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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第二章 ヴァンダルベルク王国と最強の王
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第48話 ヴァンダルベルク王国(6)







いったい、何が起こったんだ。


レオンハルトは茫然としていた。



頭が、うまく働かない。




(今、僕の目の前で、何が起きたんだろう)




敵襲、そして、シュヴァルツの強大な魔力。




―――――僕の知らない、シュヴァルツ。


彼は本当にシュヴァルツなのか。



あの光景を信じろというほうが無理だ。




「―――――おい、」

「・・・・・・」


「レオンハルト王子!!」

「―――――ふえッ!?」

耳元で、叫ばれた。


オーウェンがムスッとした顔で隣にしゃがんでいた。


「やっと気づいたか」

「あ・・・」

レオンハルトは目を丸くする。

「しばらくボーっとしてたぞ。呼びかけても反応しないし」

「ご、ごめん」

そう言ってレオンハルトは立ち上がろうとした。

・・・が。


「・・・どうした?」


オーウェンの顔を見てモジモジするレオンハルト。

「あ、あの・・・僕・・・、立てない・・・んだけど・・・」



「はあッ!?」

思いっきり嫌な顔をされた。





「―――――つまり、腰が抜けて立てなくなったという事ですか」

ため息まじりにサミュエルが確認する。

レオンハルトは顔を真っ赤にしてコクコクと黙ってうなづいた。

「やれやれ情けない」

そう言ってオーウェンはレオンハルトの腕を引っ張り身体を起こす。

「あ、ありがとう・・・」

(ああ恥ずかしい・・・)



「しかし、私たちの出番は無かったな」

さっきまで襲撃を受けていたその場所を見やり、サミュエルが苦笑した。

オーウェンはムスッとする。

「出番なんてあってたまるか。あれだけで済んだんだ。良しとしよう」



「しかしあの男―――――――変な事を言っていたな」

鎧を脱ぎながらオーウェンが言った。

サミュエルが頷く。

「ああ。古代魔法、と」

彼も装備をはずし、オーウェンへ渡した。

それを受け取り、オーウェンがレオンハルトを見る。

「――――聞くが、シュヴァルツ国王は、『古代魔法』と何か関係があるのか?もしかして、古代魔法の使い手――――――いや、それはさすがに無いはずだ・・・」

オーウェンも混乱しているようだった。


(古代魔法・・・)

レオンハルトはそれをごく最近聞いた。

王宮の立入禁止書庫で。

(またそれを聞くことになってしまった)




レオンハルトが大きくかぶりを振る。

「古代魔法を使えるなんて聞いた事ないよ。大体、あんな強力な魔力があるだなんてのも、・・・はじめて知ったんだ・・・」

最後は少しさびしそうに言うレオンハルト。

そして口元に手を当ててぼんやりと思い出す。


正直、彼の魔法を見たのは数少ない。

小さい頃、シュヴァルツは『魔法なんて使えなくていい』と言った事があった。

それが原因ではじめてケンカしてしまったのだけれど。

(・・・あのとき、どうやって仲直りしたっけ)



だから、きっとあのくらい強力な魔法など普通に出せたのかもしれない。

今までその力を使う場面を見れなかっただけで。

(・・・・・・)

そう、レオンハルトは自分に言い聞かせた。




オーウェンとサミュエルは顔を見合わせた。


オーウェンが腕組みをして難しい顔をする。

「あの魔法の威力、かなりのものだな。見た事が無いくらいだな」

サミュエルが驚く。

「そんなにか。だってお前、魔物を退治した事があるんだろう?」

(そうだ。オーウェンは魔物を倒した事があるんだった)

魔物ってどんなかんじなんだろ。

どうやって攻撃してくるんだろ。

(あとで聞かなくちゃ)


オーウェンは無造作に肩まで伸ばした黒髪をガシガシとかく。

「魔物っていったって・・・。まあ、あの時の魔物はそんなに手こずるものでは無かったから」

「じゃあ、レガリア国では誰と同じくらいのレベルだろうな?」

そうサミュエルに訊かれ、オーウェンは悩む。

「んー、そうだな。正直――――――レガリア国であのくらいの威力の魔法が発動できる人物は―――――いないとかんじた」

「!」

(う、うそでしょ)

レオンハルトの顔が青ざめる。

(ま、まさかの、そこまでのレベルだとは・・・)




