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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第二章 ヴァンダルベルク王国と最強の王
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第45話 幼き日-レオンハルト-(1)






世界が 闇に 覆われた




光の神 戦士ルカ は 立ち上がる



翼ある白馬アストゥリウスに乗り 天を駆けた





天の果てにあるという 闇の世界に着くと


ルカは 常闇の女神たちがいる 闇の塔へ向かう


しかし たくさんの闇の兵士たちが ルカの前に立ちふさがる



その軍勢を 戦士ルカは


あっという間になぎ倒す



しかし 塔の最上階で待ち受けていた 常闇の女神たち


今まで容易に戦ってきた 戦士ルカも 


彼女たちの力に苦戦する



そんな時 ルカの仲間たちが 駆け付けた


ルカに賛同する神々や ルカに好意を抱く地上の人間たち


多くの仲間たちとともに 戦った



そしてやっと 常闇の女神たちを討ち破り 勝利を手にした







「・・・そして地上も平和になりました。おしまい」


アラムはそう言って本をパタンと閉じた。


「わあ~!やっぱ面白いな~プラネイア神話!」

そう言ってシュヴァルツがベッドにバタっと倒れて大の字になる。

それをレオンハルトがぼんやりと眺める。

レオンハルトは今日はじめてシュヴァルツの部屋に入った。



レオンハルトとシュヴァルツは、大きな天蓋付きのベッドに腰かけてアラムの読み聞かせをジッと聞いていた。

アラムが読んでいたのは、プラネイア大陸に伝わる神話である『プラネイア神話』。

その中の、光の戦士ルカの英雄譚。


シュヴァルツが、レオンハルトが決めたフォルスネームの『ルカ』という名前が、プラネイア大陸の神話に出てくる神の名前だとイマイチピンと来ていないようだったので、その神話を教えてあげるよ、との事でこの事態となったのだ。



シュヴァルツが目を輝かせながらレオンハルトの方を向く。

「な?やっぱりルカって光の戦士の名前だろ?」

「うん・・・」

レオンハルトがぎこちなく頷く。

勿論神話の本は読んだ事があった。

しかし、何しろ本を読むのが遅いし途中で投げ出してしまう。

しかも読み聞かせてもらっても、半分も内容を覚えていないし、勿論戦士の名前なんてものも覚えていなかったのだ。


シュヴァルツを見ると嬉々としている。

プラネイア神話が好きなのか、その中の光の戦士ルカと結び付けたがっているようにも思えて、なんだか申し訳なく感じた。

なので、一応念を押して否定してみる。

「でも、僕それでつけたんじゃないよ?」


シュヴァルツは笑顔でレオンハルトの背中をバンバン叩いた。

「いてっ」

「わかってるって!でも、いい名前付けたじゃん」

「ん。そうだね・・・」

神話の話は、アラムやシュヴァルツには悪いが正直上の空だった。

それより、自分に何故フォルスネームがついていないのか、そればかり気になっていた。



アラムはいそいそと本棚から本を取り出していた。

一国の王子にしては装飾も備え付けの家具も少なく、シンプルな部屋だが、本棚だけは大きかった。

そこには本がぎっしりと並べられている。

部屋の広さは違うが、なんだかロベールの部屋みたいだ、とレオンハルトは思った。


アラムが手に持っているのは、先ほどとは違うプラネイア神話の本。

「では、次はこの本を読んで聞かせてあげましょう。今読んだのは、神話の一部に過ぎませんので」

と言ってにっこり笑う。


するとシュヴァルツが本棚を指さす。

「ここの本の半分以上は、アラムが選んだんだぜ」

「へえ・・・」

(アラムは読書が好きなんだ)

凄いな。

ロベールも本が好きだが、頭の良い人はどうしてこうも読書好きなのか。



アラムが本を読み始めようとすると、シュヴァルツはげんなりした。

「ええ~もういいよ。それよりさ、外であそぼ!」

「うん!いいね!」

すぐさまレオンハルトが賛同した。

レオンハルトの表情が晴れやかに変わる。

(やっぱり僕は読書より外で遊ぶほうが好き!)

