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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第二章 ヴァンダルベルク王国と最強の王
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第47話 幼き日ーレオンハルトー(3)

外は雲一つない快晴だった。

ポカポカして気持ちいい。



二人は城中を探し回った。

なかなかシュヴァルツが欲しがっているような木の実が見つからない。

「はあっはあっ」

息があがり、少し汗ばんでくる。


突然シュヴァルツが指をさして叫んだ。

「あ!あの木にしよう!」

見ると、背の高い木に木の実らしき赤い色ものがなっていた。



二人はその木を見上げた。

レオンハルトが木の幹へ手を触れる。

「僕、登るよ」

「え、いいよ。俺が言い出した事だし、俺が登るから」

「大丈夫だって。僕、登った事あるし」

レオンハルトは頑として譲らない。

「うーん・・・、わかった。気をつけろよ」

そんなレオンハルトに、シュヴァルツはしぶしぶ承知した。

「うん」

そう言ってレオンハルトは木の幹に手をかける。

木の枝分かれした部分に足をかけ、するすると登っていく。



レオンハルトは一度休憩して下を見た。

(うわ、ここから落ちたら痛そう)

登ってみると、結構高い事に気づかされ身がすくむ。

(建物の二階建て、いや、それ以上?)



「あ、そこ!もうちょっと上の枝に、実がついてるよ!」

下からシュヴァルツが叫んだ。

「ど、どこ?」

少し上を見上げると、

(まぶしい―――――!)

日差しが強すぎて見上げる事が出来ない。


(そうだ、手を伸ばして手さぐりで取ろう)


「よい、しょっと」


―――――手を伸ばした瞬間。




グラリ。


レオンハルトの体が揺らいだ。



(え)


そのまま、バランスを失ってしまう。



「うわっ!」



手が、木から離れてしまう。



(やばい)




足はそのまま空を切る。

木の幹をつかもうにも、落ちるスピードの方が速い。


下ではシュヴァルツが何か叫んでいる。



(落ち―――――――)


「落ちる!」


体が完全に木から離れ、落ちていく―――――――。





その瞬間。



ふわり。




(え――――――――)



レオンハルトの体が、地面ギリギリの所で()()()()()



「た、助かっ・・・た・・・」


そしてそのままゆっくりと体が地面へ降下した。




「あー!!良かったああああ!!」

シュヴァルツが盛大に安堵の声を上る。



「ぼ、僕、落ちたのかと思ったけど・・・」

レオンハルトは茫然としていた。


シュヴァルツが駆け寄り、心配そうにのぞきこむ。

「どこもなんともない?大丈夫?」

レオンハルトは、まだ少し頭が回らない状態で自分の体を確認する。

「うん。どこも痛くない・・・」

「良かったー!今、魔法使って、なんとか落ちるのを止めたんだ」

「え・・・シュヴァルツの魔法?」

「そ!ギリギリだったな~。危なかったよほんと~」

「助かったよ。ありがとう」

レオンハルトはなんとか笑みを浮かべる。

するとシュヴァルツが恐い顔になる。

「なに言ってんだよ!俺のせいでこうなったんだから!俺があやまんないと!」

「そ、そう?」

「そうだよ!ほんとごめん!俺が木の実取に行こうって言ったばっかりに・・・」

「違うよ!僕も、薬、作るのが見たかったんだもん!だから、シュヴァルツは悪くないよ、木から落ちた僕が悪いんだ・・・」




すると、ロベールが来た。


「お前たちは今、なんと・・・?」

ロベールが驚愕の表情をしている。


「あ、ロベール、こっちだよ!」

そんなロベールの表情など知らず、のほほんとした顔でレオンハルトはロベールに声をかける。


ロベールも木の実を探すのに同行していたが、途中ではぐれてしまった。

二人を探し回ってくれたのだろう、息が上がっていて汗をかいているようだ。


ロベールも薬作りにはイマイチ乗り気では無かったらしく、木の実探しなど危ない事をするな等とブツブツと言っていた。


(こりゃ、木から落ちたなんて知れたら、怒られるかな)



ギロリ、とロベールがレオンハルトを睨む。

「今、木から落ちた、と言ったな?」

(バレてる・・・!)


