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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第二章 ヴァンダルベルク王国と最強の王
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第50話 ヴァンダルベルク王国(8)同盟交渉

交渉に行く人物は、レオンハルト、レイティアーズ、ヴィクトール、警備兵二名。

今回特務部隊は、あまり顔が割れると今後の任務に支障をきたすということで、宿屋で待機という事になっている。

城に着くと、国王側についていった外務大臣が、正門で待っている手筈だ。




城へ行く道中。

レオンハルトは隣を走るレイティアーズに話しかけた。


「正面から入って大丈夫なの?」

「今回は就任式のように、こそこそ覗き見るのではなく、堂々と正面から入れるぞ?」

レイティアーズが笑った。

「もうっ、それは謝ったじゃんっ。茶化さないでよっ」

レオンハルトがふくれた。

「はは。冗談はさておき、先ほどまでは特務部隊の軍事力確認の任務があったからな。それで内密に行動していたが、今だけは違う」

「ふーん」

「第一、特務部隊まで来ている事は伝えていないんだから」

そうだった。

任務の内容にもそんな事が書かれていた。

(あれ、でも)

「が、ガレスは?ガレスは国王側で城に入ってるよ?」

レオンハルトは少し息が上がってきた。

しかしレイティアーズは涼しい顔をしている。

「ああ、あいつは副団長としてある程度表舞台に立って活動している。顔が割れているんだ。だから堂々と国王側について城に入れる」

「そ、そういう理由だったの・・・」

(しかしあの年齢でほんとすごいね、ガレスは・・・)




正門が見えてきた。

「よし、いるな」

外務大臣が見えた。

何やら警備兵と話している。


こちらに気づいたようだ。

「やあ、ここだ」

彼のひょろりとした体つきは、警備兵といると余計に目立つ。


「お待たせしました」


浮かない顔の外務大臣。

レイティアーズが訝しむ。

「―――どうしました?」


金髪のビシッと撫で付けた頭をポリポリとかく。

「いやあ、君たちを入城させていいか、今もう一人の警備兵が確認に行ってるんだよ」

「え!!」


「そんな事をしていると時間が・・・」


外務大臣がそうなんだよね、と眉を下げる。

「他のヴァンダルベルク王国の側近でも一緒に連れてくれば、すぐに通してもらえただろうかね、失敗したね」

「いえ、大丈夫です。すぐ戻って来るでしょう」

レイティアーズが外務大臣の言を否定した。



「これはレオンハルト王子」

もう一人、正門を任されている警備兵がこちらを見て一礼する。

「あ!こんにちは。久しぶりだね」

「ええ。お久しぶりでございます」

彼はそれだけ言ってまた前を向いてしまった。


この警備兵は、レオンハルトがシュヴァルツの所へ遊びに行くと、いつも正門に立っている警備兵だった。

特に何か会話を交わすわけではないが、門を通るたびにいつも笑顔で会釈してくれた。

今は、なんだか暗い顔をしていた。

(そりゃそうだよね)

ふと、聞いてみたくなった。


レオンハルトは警備兵に近づく。

そして彼だけに聞こえるように話す。

「ねえ、今回の事、君は知っていたのかい?」

「どういう意味ですか?」

警備兵は顔だけこちらを向いた。

一応、答えてくれるらしい。

「君も見ていたんだろ?シュヴァルツ国王が、あんな物凄い威力の魔法を使っていた事だよ」

「ああ」

少し考えて、

「ですが、他国の方には教えられません」

すぐさまレオンハルトは口をひらく。

「僕は知らなかったんだ、あんな魔法が使える事を。()()()()()

「!」

警備兵はそのレオンハルトの発言に少しうろたえたが、ため息交じりに言った。

「そうですか・・・、ええ、()()()、実際驚きました」

「そう・・・」

警備兵たちも知らないという事だ。

「ありがとう、答えてくれて」

「どうか内密に」

レオンハルトは黙ってうなづく。

そして、笑顔になる。

「前みたいに、お互い笑顔で正門をくぐれる日が来ればいいのに」

「!」

警備兵が一瞬驚く。

そして目を伏せる。

「そうですね・・・」


レオンハルトはレイティアーズたちの元に戻って行った。

警備兵がそれを見やり、ポツリと呟く。

「あなたは一国の王子であるのに・・・やはり不思議な方だ」




レオンハルトが、彼らの元に戻ると、何やら話し込んでいた。

どうやら、同盟交渉が失敗に終わった原因を話しているらしい。

(それは大事な事だ。僕も知っておかなければ)

