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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第二章 ヴァンダルベルク王国と最強の王
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第42話 ヴァンダルベルク王国(3)



薄暗い部屋の中。




巨大な魔石の上で浮遊しながら、



「さて、お手並み拝見といきましょうか」


彼らはそう言って、ニヤリと笑った。













****





鳴り響くファンファーレ。





はじまりの合図。



戴冠の儀式が始まる。






(ああ、もうはじまってしまう)









森林で覆われた小高い丘の上に建つ、ヴァンダルベルク城。

城は堅固な城壁で囲まれ、ほぼ真四角の城壁の四隅に壁塔。

王宮からは町を一望できた。

レガリア王国の王宮よりも要塞としての機能を多く持っており、城の敷地内には様々な軍事施設があった。



レオンハルトはなんとか城の正門の前までたどり着いた。


(うわあ・・・)

僕と同じで、就任式を見たい人たちかな?

高く頑丈な門の前には、老若男女たくさんのひとだかりができていた。


通常は固く閉ざされているであろう門が、今は開いていて、そのまま入っていけそうな状態だが、警備兵が外に三人、中に二人いて通り抜けるのは無理そうだ。

(暗殺があったから、警備を増やしているのかな)

レオンハルトが以前に来た時は、門衛は外に二人のみだった。



しかし、そこまで来てもまだシュヴァルツの住んでいる城の外観は見えてこない。

正門を抜けると、真っ白い石畳がまっすぐに続く中庭があり、途中また壁で囲まれた門を抜けなければならない。

するとそこにまた庭が現れる。中庭よりはるかに広い庭だ。その庭の周囲を囲むように、さまざまな建物があった。兵舎、騎士団宿舎、武器庫、王族居住区などなど。




(これじゃあ入れないな)

ガッカリしていると、肩を叩かれた。



振り返ると・・・、


「オーウェン!?」


「しっ」


そこには特務部隊のオーウェンが立っていた。

唇にひとさし指をあてて静かにしろと言っている。


(どうして・・・?)



オーウェンはひとごみの中からレオンハルトを無理やり連れ出す。

「どうして来たの!?」

「・・・レイティアーズ団長から、あんたを連れ戻すように言われている」

「も、戻らないよ!」

(気持ちは変わらないよ!たとえ我がままと言われようがね!)

頑として譲らないレオンハルト。

ため息を吐くオーウェン。



わずかな時が流れる。



すると、ひとだかりの中から声が聞こえてくる。


「ねえ、いつ現れるのかしら?」

「早く見たいわ、新しい国王」


期待を寄せる人々の声が聞こえてきた。

その声に、レオンハルトは少しだけホッとした。

(シュヴァルツが急に国王になる事で、国民の反応も気になっていた)


しかし。

「大丈夫なのかよ?新国王様は」

「まさか暗殺されるとはね・・・この国も恐ろしくなったわ」

「鉱石だけじゃなく、農作物にも重点を置いた貿易をしてほしいわ」

「戦争の話も出ているそうじゃないか」

「戦争なんかになったら、農作物が採れない時期はどうするんだ・・・」

「最近色々と物騒だよな・・・」



(・・・・・・)

レオンハルトは言葉を失った。

新国王に期待を寄せる人ばかりではないのだ。

むしろ、批判的な意見の方が多いように感じた。


「――――あまり評判が良くないな」

オーウェンもそれを聞いていたらしく、隣で腕組みをして憮然とした表情ボソリと呟いた。

「・・・・・・」




城の聖堂で新しい王になるための戴冠の儀式を行い、それが終わるとお披露目という形で、王冠をかぶり儀式用の法衣を着て、国王が城から正門入口までの通路を騎馬兵隊などと一緒に練り歩く。

この一連の流れが、この大陸の国王就任式だ。

今回は事が事だけに、そしてまだ喪に服している時期なので、大々的には行われない。

しかもお披露目する時間は、ほんの少しの間だけ。


通常ならば、戴冠の儀が終われば、国民も城の敷地内に入り、お披露目をお祝いできる。

しかし今回は、それを城の門の外で遠目に眺める事しかできない。




盛大に祝福されるはずの就任式。

喜びと期待で溢れるはずの日。


(どうしてこんな悲しい事になってしまったんだ)

国王になったのに。

(シュヴァルツが、新しいこの国の、王になったのに・・・)



レオンハルトはうつむく。

そんなレオンハルトに、オーウェンが難しい顔をする。

「――――どうしてそこまで?友人だというのは聞いているが」

「・・・え?」

(どうして・・・?)


