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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第二章 ヴァンダルベルク王国と最強の王
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第46話 幼き日ーレオンハルトー(2)



「そっか、お前んとこは五人兄弟なのかー」

シュヴァルツは()()()()()をもう一つ、すでに作られている山の隣に作っていた。

水を少し流し、素手でそれをコネコネ。

それをレオンハルトは横で見ていた。

コネコネ。コネコネコネ・・・。


「シュヴァルツは一人っ子だもんね」


子供を一人しかもうけないなど、王族にしては珍しかった。

国王の妃が早くに亡くなってから、一人も妻をとっていないのが原因の一つだ。

もしも何かあれば、後継ぎがいなくなるという事態になりかねない。

ヴァンダルベルク王国の歴史の中でも、一番長く続いているアルトアイゼン家。

それが断絶しかねない状況になる。

それ故に、世間は様々なあらぬ憶測をたてる。

養子を取る予定なのではないか、実は外に妾がいてすでに子供が何人もいるのではないか、などなど。



「そ。だから兄弟の気持ちとかわかんねーからなあ・・・」

ひたすら捏ねて、出来上がった山をポンポンと固めながら、ため息を吐く。

チラリ、とシュヴァルツを見る。

(シュヴァルツの耳にも、色々な噂話が入っているのだろうか)

きっと、後継ぎが一人しかいないという状況に、レオンハルトとはまた違う感情を持っているに違いない。

それなのに、彼は僕の心配をしてくれている。


レオンハルトは困った表情で笑う。

「いいよいいよ、そんなに心配してもらわなくても」

「そうかー。何かあったら俺に言えよ」

「ん。ありがと」



「よし。ちょっと待ってろ」

そう言うとシュヴァルツが手の砂をパンパンとはらい、立ち上がる。

「?」

そしておもむろにズボンのポケットの中から、小さい木の杖を取り出した。

「これをしないとさ、すぐ山が崩れちゃうからさ」

そう言って今作った砂の山、というか泥の山へ向けて、杖をかざした。



「【グノムの大地】」



「土よ硬化せよ!」




「あ・・・」


(魔法だ)

淡い黄色い光が、泥の山を包み込む。



そしてすぐに光は消えた。


「これで固まった」

「どれどれ」

レオンハルトが興味津々で泥の山に触る。


「わ。ほんとだ。カチカチに固まってるよ!」

少し興奮した表情で、レオンハルトは山をポンポンと叩く。

シュヴァルツはそれを見て嬉しそうに笑う。

「これは、アラムから教えてもらったんだ。簡単な魔法だけどな」

それを聞いてレオンハルトは落ち込み下を向く。

これはたしか地属性の初級魔法。

「簡単・・・」

「レ、レオン?」

シュヴァルツは急に表情が暗くなってしまった友に、驚く。


「あ、ご、ごめん。それにしても、凄いね、魔法」

変な気遣いをさせてしまってはいけないと、レオンハルトは顔をあげた。

「だから大したことないって。でも、毎回こうして山を作ってるんだ」

そう言って杖をしまう。

「そっか」

「・・・ほんとに、何かあったら俺に言えよ?」

シュヴァルツが心配そうにレオンハルトを見る。

(優しいなあ、シュヴァルツ)


レオンハルトはすぐに元気を取り戻した。

「でも、一番下の妹は、かわいいし、僕になついてくれるから、兄弟みんなってわけでもないんだ」

「そっか。それはよかった」

つられてシュヴァルツも笑顔になった。


「ただ・・・」

「ただ?」

またレオンハルトがうつむいてしまった。

シュヴァルツが隣にしゃがんだ。


「彼女は、体が弱いんだ」

「え・・・」

「エミィロリンって言うんだけど、生まれつき体が弱くて、僕もなんとかして元気にしてあげたいんだけど・・・」

「・・・・・・」








****






また或る時は。


今日は国王について行くという形ではなく、レオンハルトが従者を数名同行させ、単独で遊びにきていた。

今回はロベールも一緒だ。


カリムと遊べなくなってから、その頻度が増した。

レオンハルトの心の拠り所と成っていたのだ。

しかし、カリムの時とは違い、国王たちは快くシュヴァルツの元へ送り出してくれる。

(身分の違いによって、こうも違うのか)

レオンハルトはそれを痛感した。




「王子ってさ、大変だろ?」

「え?」

(シュヴァルツってば、急に何を言うんだろう)


今日も鉱山に見立てた砂の山がある庭に来ていた。

ロベールが遠くから見守っている。

シュヴァルツは、砂の山に自分が採ってきた何個かの鉱石を埋める作業をしている。


「勉強勉強ってさ。王族としての勉強がたくさんあるだろ?」

「・・・・・・う、うん。だよね・・・」

正直、この時のレオンハルトには、あまり勉強は勧められていなかった。

兄たちは、毎日勉強で忙しくしていたのに。


「鉱石の勉強だけしていたいんだよなー」

「えー、さすがにそれは無理でしょ」

「まあなー。まあ、医者になるならさ、他にも勉強する事はあるんだけどな」

「え?医者?」

(なんで医者の話?)