「ねえ、同盟交渉はどうしてダメになったの?」


「ドレアーク王国だそうです」

外務大臣が詳しく話し始める。


「ドレアーク王国との同盟を解除したら、同盟を結ぶと」


「え・・・」

「まさかの、そんなあり得ない条件付きとはね・・・」

天を仰ぐヴィクトール。

レイティアーズが腕組みをする。

「平和主義国にとっては、ドレアークは合わない、か・・・」

「しかしこの同盟は、ドレアーク側からの依頼だからなあ。ドレアークを切ってヴァンダルベルクと同盟を結ぶという事は意味わからんし」

「我が国がドレアークとの同盟を破断にするなど、ありえません」

外務大臣がそう言いきった。

「そうか、それで、交渉決裂・・・」

みながため息を付く。


レイティアーズがレオンハルトを見る。

「たった一つしか無い条件らしいが、しかしその条件は大きすぎるものだ。その条件を無効にして、別な話へ持っていかなければいけない、できるか?」

「―――――――・・・ッ」

レオンハルトは即答できない。

確かに、同盟に関するマニュアルは、ロベールに助けられながら何度も読んで覚えた。

それを実際にするとなると。

(うまく、話を進められるかは全くわからない・・・)







「来たぞ!」

確認に行っていた警備兵が戻ってきた。

そして開口一番に言った。

「一人だけ、入れるそうです」



「な、なに!?」


「たった一人!?」


ど、どうしよう。

ってことは・・・


レオンハルトは情けない顔をして自分を指さした。

「僕しか入れないってことおおおおお?」


全員が黙ってうなづいた。


愕然とするレオンハルト。

(そんなっ!!どうしようっ、心細すぎるっ)


頼みの綱のレイティアーズを見ると、彼にしてはめずらしく困った顔をしていた。

(ど、どどどどうしたのさ、なんとか言ってよ!!)



外務大臣は少しいらだち始めた。

「時間が無い。致し方ない、それで進めよう」

そう言って外務大臣がレオンハルトを連れて行こうとした。


すると。


「待て」


レイティアーズの声だ。


(えっ!?)




確認しに行った警備兵へ、眼光するどい顔をぐいっと近づける。

「ひッ・・・!」

警備兵が小さく悲鳴を上げる。

怯えていた。

(・・・・・・)

レオンハルトはなんだか警備兵に同情さえしてしまいそうになる。



そして、脅すような、有無を言わせぬような、凄みのある声音で言った。

「私は騎士団団長だ。ここへも何度も来た事がある。私は今日王子の護衛で来たんだ。だから入れてくれ」


「れ、レイティアーズ!」

なにかレイティアーズらしからぬ強引さだった。

なにその理屈。

(一人しか入れないって言ってるのにィ・・・)

レオンハルトはレイティアーズっぽくなくて思わず笑いそうになる。



「おいおいレイティアーズ」

外務大臣は、何を言っているんだと言わんばかりの顔だ。



しかし。

「は、はい、どうぞ・・・」

戦意を喪失した警備兵は、レイティアーズに降参したのだった。



(やった!レイティアーズの勝利!)

・・・とか呑気に言っている場合じゃなかった。




警備兵に認められた?ので、外務大臣、レオンハルト、レイティアーズの三人は、シュヴァルツとレガリア国国王たちがいる迎賓の間へ急いだ。



途中、こそこそとレイティアーズに話しかける。

「ねえレイティアーズ、あんな無理やりな事して、一体どうしたの?」


ふ、とレイティアーズが笑った。

「お前だけでは心配だ。それに・・・」

(ロベール殿からも頼まれているしな)

守らなければ、いけないだろう。



「それに、なに?」

「いや、なんでもない」






****




「ここです。私が先に入って、国王たちを連れ出しますので、すぐさま部屋へお入り下さい」

「はい」

外務大臣が扉の前でふと、足を止め振り返る。

「本当ならば、我々のうち誰かが残っていた方がいいのでしょうが、ここは予定どおり私たちはすぐさま城へ戻ります」

「はい。了解しました」




「・・・・・・」

国王たちが退去してしまうと、残るのは、自分とレイティアーズの二人だけになる。


(だ、大丈夫、大丈夫)

レイティアーズは凄いんだから。

ものすごく頼りになるんだから。


それとは反対に、徐々に心臓の鼓動が早くなってくる。





国王たちが出てきた。


彼らとすれ違う。

すれ違いざま、国王がレオンハルトの肩をポンと叩いた。

「申し訳ない。頼んだぞ」

レオンハルトは目がうるみそうになりながら、必死でうなづいた。



(僕は、一国の王子だ)

(この同盟交渉を、成功させなければ)

(シュヴァルツなら大丈夫)

(大丈夫)




(―――――頼むから心臓の音よ静まってくれ!!)


ああ駄目だ。

混乱する。

眩暈がして緊張で吐き気がしそうだ。

どうしてだろう。

親友に、会いに行くのに。


(わかってる)

ただ、会いに行って『友達になろう』って頼むのとはわけが違う。

(僕らはもうあの頃の小さい子供じゃない)

一国の未来を担う立場なのだ。



「大丈夫か?」

レイティアーズが青ざめているレオンハルトの顔を覗き込む。

「だ、だいじょぶだいじょぶ・・・」


(ごめんね、心配かけて)


――――――もう二度と、レイティアーズの前で逃げ出したくない。




汗ばむ手を握りしめた。



レイティアーズが部屋の扉を見る。


「入るぞ」


そして二人は入室した。





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