ポカンとしているレオンハルトに、もう一度オーウェンが訊く。

「何故そこまで就任式にこだわるのだ?」


(・・・就任式に?)

違う。

シュヴァルツにとって人生で大事な時を、この目で見たい。

見届けたい、というのはある。


でも、

それだけではない。


しかし、あらめて彼の存在が具体的にどういったものなのか、考えた事も無かった。

『大切な友』だと、その言葉だけで時を過ごしてきた。




でも、大切な友であることは間違いない。


レオンハルトはかぶりを振った。

「就任式だからってわけじゃない」


どんな大事な時だって、そばにいて力になってあげたい。




オーウェンは少し困惑した表情になる。

「よく、わからないな・・・」

「ごめん。僕もなんて言っていいか、わからない・・・」

言葉では言い表せない。


僕を突き動かすのはなんなのか――――――。

任務に支障をきたすかもしれない事を承知で、何故―――――――?



「ごめんね、こんな王子で」

今にも泣きそうな表情で、無理やり笑おうとしているように見えた。


オーウェンは黙ったままだ。


二人の間に気まずい空気が流れた。





オーウェンが大きなため息を吐く。

「――――わかりました」

「?」


腕組みをして、門の方を見る。

「・・・ここでもいいなら、見ていろ」

「え!?」

「そのかわり、終わったらすぐに戻る」

「あ・・・。ありがとう、オーウェン!!」

レオンハルトは顔を輝かせた。

その顔を見て、オーウェンが苦笑した。

そして正門の奥に目を凝らす。

「だが本当にいいのか?今回は入口付近までは来ない。中庭の手前の門を過ぎた所までだ。ここからだと小さくしか見えない」

「・・・。それでも、いいんだ」








****



正門の前のひとだかりから、歓声が上がった。


(!!)


シュヴァルツが出てきたのだ。



「シュヴァルツ・・・!」


レオンハルトは急いで人ごみをかき分ける。



「おいっ」

オーウェンが焦って追いかける。

ギュウギュウ詰めなので、なかなか前に進めない。


レオンハルトは、無我夢中でなんとか見える場所まで来た。





ひときわ大きな歓声が上がった。


「わあ・・・」

レオンハルトも心臓をドキドキさせ、目を輝かせていた。





馬に騎乗し、やってくる。

その前後左右に騎馬兵を従えて。


金色の刺繍の入った赤いマントを羽織り、頭には王冠、左手に王笏を携え、右手だけで馬の手綱を握る。

騎乗してゆっくり、ゆっくりと歩いてくる。




(わあ・・・、かっこいい・・・)


それだけみると、彼がすごく遠い存在に見えた。



顔の表情までは遠くてよくわからない。




前国王、ルビウス=アルトアイゼン。

代々の平和主義を貫き、そのおおらかな人柄で民のために尽くした。

その早すぎる国王の交代。

新しい国王になる、シュヴァルツ=アルトアイゼン。

彼もまた、前国王同様、平和主義を貫く。

彼は今、何を感じ、何を思っているのか―――――――。









ドオンッ・・・・・・!



「なんだ!?」

「キャー!!」



大きな爆発音がした。

いや、何かが落ちたのか――――――?



「な、なに!?」

突然の音に、レオンハルトは心臓が飛び出そうになる。

何事かと辺りを見渡した。

オーウェンがレオンハルトの腕をつかみ、無理やり人ごみから引っ張り出す。


静かに抑えた声で言った。

「・・・何か、危険だ」

何かを感じとったのだろうか。


「き、危険って―――――」




すると、



ドオオン・・・!


二回目だ。





「敵襲か!?」


オーウェンが辺りを見渡す。



(え・・・なに、どういうこと・・・)


今は、神聖な儀式の最中で、ええと・・・、


レオンハルトは訳が分からなくて頭がぐるぐる回る。






「上だっ!」



壁塔で見張りをしていた警備兵が叫んだ。




レオンハルトもオーウェンも、そろって上を見上げた。




「な・・・!」



いつの間にか、正門から少し壁塔側の()()()()()()()()()()()()()()――――。





「何者だ、あいつら―――――――」


オーウェンが、震えた声で言った。






そしてその男二人が、ニヤリと笑った。




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