「だろ?」

しかしアラムは不満げなようだ。

「ちょっと待ってくださいよ。これも面白いんですから」




****


「アラムって、ほんと読書好きだね」

「だろ?あまりにも部屋で本読むもんだから、俺が時々外に連れ出す時もあるんだ~」

「へえ~」

(それはそれで大変だな・・・)

アラムはそのままシュヴァルツの部屋でさきほどの本を読むそうで、外に出てきたのはレオンとシュヴァルツの二人。



「僕はあまり本は読まないから・・・ロベールはアラムみたいに本が好きみたいだけど」

「ああ、あの従者か。あいつは今日は来ないの?」

「うん。今日は別な仕事があって・・・」


「そっか、仕事か。子供なのに大変だな、あいつも」

シュヴァルツは渋い顔をしてそう言う。

「ぶはっ」

レオンハルトは思わず吹き出した。

笑わずにいられなかったのだ。


「な、なんだよ」

シュヴァルツはムスッとする。

「ごめんごめん。でも、だって、子供なのにって、僕たちだってロベールと年変わらない、子供だろ?あはは」

レオンハルトはまだ笑いが収まらず涙目になる。

シュヴァルツはますますふてくされた。

「む。別にいいじゃん。子供は子供だろ」

「うん。ごめんって」

ようやく笑いが止む。


「も~、レオンハルトなんて知らないっ」

そう言ってズンズン先へ行ってしまう。

「え。ま、待ってよ~、シュヴァルツ~」


ようやく追いついたレオンハルト。

しかしまだシュヴァルツは不機嫌だ。

「もう、機嫌直して?――――――あ。そうだ」

何やら思いついたレオンハルトは、そう言うと服の中からゴソゴソと何かを取り出す。


「?」

それに気づいたシュヴァルツが、怪訝な表情で見守る。



すると。




「わあっ!」

シュヴァルツが目を輝かせた。


「な、なに、これ?」



「僕の護身用のペンダントだよ」


レオンハルトは首から下げている魔石付のペンダントを服の中から取り出し、シュヴァルツに見せた。


「さ、触ってもいい?」

「うん」

レオンハルトは首からはずし手渡した。


「うわあ・・・」

シュヴァルツの手の中でキラキラと輝き、小さな金色の粒が石の中で流星のごとく流れ続ける、不思議な石。


陽の光に照らして見たり、中をジッと見たりしている。

「こんなの、見た事ないなあ」

うっとりと眺める。


レオンハルトはそんな彼の表情を満足げに見つめた。

(喜んでくれて、嬉しいなあ。見せて良かった)


そして名残惜しそうにレオンハルトに返した。

「ありがとう。それにしても、いいなあ。こんなの、うちの鉱山でも採れないと思うぞ?」

「そ、そうなの?」

レオンハルトは少し自慢げな気分になった。

シュヴァルツがうなづく。

「だって、流れて動いている石なんて、俺が知っているなかには無いよ」

「え・・・」

(シュヴァルツでも知らないなんて・・・)

シュヴァルツは急に真顔になる。

「これ、どこで手に入れたの?」

「え、これは、父さんが・・・。あ、でもさ。この魔石の事は、誰にもナイショだよ?」

そう言って唇に人差し指をあてる。

「なんで?」

「父さんからの言いつけなんだ」

「・・・ふうん。そっか、なら内緒だね」

「うん」



「あ!そうだ。なあなあレオンハルト」

シュヴァルツがふと何かを思いつく。

「?」


すると今度は難しい顔で腕組みをする。

「あ、いや、違うな」

「?」

またもレオンハルトは首をかしげる。

考え終わったのか、シュヴァルツはレオンハルトの顔を笑顔で見つめる。


「『レオン』って呼んでいい?」


「えっ。別に、いいけど・・・」

(急になんで・・・?)


