表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第二章 ヴァンダルベルク王国と最強の王
44/95

第44話 ヴァンダルベルク王国(5)



「何が目的だ」


シュヴァルツの声が聞こえた。


(ああ、久しぶりの声)


久しぶりの再会のはずだったのに、こんな形で会う事になろうとは。





「安心しな、国民には手を出さねえよ」



この位置だと、先ほどまでと違ってよく見える。

見えるが、シュヴァルツはこちらに背を向けているので、顔は見えない。


その代わり、敵の風貌はよくわかった。

ニヤリと薄ら笑いを浮かべながらシュヴァルツと話をしている人物は、痩身で赤茶色い髪。年齢は三十歳から四十歳までの間くらいだろうか。

飛行魔法で空中に浮遊している。

もう一人、今はレオンハルトの位置からは見えなくなってしまったが、先ほど正門で見た時は、頭部全体を黒い布で隠し目だけ出していたので、どんな顔なのか全くわからない。

全身黒ずくめの服装だった。

今も壁塔の縁に立っているのだろう。




その赤茶色の髪の男が言った。


「あんただよ」


その怪しく光るその目、はシュヴァルツを捉えていた。



「俺が目的だと・・・!?」


そしてすぐさまシュヴァルツは目をカッと見開く。



「前国王を殺ったのもお前か・・・ッ!」


シュヴァルツが叫んだ。



(・・・!?)


その時、シュヴァルツの周りの空気が変わった。

レオンハルトは思わずゾワっとする。

(なんだ・・・?)



「デュナミスオーラ・・・か?」


前にいたオーウェンがつぶやいた。


そうだ。

デュナミスオーラだ。

魔法を唱える前に現れるオーラ。

しかし、シュヴァルツもそのオーラは、魔法を使いこなせていているので、隠せるはずだが。



男がニヤニヤ笑った。


「前国王の事なんざ、そ知らねえ・・・よッ!」



男が自身の目の前へ手をかざす。


キイイィン・・・!!



甲高い音。

それと同時に、男の体より一回り大きな深紫色の光の環が現れた。

そして、手の中央に同様の色のあやしい光。

そのあやしい光は――――――魔法だ。



「闇魔法・・・!?」


しかも闇属性の上位魔法。


上級魔道士しか使えない。




レオンハルトは焦る。

「そ、そんなので攻撃されたら・・・!」


闇魔法はとても危険だ。

勿論、闇魔法など、普通に生活している分には使用する必要などない。

そう。

戦いのために生み出されたようなものだ。

立入禁止書庫で話題にあがった、あらゆるものを忘れさせる事が出来るという恐ろしい魔法、『忘却魔法』。

それも闇属性だった。





兵が防御体制を強化した。


すると、




「待て」


シュヴァルツは冷静にそう言った。



「国王・・・!」


兵を下がらせたのだ。

心配する兵士たちをよそに、シュヴァルツは手をかざす。




突風が周囲に巻き起こった。




そして、カッと目を見開く。



「【フルシールド】」



巨大な球体の防御壁が現れた。


一瞬で、自身やそばにいた兵士を囲む。



「な・・・」

そばにいた兵士も自身の国王による魔法に驚いている。




ドシュッ・・・!!



男から放たれた魔法が防御壁で跳ね返された。



「ふん」

男は見下ろしながら右手首を回す。

自身の魔法が跳ね返されても特に気にしていない様子だ。




「シュヴァルツ・・・すごい・・・」

レオンハルトは茫然とする。

(以前レイティアーズに落雷から助けてもらったものと比べると、圧倒的に魔法の大きさが違う)





シュヴァルツは上を見据えながら、周りの兵士たちに言った。


「俺一人で十分だ」



(なっ・・・・・・・)

レオンハルトは愕然とする。


確かに、聞こえた。

その、シュヴァルツの発言。


自分だけで十分だと。


自分だけで、この攻撃に対応できると?




「シュヴァルツ王子、いや、国王は、あんなに魔法を使えたか?」

前にいるオーウェン達が驚きを隠せない表情で話をしている。


(いや、ここまで強いなんて、聞いてないよ)

レオンハルトは心の中でつぶやく。

それとも、僕が知らなかっただけ?