シュヴァルツは手を止めてレオンハルトを見る。

「もしもさ、俺が王子じゃなかったらさ、」

「え?」

「他の仕事が出来るならさ、鉱石を扱う仕事か、医者になりたいんだ」

「え―――――――」

真剣なまなざしだ。

冗談では無いのだろう。

意外すぎる話に、レオンハルトは驚くが、

「でも、」

そんなの無理だよ、とレオンハルトは言いそうになる。


それをわかっているのか、シュヴァルツも苦笑する。

「夢だよ、将来の夢の話」

「ゆめ・・・」


「ほら、お前の妹。病気なんだろ?だから、鉱石で薬を作って、医者になって病気を治したいんだ」


(え――――――)

「・・・・・・」

レオンハルトの表情が固まる。


「?あれ?俺、変なこと言った?」

すると。


「え!?泣いてんの!?」

レオンハルトの目からは、涙がこぼれていた。

「ご、ごめん。なんか、嬉しいし、凄いなーと思って」


シュヴァルツの大声に、ロベールが駆け付ける。

「どうしました?何か―――――――」

ロベールがレオンハルトを見てハッとする。

そして厳しい表情になる。

「何かあったのですか――――――」


ロベールが何か勘違いしそうなので、レオンハルトが否定する。

「ち、違う。ただ、感動しただけ」

「感動?」

怪訝な顔をされた。

遠くから見ていたロベールには、二人が何を言っているのかはわからない。


レオンハルトは涙を拭いて笑顔でシュヴァルツを見る。

「シュヴァルツならなんだってなれるよ!」

「へへ、そう?お前は?レオンハルト」

「僕?」

「お前の、夢は?」

「僕の夢!?」

(今まで、王子じゃなかったら、なんて考えた事なかった)

それすら目からうろこで新鮮で――――――。


「夢は、まだ、決まってないよ」

レオンハルトは遠慮がちに口をひらいた。

―――――そう。だって、シュヴァルツのような確かなものなんて、何も無いから。

(僕が何ものなのかも、自分自身でわかっていないんだから――――――)


ロベールは、そんな二人のやりとりを黙って見つめていた。




****


ロベールと二人きりになり、ふとつぶやいた。


「シュヴァルツは、自由な考えをしているね」

「・・・・・・」

ロベールは答えない。

「自分の将来の夢を語っていたんだ。僕には、・・・僕の国では考えられないだろ?そんな事」

「・・・・・・」

ロベールはただジッと黙ってレオンハルトの言葉を聞いていた。

レオンハルトは苦笑する。

「・・・少し、うらやましかったんだ」

「・・・そうか」

ロベールは最後にひとこと、そう言った。






****



また或る日は。


「なにを作っているの?」


シュヴァルツの部屋。

この部屋の主は、様々な瓶や鉱石を机に並べ、熱心に何かしていた。

アラムも部屋の片隅に立っていた。


レオンハルトに気づき、手を止める。

「ああ、待ってたぞ、レオン」

そう言って二カッと笑った。



「薬を作ってるだって?」

レオンハルトは驚いた。

子供なんかが薬なんて作れるもんか、と思ったが、どうやら彼は本気らしい。


「おい、アラム。あの釉薬取って」

「はいはい」

アラムは投げやりに綺麗な色のついた瓶をシュヴァルツに渡した。

(もしかして、シュヴァルツに嫌々付き合わされているだけ・・・?)