「よしっ。じゃレオン、いいもの見せてくれたお礼に、俺も見せてやるよ!」

レオンハルトの疑問などお構いなしに、シュヴァルツは話を続ける。

「え!?な、なにを!?」

「いいから、ついて来いよ!」

笑顔でレオンハルトの腕をつかみ、引っ張っていった。







「ここだよ!」

「――――ここ?」


連れて行かれたのは、城内の中庭。

広々とした庭に、たくさんの花が咲き、彫刻やトピアリーがいくつも置かれていた。




「俺の秘密基地」

そう言ってニッと歯を見せて笑った。


「秘密・・・基地」

その単語に、レオンハルトは少しドキドキした。

だが、どこらへんが秘密基地なのだろうか。

見渡してもレオンハルトが思い描くようなものは見つからない。


「これ、鉱山なんだ」


「え!?」



シュヴァルツが指さした先には、確かに山のようになった場所があった。

庭の一角の、比較的手入れのされていない草木が多い茂る場所の、大きな木の下の近く。

そこにこんもりと山が、砂の山が盛り上がって見えた。


レオンハルトがよく見てみようと近くにしゃがむ。

「こ、こうざん?」

「そ!レウス山地の鉱山!」

その自慢げな表情に、レオンハルトは何も言えなくなる。

(ご、ごめん。シュヴァルツ。僕には砂の山にしか見えないよ・・・)


レウス山地とは、ヴァンダルベルク王国の北西から南西を縦断する鉱山地帯で、国内や他国へ輸出される鉱石のほとんどが、この鉱山で採れる。

そのレウス山地の鉱山に()()()()砂の山は、確かに本物のレウス山地のように、鋭利に尖った山の頂が何個も連なり形づくられていた。


「あ」

レオンハルトはそんな山の中に、キラリと光る物体に気づく。

「これは鉱石?」

「そうだよ!俺が集めたんだ!」

そう言ってシュヴァルツも嬉しそうにレオンハルトの隣にしゃがむ。

「綺麗だろ?」

「うん・・・」

単純に、綺麗だと思った。

様々な色の石が、鉱山の中に埋め込まれている。

「しかも、たくさんあるね・・・」

「そ!これはさ、精錬する前の鉱石の状態でさ。で、精錬した後の状態の魔石は、俺の部屋の標本箱に入れてあるんだけどさ」

「へえ・・・」

けっこう本格的だ。

(ほんとに鉱山に見立てているんだ)

「レウス山地に行って集めてきたりもするんだぜ!」

「え!?シュヴァルツが自分で行くの!?」

「そうだよ。――――ま、父さんたちが視察に行く時に一緒に連れて行ってもらってるだけ、だけどな」

そう言って頭をポリポリとかく。

「でも、レウス山地のものを直接貰えるんでしょ?」

「貰うんじゃなくて、俺が実際に掘ったのを持ってくるんだぜ?」

「ええ!?本当?それは凄いね!」

「だろ?今度お前も連れてってやるよ」

「うん!」


(――――――楽しい)


シュヴァルツといると、本当に楽しかった。



「ほんとに鉱石が好きなんだね」

「まあな」

満面の笑みだ。

そして、やわらかい眼差しでレオンハルトを見つめる。

「お前も、これ見て元気になっただろ?」

「え?」


シュヴァルツは少しバツが悪そうに向こうを見る。

「・・・あの契約をしてからさ、フォルスネームの話してからかな?それからお前、あんまり元気なかっただろ?」

「あ・・・」

(気にかけてくれてたんだ)

レオンハルトに、フォルスネームが無かった事を。


「なんか、俺のせいでもあるし・・・」

レオンハルトはブンブンと勢いよく頭を振った。

「おっ!?」

「違うよ!シュヴァルツのせいじゃないよ!・・・僕が、弱いから」

「・・・弱い?」

シュヴァルツは真顔になる。

「つい、気になっちゃってさ。兄さんたちと、僕の兄さんたちは凄く優秀で、聞いたら彼らにはフォルスネームはあったんだ。いつも、僕、兄さんたちと比べちゃうから・・・」

シュンとしてうつむくレオンハルト。

シュヴァルツは黙って聞いてくれていた。

「そっか・・・」


しばらく沈黙し、シュヴァルツは語気を強めて言った。

「お前のとこの兄ちゃんたちの事はよく知らないけど、比べんなよ」

「え?」

「お前は、お前だよ、レオン」

レオンハルトの目をしっかりと見つめる。

その綺麗に澄んだ青い瞳には、力強さと、芯の通った説得力がある。

「・・・シュヴァルツ・・・」


「な?」

シュヴァルツが二カッと笑う。

「・・・うん。ありがとう」

本当にありがとう。

彼の確かな言葉、表情や目を見ていると、不思議とストンと素直にレオンハルトの心に落ちていく。


特に彼は、王子という自分と同じ立場だ。

そんな彼にそう言ってもらえると、気持ちが楽になった。






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