レオンハルトはロベールと目を合わせまいと、誰もいない方を見た。

「そ、そんな事言ったっけ?」

「・・・・・・」


そんな二人の横で、シュヴァルツがハラハラしながら見守っていた。








****



「何をしているんだ!お前たちは!!」


怒声が応接間に響いた。



ここはヴァンダルベルク城の応接間。

部屋には、レオンハルトとシュヴァルツ、そしてロベールとアラム。

そしてヴァンダルベルク王国の国王、つまりシュヴァルツの父と、レガリア国王であるレオンハルトの父がいた。


そして今怒鳴ったのはレオンハルトの父だった。



「ご、ごめんなさい!!」

レオンハルトとシュヴァルツは二人同時に謝った。

正確には、レオンハルトが怒られているのだが。


ロベールが告げ口、もとい、国王たちにレオンハルトが木から落ちそうになったという事を伝えたら、すぐさま呼ばれた。

今回は国王と一緒に来ていたのだから運が悪い。

(ああ、なんでこんな時に限って父さんと一緒に来たんだろ)

レオンハルトはうなだれる。


(っていうか、ロベール、言わなくたっていいじゃないか。どこもけがしてないんだし)

ジロリとロベールをみるが、扉付近でアラムの隣に並び、飄々とした顔をしている。




「まあまあ」

シュヴァルツの父が、恐い顔をしているレオンハルトの父をなだめた。


「ほんとにすいません!!俺が悪いんです!」

シュヴァルツが凄い勢いで体を折り曲げ頭を下げた。

「シュヴァルツ・・・」

レオンハルトはそれを申し訳なさそうに見つめた。



レオンハルトの父は、大きくため息を吐く。

「木から落ちたのはレオンハルト、お前だ。安全確認をできないお前に非がある」

「・・・ごめんなさい」



「しかし何故木の実を取ろうなどと・・・」

「薬を作ろうしてたんだ!その・・・、エミィロリンの病気が治る薬を・・・」

「薬だと!?」

(わっまた怒られる!)


「まあまあ」

シュヴァルツの父が割って入る。

黒い髪と黒い切れ長の瞳。

ガッチリとした体つきで、その反面顔は柔和だ。

常に穏やかな表情をしていて、現に今も、優しい表情で周囲を見つめる。

「怪我が無かっただけ良かったじゃないですか。ねえ、ホーエンヒルト殿」

「ルビウス殿・・・」



しかし、めずらしくその穏やかな表情を一転させ、シュヴァルツの父は厳しい顔つきでシュヴァルツを見た。

「いいか、シュヴァルツ。薬を作る事は悪い事ではない。しかし、まだ知識の浅いお前は他人を巻き込む事は出来ない。自分の責任の上でやらなければいけないという事をわかってほしい」

「・・・はい」

部屋はシンと静まり返り、二人の声だけが響く。

「それを簡単に考えているようならば、最後までやり通す事など出来ない。やらない方がいい。今後反省して最後まで自分の力でやり通しなさい」

けっして強く言っているわけではないが、説得力のある口調だ。

しかも、子供だから薬づくりなどまだ早い、とかそういう全否定するような事は言わなかった。


「・・・はい」

シュヴァルツはギュッと唇をかみしめる。

その瞳は、少しうるみながらも、しっかりと父親の目を見ていた。


そして次に、シュヴァルツの父は、また穏やかな顔になりレオンハルトを見た。

「これに懲りず、またシュヴァルツと一緒に遊んでくださいね」

「・・・はい」

(シュヴァルツのお父さんは、寛大な人だな・・・)





****


「あ~あ、結局今回は薬作り失敗だな」

「ふふ。また今度ね」

散々な目にあったので、二人は薬を作る実験道具を片付ける事にした。


「シュヴァルツのお父さんは優しい人だねー」

「へへ。だろー。自慢の父さんだよ」


「それにシュヴァルツのあの浮遊魔法?だっけ?あれも凄かったよ。体がふわりって浮いてさ!」

思い出して少し興奮した。

「そうか?」

シュヴァルツのテンションが下がった。

「?」

シュヴァルツが下を向く。

「・・・俺はさ、ほんとは魔法なんて勉強したくないんだよな」

「え?」

「魔法を使いたくないんだ」

「な、なんで?」

あんなに恰好良い魔法が使えるのに。


シュヴァルツは勢いよく顔を上げた。

「だってさ!戦争って、ほとんど魔法の力で攻撃するだろ!?・・・平和のために使うならいいけど、人を傷つけるような事に、魔法を使いたくないんだ!」

「・・・・・・」

レオンハルトはその発言に無性に腹が立った。


「・・・なんだよ」

ボソリ、とレオンハルトが呟く。

「え?」

「なんなんだよ!それ!!」

「レオン?」

めずらしくレオンハルトの怒った顔に、シュヴァルツが驚く。


「僕は魔法が使えないから、そんなの贅沢だよ!!」

「な―――――――」

「もうっ、シュヴァルツなんて知らない!!」

「あっ、レオン!!」


レオンハルトはそのまま部屋を飛び出してしまった。





****



レオンハルトは、中庭に来ていた。

シュヴァルツの秘密基地がある中庭へ。



(ああ、どうしよう・・・シュヴァルツとケンカしてしまった・・・)

胸が痛い。


シュヴァルツの言いたい事もわかる。

でも。

「僕は魔法を使いたくても使えないんだ・・・」

自然と、涙があふれてきた。


シュヴァルツは僕と同じだと勝手に勘違いをしていた。

(ああ、情けない・・・)



「シュヴァルツ・・・」





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