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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第一章 レガリア国と最弱の王子
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第5話 飛行魔法

「なんなんだ一体!」

ロベールが忌々しく吐き捨てる。

「・・・・・・」



ここは魔鉱保護区ゴールドローズの東に位置する国。

二人はゴールドローズを出て、すぐこの国に入った。

この国はまだどことも戦争をしていないため安心して歩ける。

来た時も、この周辺で飛行魔法を解き、そこからゴールドローズまで歩いていった。

もうしばらく歩いた所で、ロベールの魔法でまたレガリア国へ帰るつもりだ。



馬車道が真っ直ぐにどこまでも続いていた。

町中の綺麗に舗装された道とは違い、多少歩きにくい。

時折馬車が通り、砂埃が舞う。

向こうからゴールドローズの方向へ歩いてくる人々もいる。

とても楽しそうだ。

これから祈りに行くのだろうか?

(大丈夫かな・・・あの場所は、今頃どうなっているのだろう)

レオンハルトは後ろを振り返り、ため息をついた。



二人はあの場から逃げるように急いでゴールドローズを後にした。

騒ぎをききつけた警備員たちがこちらへ向かってきたからだ。

なんとかうまく逃げ切れたと思うが、別に悪い事はしていないし、逃げなくても良かったのでは?いやいや、そんなことはない。僕らの身分がばれたら大変だ、とレオンハルトは自問自答していた。



「あいつらはどこへ消えたんだ!あの魔法陣は一体なんなんだ!」

ロベールはめずらしく冷静さを失い混乱していた。

勿論、レオンハルトも同じだが、レオンハルトの頭では、なにより魔法もほとんど使えない自分にとって、授業で勉強したり見る事はあっても、魔法陣は縁遠い存在だった。

だから魔法陣云々はこれ以上詮索のしようがない。それよりもシュヴァルツ達がどこへ行ったしまったのかが心配だった。

「魔法陣、アラムもわからないって言ってた」

「ああ。しかしアラムの奴はどこまでの力量か、僕はあまり知らない」

「頭が良いんだよ!彼は!」

レオンハルトが向きになって叫ぶ。

二人は立ち止まった。



彼らが消える前、苦しむシュヴァルツを抱きしめたアラム。

その表情は悲痛で、見ているこちらも胸が痛くなった。

(結局、何もできなかったな、僕は・・・)


「・・・なにそこで意地になってんだ・・・。ったく、お前にかかれば誰でも『頭良い』だろ」

「な!な!な!」

それ以上言い返せない自分にがっくりくるレオンハルト。

「いや、ごめん。そういう遣り取りしてる場合じゃないんだよな」

ロベールはかぶりを振る。

めずらしく殊勝になっている。


「しかもだぞ、あそこは魔法が発動しない(・・・・・)場所なんだぞ」

ロベールはありえないだろ、と大袈裟に両手を上へ向ける。

「魔法が発動しないって、どういう仕組みなの?」

あの金色の魔法陣が発動している最中、彼らと交わした会話。

アラムの魔法でさえも、発動しなかった。

「一部の地域をのぞいて、あの国は全体を魔石とかで魔法の発動を常に『封じて』いるんだ」

「そんな事ができるの!?」

またしても勉強不足が露呈する。

ロベールの冷ややかな視線は少々痛いが、それよりも驚きの方が勝る。

(そんな国があるなんて)

「でも、どうやって全体を封じるの?」

「魔法を一時的に無効化する『ディスペル・オブ・ブレス』を使う」

ああそうか、その魔法ならわかる。

上位魔法だ。


レオンハルトは魔法を扱えなくても、魔法の知識だけは多少ある。

魔法にはランク付けが有り、下から下位魔法、中位魔法、上位魔法、最高位魔法の四つだ。

上位ほど難しくなる。

例えば『ディスペル・オブ・ブレス』なら、七大属性の『無属性』の中の上位魔法となる。


「しかしそれを魔石に注入するとなると莫大な魔石の数と時間がかかる」

「え、じゃあ何?」

ロベールが腕組みをして難しい顔をする。

「魔法陣だ」

また魔法陣が出てきた。

「決められた数の魔石をこの国の決められた位置に置き、巨大な魔法陣を描く。半永久的に魔法が持続する魔石を使い、その能力を維持しておく事が必要だが」

ロベールは続ける。

レオンハルトは頭の中でイメージしてみようと努力する。

「勿論その魔法陣に描かれているのは魔法を無効化する『ディスペル・オブ・ブレス』。各所に置かれた魔石のひとつひとつの力が魔法陣により集約され、その場所全体をその魔法が包むんだ。それで魔法を発動できない仕組みなっている」