アラムも、薬なんて作れるわけが無いと思っているのかなあ。



レオンハルトは一応聞いてみる。

「何の薬を作っているの?」

「お前の妹の病気を治す薬だよ」

「え!?エミィの!?」

「まあ、実は、薬ってはじめて作るから、見よう見まねなんだけどな」

そう言って本を指さす。

机の上に広げられた大きな本。

それは医学書のようだった。

難しい文字が並んでいて、レオンハルトは見るだけで頭が痛くなりそうだった。

(というか、初めて作るって、大丈夫かなあ・・・)



シュヴァルツはその本をじーっと見ながら、何かを混ぜたものを瓶に入れる。

そしてその瓶を何度か軽く振る。

「わ・・・」


一瞬で色が変わった。

(不思議・・・)

なんだか、本当に薬が出来そうな気分になってくる。


シュヴァルツが机に置かれた鉱石を手に取りながら、眉間にしわを寄せた。

「ああ、これだと鉱石が足りなくなるな、またレウス山地に行こうよ、アラム」

すると、アラムが不機嫌な表情になる。

「――――王子。もうあまり鉱山に行かないようにしてください」

そう忠告した。

どうやらシュヴァルツが言った『レウス山地』とは、見立て鉱山ではなく、本物のレウス山地の事らしい。

「え、なんでだよーアラム」

「第一、王子が行く事を、周りはあまりよく思っていないのです。もしも鉱山が崩れでもしたら、一大事ですから」

「そ、そんな事言ったら、鉱山で働く人の方が毎日身を危険に晒している事になるじゃないか!」

「――――鉱山で働く労働者の事は気にしなくていいのです!」

アラムがピシャリとシュヴァルツの言をはねのけた。

そう言われてシュヴァルツはムッとする。

「なんでだよ」

「あなたはもっと大きな事に目を向けねばならないのです、王子。次期国王なのですから」

「む~、なんだか理不尽だな」

「仕方ありません」

「な~レオンはどう思う?」

「えっ」

いきなり振られて困惑する。


「ぼ、僕も君の気持はよくわかるよ。王子だって、自由に出かけたいもの」

そう。

これは事実だ。

カリムと遊べなくなったとき、自分の不自由さを実感した。


シュヴァルツにも、少なからずそういった制約があるのかもしれない。

(―――――あ、)

もしかして・・・。


もしかして、とレオンハルトは思った。

夢を語ったのも、もしかしたら、彼自身が自由に動く事ができないからこそ、そういった夢を持ったのかもしれない。

夢に自分の自由を託しているのだ。



「夢・・・」

ポツリとレオンハルトはつぶやいた。

「レオン?」


レオンハルトは顔を上げ、精一杯の笑顔を作った。

「夢のために、頑張ろうよ!薬、作るんでしょ?」


「お、お?―――おう!そうだったな!」

シュヴァルツが少し驚く。

しかし、気を取り直して薬を作る作業を再開した。




作業しながら、ふとシュヴァルツが思い出す。

「・・・ところで()()()の指は大丈夫?痛くない?」

「うん。すぐに応急処置してもらったしね」

「―――まったく。あなたたちはなんて事をしたんですか」

「もうそれは聞き飽きたよ!こんなんかすり傷だって」

そう言って手をひらひらとさせる。

アラムがジロリと睨む。

綺麗な顔が怒ると、まるで氷のように美しく冷たい。

「悪かったって。アラム、応急手当してくれてありがとうな」

「もうこれ以上は助けませんよ」

「はいはい」

しかし、まだシュヴァルツは悪びれていないようだった。

「だってさ、昔の本に書いてあっただろ?」

「あれは大昔の話ですから!今実際にやってる人なんて誰もいません!遊び半分でやる事でもありません!」

「わっ」

シュヴァルツが身をすくめた。

また怒られた。

しかしシュヴァルツは退かなかった。

「遊び半分じゃないよ!父さんが俺に読み聞かせてくれたんだから、大事な事だろ!平和を守るって、そういうことなんだよ!」

アラムがシュヴァルツをジロリとにらみ、そのまま黙った。

そして大きなため息を吐く。

「―――――まったく。あなたが父上を好きなのはよーくわかりますが、それをよく考えもせず実行するのはどうかと思います」

「あ、アラム・・・?」

アラムは出て行ってしまった。

「あーまた怒らせちゃった」

頭をガシガシかく。

レオンハルトの方が心配していた。

「ど、どうしよ。大丈夫かなあ?」

「だいじょぶだいじょぶ。明日になればまた元通りだから」

しかし、後から聞いた話だが、今回は二日も口をきいてくれなかったそうだ。




すべての作業が終わったのか、シュヴァルツは作業する手を止めた。

「よし、あとは、木の実だ!」

「木の実?」

「薬の材料になりそうな木の実を取ってこようぜ!」

「うわあ!面白そう!」







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