔は青ざめた。

アラムはいたって冷静に言う。

「同盟の解消は、噂では前々からあったでしょう?」


「で、でも、噂は噂だろう?」

まさか、それが本当になろうとは。


「ドレアーク側が一方的に同盟を切ったそうです。そしてレガリア国にも、我が国と同盟を解消するようせまり、仕方なくレガリア国も同盟を解消するそうです」


「そんな・・・」



「ドレアークめ!何を考えているんだ・・・!」

シュヴァルツはこの悔しい感情をどこへ向ければいいかわからない。


「くそっ!」

ガン、と自室の椅子を蹴り上げた。


「・・・・・・」






****







「くっ・・・!うッ・・・」



痛い。




苦しい。



なぜ俺だけこんな目に遭うんだ。


なぜ、



「ッ・・・!あああッ・・・!」




なぜ、


憎い、



憎い、


みんな、消えてしまえ――――――――。




黒い感情が、心を覆い尽くそうになる。



(だ、めだ・・・)







気が、狂いそうになる。








頭の片隅から聞こえてくる。


なんで、今この情景が見えてくるんだ。

同盟が解消されて最後に会った日の出来事。



『シュヴァルツ、同盟が無くなっても、僕たち』


あいつはとても悲しい顔をしていて。






ああ、おかしくなる、








『ずっと 友達だよ』









(壊れてしまいそうだ)















****



あの強烈なまでの痛みは消え、たまに少し痛くなるが、普通に生活できるようになってきた。

とはいえ、新国王となる身は、さまざまな事をしなければならなく仕事に忙殺される日々だ。

そして、混乱するこの国を、なんとか立て直さなくてはならない。





「失礼します」

書斎にアラムが入ってきた。

「ああ」

シュヴァルツは書斎の椅子に座り、たくさんの書類に目を通していた。

アラムは彼の真正面に立つ。


「―――――レガリア国のレオンハルト王子の件ですが」

その途端、シュヴァルツが勢いよく顔を上げた。

「おお、どうだった?」


「・・・。偵察部隊によると、健康上何の問題も無く過ごしているそうです。現在は騎士団に所属していると」


「そうか。そうか・・・、良かった・・・」

心底ほっとしているようだった。

(あのゴールドローズの魔法陣は、俺のようにはダメージを与えなかったようだな)


アラムはそれを見て眉根を寄せる。

「少し甘いのではありませんか」

「は?」

一体何のことなのかわからない。


「友情という不安定なものに囚われ、同盟交渉ができますか?今後の国政を担っていけますか?」

「――――――なッ!?」

思いがけず忠告された。


シュヴァルツが机をドンと叩く。

「友情が不安定なものだというのは、訂正しろ」

「シュヴァルツ様」

アラムは食い下がらない。


シュヴァルツが立ち上がり、鋭い視線を窓の外へ移す。

「わかってる。俺は――――――」





「国王になったんだ」










夕暮れ時。

忙しく走り回る中、ふと、中庭を通る。


(見立て鉱山・・・)

それがあったであろう場所を、シュヴァルツは見遣る。

「・・・・・・」

服の中に忍ばせていたもの。

それを手に取る。


それは()()()()()()()

どこにでもあるような、何の変哲も無い。

それを、ポイっと()()()()()投げた。

その鉱石は、以前貰ったもの。

――――――()()()()()()に。

苦痛にさいなまれた時、無意識のうちに握っていたのだ。

しかも、レオンハルトに会うたび、()()一粒の鉱石を貰っていたので、結構な量になっていた。

部屋の至るところに置いてあるのだ。

そりゃ、手にも触れてしまうさ。

「ふっ」

その多さを思い出し、ひとり苦笑する。




そして、投げたその右の手のひらを見つめる。

「・・・・・・」



(なぜ、痛む)



もう、昔のことだ。


そう。

あの頃には、戻れない。


みんな、過去のことなのだ。





俺は、この国を守らなくてはならない。

この魔力を手に入れ、条件は揃った。

ならばもう、後戻りはできない。

この国を、守るのみだ。





見立て鉱山の周辺に、影がひとつだけ長く長くのびていた。







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