「そんなことができるんだね」

魔法陣の重要性に感心する。

「まあ、そんなことができるのも、国家的な予算と対策があればこそ、だがな」

苦笑する。

つまり魔鉱保護区ゴールドローズでは、政府が主体となって行われているということだ。

「永世中立国になってから設置されたが、その前段階からこの手の類の魔法は研究されている」

「け、研究?まったく知らなかった」

「ま、あまり公にせず研究しているらしいからな。僕もそこまで詳しくは知らない」

ロベールが続ける。

「しかし問題は、あのステラティアの丘で出現した魔法陣が何故発動したのか、シュヴァルツ王子の『瞬間移動』らしき魔法も何故発動したのか、だな」

「うん・・・」

「実際、俺もあの場で魔法を使おうとした。が、発動されなかった」

「そうだったんだ・・・」

アラムも魔法が使えなかったと言っていた。

「あの魔法陣だけは特別なものがあるのだろうか。魔法陣が発動されるまでは何の魔力も発しない。そしてお前がその魔法陣に乗った時に発動した。発動するタイミングはランダムなのか、よくわかないが。

とにかくあの魔法陣だけは『ディスペル・オブ・ブレス』が効かないのか、それとも別な何かなのか・・・」

考えてもきりがない。

レオンハルトが考えて混乱しているので、ロベールは苦笑しながら話を切り上げた。



「ところで、あの二人は無事なんだよな?生きてるのはわかるが」

「大丈夫だと思いたいよ。シュヴァルツ達が心配だ。早く会いたいよ」

レオンハルトは顔を覆う。

「あとで確認しなければならない。ああ、必ず」

自分に言い聞かせるようにロベールは言った。

そしてレオンハルトを見る。

「おまえは大丈夫なんだな?レオンハルト」

「うん。なんともない。あの時、本当に激痛だったけど、一瞬だったから・・・ただ・・・」

「ただ?」

何か、僕の体の奥底で少し違和感が。

きっと気のせいさ。

「いや、なんでもない」

「そうか、ならいい。痛みの他には何も感じなかったのか?魔法らしい魔法は外側からは見えなかったんだが・・・」

「そうなの!?魔法じゃないの?」

「いや、まだわからない。何の目的の魔法陣なのか・・・」

「あの魔法陣を『攻撃』された、と捉えるのか、どうなのか・・・」

「ええ!?かなりダメージは受けたよ!?」

自分のみならず、シュヴァルツが受けた激痛は想像を絶するだろう。

あれを攻撃ととらえないでどう捉えるというのか、レオンハルトにはロベールの考えがわからなかった。


ロベールは、シュヴァルツの体に取り込まれる魔力の光の事を考えていた。

(あれが余計に混乱させるな・・・)



「それに、あの瞬間移動・・・」

ロベールはポツリと言う。

「どういうこと?あれは飛空魔法じゃないよね?消えたよね?シュヴァルツは瞬間移動なんて使えないよ!上級魔術師のアラムでさえだよ!」

レオンハルトは畳み掛けるように大声を出す。

それに苛立ちロベールも怒鳴り返す。

「わかってるよ!そんなもんこの世で誰も使える者なんていないんだぞ!」

レオンハルトは大きくため息をつき、その場にしゃがみこんだ。

(色々な事が一気に起こり過ぎて、もう考えるのも疲れたよ・・・)

それを見てロベールも大袈裟にため息をつく。

「もしも本当に瞬間移動を使えるなら、まわりが黙っていないだろう・・・」


二人の大声に通り過ぎて行った人たちがこちらを振り返る。

ローブで全身覆い隠した男二人が、ただ行き過ぎるだけにしか使われない馬車道で立ち止まり話をしているのは少し目を引くのか、ちらちらとこちらを見ながら皆が通り過ぎていく。


