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片翼のフォルスネーム  作者: 主音ここあ
第二章 ヴァンダルベルク王国と最強の王
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第38話 特務部隊(4)

そして、ヴァンダルベルク王国の就任式の前日の夜になった。



「いよいよだな」

少し緊張した面持ちのロベールが、レオンハルトの隣で言った。

「う、うん・・・」


少し元気の無い様子のレオンハルト。

「・・・大丈夫か?眠れたか?」

「あまり・・・」



ロベールがバンと背中をたたく。

「大丈夫だって!手引書も見たんだろ?」

「うん。一応ロベールが色をつけてくれたところは、覚えたつもりだけど・・・」

「そっか、なら大丈夫だ」

「大丈夫じゃなよお~」

今回はロベールが一緒に同行しないのが大きかった。

不安でしょうがない。




「しかし、天候も悪くなくてよかったな」

ロベールがあたりを見渡す。

「・・・・・・」

じろり、とロベールを見る。

呑気に天気の事とか言ってる場合じゃない。

僕は今、一世一代の事を成そうとしているのに。



ここは王宮の裏の入り口。

人の目に触れないよう、裏口から出発する。

また、夜に出発するのもそのためだ。


このまま馬を走らせ、ヴァンダルベル王国に到着する頃には、就任式当日になっているだろう。


「お、来たな」

ぞくぞくと今回の任務に参加する人物が現れた。


「父さん」

国王や執事長、レオンハルトの兄たちも来た。

執事長と三人の兄弟は今回は王宮に残る。


国王がレオンハルトの前まで来た。

「レオンハルト、今回は頼むぞ」

「はい」

そう短く言葉を交わし、国王は馬車に乗った。





「では、出発する」


国王や外務大臣を乗せて、馬は静かに走り出した。



フィリップがレオンハルトに話しかけてきた。

「この件が終わったら、『フォルスネームの儀』をやろう」

「うん!」

(まだ、覚えててくれたんだ・・・)

なんだか心がほっこり温かくなった。


アレクシスとギルベイルは何も言わずこちらを見ていた。





夜風は冷たいが、緊張でますます震えだす。


(そうだ)

ふと思い出す。

自身の服の中にある魔石のペンダントに、服の上から手を当ててみる。

(護身用だし、もし何かあったら、効果あるかも?)

イマイチ半信半疑だったが、すがれるものがあればすがりたい気分だ。

少しだけ落ち着いたような、気がした。






「特務部隊として、初任務だな」

後ろから声をかけられた。

「レイティアーズ!」

と、いうことは・・・?

「レイティアーズも任務に就くの?」

「ああ。騎士団からは、私と、もう一人で行く」

「!」

思わす、やったー!と叫びだしくなった。

知らない人ばかりで、ロベールもいない、そんな中、唯一信頼できる人物が現れた。

(嬉しい・・・これは心強いかも)

「どうした?」

レイティアーズが訝しむ。

「い、いや、なんでも・・・」



「レイティアーズ」

ロベールがレイティアーズに声をかけた。

いつになく真剣な顔だ。

その表情に、レイティアーズも居住まいを正した。



「レオンハルトを、頼む」



「―――――ああ、わかった」




二人の間に、少しの沈黙が流れた。




「よっ、王子、久しぶり」

「ヴィクトールさん!?」


その沈黙を破るように、大きな声が裏口に響く。


「こら、ヴィクトール、静かに」

「ああ、ごめんごめん」


ヴィクトール=パウル=ダイク。

騎士団の第一部隊隊長。

では、彼が騎士団からのもう一人の参加者?



「あまり手数はかけられないと云う事で、それなりに戦闘能力のあるものを任命した」

レイティアーズが言った。


たしか、レイティアーズが前に、騎士団内の剣術と体術の師範をしていると言っていたな。

これは頼もしい護衛だ。



(ん?)

ちょ、ちょっと待って、ヴィクトールに僕、何か用事があったよな。

うん。そうだよ。

そう、何か忘れているような、何か・・・、



「あーっ!!あの時はごめんなさい!」

思い出した。


「こら!レオンハルト!静かに!」

今度はレオンハルトがロベールに怒られた。

「ひゃっ!ごめん!」



「ん?今俺にあやまったの?」

ヴィクトールが不思議そうな顔でレオンハルトを見る。

「そ、そうです。あの時、僕が訓練場でレイティアーズと剣の稽古をつけているとき・・・」

「あー、あれね。すっかり忘れてたよ」

「えっ・・・!」

見ると、彼はカラカラと笑っている。

やっぱり、明るい人だなあ。

軽いやつ、と彼の陰口をたたく人物もいるようだが、レオンハルトにはこちらが見ていても清々しいくらいに明るいと思った。


「いやあ、でもびっくりしたよ~。まさか逃げちゃうとは」

「あ」

逃げる、と言われるとやっぱりグサっとくる。

「本当に、ごめんなさい・・・」

「いいって、気にしてないよ。それより、今回の任務、よろしくね」

「!」

(ヴィクトールさん、いい人だなあ~)

「はい!よろしくお願いします!」


(頼もしい人が二人も増えて、少し楽な気分になったな~)

レオンハルト側は、警備兵二名、騎士団二名と特務部隊三名。

数は少ないが、一人ひとりの能力が高いのだから安心だ。

(よし!これでヴァンダルベルク王国に乗り込めるぞ!)






「・・・そろそろ出発したいんだが」

「!!」

見ると、馬の手綱を引っ張り、全身鉄の鎧を身にまとった人物がいた。

顔も鉄の仮面に覆われているため、声でしか判断できないが、男性であろう。

(だれ、だっけ)

騎士団のメンバー以外は、全員の名前と顔を確認したはずだが。

こんな人、いたっけ。

そもそも、こういう有事の際の、彼の装備かもしれないし。

あとで確認しなきゃ。





「では、出発しよう」


みなが馬に乗った。

あとはただひたすらにヴァンダルベルク王国をめざすのみだ。




ロベールが力強いまなざしでレオンハルトを見た。


「健闘を祈る」



レオンハルトは静かにうなづいた。




そして、手綱を握る手に力を込めた。






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