でも。

あんなに強大な魔力だなんて。

しかも、デュナミスオーラも、エネルゲイアオーラも、すごい量だ。

(僕にも視えるくらのオーラなんだもの、相当強いんだよ)

そしてあのオーラは、レベルが上がると制御できるもの。

でも、制御できていないのは何故?






「おい!攻撃してこいよ!国王さまよお!」

男が大声で挑発する。

攻撃されようが、シュヴァルツは防戦一方だったからだ。


(何故攻撃を促すの?一体この男は何が目的なんだ)

レオンハルトはもどかしい。

何も出来ない。






「では、これでどうだ」

男が、壁塔の縁にいた全身黒ずくめのもう一人の男に目で合図する。

すると、その男が剣を警備兵へ振り下ろそうとした――――――――。



「やめろッ!!」

シュヴァルツが叫ぶ。



ドオオン!!




シュヴァルツが壁塔の男へむけて魔法を放った。


そのすさまじい威力。


地面が揺れる。





「なんなんだ、この威力は―――――!」


オーウェンが爆風に顔を歪めながら叫んだ。





まっすぐに伸びた何本もの円錐状の岩石。

それが壁塔の男へと凄まじい速さで向かっていった。


そのひとつの切っ先が、男の体を捉えようとした・・・!


「・・・ッ」


しかしそれが男の顔ギリギリ手前で、ピタリと止まった。


壁塔の男もその攻撃に一瞬たじろぐ。


その攻撃は、赤茶色の髪の男の防御魔法で防御され、当たらなかった。

が、相手をひるませるには十分な攻撃だった。

壁塔の男は、警備兵への攻撃の手を下げた。


それを見てシュヴァルツも攻撃の手をおろす。




赤茶色い髪の男がシュヴァルツを見下ろす。

「ふん、()()魔法はまだ出ねえか」

少しイライラし出した。



「あの魔法だと・・・?」

肩で息をしながらシュヴァルツが訊き返す。








すると、男はこう言い放った――――――――。



「【古代魔法(こだいまほう)】だよ」



「なに――――――――!?」



敷地内がザワリとする。

その場にいた、だれもが驚いていた。




(痛っ)

チクリ、と胸が痛んだ。


(また、だ)



以前、レオンハルトは古代魔法という言葉を聞いて体調が悪くなった事がある。

立入禁止書庫で調べ物をしていた時だ。


(こ、今度は、それほどでも無い、かな)

なんとか胸の痛みが治まった。

それも束の間、敵はまた攻撃しようとしていた。






「じゃあもう一度、行くぜ――――――」


男が再度攻撃しようとした。

すると、

「おい、もうその辺にしとけ」

壁塔の男が制した。

「でもよお」

男はまだ未練があるようだ。

「長居は無用。無用な血も流すな。【古代魔法】ではないが、少しだけ確認できたじゃないか――――――」


そう言って眼下にいるシュヴァルツを眺める。

「―――――――強大な魔力を得たと」








そして二人は去って行った。


「追わなくていいんですか!」

警備兵たちが口ぐちに言った。

「追い付きやしない、ああいうやからは」

「しかし・・・」

(どうせ、捕まえたとしても、次から次へとやってくるだけだ)

(その対策も、どうにかしなければならないな)

シュヴァルツは腕組みをする。

そして別な事を考えた。

「・・・・・・」

(【古代魔法】だと―――――――?)





「国王!」

アラムが駆け付けた。



「ご無事で何よりです」

アラムは悲痛な表情だ。

シュヴァルツが頷く。

「ああ。城の中も大丈夫だな?」

「ええ。どうやら、あの二人だけだったようですね」

そう言って去って行った空を見る。


アラムが急に声のトーンを落とす。

「同盟交渉はどうします?延期でも―――――」

シュヴァルツは一瞬考えて、口をひらく。

「いや、問題ない。予定通り執り行う」

「了解しました」


アラムは踵を返し、城に戻っていった。







レオンハルトは混乱していた。

突然の襲撃に、シュヴァルツの強大な魔力、そして『古代魔法』。

素晴らしい日になるはずの国王就任式が、レオンハルトには予想外の出来事ばかりであった――――――。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