「ま、ここで議論している場合ではないな。早く戻ろう」

オーウェンが促した。


サミュエルが正門の方を見る。

「正門に人が戻り始めてる」

「え・・・」

見ると、さきほどまで国民を避難誘導していた警備兵などが城へ戻りはじめていた。

「正門からは出れなそうだな」

オーウェンが腕組みをした。

「ど、どうやって戻るの?」

レオンハルトは急に心配になってきた。

「さっき中へ入れた時は警備が手薄になってたからな」

するとサミュエルが城壁の方を眺めた。

「あとは、壁、だね・・・」

「だな」

オーウェンもうなづいた。

レオンハルトは驚く。

「壁!?でも、あの高い壁を越えるのは無理だよ!」

もともと、敵の攻撃から守るために作られた城壁なのだ。あの高い城壁を魔法なしで越えるのは、普通の人間にはできない。


「それに・・・、飛行魔法とかで壁を越えれば、すぐに見つかっちゃうんでしょ?」


飛行魔法で飛んで城壁を越える事は出来ない。

飛行魔法で城に入ると、魔石で探知され、すぐに伝達され、警備兵が駆け付ける仕組みになっている。

そのシステムを利用している国がほとんどだ。

勿論、レガリア国にもある。



「でも、あの敵さんたちは、飛行魔法使って飛んでたけど・・・」

そう。だからこそ、警備兵たちは敵が近づくまで気づかなかったのだ。


「いや、()()()()()

「え・・・」

オーウェンがそう言いきった。


「やつらは、そういうシステムを知ってて、城壁ギリギリのところで攻撃してたんだよ」

そうサミュエルが言った。

「そ、そうなの・・・」

正直、そこまで見てなかった。

(よく、二人は気づいていたな・・・)


「とにかく、急ごう。さっきの任務で使った場所がある」

サミュエルが走り出した。





「こっちだ」


走るスピードが速すぎて、レオンハルトはついていくのに必死だ。

ようやく、目的地に着いたようだ。


「さっきの任務でここを使ったんだ」


「あ・・・!ここは・・・!」


そこには高い木が何本もあった。


(・・・なつかしい)


ここは、レオンハルトが小さい頃、シュヴァルツと木の実を取ろうと木に登った場所だ。

そして、この木は・・・・、


「うわあ、大きくなったなあ」

思わずそう、口走ってしまう。

「・・・知ってる場所か?」

「あ・・・、えと、うん、まあ」

へへ、とレオンハルトは作り笑いを浮かべた。

「まあ、彼らと友人だったらまあ知っててもおかしくないな」

「・・・・・・」

(昔この木から落ちそうになったんです、なんて恥ずかしくて言えないッ・・・!)



木の幹は、昔と比べ物にならないくらい太くなっていた。

でも、そう。

これだ。

同じ赤い木の実がなっている。

結局、あれから、薬の材料になることは無かった。



「木から壁へ飛び移る」

「え・・・」

(まさかとは思ったが・・・)

木と壁の間は結構空いている。

そこまで木から飛び移れるのか?


「私たちは訓練を受けているから出来るが、王子様は無理なんじゃないか?どうする?」

サミュエルがオーウェンに訊く。

オーウェンが少し考え込む。

「――――そうだな。サミュエル、お前は先に行ってくれ。俺が王子をかついで飛ぶ」

「え!!!」

「―――――なんだ、不服か?だったら他に案を・・・」

「いえ、それでお願いします!!」





「の、のぼれるかな?」

レオンハルトは上を見上げる。


木に登るところまでは一人で行う。

そこから壁に飛び移る時に、オーウェンに抱えてもらうのだ。

「木登りはしたことないのかい?王子様」

サミュエルがそう皮肉った。

「の、登れるよ!」

ムキになってそう言いかえした。


(怖いんじゃない。木から落ちた事がトラウマになっているわけでも無い)

ただ、あの頃の事が色々と、思い浮かびそうで涙が出そうになるだけだ。


(あの頃とは、見える景色も違う)

木を登りはじめ、途中の枝分かれの地点で休憩しあたりを見渡す。

(さみしい・・・)

あの頃に戻りたい。

そう、弱音を吐きそうになる。


なかなか進まないので、オーウェンが業を煮やす。

「なにしてる、早くしろ!」


「ご、ごめん!」


そしてオーウェンに抱えられ、壁を越え、外へ出ることに成功した。


レオンハルトは今越えた城壁を振り返る。

(僕が、一人で出来たらよかったのに・・・。これじゃ特務部隊としてやっていけないよ・・・)


「あ、ありがとう。オーウェン、ありがとうありがとうありが・・・」

「うるさい!行くぞ!」



そしてそのまま宿屋まで走った。





****


その頃王宮のロベールの自室。



「よし、今日は仕事がほとんど無いし、調べてみるか、()()を―――――――」


そう言って、自室を出た。




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