それに気づき、ロベールは少し声をひそめて言った。

「あれが騒ぎにならなければいいけどなあ」

ロベールは頭をかかえた。

直接は他に見ている者はいなかった。

警備員が来たが、すぐ逃げたから僕たちの正体はばれていないはず。

現に誰も今追ってこない。

「魔法陣は消えてたし、ばれないんじゃないの?」

「いや、しかしあの魔力の威力はすさまじかった。何かしらの噂が立つかもしれない」

あの魔力の量だと、ステラローズの町にまであの魔力を感じるものがあったのではないか、と思うほどの魔力の量だった。

「大体、『永世中立国』であるのに、魔法が、しかも攻撃性の極めて高い魔法が発動されたとなると、保護国としての立場がどうなることやら・・・」

ああ、そうか。

永世中立国。

どこの国とも戦争しない、加担しない。

又、攻撃を受けるような事があるならばプラネイア大陸の有識者で集まる国際的な組織が援助する事になる―――――――。

永世中立国の条約締結の際の内容だ。







「ほら、休んでる暇は無いぞ。あのあたりで飛ぶ」

ロベールが先を促した。

レオンハルトは立ち上り歩き出した。



「よし」

馬車道だと目立つので、脇道にそれた草はらに入る。


まずロベールは持っていた鞄から魔導書を取り出し、魔導書だけ地面へ置く。

この魔導書はいつもロベールが持ち歩いている愛読書の一部だ。

鞄もその隣へ置いた。



少々汚れるのが気になるが、レオンハルトは鞄の上に乗る。

ロベール自身も魔導書の上に乗る。


そしてロベールはローブから何かを出す。

護身用に持っていた短剣だった。

それは『レガリア=コルテージュ』と呼ばれ、レガリア国の従者や側近に代々受け継がれる短剣だった。

剣の柄には、レガリア国の紋章が細やかに施されている。



「ほんとは武器なしで詠唱だけで魔法が使えたらいいんだけどな」

頭を掻きながら言う。

実際、詠唱のみで飛行魔法を行う事ができる魔導士もいる。

しかし、よほど訓練するか能力の高い魔導士でなければできない。




ロベールは、レガリア=コルテージュを振り上げた。

飛行媒体である鞄と魔導書だけではなく、彼らの体にも、全体的に魔法をかける。

そうすることで一体化し、バランスを崩したりして振り落とされ落ちる事は無い。



「『(くう)を駆けるもの・アストゥリウス』」


呪文を唱えた。

『アストゥリウスの翼』という飛行魔法だ。

神経を集中させ、魔力を魔法へと変換させ放出する。

短剣から淡い光が出現した。


「『すべてが蒼空(そら)の翼と成れ(なれ)』」


剣を大きく円を描き振り下ろす。

全体をまばゆい光が包んだ。



「・・・・・・」

いつ見ても魔法の光というのは綺麗なものだ。

レオンハルトはその光に目を奪われる。

魔法を使える人ばかりで、当たり前のようにあるものだが、僕にとっては特別なものに視える。

ステラティアの丘で見た魔法陣でさえも思わず目を見張るものがあった。

(だって、それは魔力という古代からの特別で不思議な力だから)



人間は空を飛ぶ事が出来ない。

アストゥリウスとは、大陸の伝説上で、真白き翼を持ち空を自由自在に飛ぶ白馬の事。

その白馬は、大陸の伝説に出てくる光の戦士が乗る馬であり、世界に光を取り戻し共に勝利へと導いた賢馬とされる。

昔この魔法を創り出したであろう人は、空を飛ぶ事に憧れ、伝説に憧れ、だからこそアストゥリウスの神聖な力に少しでもあやかりたいと考え、それになぞらえたのかもしれない。

魔法を創り出した大昔の人々は、伝説上の出来事に由来したものを創り出すことが多かった。



魔導書と鞄がふわりと浮上する。

これに乗り、移動するのだ。


乗り物は人によって様々だが、ありとあらゆる物体が飛行魔法に使われる。

勿論なんでもよいわけではない。

飛行魔法は魔法の持続性が求められるので、容積が有り魔法を持続させるのに適した媒体でなければならない。

そして新しいものよりは古いもの。

使い古された、いつも自分自身が身に着けているようなものなら尚良い。

媒体を使わずに人間の体ひとつで飛べることもできるが、それは大量の魔力を使う事になり、効率的ではない。



鞄の上に立っていたレオンハルトは、地面に座るかのように、鞄の上に座り直した。

ロベールも同様にし、二人はようやく国へ戻る事ができたのである。



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